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「ここまでか……」
レオドールはA級の冒険者だった。
そこそこ腕はたち、経験も豊富で名前を言えば冒険者の中では知らないものはいないほど……とまでは行かないがそこそこ有名だったと自分では思う……多分。
まぁ気ままに流れの冒険者として生きそろそろ定住でもしようかと思っていた矢先、ちょっとした判断ミスで命を落としかけている。
谷底に身を隠しているが自力では登れそうもない。
魔物は近くを彷徨いているし先程から腹が痛い、触ると生暖かいヌルッとしたものが大量に出ている。
どんどん寒くなる体に自分はここまでだと覚悟を決めていた。
冒険者としていつ命を落としても仕方ないと覚悟をもって今までやってきた。
そしてその時がきたまでのこと……
過去を振り返ってもいい人生だったと思う。
好きな事をして好きなように生きた、悔いは無い!
と思ったがふと女の顔が浮かんできた。
あれはまだA級に上がる前に立ち寄った村で出会った少女だった。
儚げな彼女は俺が仕留めた魔物を興味深そうに見ていてそこから話をして仲良くなった。
少し長めに滞在したその村で……俺は男になった。
しかし結婚など微塵も考えて無かった俺は時が来るとまた旅立った。
彼女にはまた近くを通ったら寄るとだけいい、それを最後に二度と会うことは無かった。
その後も何度か経験を重ねたが、終わったあとに考えるのは彼女のことだった。
最低な行為だとは思ったが彼女との平和な一時は疲れた心を一番癒してくれたのだ。
そんな彼女に一目会いたかったな。
会って謝りたい……できない約束なんぞいたこの俺のことなんか忘れて幸せになってくれてればいいな……
そう思い目をつぶる。
俺はそのまま目覚めることなく、この世を去った……はずっだった。
「はっ!」
俺は腹の痛みに目を覚ました。
まだ死んでなかった。
腹を触るが傷があった場所は綺麗に包帯が巻かれている。
あれ?
自分で腹をさするがなんか違和感がある。
あんなに極限まで鍛えた体はひょろひょろになっていた。
手も傷だらけの黒いゴツゴツとしたのがなくなりすらっとした白い手になっている。
「なんだ?」
おかしいと声を出すと自分の声ではなかった。
「ルーク!」
するとすぐそばで誰かが叫んだ。
構えてそちらの方を見ると女が泣きながら駆け寄ってきた。
そして俺に抱きつくとわんわんと泣き出している。
「ルーク!ルーク!良かった……」
ルーク?誰のことを言っているのだと、戸惑っていると女が顔を上げた。
あっ……
その顔は死に際に思い出した彼女の顔だった。
少し歳をとっているが間違いない、あのころの面影がある。
「マリア……か?」
名前を呼ぶとマリアはキョトンと俺の顔をみた。
「やだルーク、なんでお母さんのこと名前で呼ぶのよ」
マリアは泣きがら笑い俺の頬を軽くつねった。
「お母さん?ルーク?」
何を言っているのだと怪訝な顔をしてしまう。
するとマリアはなにか変だと気がついたようだ。
「あなたはルークよ、私の大事な息子のルーク」
マリアは桶に水を組んでくると水面に俺の顔を写した。
「え?」
そこにはうっすらと俺の子供の頃に似た少年が写っていた。
「これは……?」
何が起きたのかとパニックになり言葉が出せずにいるとマリアが俺の背中を優しく撫でた。
「何も覚えてないならいいの、ゆっくり休んで」
マリアは大丈夫と微笑むと俺を優しくベッドに寝かせた。
「なにか食べたいものはある?」
「いや……えっと……」
「ルークの好きなスープを作るわ!」
マリアは俺の答えを聞く前に部屋を出ていった。
一人になり、落ち着かずに立ち上がるともう一度顔を見た。
そして体など確認してみるがやはりもう前の俺では無かった。
しかしその顔は見覚えのある顔だ。
そしてマリアが母親……まさか?
