貧乏領主の娘は王都でみんなを幸せにします

連載

221.スチュアートとクリス

その頃大臣の周りを張っていたスチュアートとクリスは、大臣の部屋の前にいた…

｢全然出てきませんね…｣

クリスが歯がゆく思っていると、大臣の部屋に従者が駆け込んできた、何か動き出しそうな雰囲気にスチュアートとクリスはいつでも動ける様に準備していると…

従者とボストン大臣が部屋から出てきた…周りを伺うようにしながら外に出ると…スチュアート達とは反対方向に歩き出す。

｢追いますか？｣

クリスがスチュアートさんに聞くと…スチュアートはじっと出てきたボストンを見つめる。

動かないスチュアートにボストンはどんどんと離れていくとクリスが焦り出す。

｢ス、スチュアートさん…｣

クリスが声をかけると

｢クリスさんは人の足音の違いも分かりますか？｣

急にそんな事を言い出す…

｢は、はい。多少なら…｣

クリスが頷くと

｢あのボストン大臣はどうでしょう？同じ足音を立ててますか？｣

｢えっ？｣

クリスはボストン大臣を見ると…

｢すみません…ちょっと近づいて来ます！｣

ボストン大臣達の前に先回りして足音に集中して隠れて様子を見ていると…

｢違う！｣

クリスは急いでスチュアートの元に戻った！

｢スチュアートさん！あれボストン大臣では無いです！すごく似ていますが微妙に左足が出る時のリズムが違いました！｣

｢やはりそうですか…出てきた時に違和感を感じました。あれは影でしょう…本人は…｣

部屋をじっと見つめると、スチュアートはおもむろに扉の前に立つ。

クリスは何をするのかと様子を見ていると…

トントンと部屋をノックした。

｢えー！｣

クリスは驚いてスチュアートさんに駆け寄ると

｢クリスさん中から音はしますか？｣

｢あっ…はい！｣

クリスは扉に耳をつけると目を閉じて耳を澄ませる。

中からは人がいるような音は聞こえなかった。

｢居ません！｣

クリスの言葉にスチュアートはドアノブに手をかけるとガチャ…鍵がかかっている。

重厚な扉は開きそうに無かった…

ガキン！

すると何かが壊れる音にクリスが驚いてスチュアートさんを見ると

｢開きました｣

スチュアートさんがニコッと笑ってドアノブを回した…

壊れたドアノブをそっと戻して中に忍び混むと、スチュアートさんは手馴れた様子で書類を物色する。

｢クリスさんは向こうの本棚の何か仕掛けがないか見てください。物を動かしながら不自然な音などありましたら報告お願いします｣

｢は、はい｣

クリスは言われた通りに本棚を調べると…カタッ…何かがズレる音がした。

本をずらして確認すると仕事関連の書物の中に一つ物語の本が奥に隠れていた。

一見すると何と見落としてしまいそうなその本を掴むとスチュアートさんに持っていく。

スチュアートさんはその本を受け取ると興味深そうに見つめるとニヤリと笑った。

｢これは…とても面白い事が書いてありますね…｣

スチュアートさんがパラパラ…と書類をめくっていると…

｢スチュアートさん！｣

すると部屋を調べていたクリスが声をかける。

スチュアートは触った場所を全くの元通りに戻すとクリスが持ってきた本を持ってクリスの元に向かった。

｢見てください！｣

クリスは壁を指さすと…コンコンと叩く。

場所をずらして行くと音が変わる場所があった。

｢なんか外から風の音がして…気になって叩いたら…｣

スチュアートさんは周りの壁を触ると…何か引っかかりを見つける。

ガチャッ…と引くと隠し扉が開いた。

｢やはりあれは誘導で、本人はここから移動したのでしょう…｣

｢スチュアートさん！行きましょう、姉さんがこの先にいるかも！｣

｢そうですね…私が向かいます。ですがクリスさんはこの本を持ってレスター様に渡してください｣

｢そんな…僕がいては邪魔ですか？｣

クリスが伺うようにスチュアートさんに聞くと

｢いえ、そんな事はありませんが…やはりローズ様はクリス様にそんな所に来られることを望まないと思います｣

スチュアートの言葉にハッとすると

｢わかりました…スチュアートさん。姉をよろしくお願い致します｣

クリスは深々と頭を下げた…