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124.不快※
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俺はリプスにローズを任せた後、イライラを抑えきれずに足音をたてながら医務室に戻ってきた。
ガラガラと乱暴に扉を開くと部屋ではジュリア嬢がベッドで寝ながら待っていた。
「カイル様!」
そして俺の顔を見るなりガバッと起き上がる。
その様子に足が痛いようには到底思えなかった。
「何か用があると聞きましたが……」
笑顔を向けられても微笑む気にもなれずに真顔で問いかける。
「それがやっぱり足がまだ痛くて、申し訳ありませんが部屋まで手を貸して頂きたくて……」
「そんなに悪いなら回復薬をかけたらどうですか?」
医師のダンテを見ると困った様に肩をあげて呆れたように首を振っている。
何があったのかと先生の話を聞こうと近づくと慌てた様子でジュリアが声をかけてきた。
「貴重な薬を使わせる訳には行きませんからお断りしたのです。部屋で休めばすぐによくなりますから」
ジュリアが遮って来るように目を湿らせて見つめてくる。
「はぁ……わかりました。じゃ君反対側を抱えてくれ」
近くにいた従者に声をかけて指示をだす。
「い、いえ私は……」
怯えたような顔でジュリアの方を見ながら断ってきた。
「二人の方が安定しますし、自分の主人が怪我をしているのに何もしないつもりですか?」
そんなそばにいるだけの約立たずならいない方がましだと睨みつける。
「ジュ、ジュリア様……」
従者は困った様にジュリアに助けを求めた。
「あなたも手伝いなさい。カイル様一人に頼む訳にもいきません」
苦々しい顔をしながら無理に笑顔を作っている。
「では行きます」
ジュリアを支えながら部屋へと連れていった。
極力体に触れないように支えるが、何も無いところでよろめいたり、つまづいたりしてその度に体にしがみついてくる。
歩きにくくて仕方なく嫌がらせに不快感しか沸いてこなかった。
ほんの数分だったが、俺には何時間にも感じてようやく部屋に着く頃にはどっと疲れてしまっていた。
「では……」
早く帰ろうとジュリアの手を離すと後は従者に任せようとした。
しかしジュリアはギュッと服を掴んで離さない。
「カイル様、どうか部屋までお願いします」
ジュリアの言葉に従者はパッと手を離して部屋の扉を開きに行ってしまう。
「カイル様どうぞ!」
メイドは中へと案内するように俺達を部屋へと押し込んだ。
「お礼にお茶を飲んでいって下さい」
ジュリアはゆったりと豪華な椅子に座ると偉そうに指示を出す。
この数時間で何度目かもわからないため息をついた。
嫌がっていることが通じないのか話が出来ない人を相手にするのがこんなにも疲れるとは……
もうサッサと相手の要件を聞いてこの部屋から出ていくことだけを考える。
「では一杯だけ。でも仕事もありますのでそれで失礼させて下さい」
もう最後だと強めの口調で言うと従者達がたじろいだ。
ジュリアはそんな従者達に何か耳打ちすると一瞬顔を強ばらせ、下がっていった。
「カイル様、そんな隅で立っていないで座って下さいませ」
ジュリアが少し端に避けて隣の席を進めてくる。
「結構だ」
ジュリアから離れた場所で立って待っていると、メイドがお茶を持って現れた。
二つのカップにお菓子も数種類持ってくるとテーブルに並べる。
「カイル様、お茶を飲む時くらい座って頂けませんか?」
ジュリアが苦笑しながら並ばれたお菓子を見つめる。
さすがに失礼な態度過ぎるかと思い仕方なく席に座った。
ジュリアから少しズレた位置の前の席に座るとわざわざ俺の前へと移動してきて目の前に腰掛けた。
「カイル様どうぞ、このお菓子は私の手作りなんです」
誇らしげにそういうので、手作りだと言う菓子を見つめるが、ローズが作った物とは違ってまるで売り物の様な精巧な作りのケーキだった。
「これを手作りねぇ、一体何で出来ているのですか? 材料は何を使ってるんです?」
俺は手をつける事無く説明を求めた。
「えっ、えっと……確か白い粉に、水と……そう砂糖! それにクリームだったかしら」
ジュリアがしどろもどろに答えながらメイドに同意を求めている。
「そうですか、材料も分からないのにこんな素晴らしい物が作れるとはすごいですね。しかし申し訳ない素材がわからないものを食すのは禁止されていますのでお茶だけで失礼します」
そういうとお茶を一気に飲み干した。
「ご馳走様、では失礼」
俺はお茶を飲み干すなり立ち上がるとお礼を言った。