いやそんなことありえない。
考えがまとまらずに部屋をウロウロとしてしまう。
するとしばらくしてマリアが扉をノックした。
「ルーク、ご飯できたよ。食べられる?」
「あ、ああ」
とりあえず腹も減ってるのでいただくことにした。
スープを一口飲むと懐かしい味がした。
「美味い……」
「でしょ!お母さんのいちばん得意な料理だもの」
マリアは嬉しそうに俺がスープを飲むのを見続けていた。
あっという間に平らげてしまうと空になった皿を見つめる。
するとマリアは笑ってそれを取り上げた。
「おかわりもあるわよ」
「食べる!」
「はいはい」
マリアはクスッと笑っておかわりを持ってきてくれる。
俺はその後スープを二杯おかわりした。
「あー、腹いっぱいだ」
満足して横になるとマリアが驚いた顔で俺をみおろしている。
「ルーク、なんかおじさんみたいね」
仕方なさそうに笑っている。
ハッとしてすぐに起き上がるがマリアは気にしてないのかすぐに立ち去ってしまった。
お腹も膨れると少し思考が落ち着いてきた。
俺はゆっくりと周りの様子を観察して考えをまとめる。
「マリア……聞きたいことがある」
マリアに話しかけるとマリアは笑いながら近づいてきた。
「またマリアって呼んでる。いいけどお母さんって前みたいに呼んでよ」
冗談だと思っているようだ。
「じゃあ……母さんって呼ばせてもらう。母さん落ち着いて聞いて欲しい」
「な、何あらたまって……」
マリアは嫌な予感がしたのか顔を引き締めた。
「母さんは俺をルークって呼ぶけど俺はルークとしての記憶が無い」
「え?」
「なぜここにいて寝ていたのか、何も覚えていないんだ」
「嘘……」
「嘘じゃない」
俺はマリアをじっと見つめた。
マリアはそんな俺の瞳を逃げずに見つめ返す。
そしてふっと肩の力をぬくとあの頃と変わらない笑顔を見せた。
レオドールはA級の冒険者だった。
そこそこ腕はたち、経験も豊富で名前を言えば冒険者の中では知らないものはいないほど……とまでは行かないがそこそこ有名だったと自分では思う……多分。
まぁ気ままに流れの冒険者として生きそろそろ定住でもしようかと思っていた矢先、ちょっとした判断ミスで命を落としかけている。
谷底に身を隠しているが自力では登れそうもない。
魔物は近くを彷徨いているし先程から腹が痛い、触ると生暖かいヌルッとしたものが大量に出ている。
どんどん寒くなる体に自分はここまでだと覚悟を決めていた。
冒険者としていつ命を落としても仕方ないと覚悟をもって今までやってきた。
そしてその時がきたまでのこと……
過去を振り返ってもいい人生だったと思う。
好きな事をして好きなように生きた、悔いは無い!
と思ったがふと女の顔が浮かんできた。
あれはまだA級に上がる前に立ち寄った村で出会った少女だった。
儚げな彼女は俺が仕留めた魔物を興味深そうに見ていてそこから話をして仲良くなった。
少し長めに滞在したその村で……俺は男になった。
しかし結婚など微塵も考えて無かった俺は時が来るとまた旅立った。
彼女にはまた近くを通ったら寄るとだけいい、それを最後に二度と会うことは無かった。
その後も何度か経験を重ねたが、終わったあとに考えるのは彼女のことだった。
最低な行為だとは思ったが彼女との平和な一時は疲れた心を一番癒してくれたのだ。
そんな彼女に一目会いたかったな。
会って謝りたい……できない約束なんぞいたこの俺のことなんか忘れて幸せになってくれてればいいな……
そう思い目をつぶる。
俺はそのまま目覚めることなく、この世を去った……はずっだった。
「はっ!」
俺は腹の痛みに目を覚ました。
まだ死んでなかった。
腹を触るが傷があった場所は綺麗に包帯が巻かれている。
あれ?
