貧乏領主の娘は王都でみんなを幸せにします

連載

222.恐怖

クリスはスチュアートさんが壁に入ると、言われた通りに壁を閉じて形跡を消して部屋を出た。

扉の鍵も出来るだけ元の通りに戻しておき…レスター様とスピアさんの元に急いだ！

｢スピアさん！｣

クリスはノックも忘れてスピアの部屋に駆け込むと

｢こ、これを！｣

ボストンの部屋で見つけた書類を渡す。

｢クリス…今日は休みでしたよね？何をそんなに慌てて…｣

スピアさんはため息をつくとクリスの差し出した書類に目を通す…するとみるみると顔つきが変わった…

｢これを何処で…｣

キッとクリスを睨みつけると…

｢ボ、ボストン大臣の部屋で…｣

クリスは顔を逸らした。

バチンッ！

スピアはクリスの頬を叩き付ける！

クリスは驚いて叩かれた頬を抑えてスピアさんを見つめる。

｢なぜそんな危ない真似を！あなたに何かあったらどうすのです！この件は何もするなと言ったでしょが！｣

スピアさんの本気で怒っている姿にクリスは頭を下げる。

｢勝手な行動をした事は謝ります…すみませんでした。でも僕だってレスター様やスピアさんがここから居なくなるのを指をくわえて見てなんかいられません！それに…これは僕の問題でもあります！｣

クリスはスピアを見つめると、姉のローズが行方不明になっている事を伝える。

｢ですからこの行為を僕は恥じるつもりはありません！｣

｢馬鹿野郎…｣

スピアはクリスを見るとドサッと椅子に座り込んだ…

｢いいか、この事は私がやった事にする…お前は知らぬ存ぜぬを通すんだ｣

｢嫌です。それにスチュアートさんも関わってますからね｣

｢スチュアートさんが！？｣

スピアの背筋がピンと伸びる。

｢はい、お二人でどうにかしようとしてる事を僕、スチュアートさんに相談したんです。スチュアートさんお二人の事すごく怒ってましたよ…｣

クリスがニヤッと笑うと

｢ですからもう関係ないなんて言わないで下さいね！それよりも急ぎましょう！早くレスター様に｣

｢うー…色々あり過ぎて頭がパンクしそうだ！｣

スピアはガっー！と整った髪の毛をかき乱すと…スクッと立ち上がる！

｢よし、もうとことん付き合え！レスター様の元に向かう！｣

｢はい！｣

クリスはニコッと笑うと

｢あと一つ…頼みがある｣

スピアさんが駆け出しながらクリスに深刻そうに話しかけると…

｢な、なんでしょう…｣

クリスはゴクッと唾を飲み込む。

｢このあとの事だが…スチュアートさんが笑って指を鳴らし出したら、どうにかして俺達を助けてくれ…｣

｢はっ？｣

どんな深刻なことかと覚悟していたクリスは転びそうになると

｢頼むぞ！これだけは忘れるなよ！｣

そう言うスピアさんの顔は真剣そのものだった…