貧乏領主の娘は王都でみんなを幸せにします

連載

242.宣誓

｢あ、…う…｣

ハルジオンは言葉が出てこない…違うと言いたいが体がそれを拒否するようだった。

大量の汗が流れ、呼吸が苦しくなる…

息が…

胸をギュッと握りしめると…その手を優しく掴むように手が上からそっと添えられた。

｢大丈夫です。ゆっくり息をしてください｣

クリスはハルジオンに寄り添うと安心させるように微笑んだ。

｢僕の顔を見て、他のものは見なくていいよ。僕の心臓おとをよく聞いて｣

ハルジオンの手をゆっくりと自分の胸に当てる。

｢この音に合わせて呼吸して…ゆっくり息を吸って…吐いて…｣

ハルジオンはクリスの声に合わせて呼吸する…ゆっくり規則正しく鳴る心音にハルジオンは落ち着きを取り戻した。

｢はぁ…あ、ありがとう…ございます｣

｢大丈夫？あんな事があったんだもん怖かったよね。でも大丈夫君を傷つける者には手出しはさせないよ。僕が約束するから｣

クリスはハルジオンに笑いかける。

｢クリス様…｣

ハルジオンはクリスを見つめると

｢あ、あなたはクリス！何故ここに？しかもなんでその女といるのよ！｣

ジュリアがハルジオンに寄り添うクリスに吠えた！

｢何故って僕が彼女を連れて来たからね。彼女を守ってあげるのは当然ですよ｣

クリスはハルジオンからジュリアが見えないように隠すと

｢怖いなら耳を塞いで自分がした事を話して…僕はずっとここにいるから｣

クリスはハルジオンの手を掴むとその手を耳へと持っていく。

ハルジオンは自分の耳を塞ぎクリスの顔を見ると…

｢私は…ジュリア様の命令でローズ様のお衣装を破りました…やりたくありませんでしたがしないとここではもちろん、他のところでも働けなくしてやると言われていて…母の事もあり私には抗う勇気がありませんでした…申し訳ございません。あのローズ様の衣装を見た時にあまりの美しさにビリビリにする事を躊躇い…どうにか破っていると、誰かが来る音に驚き逃げました。その後ローズ様が演舞を舞っている姿を見てその衣装を着ていたことに安堵と申し訳なさで…ジュリア様は私のした事にお怒りになり…その後の事はよく覚えておりません。気がついたら医務室で寝ておりダンテ先生に治療してもらい身を隠しておりました｣

ハルジオンは一気に喋ると息を吐いた…

ずっと抱えていた事を吐き出し身が軽くなった気がする。

｢衣装を破いたのは間違いなく私です。その罪は償います…ですが命令を下したのはジュリア様…いえジュリアです｣

ハルジオンは目を開くとジュリアを見つめた。

｢あの女…｣

ジュリアが歯を食いしばり睨みつけるがハルジオンはその視線から逃げることはなかった。

｢そう言っているが何か申し開きはあるか？｣

ロイがジュリアの視線を自分に戻させる。

｢伯爵令嬢の私とただの庶民のメイドとどちらの言葉を信じるのですか！？｣

｢もう君伯爵令嬢じゃないけどね、まぁだったとしても彼女を信じるよ。彼女は国王陛下に宣誓して言葉を発しているからね…君はどうだい？陛下に宣誓しても自分は何もしていないと言えるのかな？｣

ロイはジュリアを睨みつけた。