表裏一体物語-少女と妖刀を繋ぐ-

智天斗

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二章 夜市編

17.聖徳太子ゲーム

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朝を迎える

なんだろう。久しぶりによく寝付けたような感覚。いつも普通に寝ていたのに急にそんな感覚になっている。

「よし!今日、話し合いをしよう!」

意気込んだ妖花は早めに学校へと向かった。
学校へと向かう道中、いつも通りの坂道を歩いて下っていると後ろから声をかけられる。

「おはよう、千子さん。」

呼ばれて振り向くとそこには柳がいた。
とりあえず軽く挨拶を交わす。

「おはよう、柳くん」

「あぁ、おはよう」

軽い挨拶を交わした2人は並んで学校へと登校した。学校への登校途中、あることに気づいて柳に聞いてみる。
 
「あれ、家私と同じ方向だったっけ?」

昨日一緒に帰った時、柳は妖花とは真逆の方向に帰っていたことを知っていたのでとりあえず質問してみた。

「あー、今日は千子さんに会いに来たんだ」

そう言われて驚いて声を上げる。

「え!?私に?どうして?学校でも話せるのに」

柳の家の場所は知らないが妖花とは真逆のためここまで来るのは遠回りになる。
なのになぜわざわざここまで来たのだろうか。

「いや、その…昨日一緒に話したり、部室まで行ったりしたじゃない?」

「うん、それがどうかした?」

妖花の頭の中ははてなマークでいっぱいになっていた。柳は一体何が言いたいのだろうかと。

「本人には言いにくいんだけどさ…」

え!?本人に言いにくいことって…
柳くん私みたいなのと歩いてるの見られる嫌とか…?たしかに私みたいなのと一緒にいたら嫌だよね…なんか悲しくなってきたかも…

そんなことを考えていると柳が喋ろうとする。それに気づいて妖花は「いや、話さなくていいよ!」と言ってしまった。

「え?あっ。まぁそうだよね。本人に言っても仕方ないというか僕が気をつければいい話だからさ」

ですよね………まぁそれは仕方ないことだろう。
私って結構浮いていたのだろうか。
あぁ、なんだろう。空が遠いな────。

「ごめんね、これからは私が気をつけるから!」

そう柳に伝えると柳は、ん?っとなぜか首を傾げている。

「え?どういうこと?千子さんは気をつけなくていいけど」

「いや、だって私なんかといたら柳くん可哀想だからさ」

「可哀想…?いや、僕は君がモテるから他の男子から何か言われるかもしれないからさ」

え?どういうこと?私がモテる?な訳ないよ。
私これまで全然そんな経験ないけど…

「え?冗談でしょ?私は夏海とは違うし、第一あまり男子と話すこともないし」

「本当に?それは本当に本気で言ってるの?」

柳にそう言われてなんだか申し訳なくなる。
ここまで気を使わせてしまうとは…

「気を遣わなくていいんだよ。私そういうお世辞とか一番嫌だからさ」

「お世辞とかじゃないよ。僕、みたんだよ」

「何をみたの?」

すると柳は意外なことを口にする。

「クラスメイトの男子が僕に話しかける千子さんを見て羨ましそうに見てたから」

「そ、そんなはずないよ!それはたまたま私たちの方を見てたんじゃないかな」

流石にそれはないでしょ…と妖花は呆れてしまう。

「それに、聞いたんだよ」

「何を聞いたの?」

流石に呆れた妖花はあまり気にしないで柳に聞いた。

「あいつ、転校してからまだあまりたってないのにあんなに千子さんと親しそうにしてるぜって。アニメやドラマ以外で初めて聞いたけどね」

「ん?どういう意味だろ」

心の声が出ていた。

「どういう意味って嫉妬?じゃないかな」

「なんでそんなことに嫉妬するんだろうね」

笑みを浮かべながらいうと柳は冷静に答える。

「それは君が僕と一緒に話したり、部室に行ったりしたからじゃないかな」

「え?いや、そういう意味じゃなくて私と話すことに嫉妬っておかしいなって思って」

「なんでだい?」

「いや、だって私みたいな女子が他の男子と話しても特に何も思わないって思ったんだけど」

なぜ嫉妬という言葉が出たのか理解ができなかった。

「千子さんって意外と鈍感なんだね」

柳は笑って答えた。
私が鈍感。いや、それはないだろう。そういえば確かに聞いていた。男子が私が柳くんと話しているのを聞いて「柳が千子さんと仲良さそうに話してるよ」っていうのを聞いた。
あの時は本音で申し訳ないなと思った。
私となんか話すからそんなことになるのだろうと。だからその後の言葉は聞かないようにしていた。

「私鈍感じゃないよ!耳がいいから大体誰が何を好きとかわかるし!」

「そういうところが鈍感なんだよ。君は耳がいい。しかし都合のいいように解釈してしまっているんだよ」

都合のいいように…?

「たまに可愛いとか聞こえた時はあったけどあれって隣の夏海やなごみに言ってるのかなって」

「それは勘違いだよ」 

と言いながら柳は話を続ける。

「それに君は一年生の頃から耳がいいことで有名だったんだよ」

私が有名?そんなことはないと思うけど…

「一年生の頃、君が学年集会のオリエンテーションで披露した特技だよ」

「オリエンテーションで…」

そういえばそんなことがあった気がする。
たしかステレオゲームをした。みんなが一斉に喋ってそれを聞き取り、何を喋ったかを当てるゲーム。
あの時は難易度がどんどん上がっていって5人の喋った文章を全て聞き取るってことだったけど簡単だった。

