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ABYSS①
しおりを挟む最近、"WeTube"(動画サイト)だとか様々な動画を投稿できるものが増えた気がする。動画内で法律違反を犯すものなど炎上することが多々ある。
その中で少し世間を騒がせた話を紹介しよう。
「何かいいネタは無いものか」
人見秀一は机をトントンと叩きながら考えていた。ここは人見秀一の仕事場がある10階建てビルの一室。そこで、熱々のコーヒーを手にしていた。
「いいネタをありますよ」
そう言って現れたのは田原愛美。年齢は23歳。彼氏の話は今はしない方がいいだろう。
そんな彼女がまたも俺に話しかけてきた。
「また君か」
「はい、私ですよ?」
あの出来事以降なんだか彼女と話すことが多くなった気がする。彼のことは確かに気にかかるが彼女は乗り越えていくだろうと僕は思う。
それが彼女だと、付き合いが長いから理解出来る。
「それで、今回はどんな話なんだ?」
「そうですね、立ち話もなんですしこちらをご覧下さい」
そう言って彼女はノートパソコンを広げたままこちらへ持ってきた。絡まったイヤホンを手にして、それを解きながら止まった静止画を僕は見せられていた。
「なんだこれは」
「動画ですよ。動画、WeTubeってご存知では無いですか?」
「あぁ。知ってる、知ってるよ。そんなに無知じゃない」
WeTubeは動画サイト。どんな人でも動画を投稿できる。最近ではWeTuberなる職業ができたとか。どんな人でも動画投稿できるものの、過激なものなどは規制されていると聞く。この前それが理由で警察に逮捕される人も出ていたな。
「で、この動画を見せに来たのか?」
「はい、そうですよ」
「あ、そう…」
イヤホンの絡まりをとるのに手こずっている彼女を見兼ねて人見秀一は立ち上がる。
「いいよ、僕のイヤホンを使えばいい」
人見秀一は自分のバックから黒い袋を手に取り、その中から白いプラスチックのケースを取り出す。
「はい、これを使いたまえ」
「あ、ありがとうございます」
「後でイヤホンも貸せ。僕が解いておく」
「は、はい」
とりあえず、イヤホンを手にしてパソコンに差し込む。
するとプツンと音を立ててパソコンとイヤホンが繋がったというのを確認する。
「よし、それでこの動画を見ろってことかな?」
「はい。今話題の動画ですよ」
検索画面からその動画に関する言葉を打ち込んでクリックすると、動画が無数に現れる。その中から一番最初にある検索欄として一番適合した動画をクリックする。
「動画の名前は殺害現場実況か。また、趣味の悪い動画名だ」
「まぁ、実際に見てくださいよ」
マウスを動かし、その動画を再生する。
動画が再生され、機械音のような声が聞こえてくる。
『ハロー、こんにちは、こんばんはー。殺害現場実況者Abyssです』
動画は暗い工場のような場所で行われているようだった。声が反響しているのがイヤホンから伝わる。
『今から殺人が行われますのでその実況を行いたいなーと思います(笑)』
動画はまだ続く。
『はい、というわけで来ました。今回の被害者さんです』
高い位置から撮影しているのか、ズーム機能を使ってその男性をカメラに写した。
男性が現れ、キョロキョロと辺りを見渡している。恐らくとしか言えないが男性は随分と若い。10代後半、18か19歳くらいに見えた。
『今回の被害者の名前は星野彪太19歳。大学生だ。今回は彼の殺害される所をお見せしましょうー!』
今気づいたのだが、これはその場での実況と後付け実況と2つ行われているらしい。
反響している声が恐らくその場で録音しているもの、そして、普通に聞こえるのが恐らく後付けで声を録音したと思われる。
『おい、誰かいないのか!おい!』
どうやら、星野彪太が叫んでいるようだ。誰かに呼び出されたように見えるがこの実況者に呼び出されたのだろう。
『はい、というわけで今から彼の死に様を描きます』
小声になる実況者Abyssの画角が下がる。どうやら、階段を降りているみたいだ。
階段をおりる音は聞こえない。
「おい、誰だ!?俺を呼び出しやがったのは」
『聞いたかい?視聴者のみんな。まだ存在には気づけてないみたいだ』
「おい、誰かいるんだろう!あの事をバラしたら許さねえぞ!」
『バラさないよ。バラすとかバラさないとかじゃないからね』
今のところ、星野彪太という男が実況者にどうやら弱みを握られているらしい。でも、この実況者何かおかしい。
「くそが!いねえじゃねえか」
『そろそろ行こうか。ショウタイムってやつだ』
