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四章 大江山の鬼編
44.テスト週間
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序章
私の名前は千子妖花。中学生2年生。
今まで影女、式神、烏天狗などの妖怪達と出会ってきた。
命のやり取りをしてきた。でも、どの出来事も誰かに助けられてきた。
影女の時は怪者払いの朱理。
夜市の時はたまたま出会った式神。
そして先日、森の中での烏天狗。
そして、襲われていた所を間接的に助けてくれた、半天狗の少女天野なごみ。
助けられて当たり前と思ってしまう自分がいる。
そんな助けられてばかりの私だが、いつか自分で何とかしなければならない日が来るかもしれない。そんな日が来ないことを祈るが来てしまったらその時は自分の力で困難を乗り越えるしかない。
だからこそ私はいつ来るかわからないであろう時のために少しでも身体を鍛えている。
自分のために、そして誰かを守るために。
これは私の物語。千子妖花の物語。
彼女の人生は過酷になる。それをまだ私は知らない。知らなくてもいいことがあったと自覚する日も遠くない。
そんな彼女の物語は静かに始まる。
………………………………………………………………
天狗の少女、天野なごみとの出来事から数週間。夏休み直前のこと。
文月
暑い夏が始まり、少し経ったある日の事だ。
蝉の鳴く音が聞こえる夏休み1歩手前の夕方。
妖花と夏海は期末テスト直前のテスト週間。それが終われば夏休みに入る。
放課後の教室
教室内には数人の生徒が残っていた。各々が机を動かして自分の環境で勉強したり、たまに雑談をしたりしている。
その中に2人はいた。赤暗色の髪をかきあげて、少女は下を向いている。
「どうしようか、夏海」
少女は頭を抱えて机をトントンと指で叩きながら肘を着いていた。
「どしたの!妖花!」
それを見て慌てた夏海が声をかけた。
しかしすぐに顔を上げて細めで夏海を見て一言。
「いや、それはこっちのセリフだよ」
「え、何が?」
何を言っているの?と言いたげな顔をする夏海はゆらゆらと揺れている。
「そうね。今回も頑張って1位を取りたいとは思っている私ではあるよ。でも、それとは別。夏海、あなたのテストの点数をどうしようかと思っているだけ」
「私?私?なんで?」
妖花はまた頭を抱える。
「そうね、なら夏海。この前の中間テストどうだった?」
慎重な口調で聞くと夏海はいつものように明るく楽観的な物言いで言葉を発する。
「どうもこうも普通だよ?」
普通…ね。
「平均点は?」
学内平均点の半分以上では無いかという予想を予め立てた上での質問だった。
「うーんと、たしかほとんど赤点ぎりぎりだったかな!」
とても自信ありげに、さも、私はとても良い点を取りましたと言わんばかりの彼女をみて私は沈黙する。
そして、笑顔で告げる。
「うん、それはまずいね!」
夏海も私の顔を見て笑顔を返してくれる。それに対して妖花は笑みを消して答える。
「うん!まずいよ…」
その顔を見て夏海はすぐに顔をしかめた。
「うっ…分かってるよ…。わかってるんだよぉぉぉ。でもどう勉強すれば点数取れるのかなって。だってだって……」
分かりやすく項垂れる夏海を見て肩を叩いて笑顔で告げる。
「分かった。私も手伝うから頑張ろう。中間テストの時は私あまり手伝えなかったからさ」
そう声をかけるとすぐに明るい口調で言葉を返す。
「ありがとう…!また赤点とったらお母さんにお小遣い減らされるかもしれなかったから。妖花に教えて貰えるなら百人力だよ」
気持ちが上がり下がりの激しい彼女を見て笑みを零す。
「過大評価しすぎだよ」
「そんなことないって。私は妖花だけが頼りだから」
「ま、まぁ…。そこまで言われたら私も本気だして教えるけど…」
夏海の頼みを無下にはできないのが妖花だった。
「それに最近はクラスでも妖花明るくなって話しかけやすいからってみんな教えて貰ってるしね」
確かに最近はそうだなと妖花は思う。自分としても気持ちが楽になっていたからだろう。
クラスの人達との交流を好まなかった私は今ではクラスの人達ともよく遊ぶようになっている。
それは妖怪達との出会いがきっかけだったのかそれとも厨二病だったからなのかを考えるなら私は前者だ。
「確かにね。なんというか心境の変化というのかな」
「そうなん?」
「うん、私も頑張ろうって思える出来事があったの。だから今は明るく前向きにって思ってる」
