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一章 始まりの妖怪編
2.獅子と天
しおりを挟む今日は4月26日。
雲も少なく天気は見てわかる通り晴れだ。
そして金曜日なので明日は学校が休み。
それに加えて待ちに待ったゴールデンウィークという長期休みに入るので私の足取りは軽い。休みの期間は10日間。その休みをどう過ごそうか、そんなことばかりを考えてしまう。
しかし、その休みを得るためにまずは今日を乗り越えなくてはならない。
"乗り越える"なんて言い方をしたものの普通に過ごしていればいいだけなのは変わりない。
「急ごうかな」
私の通う学校は家から近からず遠からずといった場所で高台にある家から降りていくと、歩いて20分ほどで到着する。
自転車でも通学ができるのだが私はあえて徒歩通学をしている。
なぜなら行きは下り坂、帰りは上り坂。登り坂と言っても少しぐらいの角度の坂なら普通に自転車を使用しただろう。しかしここの坂は思いの外、急になっている。
そのため、徒歩の方が楽だろうと考えたわけだ。下りは楽でも帰りが辛い。自転車を押して歩くことを考えると時間がかかっても徒歩で通学した方が危険がないと判断した。
「風強い…」
それに加えて風も強く、妖花はめくれそうになるスカートを抑えつつ、学校へと向かう。
家からの道は車が多く、それもまた徒歩で通学する理由の1つである。
坂道をおりた先には直ぐに横断歩道があり、何度か事故が起きている。それも全て自転車で坂を下っていた時に起きたことだという。
最近はないものの数ヶ月前に立て続けに事故があったため、両親からも徒歩で通学を勧められた。
学校に向かって坂を歩いていると、後ろから声をかけられる。
「おっはよぉー!」
走ってこちらへと向かってくるのは同じクラスの獅子田夏海だった。
彼女は容姿端麗で茶髪がトレードマークの明るい少女だ。そして、男子から人気のある生徒でもある。
その人気からか学校や他校にファンクラブが存在しているらしい。しかし当の本人はそういうことに興味がない。少し前にその存在に気づいたらしいが、彼女は特に気にしなかった。
彼女曰く、「そういう人になりたいわけじゃないんだよ?ただ、みんなと友達になりたいだけ!だから、ファンクラブー?とかそういうのはあまり気にしてないかな!それでみんなといざこざになっても困るしね!」
そう彼女から聞いた。自分は仲良くなりたいだけという彼女の思いは少しずつ叶っている事を私は知っている。その気持ちがあるなら大丈夫だと私は思う。
そんな彼女とは幼馴染ということもあり、とても仲良くしてもらっている。
「おはよう、夏海」
「おっはよー!」
軽い挨拶を交わし、いつも明るい彼女と私は同じ速度で歩きつつ、学校へと向かう。
そんな道中で二人は部活動の話を始めた。
「今日は部活あるかな?」
「あるよ!?部長が今日は集まるって連絡来てた!見てないの?」
「うん、最近忙しくてね」
「そうなんだ。大変だね!」
私は部活動をしている。部活動の名前はオカルト研究部。部活といってもいわば同好会のようなものだ。部活の内容は、その名の通りオカルトだとか、超常現象だとかそういうことを調べたりする部活だ。
そう言う話を信じているというわけではないが、夏海に誘われてこの部活に入ることにした。
夏海はそういった話が好きでいつも驚きを求めているらしい。初めは誘われたことがきっかけだったこともあり、どうせ誰も来ないような部活だろうと思っていた。しかし実際はそんなことは全くなかった。
部員たちはとても真面目に部活動に取り組んでいたのだ。
しかしほとんど何を言っているのか分からなかった。UMAなどを知らない私は困っていたものの、夏海の声もあってとりあえず部活にいることにした。