「あの時、君は学校で有名になったんだ。だからね、君の前で色恋沙汰を話すと聞かれるんじゃないかって話題になってたんだよ」

「話題になってたって柳くん違うクラスじゃない」

そう言うと柳は「僕のクラスでね」と言った。

「え!?本当に!?」

妖花は驚いた。自分の知らないところでそんなことになっているとは思ってもいなかった。

「それに聞いたけど、あの後最高何人いけるだろうってクラスで試したんでしょ?」

柳にそう言われて妖花はゆっくりとうなづいた。

そういえばそんなこともあったっけ。
確かあの時は夏海が言い始めて、それで放課後にやったんだよね。
一年ほど前の中学校生活が始まってあまり経っていない頃だった。

「ねぇ、妖花この前凄かったよね!」

この前?なんのことだろう。それにもう放課後、早く帰りたい。

「前っていつのこと?」

「あれだよ!あのーあれ!ねぇみんな!」

そう夏海が言うとゾロゾロとクラスメイトが集まってきた。
そして何人かが言った。

「あの5人が一斉に話してそれを聞いてすぐに誰が何を言ったのか言い当てたやつでしょ?」

それを聞いて妖花はそんなこともあったっけと頭の隅にあった記憶を思い出そうとしたもののもうほとんど忘れていた。

そんな妖花の横で「あれ凄かったよね」と話が盛り上がっていく。
そんな中1人の女子生徒が話しかけてくる。

「千子さん何人まで聞けるの?」

長髪の女生徒、良源久美りょうげんひさみがそう私に話しかけてきた。

「うーん、試したことはないから分からないかな」

やる気のなさそうに答えると久美は目をキラキラさせて「じゃあ試そうよ」と言われてしまった。

しかし妖花はここで断ってしまっては申し訳ないと思ってしまい渋々了承した。

「いいよ。何人まで聞けるかって言うのは試したことなかったし、いい経験になるかもしれないから」

妖花が了承したのを見てクラスメイトたちは何を話すのかを話し合っている。

「じゃあ今いるみんなでやってみようよ」

そう言って集まったのは合計12人。皆妖花のことを見て知りたがっているようだった。

「じゃあ適当に何か言ってくれたら聞くよ?」

「やったー!じゃあみんな…」

と妖花に背を向けて話をしている。しかし妖花にはそれが全て聞こえていた。

「今から好きな食べ物言うから聞き取ってね」

そう言われて妖花は目を瞑った。その方が聞き取りやすく、集中もしやすかったからだ。

「じゃあいくよ!」

と声を上げて12人が一斉に喋り始めた。

そして妖花はそれを全て聞き取った。

「あなたがカレー、夏海はパイン…」

とそのような形で12人全員の好きな食べ物を言い当てた。

「す、すごーい!」


◆◇◆◇ ◆◇◆◇ ◆◇◆◇ ◆◇◆◇ ◆◇◆◇

皆その結果を聞いてとても大盛り上がりだった。そんなことを思い出した。

確か良源さんは今は隣のクラスだっけ?
久しぶりに顔が浮かぶ。彼女は元気にしてるだろうか。まぁいい。それよりも今はこの話だ。

