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319.王都

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「あれ?クリスどうしたんだ?」

廊下に一人突っ立って手紙を見つめるクリスにレスター様の部屋に向かおうとしていたスティーブが声をかけた。

「た、大変だ…」

クリスはギュッと手紙を握りつぶした。

「えっ!」

そしてクリスの顔をみてぎょっとする…その顔はいつも穏やかなクリスからは想像もできないほど眉間にシワを寄せて渋い顔をしていた。

「僕がいない間に……」

クリスはスティーブがいることになど全然気が付かずにドスドスと足音を立ててレスター様のところに向かった!

「こ、こわ…あれって…クリスだよな…」

スティーブはあまりの衝撃に動けず一人廊下に佇んでいた。

バンッ!!

クリスはレスター様のところに来ると机をバンッと叩いてレスター様を見つめる。

「ク、クリス?どうしたんだい?」

さっきは領地からの手紙に顔を綻ばせて廊下に出たと思ったら今度は真逆の表情で戻ってきたのだ。

「レスター様…一週間…いや!三日休みを下さい!僕、領地に戻らないと行けないんです!」

「領地?タウンゼントにかい?」

「はい!」

鼻先が当たるほど近くに寄られる…あまりの迫力にスピアも言葉を失っていた。

「い、いいよ。クリスは頑張ってくれてるからね…たまにはゆっくり休んで来なさい。三日と言わず一週間行っておいで」

レスター様がそんな事かと苦笑すると…

「でも急ですね?タウンゼントで何かありましたか?そのような報告は受けておりませんが…」

スピアさんが書類を確認する。

「いえ!家の事情なので…」

「家…まさか!チャート達になにか!?」

レスターが旧友の心配をすると…

「いえ、父はどうでもいいです!それよりも…」

クリスはギリッと唇を噛んで言葉を飲み込んだ。

「ま、まぁ家の事情は人それぞれだからね。こっちは問題ないよ」

レスター様が書類に判を押すと休みの許可をくれた。

「ありがとうございます!今日中に仕事を片付けて明日にでも向かわせていただきます!」

クリスはそういうなり机にかじりつき凄まじい速さで仕事を片付けていった。


その頃キャシーは…

「はぁ…」

毎日の王妃になる為の勉強に疲れていた…

「なんですか?王族になろうともあろう方が肘をついてため息など!」

ついに休んでいるところまで注意されてしまった。

「申し訳ございません」

キャシーが佇まいを直すと…

「お邪魔するよ」

ロイ王子が部屋に顔を出した。

「まぁ王子、何か御用でしょうか?今キャシー様は王族としての振る舞いの勉強中ですよ」

「え?キャシーにそんなの必要ないでしょ?キャシーならちゃんとその時になればできるだけの教養は備わってるよ」

ロイが笑って言うと

「いえ!それは婚約者としてです!仮にもロイ王子の婚約者になる為にはもっと頑張らないといけないのです!」

教育係の先生が金切り声をあげると…

「ふーん…まぁそれは後で報告してもらうよ…今はキャシーと話があるから君は席を外して貰えるかな?」

ロイは文句を言わせない笑顔で先生を見つめた。

先生がそそくさと部屋を出るとロイとキャシーは二人きりになる。

「キャシー…大丈夫かい?」

ロイは心配そうに疲れているキャシーのそばに寄った。

「はい、大丈夫です…」

キャシーはロイから一歩離れて頭を下げる。

その姿にロイは不満そうにした。

「あの教育係はどうしたの?あんなの必要ないよね?いつからさ」

ロイが扉の方を睨みつけると…

「実家のアイリック家専属の教育係です…この度ロイ王子との婚約が決まって呼び付けたようです…」

フーっとため息をついた。

「嫌なら断ればいいのに…」

「でも…王妃になる為にやらなきゃ行けない事は確かにありますから…」

キャシーは疲れたように笑う…その顔にロイは心配になると…

「ねぇ、明日クリスが実家に帰るそうなんだよ。それで俺も視察がてらクリスについて行こうと思ってるんだけど…キャシーも来ないか?」

「えっ?私も…」

「ああ、ローズに会いたくないかい?」

「会いたいです!」

「なら決まり!早速用意して!あとあの教育係は俺の方から断っておくよ、もっとキャシーに合った人を用意しておくからね」

ロイはパチッとウインクするとそれだけ伝えて部屋を出ていった。

ローズに会える…

キャシーはそれだけで今までの疲れが嘘のように無くなるのを感じた!
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