そして今はこの部活が楽しい。明るく、優しい人部員ばかりで私はすぐに馴染めた。それに話がとても面白かった。何度聞いても飽きない部員たちの話にいつも耳が反応してしまう。
最近では怖い話ブームで部活があるときは怖い話を集まって話している。私も怖い話を探している、だからいい機会に最近、同じ時刻に起きるという話をしようと思っている。
「私、いい話見つけたんだ。ていうか体験した」
「ほ、本当に!?どういう話なのー?教えてよー」
教えて欲しそうな顔でこちらを見る夏海には悪いと思いながらも軽い口調で今は断った。
「今は秘密。怖いっていうわけじゃないけどただ私が最近体験してる不思議な話」
「むむむ、気になる…んー!気になるよー!」
ムスッとなる彼女に私は笑みを浮かべる。
「部活になるまでのお楽しみ」
「わかってるよぉ~」
笑顔の彼女とそんな会話を楽しんでいると学校へと到着する。
「もう学校ついてたじゃん!」
「ここにくる前から学校は見えてたよ……」
「そーだっけー?」
本当に気づいていなかったらしい彼女と共に靴箱で靴を履き替えた後同じ教室へと向かった。
「みんなおはよー!」
大きく、元気な挨拶をクラスメイトにしていく。そんな彼女をほっておき、私は自分の席へと座り、今日の授業の予習ををするべく準備に取り掛かる。
クラスメイトたちは夏海が来るなりガヤガヤとざわつき出している。やはり夏海が来たから男子たちも話そうと一生懸命みたいだ。ほかの女子のクラスメイトたちも夏海に話しかけている。人気者はやはり違うな。
まぁ私はどんな場所でも勉強に支障はきたさないため、別に構わない。
とりあえず、ノートと教科書を広げて予習を始めた。
妖花は頭がいい方ではある。順位は上から数えた方が早く、友人に勉強を教えることもしょっちゅうだ。それはこうしていつも勉強をしているおかげで周りからは天才などと言われたりすることもあるがそれは違う。妖花はただの努力家なのだ。
努力を惜しまず頑張り続けた結果だと思っている。友達との関係も大事だがそれ以上に自分の将来のための勉強をしている。父や母に楽させたいという思いで勉強をしている、それが彼女が勉強する理由だ。
少し時間が経つと先生が教室へとやってきて、その直後チャイムが鳴った。
どうやらもうそろそろ朝のホームルームが始まるらしい。
そしてクラスは静まり返り、先生の声が話を始めていた。
そんな中私は勉強をしていた。先生の話に一応耳を向けつつ勉強に励んだ。すると先生の大きな声が聞こえる。
「おい」
「きいてるのか?」
私はその間も勉強を続けていた。
「おい、聞いているのか?」
誰のことだろう、まさか私?な訳ないよな…
そう思い顔を上げた時私の前に教師が立っていた。
「千子!聞いているのか!」
「え?」
「やっと、気づいたか。勉強をするのはいいことだが人の話はちゃんと聞け!」
「すみません…」
私の悪いところだ。集中してしまうと他のことが疎かになってしまうことがよくある。
「あぁ、気をつけろ!」
「は、はい……」
もちろん、先生の話は聞いている。聞いていないと思われても仕方がないが、私は人の話はちゃんと聞いている。こんなことを言っても仕方ないが私はこれでも人の話をよく聞くタイプだと自負している。
これは単純に他のことに集中していても、喋っている声が耳に入ってくるのだ。どんなことをしていても、人の喋っている声だけは聞き取れる。
過去からの悔やみからなのか女がそういう生き物なのか、私的感覚ではどうも言えないが、人の話はどういうことをしていても耳に入ってくるのだ。
これは一人ではなくても当てはまる。聖徳太子が10人の話を一気に耳に入れ理解できるように私も10人とまではいかないが最低五人が一気に喋っても聞き取れる耳をしている。
