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四章 大江山の鬼編
48.出会う者
しおりを挟む妖花は神楽と別れてから1人で帰宅していた。いつもと変わらない帰り道だった。
「ま、たまには良いかも」
そう言いながら妖花は1人で歩いていた。
今日は1人か。少し寂しいけど、夏海のことも応援したいし仕方ないかな
独りでそんな時、少し思う。
「今日は1人だしどこかいつもとは違うところでも通ろうかな」
中学生らしいのかどうかは分からないけれど何となくそんなことを思う自分である。
そういう経緯でいつもとは違う道を歩きだす。
歩いていたのは学校からすぐではあるもののあまり通ったことのないお店がぽつぽつと並ぶ街並み。
学校の校則でお店に寄れないのが残念ではあるが今度また夏海達と来たいと思った。
「なんだか新鮮な気分」
そんなことを思いながら歩いているとすれ違うのは自分と同じ学校の制服を来た生徒達や夕飯の為の買い出しにきた奥様方。
そして私達の通う霹靂中学校の近くにある霹靂高校の生徒達。あと仕事帰りのサラリーマン。
「そろそろ元の道に戻ろうかな」
十分に堪能したのでとりあえず元の帰り道に戻ろうと思った。そして、おそらく元の道に戻れるであろう脇道を見つけてそこに向う。
「多分、あそこなら戻れるはず」
そう思いながら歩き、脇道に差し掛かったところで脇道から飛び出してきた人がいた。
「きゃっ!」
「え!?」
2人はぶつかり、お互い同時に倒れ込む。
「痛っ…大丈夫ですか?」
倒れて直ぐにぶつかった人の方を見て安全を確認する。
「うっ…」
そこには少女が倒れていた。綺麗な金髪の美少女が。そして見た事のある和服。
「この子どこかで…」
自分の記憶を見返して直ぐに分かった。
「あっ、あの時の。登校していた時に見かけた子だ」
とりあえず、その子に近づいて大丈夫なのかどうかを確認する。さすがにお互いに勢いよくぶつかってしまったので怪我が無いか心配になる。
「だ、大丈夫ですか?怪我とかは…」
金髪の少女を見て、確認するが目立った怪我はないようだ。しかし、すごく綺麗な子だ。
顔は白く透き通ったような肌に整った容姿。ぷっくりと薄紅色の唇が可愛さを引き上げている。
顔を見ていると金髪の髪がゆらゆらと揺れてひたいが顕になる。
「え?なんだろうこれ」
そこにはツノのようなものが着いていた。
黒と赤が混ざったような綺麗な色。ハロウィンの仮装?でも今はまだそんな時期でもない。疑問は浮かぶが今はそんなことを考えている場合でもない。
「コブ?2つ左右対称についてるから違うのかな。黒と赤で色も人間のそれじゃないし。まぁ世の中には色んな人がいるから考えても意味無いけど…」
でも、妖花の頭を過ぎるある単語。
「妖怪とか…」
そう考えるのも無理は無い。人間ならこんなツノは付いていないだろうから。
疑問に思いながら少女に声をかける。
「あの…」
すると金髪の少女が起き上がった。
「うぅ…ここはどこですか?」
起き上がって辺りを確認する少女の視界に妖花のことが入った。
「あ、あなたはどなたでしょうか!?」
とても驚いているようだ。ぶつかったことを覚えていないのだろうか。
「私は先程あなたとぶつかったものです」
金髪の少女は首を傾げていた。
「え?私があなたとですか?」
この子は本当に何も覚えていないみたいだ。相当急いでいたのかな。それとも打ちどころが悪くて記憶喪失かも…なんてことが頭に浮かんでしまう。
「はい、そうですけど…。大丈夫ですか?頭とか痛かったり、異常はないですか?」
「は、はい。大丈夫です」
どうやら無事のようだ。その声を聞いて妖花は安心した。
「良かったです。すみません、ぶつかってしまって」
「いえ、私の方こそすみませんでした。急いでいたもので」
「そ、そうだったんですか。あの、立てます?」
そう言って手を差し伸べると金髪の少女が妖花の手を取ってぐいっと引っ張った。
「え!?」
そして妖花は金髪の少女に抱きしめられた。心臓の鼓動が聴こえる。体温を感じる。そしてこの子はとても震えている。
「ど、どうしたんですか!?」
「すみません。少し、この体勢をいじしてください」
そう言われて妖花はじっと耐える。
や、やばい。すごく顔が近い。夏海やなごみとは違う感じの美少女が目の前に…。同性でもすごく緊張してしまう。
そして後ろに人が通ったような気がした。通り過ぎた後、少女は直ぐに手を離した。
「す、すみませんでした。人違いのようです」
ひ、人違い?それにしてもびっくりした。この子は誰かに追われていのだろうか。誰しもがそう思うような状況だった。
「そ、そうですか。なら良かったです」
「すみません。ご迷惑をお掛けしました。それでは私はこれで」