また、画角が変わる。また階段を降りているようだ。
そして、降りてから、ゆっくりと男の前にカメラを向ける。
「あ?おい、お前なんだ?」
『はーい、今から殺害実況すたーと』
カメラが急速な速さでその男の前に向かった。
ゆれることなく、ちゃんと男を捉え、男は逃げ惑う。
「おい、なんなんだよ。お前か?お前が俺を呼び出しやがったのか?」
『じゃあ今から始めまーす』
画面には包丁が映っていた。左腕に握られたのは紛れもない凶器。
その動画を見ていた人見秀一に緊張が走る。
「なんなんだよ。おい、それ…おいそれ…」
目線はカメラの方をしっかりと見ている。
「お前、一体何もんだ!おいおい、冗談だろ?」
『じゃあ最初はお腹を切りますね』
すると、カメラはしっかりと男を捉え、逃げ惑う男は出口に向かって走り出す。
『おいおい』
すると、男が足を滑らせたのかコケてしまう。
「はぁはぁ。なんなんだよ。お前、一体なんなんだ…!」
カメラは男の方へと近づく。そして、ガクガクと震える男に向けて包丁を向ける。
「嘘…だろ?」
『はい、さようなら』
ブスリと包丁が男の腹を捉えた。白かったTシャツはじわじわと赤く染っていく。
「あ…ぐっ…」
『それでは、お腹開きまーす』
軽い口調とは裏腹にしていることは目を背けたくなるほどグロテスクだ。
動画投稿者は両手でTシャツをぬがしていく。
脱がした腹には生々しい切り傷が刻まれている。修正などは一切なく、その傷は本物にしか見えない。
『はい、これをこうやって…』
そこからは滅茶苦茶だった。割いた腹に手を突っ込み、それに、男は悶え苦しむ。あの傷だけではまだ亡くなっていないようで、ガタガタと腕や足を動かしていた。男は叫び、その悲痛の叫びがイヤホンを通して耳に伝わってくる。正直今にも外したいと思ったが、隣で何も言わず見ている田原に対抗心と共に不信感抱いたため、そのまま視聴を続けた。
『はい、あれ。どこだろうな』
Abyssは腹に何かあると確信しているように腹に手を抉るようにして体内を確認している。
その間もぐちゅぐちゅと聞いた事のないような音が聞こえてくる。人間の中を探ると言うのはこうも気持ちの悪いものなのかと人見秀一は後で語る。
『あっ、見つけた。見つけた』
声と同時にゆっくりと腕を戻したと思ったらその指には何かが摘まれている。
『こちらが今回のものです』
そこには何やら数字が刻まれたプラスチックででできたような5センチメートルほどのものが握られていた。血がべっとりと着いており、それを指で数字が見えるように拭いていく。数字は7485268と書かれていた。
『はい、早い者勝ちですよー』
拭き終わってそういった動画内の実況者Abyssに対して人見秀一は言う。
「何を言っているんだ」
声を出した人見秀一に田原は黙ってくださいと言わんばかりに人差し指を口元に持ってくる。
『それじゃあ今回はここまで』
そして、最後に一言だけ視聴者に伝える。
「次は生放送です」
そう言って動画は切れた。
その動画を見て、人見秀一が最初に彼女に伝えたのはごく普通の事だった。
「悪いが、最初に言わせてもらう。正直、最悪だ。僕はコーヒーを片手にのんびりとしていたのにコーヒーは冷め、そして、何より飲みたくなくなったよ」
正直本当にこんなものを見せられたらたまったもんじゃない。僕は耐えれたが普通の人なら具合が悪くなるか、この人とは一生一緒に居たくないと言わせる程の動画だった。
それを躊躇なく見せてくるあたり彼女の脳は少し壊れているのかもしれないと人見秀一は思った。
「あっ、これはすみません。だって、直ぐに見てもらいたくて」
「そういうことじゃないんだよ。別に動画を見るくらい僕だってするさ。だがね、これは流石に常識的じゃ…」
ここで彼女にそう伝えたのは自然な事だ。普通ならコーヒーを片手に飲んでいる人にあんな動画は見せない。彼女もまた常識が少しないのかもしれないが、常識とはなんだとと問われた時、僕は多分答えられない。だから、僕は口を噤む。
「いや、やはりいい。ただ、これからは君と話をする時やなにかする時事前に何をするか伝えてくれ。あと、この動画を無闇矢鱈に人に見せるんじゃないぞ。友達消えるぞ」
「は、はい」
これでいい。これなら彼女は次からそうやって話しかけてくれるはずだろうから。そして、これで彼女の友人が減ることは少しは防げるだろう。
「それでだ。このAbyssと言うやつ。これは本当に殺害しているのか?」
「はい、殺害しています。ニュース見てないんですか?すごく話題になってますよ」
