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二章 夜市編
24.式神
しおりを挟む「はぁはぁはぁ」
妖花は逃げ回っていた。
屋台の商品を投げ、そして逃げ回ってそれを繰り返す。しかし、そんなことをしても妖怪たちは屈せず妖花を追いかける。
「あそこからなら出られる、早く行かないと」
妖花はあの門へと向かっていた。初めに自分たちの世界に出ることができたあの門に。
幸いにも一つ目小僧は痛みで動けないと思われる。だからこの妖怪たちを振り切れば門へと辿りつけるそう思った。
「門への道はなんとなくだけど覚えてる」
逃げる妖花は路地に入った。
暗がりの路地でどこに繋がっているのかは分からなかったが門の方向にある道に曲がった。
「ここなら多分こっち」
そう思いながら走ると目の前から追ってが来ていた。
「いたぞ!」
バレた妖花は先程とは違う、門とは逆方向に走った。
「ここは…どこ」
先程の道をまっすぐ走り抜け、階段を降りるとそこは暗がりの広い道だった。
あの明るかった夜市とは打って変わってここは暗い。屋台はあるものの何を売っているのかよく分からなかった。
夜市の中ということは分かっているがどことなくお化け屋敷にでもきた気分だ。それほどまでにこの通りは不気味で不思議な雰囲気だった。
「おい、こっちだ」
「あぁ、こっちに入っていったのを見たぞ」
声が聞こえて妖花は近くの屋台に向かうと、その店の店主に一言「すみません、少しだけ隠れさせてください」と言った。
その店の店主の顔は見えず、薄暗く見えないだけなのかそれとも真っ黒なのかそれは分からなかった。一言も発さず、ただ俯いていた。
返事がないので妖花は了承を得ることができないまま、屋台の下へと隠れた。
隠れてから程なくして声が聞こえてくる。
「あのガキどこにいった!まだ近くにいるはずだ」
「くそ、この道ならまっすぐだろ」
妖花は息を殺して隠れる。心臓の音が聴こえてしまうのではないかと心配になる程大きくなり、見つからないようにぎゅっと胸を押さえ込む。そうやって妖花は自分の気配を絶った。
そして妖怪たちが去っていくのを確認して道に出た。
「行ったみたいね。それにしてもここは一体…」
そう言いながら今隠れていた屋台の店主におじぎをすると置いてあった商品に目がいった。
「これは人!?」
その屋台には人の部位が置かれていた。
頭や四肢や臓器などが置かれてあまりにもリアルで妖花は気持ちが悪くなる。
「何、なんなのここは」
口を押さえて先ほど見たものを忘れるために他の場所へと目を向ける。
しかし、他の店もこの店となんら変わらなかった。人間ではないものの何かの体の部位が置かれていたり、得体の知れない液体や物が所狭しに置かれていたりしていた。
やはりここは変だ。客も店主もどこかおかしい。周りを見渡すと、妖花は気がつく。
「お店の人もお客さんもみんななんだが暗い、というよりもなんだか不気味」
皆一言も発さず、指を刺したりして欲しいものを買っているようだった。
「あ、あの…すみません。ここって一体…」
「…。」
返事はない。店主は帽子を深く被り、顔はやはり見えなかった。いや、妖花は見ようとしなかった。みたら何か起こりそうな予感がしたからだった。
「ほかに何かないかな…ってあれは…」
そして壊れかけの看板がありそれをみると妖花はここが何かを知った。
「闇夜市…」
看板には闇夜市と書かれていた。その意味は売っている商品を見ればすぐに分かった。
人やら動物やらなんでも売っている、ようは闇市場。人間世界で言う銃や薬物などの売買を行ったり、定価の何倍もの値段でものを売ったりしている非合法設けられた独自の市場。
ここは来てはいけない場所だったのかもしれない。そう思いつつ、妖花は帰ろうと先程来た道を見るとそこにはまだ追っての妖怪が待ち伏せていた。
