[完]異世界銭湯

三園 七詩

文字の大きさ
上 下
17 / 50

17

しおりを挟む
どうも真剣になると反抗していた事を忘れてしまうのか素直に頷いた事が微笑ましく思う。

「じゃあ服を全部脱いで入ろうか」

私がサッと脱ぐとリザちゃんはじっと私の裸を見つめている。

「ん?なに」

視線を見ると胸に向かっていた。

「別に…」

何も言わずに服を脱ぎ出す、私のささやかな胸に何か言いたくなったのかもしれない。

小さくてすまない。

ズーンと沈みながらも切り替えて浴室に向かった。

「床が濡れてると滑りやすいから気をつけてね」

「わぁ、広い!」

リザちゃんは広い洗い場をキョロキョロと見つめる。

「好きなところに座ってね」

「じゃあここ」

一番近くの鏡の前を指さした。
私は椅子と桶をふたつ持つとそこに置いてあげた。

「ここに座ってね、今使い方教えるよ」

「お風呂に椅子があるの!」

「そうだよ、桶にお湯を出すにはここを押すんだよ」

グッと蛇口の栓を押すと桶にお湯がでた。

「ここを押すのね!」

しかしリザちゃんが押しても固くてなかなか最後まで押せないでいた。

なので少し手伝って上から一緒に押してあげる。

「ちょっと固いから今度入る時はお母さんと押してね」

「お母様と?」

「そうだよ、銭湯は子供だけは入れないからね。必ずお母さんかお父さんと来てね」

「わかったわ」

リザちゃんはお母さんと一緒と聞いて嬉しそうに頷いた。

なんか反抗期と言うよりもお母さんやお父さんに構って欲しくてわがままを言っているのかもしれない。

本当は素直ないい子な気がしてきた。

「じゃあ体洗おっか、リザちゃんは一人で洗える?」

「1人で!?体って自分で洗うの?お手伝いの人は?」

キョロキョロと他に人がいないか確認しているがここにいるのは私とリザちゃんだけだった。

「自分で洗えないなら私が洗ってあげようか?」

私は自分専用のネットを取り出して石鹸を付けて泡立てて見せた。

「な、なにそれ!」

リザちゃんはモコモコと増える泡に夢中になる。

「よかったら1個あげるよ、まだあるからね」

「い、いいの?」

「うん、その代わりお願いがあるんだけど…」

「な、なに?ここを開けって言うならいらないわ。だってそれはちゃんと確認しないとだもの…」

そういいながらもチラチラと恨めしそうに泡立ちネットを見ていた。

「ふふ、そんな事じゃないよ。それはリザちゃんがちゃんと体験して決めていいよ。だって絶対に気に入る自信があるもの」

私は余裕をもって笑った。
それだけここの銭湯に誇りをもっている。

「ならお願いって何?」

「私の事、マキお姉ちゃんって呼んで!」

「お姉ちゃん?」

「そう!だってリザちゃんこんなに可愛いし妹欲しかったんだよねー」

「そ、そんな事でいいなら…お姉ちゃん、それくれる?」

リザちゃんはそっと手を差し出してネットを指さした。

「もちろん!」

私は喜んでそれをプレゼントした。

「あ、ありがとう」

「ちゃんとお礼を言えて偉いね」

私が頭を撫でるとびっくりしてサッと頭を逸らした。

「私を撫でたわね!」

「あれ、ダメだった?」

「私は領主の娘よ!そんな無礼は許されないんだから!」

「あぁ、なら大丈夫だよ。だってここは銭湯だもの、ここでは領主とか王様とかそんなの関係ないの裸になればみんな同じここでは平等なのよ」

「平等、それってなんかいいね」

リザちゃんはボソッとつぶやいた。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

聖なる幼女のお仕事、それは…

咲狛洋々
ファンタジー
とある聖皇国の聖女が、第二皇子と姿を消した。国王と皇太子達が国中を探したが見つからないまま、五年の歳月が過ぎた。魔人が現れ村を襲ったという報告を受けた王宮は、聖騎士団を差し向けるが、すでにその村は魔人に襲われ廃墟と化していた。  村の状況を調べていた聖騎士達はそこである亡骸を見つける事となる。それこそが皇子と聖女であった。長年探していた2人を連れ戻す事は叶わなかったが、そこである者を見つける。  それは皇子と聖女、二人の子供であった。聖女の力を受け継ぎ、高い魔力を持つその子供は、二人を襲った魔人の魔力に当てられ半魔になりかけている。聖魔力の高い師団長アルバートと副団長のハリィは2人で内密に魔力浄化をする事に。しかし、救出したその子の中には別の世界の人間の魂が宿りその肉体を生かしていた。  この世界とは全く異なる考え方に、常識に振り回される聖騎士達。そして次第に広がる魔神の脅威に国は脅かされて行く。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

【スキルコレクター】は異世界で平穏な日々を求める

シロ
ファンタジー
神の都合により異世界へ転生する事になったエノク。『スキルコレクター』というスキルでスキルは楽々獲得できレベルもマックスに。『解析眼』により相手のスキルもコピーできる。 メニューも徐々に開放されていき、できる事も増えていく。 しかし転生させた神への謎が深まっていき……?どういった結末を迎えるのかは、誰もわからない。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

異世界で俺はチーター

田中 歩
ファンタジー
とある高校に通う普通の高校生だが、クラスメイトからはバイトなどもせずゲームやアニメばかり見て学校以外ではあまり家から出ないため「ヒキニート」呼ばわりされている。 そんな彼が子供のころ入ったことがあるはずなのに思い出せない祖父の家の蔵に友達に話したのを機にもう一度入ってみることを決意する。 蔵に入って気がつくとそこは異世界だった?! しかも、おじさんや爺ちゃんも異世界に行ったことがあるらしい?

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...