1 / 3
ライオンハート 前編
しおりを挟む――あの頃の私は、いつもいつも窓の外を見ていた。
私の前世の名前はリオーネ=ローズヴェルト。
名門貴族ローズヴェルト家の深窓の令嬢だった。
両親はその国でも名高い美男美女で、その二人から生まれた娘である私は、国内外にも響き渡る程の美しさになるのは必然だった。
春の陽を集めたように輝く金髪。
長いまつげに彩られた、夢見るようなすみれ色の瞳。
スラリとのびた長い手足に、月に照らされたような白磁の肌。ふっくらとした、薄紅色の唇。
華奢で儚い外見は、見るものをまるで、この世のものとは思えない妖精の絵画を見ているような気分にさせる。
でもそんな私にも、ひとつだけ完璧からは程遠い欠点があった。
病弱、だったのだ。
一日のほとんどをベッドの上で過ごし、出会う人間といえばお医者様だけ。楽しみは本を読むか、窓が良く見えるように置かれたベッドから見える景色だった。そこから見える庭園の景色をより良いものにするために、両親は評判の良い庭師に頼んで整えてくれ、季節ごとではなく月毎に変わるそれは、魔法のように素晴らしいものだった。前世の記憶では窓の外をよく見ていた印象が強いのもおかしくない光に溢れた庭だった。
時折、奇跡的に体調の良い日は、夜会は無理でも園遊会などに出席するも、途中で気分が悪くなり退出してしまうという有様だ。
――強く、なりたい。
私はそんな一心でどんな治療も、薬も耐えた。
けれど状況は芳しくなく、そのことごとくが無駄になった。
そんな焦りを抱える私の元に、ますます心を煩わす出来事が舞い降りた。
私が唯一行ける社交の場、園遊会で私を垣間見た男性たちからの求婚。
私の病状をよく知らないせいか――病弱という断り文句も、方便と捉えられて、条件のいい夫を選り好みするために出し惜しみしているなどと、妙齢のご令嬢たちからは陰口を叩かれることになった。
一見華やかだが薄氷の下では浅ましい人間関係が渦巻く社交にうんざりして、楽しみだった外出も、憂鬱なものになり、すっかり行こうとする気が失せてしまう。
人の口には戸は立てられない。
幻のように美しいが、その噂は本当なのだろうかと好奇心と、難攻不落な令嬢という噂は征服欲に火をつけたのか、屋敷に侵入する最低下劣な人間も出る始末。後を立たなかった。
その中でも特に熱心で、それゆえにリオーネの毛嫌いする男。
ラヴィード=エア=ドワーフロップ伯爵公子。
社交界を賑わせる美しく優雅で気品あるその青年は、一見、人あたりの良い爽やかな人間に見えた。
初の顔合わせが、友人達と共に不法侵入した……私の寝室でなければ。
彼は本当に……執念深かった。
一度見ただけの私に毎日のように送られる、恋文と花。
手紙は送られた端から読まずに捨てた。
花は罪はないので召使に下げ渡す。
普通の求婚者なら、私が全くの無反応を示せば、諦めるか、逆に怒りをぶつけて私の悪い評判を流すのに。
彼はそれを数年間に渡り、継続し続けた。
その間にも、私の病気はどんどん悪化していく。
私の病状のことで、心が乱れて現実を直視できずに享楽にふけるようになった両親。
そして一席のカードで負った名誉の借財が、全てを奪った時。
親切ごかして救いの手を差し伸べてきたのはラヴィード。
救う対価は、私との婚姻。
選択肢はあるようで、ない。
私の家の全てを救ったと言いながら、数年ぶりの再会。
私と結婚できると、夢のようだと熱に浮かされたように語るラヴィードに浮かぶ表情は、取ってつけたような胡乱な笑顔。
その瞳は私の全てを不躾に舐め回すような視線。
出会いも最悪であれば、再会も蛇に睨まれた蛙のような気にさせる最悪さだった。
――私が幸運だったのは、その日を待たずして鬼籍に入れたことだろう。
苦しみの果てに、私が次に目を覚ましたのは、白い光の中。
私はどこに寝ているのだろう? 一体どうなってしまったのかと、動くことも話すこともままならないうちに、眩しい視界が開ける。見知らぬ人間たちが、次々と私の顔を見て破顔していく。
まるで本で読んだ巨人の国に迷い込んだ……小人のような気持ちになっていると、見知らぬ女性が微笑んでいった。
「ああ、こんにちは。私の愛しい、わが子」
――それが第二の人生の幕が開けた合図だった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ
青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人
世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。
デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女
小国は栄え、大国は滅びる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?
ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」
「はあ……なるほどね」
伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。
彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。
アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。
ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。
ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたへの恋心を消し去りました
鍋
恋愛
私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。
私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。
だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。
今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。
彼は心は自由でいたい言っていた。
その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。
友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。
だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。
※このお話はハッピーエンドではありません。
※短いお話でサクサクと進めたいと思います。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました
しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。
そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。
そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。
全身包帯で覆われ、顔も見えない。
所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。
「なぜこのようなことに…」
愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。
同名キャラで複数の話を書いています。
作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。
この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。
皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。
短めの話なのですが、重めな愛です。
お楽しみいただければと思います。
小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる