四季の姫巫女

襟川竜

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第壱幕 神託

第五話

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「これも違う、か…」
薄暗い蔵の中で、一人で神託の水晶を探していた天景は、背筋を反らせて軽く伸びをする。
その拍子に骨がぽきぽきと音を立てた。
「あだだだだ…」
トントンと腰を叩き、引っ張り出してきた沢山の水晶玉を眺める。
「百パーセント出せたら、これくらい朝飯前なんだけどなぁ…」
紅葉する葉っぱのように、先端にいくにつれ黄色から赤へとグラデーションのかかった自分の髪を天景は摘まんだ。

天景は、とても強い妖力を秘めた鬼だ。
ほんの少しなら空を飛ぶ事だってできるし、傷も簡単に治せる。
秋祇に頼まれて深冬の記憶を消し、秋祇が女であると思い込ませる為に、充実の前で裸体となった秋祇に一時的な女体化の術をかけもした。
ついでに言うならな啼々莽家を知る人すべての記憶も書き換えている。
しかし、全能なる存在など、そういない。
力が強い反面、消費量が他の鬼に比べて異常に多いのだ。
秋祇と出会う以前の天景は、他の鬼や妖怪達を喰らう事で、妖力を取り込んでいた。
現在は捕食する事をやめ、秋祇から霊力を分け与えてもらう事で最低限の妖力を保っている。
それでも普通に生活しているだけで妖力を消費するので、普段は少年の姿となり、極力妖力を使わないようにしているのだ。
今の天景は、一般人より少し上程度の力しかない。
その為、神託の水晶が放つ独特の雰囲気や霊力を、ほとんど察知できずにいた。
ましてや、この蔵の中に収められている物のほとんどが、何かしらの霊力を秘めている。一人で探し出すには困難極まりない。

10年前、秋祇の式神と嘘をついて無理やり神託に参加させてもらった。
秋祇と天景は式神関係を解消するという事で、秋と冬を啼々家に置いてもらっている。
その為、こうやって秋に接触している事を知られる訳にはいかない。
もっとも、式神契約をしている訳ではないので、知られたとしてもお咎めはないだろう。
ただ、秋の立場が悪くなる可能性は捨てきれない。
少しでも不利な状況は避けたかった。
秋祇の為に。

「明日の朝までに見つけないといけないんだよな…。間に合うかなぁ」
肩を落としてため息をつく。
30秒程そうしてから、天景は自分の頬を両手で思いっきり叩いた。
「よし、やるか!」
気合を入れ直し、天景は再び『本物の神託の水晶』探しを始めた。
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