「そうか。悪いがニュースは見ていなかった。最近は切羽詰まっていてね。それどころではなかったんだ」
「そうでしたか」
正直このようなサイコパスがいることにも驚きだが、あの動画を何食わぬ顔で見ている彼女にも驚いてはいるが。
「もちろん警察は動いてるんだろ?」
「はい。もちろんです」
その動画を見て、少し調べたくなり、人見秀一はパソコンのネットニュースを見てみる。すると、そこには大々的に殺害実況者Abyssの記事が掲載されていた。
記事によると、殺害実況者Abyssは約1ヶ月前に活動を開始したらしい。1週間で4回投稿しており、決まった曜日、決まった時間にその動画を公開する。
火曜日、木曜日、土曜日。そして、日曜日に生配信。
これが主な殺害実況者Abyssの活動時間みたいだ。警察も実況者Abyssの行方を追っているようだが、事件現場には死体以外何も無く、手がかりは何も無いらしい。
実況者Abyssの動画が配信されのは1ヶ月前とすると、良くでも4週間は活動したらしい。
「4週間ということは16人が既に殺害されているのか?」
問いを投げかけると聞いていなかったのか驚いたような表情を浮かべる田原に少しやる気を削がれてしまう。
「あぁー。違いますよ。12人です。最初の1週間は予告動画のようなものでしたよ」
そう言って、またWeTubeを開き、殺害実況者Abyssの動画の画面が写し出される。
登録者200万人。どれだけの人がこの投稿者に注目を集めているのかがよく分かる。
たった1ヶ月程度でそれだけの人を注目させているこの殺害実況者Abyssとは本当に何者なのだろうか。ひとつ分かるのは異常者には間違いないということだけだろう。
「それで、最初の動画って言うのは?」
「まぁまぁ。落ち着いてくださいよ。直ぐに出しますので」
カーソルを動かし、1ヶ月前の動画、最初の動画がそこに現れた。
「再生します?」
「あぁ。大丈夫だ」
再生ボタンが押され、動画が再生され始めた。
『はい。初めまして。Abyssと申します。
私は今回、人々を楽しませるべく現れました。とても、とても、あなたを楽しませることを自負しております。では、今から一週間後に始まる動画を心待ちにしていてください。』
そして動画は終わったように思えた。
「ーーー」
最後に何かが物音が人の声か分からないが聞こえた気がして、動画はそのまま終わった。
「最後に何か聞こえなかったか?」
「いえ、何も聞こえませんでしたよ」
「マウスを貸してくれ」
最後に何の音か気になった僕はマウスを手に取り、動画の終わりの最後2、3秒ほどの暗くなった画面を表示する。
「良く耳を傾けてくれ」
「は、はい」
再生ボタンを押してみる。
「ーーー」
やはり、何か音が聞こえた。
「聞こえただろ?」
「いえ、何も」
何故だろう。何故か田原は聞こえないようだ。
「ならいい。色々と聞きたいが時間はあるか?」
興味を示してくれたと感じたのか彼女はウキウキで大きく2度縦に首を振った。
とりあえず、休憩がてら彼女にコーヒーを振舞った。
熱々のコーヒーに息をふきかけて少しでも熱を冷まして飲んでいる彼女には気にもとめず、とりあえずその実況者Abyssについて聞いてみた。
「とりあえず、最後のあの数字の書かれたコードのようなもの。あれはなんなんだ?」
「あー、あれですか。私も知らないんですよねー。なんか噂ではコードを最初にどこかに入力すれば大金が手に入るとか言われてます」
また、妙な話が出ているわけだ。視聴者はその話を鵜呑みにしてお金欲しさにあの動画を視聴していると思うとどっちもどっちだなという気持ちが芽生える。それとも、単に人が殺害されるところを面白がってみているのか。そうだとしたら違う意味でどっちもどっちだなと人見秀一は思う。
「ここに入力するみたいなんですよね。答えを」
サイトの概要欄にあるサイトに入ると真っ黒な画面の中央に白の字で「パスワード入力」と書かれていた。
「これが…。解いた人はいるのか?」
「それがいないんですよねー。私も何か適当に入力してみたんですけど全く反応なしでした」
「そ、そうか…」
すると、田原が笑顔で人見秀一に言う。
「それで、人見さん!今回の話どうですか?」
そう聞かれて人見秀一は立ち上がる。
「もう答えが分かっているのに聞くんだな」
一呼吸置いてから彼女に伝える。
「面白い。僕がその実況者Abyssとやらの正体暴いてやろうじゃないか」
そう、自信ありげに答えるのだった。
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