貧乏領主の娘は王都でみんなを幸せにします

連載

104.勘違い※

「みなさん、よくもまぁノコノコと顔を出せましたね」

スチュアートさんが笑いながら答えると兵士達が頭を下げたままビクッと震えた。

「さぁ、鍛錬場に戻りましょうか？」

兵士達を真顔で睨んで外に出そうとしている。

「スチュアートさん！」

私が声をかけるとスチュアートさんは笑顔で振り返った。

「あなた様はもう少しここで休んでいてください。用事をすませたらすぐにお迎えにまいります」

スチュアートさんが労わるように声をかけると、優しく私の頭を触った。

「わかりました。あと……兵士の皆さんに少しいいですか？」

私は怯える兵士達を見つめる。

「彼らの事は気にしないで下さい。もう二度と会うことはないと思います」

スチュアートさんがそういうと兵士達がさらに緊張する様子が伝わってきた。

「そんな事言わないで下さい」

私は怒っているスチュアートさんの手をそっと握りしめて、兵士さん達に声をかける。

「この度は皆さんの鍛錬に参加させていただきありがとうございました。途中で気を失うなど失態を晒してしまい申し訳ありません。よかったらまた相手をよろしくお願いします」

深々と頭を下げる、そっと顔をあげると驚く兵士達と目が合った。

兵士たちの面を食らった表情に思わず笑顔になる。

ザワッ……

私の笑った顔を見て兵士達がザワついた。

顔を見ていた兵士達の目線が下へと動いていくと、首元ら辺に視線が集中する。

「彼は男性ですよ……」

スチュアートさんの感情のない声が横から聞こえると兵士達はハッ！  となって顔を逸らした。

スチュアートさんはため息をついて私の前に来るとそっと首元の衣服を整える。

「ローズ様……優しすぎやしませんか？」

耳元で囁くと眉をひそめて困った顔をしている。

「彼らは知らなかったんです。それにわざとじゃありません。私がきちんと言わなかったせいでもあるんです」

私はスチュアートさんにお願いするように手を握りしめてその目を見つめる。

「わかりました……では軽めにしておきます」

スチュアートさんは諦めたように笑うと兵士達を連れて部屋を出ていった。


兵士達はスチュアートさんの後ろをついて行きながら胸を触る。

「どうしよう……俺、男にときめいちまったよ」

一人の兵士が不安そうに呟くと周りの兵士達がバッと視線を合わせた。

「何、お前もか！」

「てことはお前も？」

「だって、あんな風に笑顔向けられたら……それにあのはだけた白い胸元、女性のようにすごく綺麗だった」

「わかる！」

兵士達が思い出しながら目を閉じて余韻を楽しんでいた。

「それにしてもスチュアートさんが怒っていたのを鎮静化してくれたよな」

「うん、俺この後死ぬのを覚悟してた」

前を歩くスチュアートさんの雰囲気が先程より穏やかなことに兵士達はホッと肩の力を抜く。

鍛錬場に着くとスチュアートさんが兵士達に声をかけた。

「では、本当はきつい鍛錬をしようと思っていましたがあの方がいつも通りでとお望みでしたので皆さん各自いつも通り始めて下さい」

「やっぱりあの方がスチュアートさんに言ってくださったったんだ」

兵士達があの方の優しさに感激していた。

「スチュアートさん！  あの方のお名前をおうかがいしてもよろしいですか？」

「私も知りたいです。今度改めてお礼を申し上げたいのです」

俺も俺もと兵士達が声をあげてスチュアートさんに詰め寄った。

「そうですね……では私に一太刀でも当てることが出来たらお教えします」

こう言えば諦めるだろうと提案したようだが兵士達の様子がおかしい。

「では私からお願いします！」

「次は俺で！」

スチュアートさんと打ち合うための兵士達の列ができる。

「手加減は致しませんよ」

スチュアートさんはニヤッと笑うと剣を握りしめた。