14 / 80
七夕
しおりを挟む
【ミヅキ!絶対俺から離れるなよ!】
【うん】
ミヅキはシルバの身体にピタッとしがみついて目をギュッと閉じる…。
【ベイカーは大丈夫か!?】
「ベイカーさん!大丈夫!?」
ミヅキが大声で聞くと
「大丈夫だ!俺の事はいいからミヅキはシルバにしっかりと捕まってろ!」
「はい!」
今ミヅキ達はピンチに見舞われている…ミヅキが竹が欲しいと言い出したことでシルバとベイカーさんと山に竹を探しに来ていた…しかしそこでオークの群れに遭遇してしまっていた…
「くっそ~!オークごときに遅れはとらんが数が多すぎる!」
ベイカーはいくら斬っても斬っても押し寄せてくるオークに苛立った!
(シルバがいるから大丈夫だとは思うが…ミヅキは平気か…?)
目を瞑っているように言ったが…自分の事で精一杯の今、ミヅキとシルバの様子が確認出来ないことに焦りを覚える。
そんな隙をついてオークが捨て身のタックルをしてくる。
「しまった!」
避けて切りつけたのはいいが足を踏み外してしまう。
(ヤバい…しくった…)
「ベイカーさん!!!」
ミヅキの焦った声を最後にベイカーは崖の底へと落ちていった…。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「う、うん…」
ベイカーはふかふかの感触に包まれていた…。
「わん!わん!」
犬?
「あっ!銀、あの人目が覚めたの?」
女の人の声と犬の鳴き声に目を開くと…そこは見た事も無い家具や装飾品が並ぶ明るく小さい部屋だった。
「ここは…?」
ベイカーが起き上がろうとすると床の柔らかさにびっくりする、そこには綺麗な布が敷いてあり信じられないほどふかふかだった。
「目が覚めましたか?体に痛い所とかありますか?」
声をかけられた方を見ると、そこにはミヅキに似た感じの女性が立っていて心配そうにしている。
「ミヅキ…?」
「えっ?」
女性がびっくりすると
「いや、すまん。知ってる子に似ていたもので…助けて頂いたようで感謝します。部屋の感じだと高貴な方とお見受けするが…」
ベイカーが膝をついて挨拶すると…女性は目を真ん丸に見開いて口を開けていた。
「あの…」
何も答えてくれない女性に声をかけると…
「あっ!すみません…びっくりしてしまって…高貴って言葉を理解するのに時間がかかってしまいました…」
まだ驚きが覚めやらぬ様子の女性は
「私は全然高貴?では無いので気にしないで下さいね!あなたは…銀の散歩コースで倒れてて…銀がくっついて離れなかったので…お礼なら銀に言ってあげて下さいね」
そう言って隣に座っている犬を愛おしそうに撫でている。
「銀さんありがとう、助かりました」
真面目に犬にお礼を言う男に思わず吹き出す。
「あはは!面白い人ですね!」
(笑い方からあの表情まで…ミヅキに似ている…)
「私はベイカーと申します。本当に感謝します」
女性にも再度頭を下げると
「私は……美月と言います。さっきは名前を言われてびっくりしました」
「ミヅキ!?」
「美しい月と書いて美月です、ベイカーさんはどこの国の方なんですか?」
「私はウエスト国の者です…ここはウエスト国では無いのですか?」
「ウエスト国?初めて聞きました…どこら辺の国なんだろ?」
美月が首を傾げる
「なんかその格好も…アレですよね?なんかの撮影か何かですか?」
「さつえい…?」
(顔もすっごい整っててかっこいいし俳優さんかなんかだよね?背も高いから…モデルさん?)
「何か連絡取れるもの持ってます?スマホとか?」
「すまほ…すみません持っていないです」
そっか…困ったな…
グゥ~
その時ベイカーの腹が鳴った…
「ぷっ!」
美月が思わず笑うと
「何か食べるもの持ってきますね!ちょっと待っていて下さい」
「いや…!」
ベイカーが断る間もなく美月は部屋を出てってしまった。
部屋にはベイカーと銀が残された。
「お前が助けてくれたんだな…ありがとう」
ベイカーが銀の頭を撫でると、ふんっ!と銀は鼻息を出しもっと褒めろとばかりに尻尾を振っている。
「お前はうちのシルバに毛並みが似てるな…あの子も名前からしてミヅキにそっくりだ…」
(ミヅキとシルバは無事だろうか?)
ベイカーは似た二人にミヅキ達の面影を見て思い出す。
すると、扉が開いて美月がおにぎりを皿に乗せて持ってきた。
「お!おにぎりだ!」
「おにぎり知ってますか?」
「ああ!ミヅキが握ってくれるおにぎりがまた美味いんだ!」
思わずいつもの口調で喋ってしまい、美月を見ると頬を赤くしている。
どうしたのかと思っていると
「ベイカーさんの知り合いのみづきさんですよね?名前が一緒なので…自分に言われているようで…」
ああ!