少女が立ち去ろうとして直ぐに道路を渡ろうとする。
「危ない!」
妖花は直ぐに少女の手を引っ張ってこちらに引き戻すと勢い余って少女は妖花と共に倒れ込む。
「な、なんでしょうか」
すると、渡ろうとしていた道路に車が法定速度を20キロは超えているであろう速度で後ろを通り過ぎる。
「危ないよ。道路を渡るなら横断歩道使わなきゃ」
和服で立ちにくそうだったため妖花は改めて手を差し伸べる。その手を掴み金髪の少女はなぜか触れない。
「ど、どうしたんですか?」
「いえ、その…」
よく見ると腹の当たりに血が滲んでいる。
黒い袴で血が見えていなかった。
「だ、大丈夫ですか!?これ…血じゃないですか」
「す、すみません。無理してて。私はここから一刻も早く逃げないといけないんです。奴らに追われているんです…」
や、奴ら?それよりも手当が先だ。病院に連れていかなければ怪我が悪化する恐れもある。
「だ、大丈夫ですか?これは病院に行かないと!」
手をぎゅっと掴まれる。その手の握力は少女とは思えない。
「い、痛っ!」
「す、すみませんでした」
するとぱっと手を離してくれた。それにしてもなんて握力だろう。これくらいの女の子でこの握力は異常としか言えない。
「あの、何か病院に行けない理由でもあるんですか?」
「それは…。追われているからです。私は捕まったら殺されてしまう。それに病院に言っても意味が無いんです。私は普通では無いので」
普通では無い?それって一体…。やっぱりこの子は……。
「あの、とりあえず、えっと…」
妖花は考える。
「あの、私はこのまま逃げます。ありがとうございました」
咄嗟に引き止めてしまう。
「そ、そんな訳には行かないです。こんな血が出ているのに…。ここであなたを見捨ててしまうのは人殺しと一緒です!」
そう言うと金髪の少女は妖花に驚きもありつつ感謝しているような顔を向ける。
「ならば、人ではないなら助けはしないということですね?」
「え?」
「私は実は人ではありません。ですから人殺しにはなりません。これでいいですか?私は人では無いのです。だからこのままで、あなたの善意は助かりますが今は要らぬ心配です」
そう言われて妖花は黙り込む。
その間に少女は立ち上がり、ゆっくりと脇道を進み始める。妖花はその背中を見つめたまま動かない。
妖花は思う。ここで見捨ててしまっていいのかと。仮に彼女が人間ではなかったとして、私は助けないのか?いや、助けるべきだ。人間だろうと人間ではなかろうと彼女を助けるべきだ。彼女が心配しなくていいと言っても彼女は立つことすらやっと。ここで本当に見捨ててしまえば末代までの恥になる気がする。
「きゃっ!」
「やっぱりあなたのことはほっておけません!」
妖花は彼女の手を握ってそう強く伝えた。
「大丈夫です。あなたは人殺しにもならないし、見捨てたところで人間では無い私には善意は不要です」
「そういう訳には行きません。私はあなたが人であろうとなかろうと困っているのなら助けますよ」
唾を飲み込み、金髪の少女は妖花を見つめる。
「ここで会ったのも何かの縁です。私で良ければ手伝わせてください」
そう笑顔で伝えた。すると金髪の少女は妖花の手をぎゅっと握る。
「ほ、本当によろしいのですか?」
「はい、もちろんです」
妖花はそう言い張った。彼女は血だらけ、歩くのもやっとのこと。それなのに見捨てるなんて間違っている。それに彼女は追われているとも言った。なら、助けない訳には行かない。
「わ、分かりました…。なら、お願いします。でも気をつけてください」
「何にですか?」
そう聞くと金髪の少女は重たい口調で答える。
「ツノの生えた妖怪にです」
「よ、妖怪ですか?」
妖花は冷静な顔で少女の話を聞いていた。
「えぇ。信じられないとは思いますけど…」
「わ、分かりました!その妖怪って何なんですか?」
「結構食い気味に来られるんですね…。それに驚きすらしない。嘘って思わないんですか?」
「思いませんよ。あなたはこうして傷ついているし、あなたの声を聞けば分かります。とても声が震えている、そんな人放っておけないです」
「そうですか…。あなたは妖怪と聞いて全く嘘と疑わないんですね。まるで妖怪と何度もあっているみたいに冷静です」
「え、いやそれはその………」
「その妖怪についてですが名前だけ言います」
2人に微妙な空気が流れる中、金髪の少女はその妖怪の名前を言った。それは私達人間なら1度は聞いたことのある妖怪。桃太郎などの昔話でも出てくる、頭にツノが生えているあの妖怪。
妖花はその名前をハッキリと聞いた。
「"鬼"です」
金髪の少女は小さな声で妖花に伝えたのだった。
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