これは私の特技なのかもしれない、だからこそ誰かの話を聞かなかったことは一度もない。
そして、聞こえないはずの声も聞こえてくる。
つまり、端的に言うと千子妖花は耳が良いということだ。
「ねぇ、また注意されてたねー」
ホームルームが終わりすぐに私の方へとやってきた夏海にちょっかいを出される。
「うん、まぁ話は聞いてたんだけどね」
「でも、聞く態度はちゃんとしなきゃダメだよ!」
夏海に言われると私は頭が下がってしまう。
たしかに、聞く態度は悪かったと反省している。
まぁたしかに悪いことなのでそろそろ真面目に聞くことにしようと思った。そう思い立つのが遅いなと夏海からも言われた。
「うん、分かってるよ」
こんな私がクラスで浮いていないのも全て夏海のおかげなのだから。
「本当にー!?」
「うん、今度からは気をつけるよ。でもまたやってたらつぎは夏海が注意してね。そしたら私は話を聞くかも。」
「それもうちゃんとした態度で話聞く気ないじゃんー!」
ツッコミを入れられ、二人で笑っているとガラッとドアが開く。
皆の目線が一斉に注がれる。すると、ドアから黒髪の美少女が姿を現した。
「おはよう」
教室に入ってきたのは可憐な少女だった。黒のフードをかぶりポケットに手を入れたまま通学用のカバンをリュックサックのように背負っている。
少女は先生の前を素通りする。すると、先生が彼女に怒鳴る。
「おい、天野。お前遅刻だぞ!」
担任の怒号が教室内に響き渡る。
私達の担任はとても遅刻に厳しく、一度遅刻しただけでとても怒鳴ることで有名だ。
皆先生の怒鳴り声が嫌いなので彼女が来る前に
教室から逃げ出していた。
みんな逃げるの早いなと妖花は感心したものの、自分も教室の外に出ておくべきだったかなと思ってしまった。
結局教室に残っていたのは私たち2人と彼女と先生の4人のみだった。
時すでに遅しと思ったものの、友達が怒られている間で逃げるのもなんだか違うなと感じてその場にとどまった。
「私、また…遅刻してました?」
天野、そう呼ばれた少女は悪びれることなく先生に対してそう告げる。
「当たり前だ!!お前これで何度目だ!少しは遅刻しない努力をしろ!!!!!!」
先生の怒号が教室に響き渡る。
「そうですね、その通りだと思います。今度からは気をつけます。では私はこれで。」
そう言って彼女は先生の話をちゃんと聞かず、反省の色を見せないままこちらへと向かってくる。
「おい!まだ話は終わっていないぞ!!それに学校でフードを被るな!」
先生は彼女のフードを強引に脱がせる。
「あ…」
私と夏海は二人揃って呟いた。
フードを上げられた彼女は澄ました顔で先生を見つめる。フードを上げられた際に艶のある綺麗で柔らかな黒髪が姿を現し、その髪がゆっくりとなびく。
彼女の顔はとても綺麗な顔立ちをしていた。色白で綺麗な肌をしており、唇はぷっくりとした美しい桜唇をしており、こんなに綺麗な人がいるのかと会うたびに思わせてくれるような、そんな顔立ちをしていた。
「あの、次やったら退学でもなんでもしてください」
やる気のない声音だったがその言葉はとてつもなく重みがあった。
彼女の言葉を聞いていた私たち3人の背筋が凍り、一瞬金縛りにでもあったかのように体が硬直し、何も考えられなくなる。彼女の目には闇が写っており、なんとも殺気だっていた。
先生を見る目は光を失っており、感情のない目をしていた。
「い、いや、そこまでは思っていないぞ。遅刻をしないで欲しいだけだからな。」
そんな彼女の態度を見た先生の先程の勢いが途切れ、その目に見つめられた先生は怯えた顔立ちになる。
「もういいですか?」