妖花が変わったきっかけはなごみとの事だ。
夏海にはなごみのことはまだ話していない。今はまだ言えない。いつかまた機会があればなごみと一緒に伝えようと思う。もちろんなごみが話すというのならばだけど。
「そっか!最近明るくなってくれて私も嬉しかったんだよね。今の妖花の方が生き生きしているから」
「ありがとう。私も今の自分の方が好きかな」
妖花は自分が変わりつつあるのを感じている。もちろん肉体的にも精神的にも。
残りの中学校生活は1年と半分。長いようで過ぎていく時は急にすぎるけれど、今を楽しめればそれで良い。
とりあえずは…。
「じゃあ勉強始めるよ」
自分の変化を実感しつつ妖花は夏海とその後一緒に勉強した。
少し時間が経過した。夕日が差し込める教室の中、教室に残っている人はまだチラホラといる。
「よし、やっと終わりー!」
夏海は椅子を引いて腕を上げて背筋を伸ばしている。そんな夏海を見て妖花は言う。
「勉強に終わりなんてないよ。まぁこれだけやれば及第点かな。このまま行けば赤点はないと思う」
妖花も今回はしっかりと教えれたつもりだ。これで夏海が少しでも点数が良くなるといいのだけれど。
「ほんとにありがとう」
「いえいえ。とりあえず本番でいい点とってからその言葉はもらおうかな」
自信ありげになつみは頷く。
「そうだね!」
夏海の笑顔を見ると妖花も自然と笑顔になる。この子にはそういう力があると妖花は思う。
「じゃあノートまとめたら帰ろっか」
「うん!」
2人は並べていた机を元の位置に戻すと鞄を手に取って教科書類を鞄に詰め込んだ。
「帰ろっか」
「だね」
2人が教室から出ていく時残っていたクラスメイトに後のことを頼むように伝える。
「じゃああとお願いしていい?」
「もちろんだよ。お疲れ様妖花ちゃんに夏海ちゃん」
「バイバイ」
2人は手を振って教室を後にする。
「またあしたね」
2人は教室を後にしてゆっくり歩いて靴箱に向かった。
「明日もよろしくね」
「うん、任せて」
2人は靴箱で運動靴に履き替えると学校を後にした。最近はテスト週間ということもあり、部活が休みになっている。
いつもなら部活をしている生徒がいるが今日はそれがなく少し静かだった。最近は特に何も無い一日が続く。
ただ、学校に行って勉強して帰る、そんな一日だ。
別に何かあったとしてもそれはそれで困る話だ。だからこのままでいい。今はこのままで。
私の名前は千子妖花。中学生2年生。
今まで影女、式神、烏天狗などの妖怪達と出会ってきた。
命のやり取りをしてきた。でも、どの出来事も誰かに助けられてきた。
影女の時は怪者払いの朱理。
夜市の時はたまたま出会った式神。
そして先日、森の中での烏天狗。
そして、襲われていた所を間接的に助けてくれた、半天狗の少女天野なごみ。
助けられて当たり前と思ってしまう自分がいる。
そんな助けられてばかりの私だが、いつか自分で何とかしなければならない日が来るかもしれない。そんな日が来ないことを祈るが来てしまったらその時は自分の力で困難を乗り越えるしかない。
だからこそ私はいつ来るかわからないであろう時のために少しでも身体を鍛えている。
自分のために、そして誰かを守るために。
これは私の物語。千子妖花の物語。
彼女の人生は過酷になる。それをまだ私は知らない。知らなくてもいいことがあったと自覚する日も遠くない。
そんな彼女の物語は静かに始まる。
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天狗の少女、天野なごみとの出来事から数週間。夏休み直前のこと。
文月
暑い夏が始まり、少し経ったある日の事だ。
蝉の鳴く音が聞こえる夏休み1歩手前の夕方。
妖花と夏海は期末テスト直前のテスト週間。それが終われば夏休みに入る。
放課後の教室
教室内には数人の生徒が残っていた。各々が机を動かして自分の環境で勉強したり、たまに雑談をしたりしている。
その中に2人はいた。赤暗色の髪をかきあげて、少女は下を向いている。
「どうしようか、夏海」
少女は頭を抱えて机をトントンと指で叩きながら肘を着いていた。
「どしたの!妖花!」
それを見て慌てた夏海が声をかけた。
しかしすぐに顔を上げて細めで夏海を見て一言。
「いや、それはこっちのセリフだよ」
「え、何が?」
何を言っているの?と言いたげな顔をする夏海はゆらゆらと揺れている。
「そうね。今回も頑張って1位を取りたいとは思っている私ではあるよ。でも、それとは別。夏海、あなたのテストの点数をどうしようかと思っているだけ」
