上 下
313 / 318
連載

374

しおりを挟む
「えっと…まずは明日多分王都からの使者が来てまたすぐに王都に帰ることになると思う」

「そうですか」

キャシーは頷く。

本来ならこんな自由な旅ができる身分ではなかった、そんな窮屈な毎日がまたすぐに戻ってくることに残念に思いながらも素直に了承する。

「では自由なのも今夜までですね」

少し寂しそうに笑うと

「ではロイ王子もゆっくり休んで下さい、明日からまた長旅になりますから…」

キャシーが扉に近づくと

「そう、自由にできるのも今夜だけなんだ…」

ロイは離れようとしたキャシーの手をギュッと掴んだ。

「向こうに帰ればこうやって軽々しく君の手も掴むことが出来なくなるかもしれない…もうこの温もりを知ってしまった今ではそんなの耐えられないんだ…」

ロイは真剣な顔でキャシーを見つめた。

そこにはいつも冗談で笑わせようとする笑顔出なく…熱い眼差しのただの自分を求める男がいた。

「ロイ…王子…」

「今夜だけは王子じゃなくただのロイと…君を好きな平凡な男として扱ってくれ…」

「ロ、ロイ…」

「そう…」

「それは…出来ません…」

近づいて来るロイの顔を背けてキャシーはそれを拒否する。

ロイはキャシーの拒絶に固まる、キャシーは少なからず自分に好意を持ってくれているのではないかと思っていたがそれは自分の思い違いだったのかもしれないと気がついた。

今まで好きでも無い相手に求められる事の多かった身としては、自分のこの行為はキャシーにとって嫌がらせになっているのかもしれない…

ロイはキャシーを掴んでいた手の力を緩めようとするとキャシーがじっと顔を覗き込んでいた。

「私は…王子としてのロイ様も…普段のカイル様達と楽しそうにするロイもどちらもお慕い申しあげています…だ、だからただのロイ様なんていないのです」

「キャ、キャシー!!」

ロイは嬉しそうにキャシーを抱きしめた!

「やっと言ってくれた…俺を好きだって…本当に?本当だよな!?」

「ふふ、はい…ロイ様の思いを知ってから…どんどん好きになってしまいました…まさか自分にこんな感情があるとは思いませんでした…」

キャシーの赤くなる頬を撫でながらロイはもう一つ気になっていた事を聞く。

「それは…ローズより好きって事でいいよね?」

「ローズより?」

キャシーの顔に疑問の表情が浮かぶ。

「君の中にはどうもローズがいる気がして…俺はローズに一生勝てないんじゃないかと…」

不安そうなロイ王子の顔にキャシーは驚くと…

えいっ!

キャシーは目をつぶって思い切ってロイの唇に向かって自分からキスをした。

「えっ?」

キャシーのキスは目をつぶった事で少しズレてロイの唇の端にあたった。

しかしキャシーはそんな事に気づかずに顔を真っ赤にして目をそらすと…

「こ、こんな事ローズにはしません…したいと思ったのは…ロイ王子だけです…」

恥ずかし気持ちを抑えてそういうが…ロイ王子からはなんの反応も返事も返ってこなかった。

キャシーは不安になってそっとロイの方を見ると…そこには顔を真っ赤にしたロイが口を覆い隠していた。

「王子?」

キャシーは不安になり伺うように声をかけると

「きゃあ!」

突然ロイはキャシーを抱き上げて広いベッドへと横たえた。

「ロ、ロイ王子?どうしたんですか!?」

キャシーが慌てて起き上がろうとすると、がっちりと両腕をベッドに押し付けられる。

「これは…キャシーが悪いからね…」

ロイはそういうとキャシーの小さな唇に自分の唇を重ねた、最初は軽く触れるだけ…しかしどんどんと強く深くなっていく。

「へ?ん?んん!んー!」

なんでと言いたいがロイ王子のキスで思考が定まらない。

二度目のキスはなんだか前よりも甘く感じた…

ロイ王子が最後まで味わうようにペロッと舐めてようやく唇を離すと力んでいた体が力が抜ける、ハァハァと苦しそうに息を吐くと、キャシーの横にドサッと倒れ込んだ。

「お、王子?大丈夫ですか?」

何故かロイの方が苦しそうでキャシーが心配する。

「無理…だいじょばない…」

ロイ王子は顔を隠して荒く息を吐いていた。

「そ、そんな!い、医者を呼びましょうか!?」

キャシーが離してと手を退かそうとするがロイ王子の繋いでいる片腕は力は強く身動きが取れない。

「無理…これは医者には治せないから…」

「そんな!」

キャシーが絶望的な顔をすると…

「治せるのはキャシーだけだよ…」

「え?わ、私ですか?」

「そう…ねぇお願い、王都に帰ったら結婚して…」

「え?結…婚?」

「そう、結婚…駄目?」

ロイ王子の甘えるような囁きにキャシーは背筋がゾクッとする。

「だ、駄目というか…それを決めるのは…私ではないかと…」

「俺はキャシーの言葉が聞きたい、嫌なら嫌と言ってくれ。王子の伴侶はそれなりにしんどいからね…」

ロイが少し悲しそうにすると…

「私は…あなたの隣にいたい…どうせなら一緒にしんどくなりましょう」

キャシーは何を今更そんなことをと笑った。

「ありがとう…」

ロイはキャシーに微笑むと…どちらからともなく近づいて誓うようなキスをした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。