もう一度彼女が喋った直後私の硬直が溶ける。それほどまでにあの目に恐怖を覚えた。
「あ、あぁ。こ、これからは気をつけるんだぞ………」
そう言った先生はゆっくりとした足取りで教室を出て行った。
彼女はその後すぐに私の隣の席へと着席する。
「お、おはよう…」
「おはよう、どうかした?」
先程の状況を見て驚くのも無理はないだろう。
「さっきのすごいなと思って…」
「ん?何が?」
この目で見られると私の心が何かに掴まれた感覚になってしまって心臓の鼓動が早まる。
「先生への態度だけど…」
「あぁ、怒られるのすごく嫌いだから先生を睨みつけてしまって悪かったとは思ってる」
目が先程と違い、光が戻りとても優しい目をしていた。
「怒られるってもう怒られたから意味ないじゃん…」
「たしかにそれは言えてるね」
2人でクスッと笑っていると隣にいた夏海が頬をぷくっとさせて怒っていた。
「なごみちゃーん!本当に遅刻はダメなんだぞー」
夏海がなごみに注意を入れる。
夏海は真面目な性格なのでなごみのことを許せないのだろう。
「うん、わかってる。最近、少しね」
と夏海の目を真っ直ぐ見て返事を返した。
天野なごみは私たち2人と同じ小学校に通っていた幼馴染だ。あまり語らない性格とこの容姿端麗な顔立ちから近寄りがたい存在となっているらしい。
よくあるのかはわからないが、彼女は学校の中や他校の生徒から『 冷徹の麗女』と呼ばれているそうだ。あの目を見たらどうもその呼び名が合っているように思ってしまう。しかしそんな彼女は根はとても優しい良い友達なのだ。
だが、あまり私たち以外と喋ろうとはしない。それがなぜなのかそれは彼女だけが知っていることだろう。
「最近、どうかした?」
妖花が心配そうな目で見るもなごみは「なんでもない」とあまり言いたそうにはしなかった。
何かあったとは思うが、本人が言いたそうにしないならと妖花は追及まではしなかった。
「みんなそろそろ戻って来る頃じゃないかな」
言葉通りクラスメイトたちは担任の怒号が聞こえなくなったことに気づき、教室へと戻ってきたみたいだ。人が戻って来るごとに教室がまた活気だっている。
これはいつもの光景だ。あの先生の声はうるさいのでみんなあまり好きではないみたいだ。
その原因であるなごみに対してはみんな良い感じに優しく振舞っている。やはり美少女の彼女を嫌いにはなれないのだろう。
「夏海の言うとおりよ、なごみ。あまり先生を困らせるべきじゃない」
「2人から言われると、流石に反省する」
そう言って、笑みを浮かべてこちらを向く。
すると夏海から「妖花もだよ!」と言われて確かにその通りだと思い、落ち込むとそれを見てなごみが少し笑った。
「ふふっ。妖花と私は気をつけないとまた放課後に職員室に呼ばれてしまうから」
「もう、呼び出しは困るかな」
と2人で苦笑した。
そんな私たちを楽しげな表情で見ている夏海が口を開く。
「それよりさ!明日からゴールデンウイークだよー!?遊ぶ約束とかしようよー!!!」
彼女がその事を口に発すると男子がこちらを向き、ヒソヒソと何か話している。
「そ、そうだね…」
私は少しばかりここで話をするのは気乗りしなかった。なぜならなんせこの二人は容姿端麗の美少女。そんな人たちと一緒に遊びたいと思う人は少なくないはず。
「ねぇ、声が大きい」
すぐに釘をさしたのはなごみだった。
なごみは私たちとしか遊ばないのでほかの人に聞かれるのは困るらしい。
「遊ぶなら3人、それ以外なら私は遊ばない」
目が怖い、なごみの目が本気だと言うことがわかる。
「わ、分かってるよー!じゃあ3人でどこ遊びに行くか決めようよー!」
と夏海が発した直後だった。
「ねぇ、獅子田さん。クラスみんなで遊ぶのはどう?」
そう言ってきたのはクラスの男子の中心人物である野坂晶馬だった。