「私?私?なんで?」
妖花はまた頭を抱える。
「そうね、なら夏海。この前の中間テストどうだった?」
慎重な口調で聞くと夏海はいつものように明るく楽観的な物言いで言葉を発する。
「どうもこうも普通だよ?」
普通…ね。
「平均点は?」
学内平均点の半分以上では無いかという予想を予め立てた上での質問だった。
「うーんと、たしかほとんど赤点ぎりぎりだったかな!」
とても自信ありげに、さも、私はとても良い点を取りましたと言わんばかりの彼女をみて私は沈黙する。
そして、笑顔で告げる。
「うん、それはまずいね!」
夏海も私の顔を見て笑顔を返してくれる。それに対して妖花は笑みを消して答える。
「うん!まずいよ…」
その顔を見て夏海はすぐに顔をしかめた。
「うっ…分かってるよ…。わかってるんだよぉぉぉ。でもどう勉強すれば点数取れるのかなって。だってだって……」
分かりやすく項垂れる夏海を見て肩を叩いて笑顔で告げる。
「分かった。私も手伝うから頑張ろう。中間テストの時は私あまり手伝えなかったからさ」
そう声をかけるとすぐに明るい口調で言葉を返す。
「ありがとう…!また赤点とったらお母さんにお小遣い減らされるかもしれなかったから。妖花に教えて貰えるなら百人力だよ」
気持ちが上がり下がりの激しい彼女を見て笑みを零す。
「過大評価しすぎだよ」
「そんなことないって。私は妖花だけが頼りだから」
「ま、まぁ…。そこまで言われたら私も本気だして教えるけど…」
夏海の頼みを無下にはできないのが妖花だった。
「それに最近はクラスでも妖花明るくなって話しかけやすいからってみんな教えて貰ってるしね」
確かに最近はそうだなと妖花は思う。自分としても気持ちが楽になっていたからだろう。
クラスの人達との交流を好まなかった私は今ではクラスの人達ともよく遊ぶようになっている。
それは妖怪達との出会いがきっかけだったのかそれとも厨二病だったからなのかを考えるなら私は前者だ。
「確かにね。なんというか心境の変化というのかな」
「そうなん?」
「うん、私も頑張ろうって思える出来事があったの。だから今は明るく前向きにって思ってる」
妖花が変わったきっかけはなごみとの事だ。
夏海にはなごみのことはまだ話していない。今はまだ言えない。いつかまた機会があればなごみと一緒に伝えようと思う。もちろんなごみが話すというのならばだけど。
「そっか!最近明るくなってくれて私も嬉しかったんだよね。今の妖花の方が生き生きしているから」
「ありがとう。私も今の自分の方が好きかな」
妖花は自分が変わりつつあるのを感じている。もちろん肉体的にも精神的にも。
残りの中学校生活は1年と半分。長いようで過ぎていく時は急にすぎるけれど、今を楽しめればそれで良い。
とりあえずは…。
「じゃあ勉強始めるよ」
自分の変化を実感しつつ妖花は夏海とその後一緒に勉強した。
少し時間が経過した。夕日が差し込める教室の中、教室に残っている人はまだチラホラといる。
「よし、やっと終わりー!」
夏海は椅子を引いて腕を上げて背筋を伸ばしている。そんな夏海を見て妖花は言う。
「勉強に終わりなんてないよ。まぁこれだけやれば及第点かな。このまま行けば赤点はないと思う」
妖花も今回はしっかりと教えれたつもりだ。これで夏海が少しでも点数が良くなるといいのだけれど。
「ほんとにありがとう」
「いえいえ。とりあえず本番でいい点とってからその言葉はもらおうかな」
自信ありげになつみは頷く。
「そうだね!」
夏海の笑顔を見ると妖花も自然と笑顔になる。この子にはそういう力があると妖花は思う。
「じゃあノートまとめたら帰ろっか」
「うん!」
2人は並べていた机を元の位置に戻すと鞄を手に取って教科書類を鞄に詰め込んだ。
「帰ろっか」
「だね」
2人が教室から出ていく時残っていたクラスメイトに後のことを頼むように伝える。
「じゃああとお願いしていい?」
「もちろんだよ。お疲れ様妖花ちゃんに夏海ちゃん」
「バイバイ」
2人は手を振って教室を後にする。
「またあしたね」
2人は教室を後にしてゆっくり歩いて靴箱に向かった。
「明日もよろしくね」
「うん、任せて」
2人は靴箱で運動靴に履き替えると学校を後にした。最近はテスト週間ということもあり、部活が休みになっている。
いつもなら部活をしている生徒がいるが今日はそれがなく少し静かだった。最近は特に何も無い一日が続く。
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