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第壱幕 神託
第十二話
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昨日は結局、わたしを姫巫女にするか否かの答えは出なかったみたい。
使用人が姫巫女になるなんて前代未聞だ、許されない。
そういう意見と、たとえ使用人でも潜在霊力が高いのだから姫巫女として修行させるべきだという二つの意見でわかれたみたい。
わたしとしては、このまま秋ちゃんやみんなと一緒にいられたら満足なんだけど…。
使用人仲間はみーんな、わたしが姫巫女として大出世を遂げる事を期待している。
幽霊のお姉さんも『やってみたらどうかしら』なんて言うし。
秋ちゃんに助けを求めたら、『これは冬にしかできない事だけれど、嫌ならちゃんと、断りなさい』なんて言われちゃった。
わたしにしかできない事、なんて言われたら断りにくいよぉ。
それに…。
「あ、結依ちゃん」
「あ…」
廊下でばったり結依ちゃんに出会ったけれど、わたしが何か言う前にさっさと行ってしまった。
あの日から、結依ちゃんとは口をきいていない。
姫巫女云々よりも、まず先に結依ちゃんと仲直りしたい。
また前みたいに一緒におしゃべりしたいよ。
「ゆ、結依ちゃ…」
「冬、充実様がお呼びですよ」
「紅椿さん…。でも、あの……わかりました」
結依ちゃんが気になるけれど、充実様に呼ばれている以上、そちらを優先させなくちゃいけない。
こういう時、女中って、不便かも。
※ ※ ※
「はぁ…」
ため息をつき、結依は抱えた洗濯籠を少しだけ強く握りしめた。
「私、なにやってるんだろう」
少しだけ後ろを振り返れば、小走りで駆けていく冬の後ろ姿が見えた。
自分が一方的に冬と距離を置いているのだという事は、重々承知している。
冬が悪い事をした訳でない事も、頭では分かっているのだ。
ただ、どうしても心が納得できない。
「おめでとうって、すごいねって、言ってあげたいのに…」
重くなった足取りは、ついに止まってしまった。
汚れている洗濯物が、まるで自分の心のように思えた。
白い服を汚す黒が、純粋でかわいい友人の心を汚す自分に見える。
この洗濯物のように、謝ればまた、冬は可愛い笑顔を自分に向けてくれるだろうか?
太陽みたいにポカポカとした笑顔を。
見ているとこっちまで嬉しくなりそうな笑顔を。
「ごめんね、冬。私、まだ……」
じわりと、涙が浮かんでくる。
勝手に苛立っている自分が嫌で、身勝手に冬を傷つけた自分が嫌で、謝れずに逃げている自分が嫌で…。
姫巫女にはずっと憧れていた。
でも自分には才能はないし、身分も低いからと諦めていた。
せめて神託を見るくらいはと、ほんのわずかな無謀な賭けをして、でも選ばれたのは友人だった。
悔しくて、でも仕方がないと諦めたのに、なのに…。
なのに冬は神託を受けて、迦楼羅丸を解放して、姫巫女になるかもしれない。
沢山の悔しさが込み上げてきて、大好きな友人の顔が見られなくなった。
「私、最低だ…」
使用人が姫巫女になるなんて前代未聞だ、許されない。
そういう意見と、たとえ使用人でも潜在霊力が高いのだから姫巫女として修行させるべきだという二つの意見でわかれたみたい。
わたしとしては、このまま秋ちゃんやみんなと一緒にいられたら満足なんだけど…。
使用人仲間はみーんな、わたしが姫巫女として大出世を遂げる事を期待している。
幽霊のお姉さんも『やってみたらどうかしら』なんて言うし。
秋ちゃんに助けを求めたら、『これは冬にしかできない事だけれど、嫌ならちゃんと、断りなさい』なんて言われちゃった。
わたしにしかできない事、なんて言われたら断りにくいよぉ。
それに…。
「あ、結依ちゃん」
「あ…」
廊下でばったり結依ちゃんに出会ったけれど、わたしが何か言う前にさっさと行ってしまった。
あの日から、結依ちゃんとは口をきいていない。
姫巫女云々よりも、まず先に結依ちゃんと仲直りしたい。
また前みたいに一緒におしゃべりしたいよ。
「ゆ、結依ちゃ…」
「冬、充実様がお呼びですよ」
「紅椿さん…。でも、あの……わかりました」
結依ちゃんが気になるけれど、充実様に呼ばれている以上、そちらを優先させなくちゃいけない。
こういう時、女中って、不便かも。
※ ※ ※
「はぁ…」
ため息をつき、結依は抱えた洗濯籠を少しだけ強く握りしめた。
「私、なにやってるんだろう」
少しだけ後ろを振り返れば、小走りで駆けていく冬の後ろ姿が見えた。
自分が一方的に冬と距離を置いているのだという事は、重々承知している。
冬が悪い事をした訳でない事も、頭では分かっているのだ。
ただ、どうしても心が納得できない。
「おめでとうって、すごいねって、言ってあげたいのに…」
重くなった足取りは、ついに止まってしまった。
汚れている洗濯物が、まるで自分の心のように思えた。
白い服を汚す黒が、純粋でかわいい友人の心を汚す自分に見える。
この洗濯物のように、謝ればまた、冬は可愛い笑顔を自分に向けてくれるだろうか?
太陽みたいにポカポカとした笑顔を。
見ているとこっちまで嬉しくなりそうな笑顔を。
「ごめんね、冬。私、まだ……」
じわりと、涙が浮かんでくる。
勝手に苛立っている自分が嫌で、身勝手に冬を傷つけた自分が嫌で、謝れずに逃げている自分が嫌で…。
姫巫女にはずっと憧れていた。
でも自分には才能はないし、身分も低いからと諦めていた。
せめて神託を見るくらいはと、ほんのわずかな無謀な賭けをして、でも選ばれたのは友人だった。
悔しくて、でも仕方がないと諦めたのに、なのに…。
なのに冬は神託を受けて、迦楼羅丸を解放して、姫巫女になるかもしれない。
沢山の悔しさが込み上げてきて、大好きな友人の顔が見られなくなった。
「私、最低だ…」
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