野坂が来るなりなごみが嫌な顔をしながら夏海を見る。
「まだ二年生が始まって1ヶ月ぐらいしか経ってないし、クラスのみんなの親交を深めるのにいい機会だと思うんだ」
笑顔でそう答える野坂に夏海はすぐにその返事を返す。
「え!いいねー!じゃあみんなで…ぇぇぇいたぁぁぁ!」
とすぐになごみが夏海の頰を思いっきり引っ張っていた。頰が餅のように伸びていて、見ているだけで痛々しかった。
「私の話聴いてた?わ・た・し・の・は・な・し!」
なごみさんはお怒りのようだ。なごみは夏海の頰をつねったまま教室を出て行った。
それに私もついていく形で二人を追いかける。そんな私たちを野坂はぽけーっとした顔でこちらを見ていたのだった。
「い、痛いってーー!」
廊下をそんな形で歩き、ほかの生徒の目が少しきになる。
そんなことを気にせずすぐにトイレに入っていく。
女子トイレに入りやっとなごみはその手を頬から離した。夏海はつねられた頰は赤みが増していてその頰を夏海はゆっくりとさすっていた。
「い、痛かったぁー。なごみちゃん何するのさー!」
「何するも何も夏海がさっきのは悪いのよ?私は言ったでしょ、3人で遊びたいって。」
「で、でも…みんなで遊んだ方が楽しいと思って…」
夏海は涙目になっていた。私はなごみをカバーする形で囁いた。
「夏海、なごみは今回は3人で遊びたかったんだよ?最近3人で遊んでないから」
そう言うと夏海はすぐになごみに謝った。
「そっか、ごめんね。久しぶりに遊べるからはしゃいじゃった。でも一日は3人で遊んで、そのあとはみんなで…」
みんなと言う言葉を発した直後私となごみは同じ言葉を夏海に向けていった。
『却下!!!』
「えぇー、どうしてー!?」
夏海がそう言うので私が優しく教えてあげる。
「あのね、私やなごみはあまり大人数で遊ぶのが好きじゃないんだよ。だから夏海は遊んでくるといいよ!私はいいからさ。」
「同意見ね。」
なごみも私に賛成のようだ。
分かってるねとなごみは私にアイコンタクトを取っている。
「わ、分かったよぉー。じゃあ3人でどこ行こっかー?」
行きたい場所…どこがいいのだろう。たまには家で遊んでもと思っているとなごみが口を開く。
「服…」
「ん?なに?」
「服…買ってみたい。服を買ってみたいんだけど。」
なごみは少し恥ずかしそうな顔で呟いた。
「いいんじゃないかな?夏海は?」
「私も賛成だよー!」
そうして私たちは服を買いに行くことになった。なぜなごみが服を買いに行きたいのかと言う疑問に対しては私と夏海は聞かなかった。なごみがどういう家に生まれ、どういう人生を歩んできたのか少しではあるが知っていたからだ。
なごみの家はすごく厳しい家なので遊ぶだけでも一苦労ということを。
そんなことをしていると授業の始まるチャイムが鳴り、私たちは教室へと戻った。
「今日も終わって明日からゴールデンウイークだねー!」
時が経ち、6時間目の授業が終わり、皆一斉に教室を出ていく中で私となごみと夏海は3人で集まって話をしていた。
「2人は部活まだなの?」
「うん、あと少しで始まるけど大丈夫かな。」
「うんー!大丈夫ー!」
3人で話をしているとまた野坂がこちらへ話しかけてくる。
「あのさー、今日のことだけど一緒に…」
「ごめんー!野坂くんには悪いんだけどみんなでって言うのはなしでー!」
夏海はすぐに遊びにいく約束を断った。
それはとても私たちにとっては意外だった。
「そ、そっか…わかった。でもクラスで遊ぶ約束は立ててるからよかったらきてね。あと連絡先良かったら教えてよ!」
野坂はそれが狙いだったらしい。おそらくだが、野坂は夏海が好きなのだろうと思っていると夏海は野坂の話を断った。
「うーん。私は家に携帯あるからごめんー!」
