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80.父と弟※
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◆
「姉さんから手紙が来たって本当ですか!」
クリスは大声で叫びながら慌てて父の元に向かった。
部屋の扉を勢いよく開けると父のチャートが険しい顔で手紙を読んでいた。
「父さん!」
クリスが返事のない父にたまらずにバンッ! と机を叩く。
「相変わらず耳がいいな……」
父が笑って僕を見る。
「茶化さないで下さい! 王都に行ったきり帰ってこない姉さんに何があったんですか!?」
すぐに帰ってくると言って王都に向かった姉さんが予定の日になっても帰って来なかった。
そして姉さんの変わりに王都から手紙が届いたのである。
「どうやら王子の婚約者候補に選ばれてしまったらしい」
「えっ、姉さんが? だって断るって」
「詳しい事は書いてないが帰るのが遅くなるが心配するなと……後は、私達の事を心配する内容だな」
「見せて下さい!」
僕は父から手紙を受け取ると穴が空くほど手紙を見つめる。
「もう! なんだって姉さんは自分の事をこれしか書いてないんだ。半分は僕らの事じゃないか」
その手紙には父の事や僕の事を心配する言葉が綴られていて、自分の事は心配ないとしか書かれていない。
姉さんらしい手紙だけど、それが今は歯がゆかった。
ちゃんとご飯を食べていますか?
洗い物は誰がしているのかな?
クリスは勉強出来ているかな?
父さんはお酒を飲みすぎてない。
クリスはちゃんと寝れてる?
「もう……姉さんは僕をいくつだと思ってるんだよ」
僕は苦笑して手紙を何度も読み返すり
「それにしてもローズがまさか選考に残るとはなぁ……いや、ローズは素晴らしく、どこに出しても恥ずかしくない娘だが、王都には合わないと思っていたから送り出しだが……」
父が心配そうに眉間に皺を寄せて唸っている。
「姉さんは優しくて人の頼みとか断れない人だから心配だったんだ。王都でひとり不安になっているんじゃ……だって知り合いなんて誰もいないんでしょ」
心配のあまり落ち着きなく部屋を歩き回ってしまう。
「ローズが不安?」
父が首を傾げる。どうも姉さんが不安になる様子が想像できないみたいだ。
「ローズの事だからてっきり王宮を掃除でもしてメイド長に気に入られたとかの間違いじゃないのかな?」
父がもう一度手紙を確認するがどうにか私達二人の為に頑張るとしか書いてなかった。
「これは様子を見に王都に行った方がいいかな」
父がボソッ呟いた。
「父さんは駄目でしょ、来週には近隣の領主が集まって会議があるじゃないか!」
父は眉を潜めて僕を見ると何か閃いた顔をする。
「クリス会議に出てみる?」
ニコッと笑って機嫌をとってきた。
「父さん?」
ジロっと僕は父を睨見つけた。
「冗談だよ、ローズと違って全く頭が固いんだから、誰に似たんだ?」
「父さんで無いのは確かですね」
僕はボソボソと愚痴を呟く父をさらに睨みつける。
「全く……本当に耳がいいな」
「ええ、父さんと母さんの子ですからね。タウンゼントの人間は何かしらの五感が人より優れてますからね」
僕は自分の耳を父に見せると、ふと外からの音に顔色を変える。
「なんだ? 誰か来たのか?」
父が僕の様子に気がついて聞いてきた。
「はい、馬車の走る音が聞こえますね」
僕達はこんな時に誰だろうと窓際に近づくと外をみた。
そこには馬車で屋敷に近づいてくる影が見えた。
「あれは町の村長だな。大方今度の会議の事でだろうな」
僕はじっと目をこらすがかろうじて馬車とわかる程度だった。
「よく見えますね……」
「それはお互い様だ、私は馬車の音など聞こえないからな」
「父さんは目が、僕は耳が、姉さんは鼻が、母さんは……」
「舌が人より優れている。だが、まぁそんなに役にたつものでもないがな」
「そうですね、僕らには普通の事ですしそれよりも姉さんの事ですよ! 僕、王都に行ってこようかな」
僕は姉さんが心配で半ば本気で考える。