「あいつらに任せて俺らは待機だ。知らせを待とう」
会話が聞こえて妖花はもう一度隠れる。
出口を封じられてしまった。あの言い方からして逆にある出口にももう妖怪がいるはず。しかし確証はない。
「くっ…このままでは動けない」
仕方なく、確認のために入ってきた道とは逆方向にある路地を気づかれないように歩きながらほかに出口がないのかを探そうとする。
しかしこの路地がどこまで続いているのか分からず早く出口に着いて欲しいと願うばかりだ。
後ろを見ながら歩いていると何かにぶつかった。
「痛っ…」
目を開けて目の前を見るとそこにはローブを着た体格の良い妖怪が立っていた。
「や、やばい」
声を発しながら後ろに逃げようと思った時後ろには追ってがいた。まだこちらには気付いていないらしい。
「は、挟まれた…」
そういうとそのローブを来た妖怪が声を発した。
「そこの少女、このローブの中へ入りたまえ」
「え?」
「早く、お前追われているんだろ?」
そう言われて驚きつつも今はそれしかないと思い、そのローブの中へと入った。
「だ、大丈夫なんですか?」
「少し静かに、去ったら言うから」
「おい、こっちの道かもしれないぞ!早くいくぞ」
ローブの妖怪は狭い路地で出来る限り道に寄った。
「おい、そこのお前。ここらに人間のガキが通らなかったか?」
妖怪の声が目の前から聞こえて心臓の鼓動が早くなるのを感じる。
「それならこの道をまっすぐ行ったよ」
え?本当に嘘を言ってくれた。
「そりゃ助かるぜ、この先には出口があるからな」
追っての妖怪たちはその路地をまっすぐ走り抜けていった。妖怪たちの走る音が聞こえなくなる。
「もういいぞ」
その声でやっと妖花はローブの外に出た。
「ありがとうございます、助かりました」
素直に礼を言うとローブの妖怪はローブを外した。
「いや、気にするな」
ローブを外した姿は陰陽師のような格好をしていた。顔は鬼のような顔つき、身長は妖花よりもひとまわり大きい、200cmはあるだろう。
怖そうな見た目の妖怪は後ろを振り向いてまた振り返ると顔が変わっていた。
「この方が喋りやすいであろう?」
「はっはい」
顔は妖花のよく知る人間の顔。
あの鬼のような顔は整った顔立ちに変わっていた。鼻高く、キリッとした目つきに加えて優しそうに笑みを溢す顔はなんとも美しい。
「まぁ緊張するな、私はお前に危害を加えはしない」
「本当ですか?」
「あぁ、あの方に誓ってな」
信じたくはなかった。しかし助けてくれた妖怪に感謝をしていたのでとりあえず話を聞くことにした。
「あの、なぜ私を助けてくれたんですか?」
夜市に来てから追いかけられて妖怪が怖かった。しかしこの妖怪は助けてくれた、だからなぜ助けてくれたのか、それだけは気になっていた。
「うむ、人間をここで見たのは久々でな。それに人目見てお前が何かに追いかけられていると言うことは分かった、だから助けようと思ったんだ」
「ありがとうございます。妖怪にも優しい人はいるんですね」
「どうだろうな。私は優しくしたわけではない。ここは夜市だ、そんなことをする場ではないからな。それに人間の少女を追いかけまわすとは不埒なやつだと思ったのだ」
「そうでしたか、本当に助かりました」
「まぁ気にするな、当然のことをしたと思ってくれればいい」
助けてくれた妖怪はとても堂々としていた。そんな妖怪に見惚れてしまう、やはり顔も性格も良いので何だが妖花も無意識に照れてしまっていた。
とりあえず、危機が去り、追手にバレず少し休む。
そしてこの妖怪が何者なのかが気になった。
「あの、あなたは一体どう言った妖怪なんですか?」
「私は式神。その名の通り陰陽師が使役する鬼神だ。まぁ今は呼ばれていないからこうやって暇つぶしに買い物をしていたわけだが」
「そうだったんですか…式神、聞いたことはあります」
