[完]異世界銭湯

三園 七詩

文字の大きさ
上 下
8 / 50

8.

しおりを挟む
「ん!?なんかヌメヌメします…もしかしてスライムとかじゃないですよね」

ライリーさんが恐る恐るお父さんに確認来ている。

「スライムなんかつけませんよ」

お父さんが笑って否定するとライリーさんはホッとしながらもすぐに洗い流そうとしていた。

「髪に馴染ませたら同じように洗い流してください」

ジムさんも洗い流すと髪通りに驚いて顔をあげた。

「なんだ、髪がすごいサラサラしている」

「うーん、何回流してもヌメヌメが取れない」

ジムさんはリンスを気に入ったようで何度も髪の毛を手ですいていた。

反対にライリーさんはあまりお気に召さない様子で何度も何度も頭を洗い流している。

「なんかヌルヌルが取れない気がする」

そう言ってもう一度体を洗っていた。

2人とも綺麗になるといよいよ湯船に入ってもらう。

「湯が幾つかありますね」

ジムさんは三箇所に別れた浴槽をみてどれに入ろうかと悩んでいた。

「説明しますね、まずはこちらの一番広い浴槽が適温でその隣が少し高温になってます。最後に一番小さい浴槽は水風呂ですね」

「水風呂?水が入っているのか?」

ライリーさんが浴槽に手をつけて冷たさに驚いた。

「好きな人は高温の風呂で体を温めてゆっくりと水風呂に入るって人もいます。急激に入ると体に悪いので気をつけてくださいね」

二人はピンと来ないようで首を傾げながら頷いた。

「まぁまずは普通の温度で入ってください。特に入り方にルールはありませんがタオルや濡れた髪の毛を湯船につけると嫌がる人もいますので…」

ジムさんは自分の長い髪を束ねた。

「良かったらゴムをお使いください。番頭に言えば用意してありますから」

「ありがとう」

ジムさんはありがたく受け取り髪を結んだ。

「領主様!では入りましょう!」

ライリーさんは入りたくて仕方ないのかうずうずとしている。しかし領主様のジムさんよりも先に入る訳にはいかずに急かしていた。

「お湯は逃げませんからゆっくりとお浸かり下さい」

お父さんが笑いながら手を差し伸べた。

ジムさんはゆっくりと足から入っていく。

「ん?湯の中に階段が…」

ちょうどいい高さの足掛けに感心しながら湯に浸かり腰を下ろした。

「ふー……」

そして満足そうに息を吐く。

「ふふ、やはりお湯に浸かって出る声はどこも一緒なんですね」

そんな事が妙に嬉しかった。

「では失礼して俺も」

ライリーさんが少し離れてジムさんの隣に腰を下ろした。

「はぁー、気持ちいい…少し熱めのお湯が体にしみる」

ライリーさんは肩までしっかりとお湯に浸かった。

「確かに少し熱いですね。隣はここよりも熱いのか」

ジムさんが隣の高温と言われたお湯を見つめた。

「熱いお湯も意外と癖になりますよ。うちのじいさんはそっちじゃないと入った気がしないそうです」

「そうなんですか!」

ライリーさんは少し考えて立ち上がった。

「入ってみますか?」

お父さんの笑顔にライリーさんは楽しそうに返事を返す。

「あの方が気に入っているお湯なら是非とも体験したいです」

どうもボイラー室での手伝いでおじいちゃんとお父さんの評価がライリーさんの中でうなぎ登りのようだった。

ライリーさんは先程と同じように足を付けると…

「あちぃ!」

少し足をつけただけで飛び跳ねて湯から出てしまった。

「そんなに熱いのか?」

ジムさんも気になったのか隣の湯に入りながら高温の湯に手を伸ばした。

軽くお湯を撫でてみてすぐに手を引っ込めた。

「確かに熱いですね、彼はこの湯に入るのか…すごいな」

そんな事で感心している。

「さすがです。あの熱い炎の前で微動だにせず薪を入れているからかな」

ライリーさんはもう一度挑戦してみるがやはり足を少しつけるだけで精一杯のようだった。

「無理せず自分にあった入り方がいいですよ。私も最初は入れませんでしたからね」

お父さんが2人を慰めるようにそんなことを言った。

「あなたもこれに入れるのですか?」

「ええ、じっと波を立てずに入れば少しは大丈夫だと思いますよ。そこで熱くなったあと水風呂を浴びるとシャキッとするんですよ」

お父さんの説明にいつか入ってみたいもんだとジムさんもライリーさんもお湯を見つめた。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

黒き魔女の世界線旅行

天羽 尤
ファンタジー
少女と執事の男が交通事故に遭い、意識不明に。 しかし、この交通事故には裏があって… 現代世界に戻れなくなってしまった二人がパラレルワールドを渡り、現代世界へ戻るために右往左往する物語。 BLNLもあります。 主人公はポンコツ系チート少女ですが、性格に難ありです。 登場人物は随時更新しますのでネタバレ注意です。 ただいま第1章執筆中。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

魔法の日

myuu
ファンタジー
ある日世界に劇震が走った! 世界全体が揺れる程の大きな揺れが! そして、世界は激動の時代を迎える。 「あ、君たちの世界神変わっちゃったから。よろしく〜。ちなみに私は魔法神だから。魔法のある世界になるから。」 突如聞こえたのは、どこか軽い魔法神?とやらの声だった。

鬼退治

フッシー
ファンタジー
妖怪や鬼が現れる、ある時代の日本を舞台に、謎の少女「小春」と鬼との闘いを描いた和風ファンタジー小説です。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...