自分で腹をさするがなんか違和感がある。
あんなに極限まで鍛えた体はひょろひょろになっていた。
手も傷だらけの黒いゴツゴツとしたのがなくなりすらっとした白い手になっている。
「なんだ?」
おかしいと声を出すと自分の声ではなかった。
「ルーク!」
するとすぐそばで誰かが叫んだ。
構えてそちらの方を見ると女が泣きながら駆け寄ってきた。
そして俺に抱きつくとわんわんと泣き出している。
「ルーク!ルーク!良かった……」
ルーク?誰のことを言っているのだと、戸惑っていると女が顔を上げた。
あっ……
その顔は死に際に思い出した彼女の顔だった。
少し歳をとっているが間違いない、あのころの面影がある。
「マリア……か?」
名前を呼ぶとマリアはキョトンと俺の顔をみた。
「やだルーク、なんでお母さんのこと名前で呼ぶのよ」
マリアは泣きがら笑い俺の頬を軽くつねった。
「お母さん?ルーク?」
何を言っているのだと怪訝な顔をしてしまう。
するとマリアはなにか変だと気がついたようだ。
「あなたはルークよ、私の大事な息子のルーク」
マリアは桶に水を組んでくると水面に俺の顔を写した。
「え?」
そこにはうっすらと俺の子供の頃に似た少年が写っていた。
「これは……?」
何が起きたのかとパニックになり言葉が出せずにいるとマリアが俺の背中を優しく撫でた。
「何も覚えてないならいいの、ゆっくり休んで」
マリアは大丈夫と微笑むと俺を優しくベッドに寝かせた。
「なにか食べたいものはある?」
「いや……えっと……」
「ルークの好きなスープを作るわ!」
マリアは俺の答えを聞く前に部屋を出ていった。
一人になり、落ち着かずに立ち上がるともう一度顔を見た。
そして体など確認してみるがやはりもう前の俺では無かった。
しかしその顔は見覚えのある顔だ。
そしてマリアが母親……まさか?
いやそんなことありえない。
考えがまとまらずに部屋をウロウロとしてしまう。
するとしばらくしてマリアが扉をノックした。
「ルーク、ご飯できたよ。食べられる?」
「あ、ああ」
とりあえず腹も減ってるのでいただくことにした。
スープを一口飲むと懐かしい味がした。
「美味い……」
「でしょ!お母さんのいちばん得意な料理だもの」
マリアは嬉しそうに俺がスープを飲むのを見続けていた。
あっという間に平らげてしまうと空になった皿を見つめる。
するとマリアは笑ってそれを取り上げた。
「おかわりもあるわよ」
「食べる!」
「はいはい」
マリアはクスッと笑っておかわりを持ってきてくれる。
俺はその後スープを二杯おかわりした。
「あー、腹いっぱいだ」
満足して横になるとマリアが驚いた顔で俺をみおろしている。
「ルーク、なんかおじさんみたいね」
仕方なさそうに笑っている。
ハッとしてすぐに起き上がるがマリアは気にしてないのかすぐに立ち去ってしまった。
お腹も膨れると少し思考が落ち着いてきた。
俺はゆっくりと周りの様子を観察して考えをまとめる。
「マリア……聞きたいことがある」
マリアに話しかけるとマリアは笑いながら近づいてきた。
「またマリアって呼んでる。いいけどお母さんって前みたいに呼んでよ」
冗談だと思っているようだ。
「じゃあ……母さんって呼ばせてもらう。母さん落ち着いて聞いて欲しい」
「な、何あらたまって……」
マリアは嫌な予感がしたのか顔を引き締めた。
「母さんは俺をルークって呼ぶけど俺はルークとしての記憶が無い」
「え?」
「なぜここにいて寝ていたのか、何も覚えていないんだ」
「嘘……」
「嘘じゃない」
俺はマリアをじっと見つめた。
マリアはそんな俺の瞳を逃げずに見つめ返す。
そしてふっと肩の力をぬくとあの頃と変わらない笑顔を見せた。
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