「そうかそうか、ならよかった。それで何があったのだ?人間の娘がこんなところで」
妖花は式神に今までのことを伝えた。
「そう言う事だったのか、それは災難だったな」
「いえ、元はと言えば私たちが悪いので」
そういうと式神は深くうなづいた。
「確かにそうだ。人間がこの世界に来るのは良くない。しかし、一つ目小僧も一つ目小僧だ。脱出させると言ったのに喰おうとするとはな」
「はい…あの、私あるところに向かっていて」
「そうか、私で良ければ手伝おう、ここであったのも何かの縁。それに…いやまぁここでまた若い少女が殺されるのは私としても見て見ぬふりはできんからな」
式神は思いの外すんなりと手伝ってくれると言ってくれる。しかし、そんな妖怪をすぐに信用するほど妖花も警戒は怠ってはいない。
「ありがとうございます、でも。あなたを信用しきれていない自分がいるです…」
「そうか、それは仕方ないことだ。」
「はい、だから…」
「私のことは信じても信じなくてもどちらでも構わない。それを決めるのは少女、お前次第だ」
急な選択を迫られる。妖花はこの妖怪を信じ、手伝ってもらうことにするのか、それとも信じず、自分一人でこの闇夜市、そして夜市を脱出することにするのか。
答えは思いの外すぐに決まった。
「信じます。今は信じるしかないから」
妖花は真剣な顔つきで式神に言った。
「そうか、信じるか。私が聞くのもなんだがなぜ信じようと思ったんだ?」
そんな質問されるとは思っていなかった妖花だったが表情を変えることなく淡々と答えた。
「単純です。今はここを出ることが最優先。なら助けてくれたあなたを信用するだけです。たとえあなたが裏切ったとしても私は生きてここから脱出する気です」
そして妖花は息を吸って呟いた。
「どんな手を使ってでも」
その顔を見た式神は少し笑った。
「そうかそうか、変な質問をして悪いな。少女、お前の覚悟しかと受け取った。私の力をお前に使うことを約束しよう」
その言葉を信じて妖花と式神は協力関係となった。
「それでどこへ向かっているんだ?」
妖花は式神に聞かれ、すぐに答える。
「それは門です」
「ほぉ、ここからの距離だと門とはまさか呼ノ後門か?大きな赤色の特徴的な門何だが」
呼ノ後門。それは妖花たちが現実世界に出るために使用した門だった。
「そうです、その門だと思います」
「そうか…それはまずいかもしれないな」
「え?何がまずいんですか?あそこなら…」
妖花は思い出した。あることを。
「いや、式神さんのいう通りでした。あそこにいくのはまずい」
「おぉ、気づいたか?」
「はい、あの門の掟の三つ目。一度門へと足を踏み入れたら何があってももう一度門へは戻らないこと。それは多分一度入ったらもう一度入ることも禁ずるってことなんじゃないんですか?」
「その通りだ。だからあの門は一度使ったらもう誰も使えなくなる。呼んだ後の門。あの門はそうやってもう一度入った者の魂を喰らう門なんだ」
「だからもう一度入ることはお勧めしないし、まず待ち伏せされているだろうしな」
妖花が式神とそのことについて話している時、呼ノ後門の前。
「早く来いよガキ」
一つ目小僧は門の前に待ち構えていた。
「お前は掟を知っていたとしてもたかがガキ。もう一度入っていいと思うだろうなぁ?だがそれだとお前の魂は喰われちまう。そして門からお前の魂の抜けた体だけがでてくる」
ヒヒッと笑いながら一つ目小僧は喋る。
「それを貰えばいいだけの話だ」
一つ目小僧の目は充血しており、怒り狂っていた。
「しかし、もしそれに気づいたとしてもお前を助ける妖怪がいるとは思えんがな、くくくっ。」
周りにいた妖怪を指差して指示をする。
「お前らはここで待ってろ、俺は向かうところがある」
そう言って一つ目小僧は一人で妖花を探し始めた。
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