ひとり取り残されそうな父が不安そうな顔で見つめてくるが、気が付かないフリを決め込んだ。
「姉さんから手紙が来たって本当ですか!」
クリスは大声で叫びながら慌てて父の元に向かった。
部屋の扉を勢いよく開けると父のチャートが険しい顔で手紙を読んでいた。
「父さん!」
クリスが返事のない父にたまらずにバンッ! と机を叩く。
「相変わらず耳がいいな……」
父が笑って僕を見る。
「茶化さないで下さい! 王都に行ったきり帰ってこない姉さんに何があったんですか!?」
すぐに帰ってくると言って王都に向かった姉さんが予定の日になっても帰って来なかった。
そして姉さんの変わりに王都から手紙が届いたのである。
「どうやら王子の婚約者候補に選ばれてしまったらしい」
「えっ、姉さんが? だって断るって」
「詳しい事は書いてないが帰るのが遅くなるが心配するなと……後は、私達の事を心配する内容だな」
「見せて下さい!」
僕は父から手紙を受け取ると穴が空くほど手紙を見つめる。
「もう! なんだって姉さんは自分の事をこれしか書いてないんだ。半分は僕らの事じゃないか」
その手紙には父の事や僕の事を心配する言葉が綴られていて、自分の事は心配ないとしか書かれていない。
姉さんらしい手紙だけど、それが今は歯がゆかった。
ちゃんとご飯を食べていますか?
洗い物は誰がしているのかな?
クリスは勉強出来ているかな?
父さんはお酒を飲みすぎてない。
クリスはちゃんと寝れてる?
「もう……姉さんは僕をいくつだと思ってるんだよ」
僕は苦笑して手紙を何度も読み返すり
「それにしてもローズがまさか選考に残るとはなぁ……いや、ローズは素晴らしく、どこに出しても恥ずかしくない娘だが、王都には合わないと思っていたから送り出しだが……」
父が心配そうに眉間に皺を寄せて唸っている。
「姉さんは優しくて人の頼みとか断れない人だから心配だったんだ。王都でひとり不安になっているんじゃ……だって知り合いなんて誰もいないんでしょ」
心配のあまり落ち着きなく部屋を歩き回ってしまう。
「ローズが不安?」
父が首を傾げる。どうも姉さんが不安になる様子が想像できないみたいだ。
「ローズの事だからてっきり王宮を掃除でもしてメイド長に気に入られたとかの間違いじゃないのかな?」
父がもう一度手紙を確認するがどうにか私達二人の為に頑張るとしか書いてなかった。
「これは様子を見に王都に行った方がいいかな」
父がボソッ呟いた。
「父さんは駄目でしょ、来週には近隣の領主が集まって会議があるじゃないか!」
父は眉を潜めて僕を見ると何か閃いた顔をする。
「クリス会議に出てみる?」
ニコッと笑って機嫌をとってきた。
「父さん?」
ジロっと僕は父を睨見つけた。
「冗談だよ、ローズと違って全く頭が固いんだから、誰に似たんだ?」
「父さんで無いのは確かですね」
僕はボソボソと愚痴を呟く父をさらに睨みつける。
「全く……本当に耳がいいな」
「ええ、父さんと母さんの子ですからね。タウンゼントの人間は何かしらの五感が人より優れてますからね」
僕は自分の耳を父に見せると、ふと外からの音に顔色を変える。
「なんだ? 誰か来たのか?」
父が僕の様子に気がついて聞いてきた。
「はい、馬車の走る音が聞こえますね」
僕達はこんな時に誰だろうと窓際に近づくと外をみた。
そこには馬車で屋敷に近づいてくる影が見えた。
「あれは町の村長だな。大方今度の会議の事でだろうな」
僕はじっと目をこらすがかろうじて馬車とわかる程度だった。
「よく見えますね……」
「それはお互い様だ、私は馬車の音など聞こえないからな」
「父さんは目が、僕は耳が、姉さんは鼻が、母さんは……」
「舌が人より優れている。だが、まぁそんなに役にたつものでもないがな」
「そうですね、僕らには普通の事ですしそれよりも姉さんの事ですよ! 僕、王都に行ってこようかな」
僕は姉さんが心配で半ば本気で考える。
ひとり取り残されそうな父が不安そうな顔で見つめてくるが、気が付かないフリを決め込んだ。
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