そして唖然としているジュリア達をフンッと鼻で笑うと呼び止められる前に部屋を出ていった。
ガラガラと乱暴に扉を開くと部屋ではジュリア嬢がベッドで寝ながら待っていた。
「カイル様!」
そして俺の顔を見るなりガバッと起き上がる。
その様子に足が痛いようには到底思えなかった。
「何か用があると聞きましたが……」
笑顔を向けられても微笑む気にもなれずに真顔で問いかける。
「それがやっぱり足がまだ痛くて、申し訳ありませんが部屋まで手を貸して頂きたくて……」
「そんなに悪いなら回復薬をかけたらどうですか?」
医師のダンテを見ると困った様に肩をあげて呆れたように首を振っている。
何があったのかと先生の話を聞こうと近づくと慌てた様子でジュリアが声をかけてきた。
「貴重な薬を使わせる訳には行きませんからお断りしたのです。部屋で休めばすぐによくなりますから」
ジュリアが遮って来るように目を湿らせて見つめてくる。
「はぁ……わかりました。じゃ君反対側を抱えてくれ」
近くにいた従者に声をかけて指示をだす。
「い、いえ私は……」
怯えたような顔でジュリアの方を見ながら断ってきた。
「二人の方が安定しますし、自分の主人が怪我をしているのに何もしないつもりですか?」
そんなそばにいるだけの約立たずならいない方がましだと睨みつける。
「ジュ、ジュリア様……」
従者は困った様にジュリアに助けを求めた。
「あなたも手伝いなさい。カイル様一人に頼む訳にもいきません」
苦々しい顔をしながら無理に笑顔を作っている。
「では行きます」
ジュリアを支えながら部屋へと連れていった。
極力体に触れないように支えるが、何も無いところでよろめいたり、つまづいたりしてその度に体にしがみついてくる。
歩きにくくて仕方なく嫌がらせに不快感しか沸いてこなかった。
ほんの数分だったが、俺には何時間にも感じてようやく部屋に着く頃にはどっと疲れてしまっていた。
「では……」
早く帰ろうとジュリアの手を離すと後は従者に任せようとした。
しかしジュリアはギュッと服を掴んで離さない。
「カイル様、どうか部屋までお願いします」
ジュリアの言葉に従者はパッと手を離して部屋の扉を開きに行ってしまう。
「カイル様どうぞ!」
メイドは中へと案内するように俺達を部屋へと押し込んだ。
「お礼にお茶を飲んでいって下さい」
ジュリアはゆったりと豪華な椅子に座ると偉そうに指示を出す。
この数時間で何度目かもわからないため息をついた。
嫌がっていることが通じないのか話が出来ない人を相手にするのがこんなにも疲れるとは……
もうサッサと相手の要件を聞いてこの部屋から出ていくことだけを考える。
「では一杯だけ。でも仕事もありますのでそれで失礼させて下さい」
もう最後だと強めの口調で言うと従者達がたじろいだ。
ジュリアはそんな従者達に何か耳打ちすると一瞬顔を強ばらせ、下がっていった。
「カイル様、そんな隅で立っていないで座って下さいませ」
ジュリアが少し端に避けて隣の席を進めてくる。
「結構だ」
ジュリアから離れた場所で立って待っていると、メイドがお茶を持って現れた。
二つのカップにお菓子も数種類持ってくるとテーブルに並べる。
「カイル様、お茶を飲む時くらい座って頂けませんか?」
ジュリアが苦笑しながら並ばれたお菓子を見つめる。
さすがに失礼な態度過ぎるかと思い仕方なく席に座った。
ジュリアから少しズレた位置の前の席に座るとわざわざ俺の前へと移動してきて目の前に腰掛けた。
「カイル様どうぞ、このお菓子は私の手作りなんです」
誇らしげにそういうので、手作りだと言う菓子を見つめるが、ローズが作った物とは違ってまるで売り物の様な精巧な作りのケーキだった。
「これを手作りねぇ、一体何で出来ているのですか? 材料は何を使ってるんです?」
俺は手をつける事無く説明を求めた。
「えっ、えっと……確か白い粉に、水と……そう砂糖! それにクリームだったかしら」
ジュリアがしどろもどろに答えながらメイドに同意を求めている。
「そうですか、材料も分からないのにこんな素晴らしい物が作れるとはすごいですね。しかし申し訳ない素材がわからないものを食すのは禁止されていますのでお茶だけで失礼します」
そういうとお茶を一気に飲み干した。
「ご馳走様、では失礼」
俺はお茶を飲み干すなり立ち上がるとお礼を言った。
そして唖然としているジュリア達をフンッと鼻で笑うと呼び止められる前に部屋を出ていった。
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