そう言って夏海は連絡の交換を断った。私は少し驚いた表情をしている中でなごみはその2人のやりとりをしているさなか1人そっぽを向いていた。
「あのー、2人はどうかな?」
「私はいい。携帯持ってないし。」
なごみはすっぱりと言い放った。と言うよりも事実なのでなんとも言えない。
「持ってるんだけどこの通り、電池切れで…」
私はとっさの判断で携帯のバッテリー抜き、なんとかこの場をしのいだ。
「そ、そっか…それじゃあ良いゴールデンウイークを!!!」
そう言って笑顔で野坂は教室を出ていったのだった。
「本当にそういうところ尊敬する」
なごみは私を見るなり言い放った。私はなんのことだろうと首を少し傾げて答える。
「なんのこと?」
「いや、なんでもない。」
「そう…」
不思議な顔で私はなごみを見ていると夏海が口を開いた。
「あ!もう時間きてるよー!行こうー!」
そう言って部活に行く準備を始めた。そんな夏海に私は先程思った疑問を夏海にぶつける。
「そういえばなんであんなにすぐに遊びに行く約束を断ったの?」
夏海は準備をやめてこちらを向く。
「ん?何が?」
「いや、いつもならすぐに行く行くって言うのに今回は断ってたからさ、それが気になったの。」
そう私がいうと夏海は少し怪訝な顔をするとうーんと頭を抱えて唸る。
「ど、どしたの?」
心配するそぶりを見せる私に夏海は顔を上げてため息をつくと重くなった口を開いた。
「あのね、今回は2人と楽しみたいって思ったの!みんなと遊びたいって気持ちはもちろんあるけど今回は久しぶりに2人と遊べるからゴールデンウィーク2人と過ごしたいなって。あと2人となら思いっきり楽しめるし!だから野坂くんたちには悪いことしちゃったなって…」
「そっか…」
すると先程までの曇った顔を明るくして言い放った。
「でもね、みんなが嫌いとかじゃなくて本気で楽しめるのは2人っていう話。だから今度はクラスの人たちと遊ぼうかなって。2人も一緒に行かない?」
夏海も色々と考えているのだなと改めて実感したとともに本当に気を遣える良い子だなと思った。
「そっか、それは気を遣わせて悪いわね。そういうことなら一度くらいなら行っても…」
なごみは静かにそういった。そして妖花は笑顔で夏海の意見に賛成した。
「もちろんいいよ。夏海と遊びたいし、クラスの人と仲良くもしたいし、だから今度はクラスの人たちと遊ぶよ」
「うん!今度はみんなで!それよりさ、早くいこうよー、部活にさ!じゃないと遅れちゃうー。」
そう言って駆け足のポーズをとりながら私の準備を待っている。
「遊ぶのは明日でいいよね?」
私は準備を一旦とめて遊ぶ日の予定の提案を2人に伝える。
「私はそれで構わないよ。」
「私もー!いつでも大丈夫ー!」
2人から了承をもらうと私は深くうなづいて、部室へと向かう準備を改めて始める。
私はすぐに準備をすませると、なごみは私たちに手を振り、見送りをしてくれている。
「部活頑張って、私は今日教室に残ってやることあるからさ。」
「そう、わかった。じゃあまた明日ね!」
「まーた!明日ー!」
私と夏海はなごみにそう告げると駆け足で部室へと夏海とともに向かった。
教室にはなごみが1人残っていた。
一通り教室を見渡し、誰もいないこと確認して、自分の席の前に立った。
「やっと一人になれた…」
夕日が教室内を照らしオレンジ色の光が差し込む。机と椅子を照らした光は影となり、なごみもまたその光で影ができていた。
その影の形は人ではなく、鳥のような翼の生えた影だった。
「そろそろ始めようかな」
なごみは2人を見送ったあとそう呟いたのだった。
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