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122.すれ違い※

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「怪我が大したことないならよかったです。ではこれで、カイル様も鍛錬頑張って下さい」

私はジュリア様の怪我が大したことないと聞いてホッとした。

嘘だと思っていたが万が一本当なら大変な事だ。

そんな思いを見透かすようにじっと見つめてくるカイル様から逃げたいのに腕を掴まれていて身動きが取れない。

手を離してとばかりにカイル様が掴んで離さない手をじっと見つめる。

しかしカイル様は視線に気がついても手を緩める気が無いようだった。顔を見ると、何か言いたそうにこちらを見ている。
そして意を決したように口を開いた。

「さっきジュリア嬢から少し聞いたが、何があったのかローズの口から話して欲しい」

「何が……とはどういう事です?」

カイル様が何を知りたいのかわからなくて聞き返した。

「なんでジュリア嬢が怪我をする事に?」

「私が何かしたと思っているのですか?」

悲しい気持ちになりじっとカイル様を見つめるとカイル様の顔がグッと近づいた。

「それは無い!」

至極真面目な顔ですぐに否定した。

驚いて唖然としているとカイル様は必死に説明しだした。

「ローズがそんな真似をすることない事は俺がよく知っている!  しかしあの者の言う事を聞いた今、ローズの口から本当の事を知りたい」

何処までも真面目なカイル様に私はふっと肩の力が抜ける。

あの場で私が何を言っても無駄だと思っていたがこうして信じてくれる人がいることがこんにも心を穏やかにしてくれると思わなかった。

「なんでもないですよ。少し挨拶をしてちょっと私が生意気な事を言ったのでジュリア様が興奮して転んでしまっただけです」

あまり大事にしたくなくて少し誤魔化して話した。

「よかった……」

私の話を聞いてカイル様がほっとした顔を見せる。

「何がですか?」

カイル様は掴んでいた腕を優しく引っ張った。
体がくっついてしまうほど近くに引き寄せられると腰に手を回す。
そして顔に向けて手を伸ばしてくる。

私はびっくりして目を閉じると温かい手がそっと眉間に優しく触れた。

「ローズの機嫌が戻った」

優しい呟きに恐る恐る目を開くと嬉しそうに微笑むカイル様の顔が目の前にあった。

私はばっと眉間を両手で隠した。

「そ、そんなに皺がよってましたか?」

恥ずかしくて顔を眉間を隠したままカイル様を見上げる。

「ああ、鬼みたいに怒っていた」

真面目な顔で頷くカイル様に「嘘!」と声をあげて触って確認する。

そんな私の様子にカイル様は口元を隠して顔を逸らした。

「嘘だ、それに怒っていてもローズは可愛らしいから大丈夫だよ」

サラッと髪をひと房掴むと、長い指を絡ませて遊んでいる。

なんだかいつもと違うカイル様の様子にこちらの調子が狂う。

じっと顔を見るとほんのりと頬が赤くなっていることに気がついた。

「なんかカイル様……ちょっと変ですよ?  女性が苦手なんですよね、それにしてはなんだかこなれているような……」

「いや、今でも女性は苦手だ、さっきもジュリア嬢を仕方なく運んだが蕁麻疹が出そうだった」

思い出したのか体を震わせている。

「なら……これはどういう事でしょう?」

ずっと離してくれない手を見つめた。

「ローズだけは何故か大丈夫なんだ。やりたい事言いたい言葉がローズの前だと素直に言える」

あまり見たことがない優しい笑顔で私を見つめている。

「カイル様は女嫌いでよかったのかも知れません。こんな事色んな女性にしていたら大変な事になりますよ」

私はため息をつい困った様に笑った。
こんな事をしたら勘違いしてしまう令嬢が泣くことになってしまう。

「他の人にはしない、するのはローズだけだ」

ギュッとローズの掴んでいた手を握りしめる。

「それって……」

どういう事?  カイル様に聞こうと顔をあげるといつもカイル様のそばにいる兵士さんが私達を見つけて声をかけながら近づいてきた。

「やっといた!」

私は何となくカイル様からサッと離れた。

「お忙しそうなので、私はこれで……」

部屋へ戻ろうとくるっと背中を向けた。

「待っててくれ。部屋まで送る」

カイル様の言葉に一瞬迷って立ち止まるが兵士さんが泣き出しそうになりながら近づいてきた。

「カイル様!  先程のジュリア様がカイル様を連れてこいとおっしゃってます。もう僕じゃ抑えきれませーん」

困った様にカイル様に報告する。

「なんのようだ、医務室まで運んだだろうが!」

カイル様は不機嫌そうに兵士を睨みつけた。

「今度は部屋まで運んで欲しいとおっしゃっていて」

「知るか!  従者にでも運ばせてろ、俺はローズを部屋まで送る」

カイル様が私の方に振り返るが私は大丈夫だと首を振った。

「私は平気だから、怪我したジュリア様をみてあげて下さい」

私はそういうと小走りにその場から逃げ出した。

「あっ……」

カイル様の切ない声が後ろから聞こえてきて気持ちを引き止めようとする。
私はそれを振り切って足を前に出した。
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