貧乏領主の娘は王都でみんなを幸せにします

三園 七詩

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私はカイル様とジュリア様から逃げるように歩き、気がつけば鍛錬場へとたどり着いていた。

「はぁ…」

行くあてもなくフラフラと歩きながらため息がもれる。

何を慌ててるんだろ……

モヤモヤとしながら鍛錬場を見れば、前に剣の打ち合いをした兵士達が目に入った。

「こんにちは~」

私は知った姿に思わず挨拶をする。

「は、はい?」

兵士達が私の声に振り返ると、すると目をまん丸に広げて驚いた顔をしている。

「どうしました?」

私は何を驚いているのだろうと首を傾げてみんなに近づいていった。

「こ、こんな危ない所にどうされたんですか?  お供はいないようですが」

キョロキョロと周りを確認していて、なんだか話が噛み合わない。

私を知らないフリをしているので何か気に触ったのかと聞いてみた。

「もしかしてこの間の鍛錬の事、怒ってますか?」

不安になりながら聞いてみた。

「鍛錬?  あっ!  この間のスチュアートさんのどうりで何処かで見たことがあったような気がしたんだ!  って言うか女性?」

兵士達はまじまじと私の顔を確認している。

「そうだ……今日はドレスだった」

私は自分の姿を確認してしまったと項垂れた。

ジュリア様達との事があり、動揺して女の格好のままここに来てしまっていた。

「ま、まさか……女性だったとは」

「スチュアートさんが名前を教えてくれないわけだ」

兵士達が信じられないとコソコソと話しながら遠巻きに見ている。

「ど、どうしよう!  すみません皆さんこの事は聞かなかったことにしてくれませんか」

私はお願いしますと頭を下げた。

「や、やめてください!  貴族令嬢なのに頭を下げないで!」

兵士達が私に顔をあげるように必死に頼んでくる。

「内緒にしてくれますか?」

私は困った顔でうかがうようにみんなを見上げる。

「か、可愛い……」

兵士達がボソッとつぶやいた。

「スチュアートさん達に出来れば内緒にしていただきたいんです」

私の口からスチュアートさんの名前が出るとボーッとしていた兵士達が現実に引き戻されるかのようにシャキッとした。

「は、はい了解です!  我々は何も見なかった。知らなかった。なっ?」

兵士が周りを見るとうんうんと頷き合う。

その様子に私はほっとした、これでスチュアートさんに怒られないですむと……

「ありがとうございます!」

私は安堵してみんなに笑いかける。すると兵士達が顔を赤く染めて顔を逸らした。

「あっよかったらこれみなさんで食べてください。手作りのお菓子で申し訳ないですけど」

私はお茶会の練習で焼いたお菓子を兵士達に渡した。

「では!」

兵士達に頭を下げて部屋へと戻ろうと少し進んで足を止めた。

くるっと振り返ってもう一度兵士達を見るとピタッと固まっている。
そんなみんなに声をかけた。

「また剣の相手もしてくださいね」

軽くウインクして手を振るとタッタッと小走りに走り出した!




兵士達は軽く手を振り返すが、しばらくまともに動けずにボーッとしている。

「か、可愛い……」

「いい……」

「えっ?  ご令嬢ってあんなに気さくなの?」

兵士達が今のは現実かと顔を見合わせる。

「俺が護衛した令嬢は俺の事ただの物のように扱ってたぞ!」

「俺もだ、カイル様がそばにいると透明人間にでもなったかのようだったよ」

兵士達はローズがくれたお菓子を宝物のように見つめる。

「ちょっと食ってみる?」

一つ手に取るとパクッと口に放り込んだ。

「うっま!」

疲れた体に甘いお菓子が染み渡る。

「なんか力が湧いてくる」

「俺にもくれ!」

「俺も!」

兵士達がお菓子に群がるとあっという間に食い尽くしてしまう。

「あー、もうないよ」

残念そうに空になった菓子の袋を逆さにしてみるがお菓子が落ちてくることはなかった。

「また来てくれるよな?」

「さっき剣の相手をして欲しいって言ってたしな」

「あんなに可愛いのに強いなんて……素敵だ」

兵士達がローズの事を各々考えているとある疑問が頭をよぎった。

「そういや名前なんて言うんだ?」

「聞き忘れた……」

兵士達は謎の令嬢に心惑わされていた。
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