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129.ジュリアのお茶会2※

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なんだってそんな物を頼むのよ!

ジュリアは聞いていた内容と違うことに苛立ちギリッと歯を噛み締めた。

ジュリアは自分より前にお茶会をした令嬢からお茶会の内容を聞きだしていて、フリード様が必ず甘くないお菓子をリクエストする事を事前に知っていた。

だから甘くないお菓子を用意しておいたのに!  この事を黙ってるなんて覚えてなさいよ。

この事を教えなかった令嬢をどうしてやろうかと考えているとメイドが出来たてのお菓子を持ってきた。

シェフ達が大急ぎて作ったようだ。

ジュリアは胸を撫で下ろして早く運ぶように指示を出した。

「お待たせしました」

従者達が運んで来たものをお客様の前へと置いていく、それは素朴で飾りっけのない、ただのクッキーだった。

「まぁ……これが?」

他の煌びやかなお菓子と並ぶとだいぶ目劣りする。

先程までジュリアを褒めていた婦人達も口元を隠して笑いながらコソコソと話している。

ジュリアは馬鹿にされたとわなわなと拳を震わせた。

「も、申し訳ございません……時間が足りなく今日は作れませんでした。ですので後日改めてご用意させてください……」

ジュリアが怒りで震えながらようやく声を出すと頭を下げた。

「いや、こちらで大丈夫だよ。頂こうかな」

フリード様が早速とクッキーに手を伸ばすのを見て慌てて止める。

美味しいものと言われたのにそんなものを出したら減点になってしまう!

「いえ!  フリード様に召し上がっていただけるような物ではございません。あなた、すぐに下げなさい!」

ジュリアが運んできたメイドを睨みつけると真っ青な顔でクッキーを下げた。

「そうかい?  とても美味しそうに見えるけどねぇ」

フリード様がボソッと言うが興奮しているジュリアには聞こえていなかった。

「お時間です。お茶会を終了してください」

するとちょうどいいタイミングで大臣がお茶会終了の時間を知らせにきた。

ジュリアは大臣の顔を見てホッとすると改めて顔を作った。

「皆様、本日は誠にありがとうございました。次は審査でなく本当のお茶会にお越しください。皆様なら何時でも歓迎致しますわ」

そう言って優雅に笑って最後を締めくくった。


フリード様は帰り際に従者に声をかけてあのシンプルなクッキーを取ってきてもらっていた。

部屋を出るとそれを見ていたロイ王子がおじい様であるフリードに声をかけた。

「どうなさったのですか?」

「ああちょっと気になってね。ロイも食べて見るかい?」

フリード様がクッキーを渡してくる。
まるでローズが作ったような手作りの素朴なクッキーに「いただきます」と一枚もらう。

サックッと軽い音を立て、ほのかな甘みが口いっぱいに広がる。

「んっ、美味しいです。シンプルですがよく出来てる、それに懐かしい味がします」

もう一枚もう一枚と食べたくなる味だった。

「あの子は気をあせり過ぎたね。これを出していればお茶会は申し分なかったのに」

勿体ないと笑いながらクッキーを頬張る。

「では彼女は候補から?」

ロイ王子が聞くとフリード様は笑って首を横に振った。

「いや、ただのお茶会としては問題ないから合格だろう。心がこもっていなくてもね」

フリード様の含みの持った言い方にロイ王子は何となくわかると笑った。

「そうですね、僕としても友の敵の為にも合格にしておいて欲しいです」

ギリッと唇を噛むとジュリア嬢のいる部屋を睨みつけた。

ロイ王子の様子にフリード様は心配そうに声をかける。

「カイル君の具合はどうだい?」

「はい、カイルは薬も抜けてもう大丈夫そうですが今回のお茶会には欠席させました。また何かを入れられたらかないませんからね」

冗談を交える余裕はあるようだが内心は怒っている感じが伝わってくる。

「友の為にも怒るのはいいが、応じたるもの常に冷静でいるんだよ」

フリード様は笑うと、ご自分の部屋へと歩き出す。

「ふー長かったお茶会も次が最後だね」

その言葉に不機嫌だったロイ王子も表情を和らげた。

「やっと次は楽しめるお茶会が出来ますよ。お爺様も楽しみにしていて下さい」

ロイ王子の嬉しそうに笑う姿にフリード様はおやっと顔を覗き込む。

「まるで恋するような顔だね。ロイ、人前でそんな顔は不味いだろう、気をつけなさい」

注意されてロイ王子は思わず口元を手で覆った。

「こ、これは違います。ただ友として嬉しいだけです」

慌てて否定するがフリード様はわかったわかったと笑って頷くだけだった。

「まぁ楽しみにしてるよ」

フリード様は慌てふためくロイ王子を残して部屋へと戻って行った。
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