「思い出した。その時は12人だったよ」

「す、すごいね!本当に地獄耳ってやつだよ」

「そうなのかな?」

妖花は少し照れながら言った。

「うん!だから君には聞かれないようにみんな話してたんだよ」

「でもでも私はモテてないよ!」

「そんなことないよ。じゃないとわざわざ僕がここにくる意味がないよ」

ここにくる意味がない…?

「それってどう言うこと?」

「いや、昨日君と別れた後何人かに言われたんだよ。千子さんやっぱいい子だよなとか可愛いよって帰りに言われたんだ」

そんなことって…

「だからさ、僕は君がモテているんだなって思ったわけ」

内心妖花は驚いていた。今までそんなことを言われたこともなかった。耳がいいからそれを頼りにしていたと言うこともあるがまさか裏でそんなことになっているとは…

「どうしたの千子さん」

「へ!?何が!?」

妖花は恥ずかしくて顔が真っ赤になっていた。

「ははは、これは伝えないほうが良かったかもね」

「う、うん……」

妖花はしばらくの間顔が真っ赤で顔を押さえて登校していた。
自分はそんなことはないと思っていただけに衝撃が走って何も考えられなくなっていた。

妖花は鈍感であり、とてもピュアだった。
他人の話は聞くのに自分のことはからっきし。
そんな妖花は今顔を真っ赤にして俯きながら学校へと向かっている。

それから数分が経った。ようやく妖花の顔が収まったところで柳が口開く。

「千子さん。噂の件なんだけど……」

「ひ、ひゃい!」

思わず変な声が出てしまい柳に笑われてしまう。

「どうしたのさ。らしくないね」

「ご、ごめんね…」

 とつい謝ってしまう。

「いいんだよ、それで噂だけど…」

妖花は先ほどまで真っ赤だった顔が優しい、冷静な顔立ちに変わる。

「分かってるよ。柳くんが嘘をついてるなんて思ってないから」

妖花は柳にそう答えた。

柳は嘘をついてはいないだろう。たとえ嘘をついていたとして何だというのだ。せっかく知り合ったのだから仲良くしたい、そう思った。

「そうじゃないんだ」

どうやら妖花の思っていたこととは少し違ったらしい。

「そうじゃないって何が?」

「いや、噂の件を早めに片付けようかなって思ったんだけど」

「早めに片付ける?行くのは確か6月の中旬だよね?何で急に?」

「昨日久しぶりに妖怪の話を話してみてあの商店街の真相を早く確かめたくなったんだ」

柳は妖花の肩を持って真剣にうったえかけた。その柳の迫力に妖花は感じとる。

柳くんもやはり男の子…好奇心旺盛なんだろうなと妖花は勝手に思った。

「わかった。柳くんのいう通り少し早めに行くとするよ。神楽にも伝えないとダメだから学校で3人で話し合わない?」

「それで構わないよ、少しでも早く行けるならさ」

そんな話をしている間に学校の近くへと到着していた。


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