「すみません、そうか…あなたも美月さんだった」
「すみませんこんな物しか…」
おにぎりをベイカーの前に置くとどうぞと微笑まれる。
「いただきます」
美味しそうなおにぎりについ手が伸びてしまう、大きな一口で食べていると…
「美味しいそうに食べてくれますね!」
「いや!実際凄く美味いです!ミヅキが握ってくれるおにぎりに…よく似ています!」
三口で食べ切ってしまったベイカーの食べっぷりに嬉しそうな顔をしていると
「その…みづきさんてどんな方なんですか?奥様ですか?」
思わぬ言葉におにぎりが喉につまりドンドンと胸を叩くと美月が慌てて水をもってきてくれた。
受け取りごくごくと飲み込むと…
「びっくりした…」
はぁーと息をはく…死ぬかと思った…
「すみません、なんか変な事言いました?」
美月が心配そうにもう一杯水を持ってきてくれた。
「いえ、ミヅキは…娘?みたいなものです。年は今6歳くらいかな?」
「娘?歳が分からないのですか?」
「捨てられていた子で…記憶が曖昧なようなんです、俺が拾ったのでそのまま面倒を見ていて…今では親子みたいな関係ですね、まぁ面倒を見てもらっているのは俺の方かも知れませんが…」
そう言って恥ずかしそうにしているがその顔はとっても幸せそうだった。
羨ましい…
「ミヅキは小さいのにとっても賢くて、優しい子です。まぁ時々…(結構か?)思わぬ事をやらかしますが…料理も得意であの子の作るものはどれも美味しい!本当に自慢の子です」
美月を見ると羨ましそうな嬉しそうな恥ずかしそうな顔をしていた。
「どうしました?」
「いえ…なんか美月と呼ばれて恥ずかしいような嬉しいような…」
「美月さんのおにぎりも同じくらい美味しかったですよ!見知らずの私にこんなに良くしていただき本当にありがとうございました」
ベイカーはご馳走様でしたと立ち上がる。
「長居をしてしまいすみません…」
出ていこうとするベイカーに少し寂しそうに玄関へと誘導する。
「そう言えば、なんで倒れていたのですか?」
「ああ…ミヅキが竹が欲しいと言い出して竹を探している途中ではぐれてしまいました」
「竹?あっ!なるほど…ちょっと待ってて下さい!」
美月は慌てて台所へと行くと…しばらくして戻ってきた。
「ベイカーさん、良ければこれを!」
その手には小さな竹と紙袋を持っていた。
「これは?」
「えっ?竹ですよ?あとよければ、みづきちゃんにおにぎりを…」
これが竹…。
ベイカーは初めて見る竹をしげしげと見つめる。
その様子に…
「すみません…商店街で貰った小さい物ですが…七夕で使うんですよね?」
「たなばた…?」
「ええ…短冊に願い事を書いて竹の笹につるすんです…そうすると願い事が叶うって…って知りませんでした?」
「初めて聞きました…そうか、ミヅキはそれがしたかったんだな」
「しかし…美月さんの物では?」
「私は…いいんです、みづきちゃんと楽しんで」
そう言ってニッコリと笑う。
ベイカーが複雑そうな顔をすると
「あっ!それなら私の願い事も一緒に飾って下さい」
「もちろんです!」
ベイカーの答えに嬉しそうにすると部屋に行き願い事を書いた短冊を持ってきて笹に飾る。
「なんかすみません…ベイカーさんとみづきちゃんの中に混ぜてもらっちゃって…」
「いえ!たくさんの方がきっとあの子も喜びますよ」
ベイカーはありがとうございますと願い事が付いた竹とおにぎりを受け取って部屋を出て行った。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ベイカーが去った部屋で銀を撫でている美月は先程までベイカーさんが座っていた場所を見つめる…。
「なんか…面白い人だったね…」
銀に話しかけると同意するように尻尾を振る。
「お父さんって…あんな感じなのかな?」
幼い頃に父と母を亡くしている美月はベイカーさんに父の面影を重ねていた…。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ベイカーは美月の家を出た途端霧に襲われていた。
前も後ろも濃いきりに包まれ、自分が何処に向かっているのかもわからないでいた…。
「ここはどこだ…美月さんに場所をきちんと聞けばよかった…」
引き返そうかと後ろを振り返ると…ガクッと足場が崩れる…。
(またかよ…)
ベイカーは底の見えない穴へと落ちて行った…。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「………、……さん、ベイカーさん!」
聞き覚えのある声に気が付き目を開けると…
「ベイカーさん!!」
泣いて顔がぐちゃぐちゃのミヅキがベイカーに抱きついた!
「ミヅキ?」
「ベイカーさんごめんなさい!私が竹が欲しいなんて言ったから…」
「ミヅキ、大丈夫だ。あんな事ぐらいよくある俺は冒険者だぞ」
「でもよかった…ベイカーさんが無事で…」
「あんな崖から落ちたくらいでくたばるか、シルバにのされた方がもっとキツかったよ…」
後ろでシルバがぷいっと横を向く。
泣いているミヅキをあやす様に抱き上げてぐちゃぐちゃの顔を拭いてやると…
「あれ?ベイカーさん竹持ってるの?」
美月から渡された竹と紙袋が目に入る。
「あっ!そうそうすっごい綺麗で優しい女の人が助けてくれてな!竹とおにぎりをくれたんだ!」
「竹とおにぎり?」
私の他におにぎりを作れる人が…?
「いい匂いがする人で…女神かと思ったぞ!」
ベイカーさんの言葉にミヅキのほっぺがぷうっと膨れる。
「ベイカーさん!心配してたのに!そんな事してたの!?」
急に怒り出したミヅキにベイカーがびっくりすると
知らない!とミヅキはくるっと背を向ける。
「ミヅキ?何に怒ってるのかわからんが…すまん、心配かけたな…そのな助けてくれた人も美月って言ってなんかお前に似てて…つい気が緩んじまった…」
「みづき?その人もミヅキって言うの?」
「ああ…なんか雰囲気もお前に似てた…年は上だったがな、それでミヅキの話をしたらお前にこれをって」
ベイカーさんがおにぎりを差し出す。
「本当におにぎりだ!しかも…これってラップ?」
透明のラップに包まれているラップを見る、異世界に来て初めて見たものだった。
「なんだ?その紙はなんで透けてるんだ?」
ベイカーさんも見た事の無い物のようだ…
「ベイカーさん…一体何処に行ってたの?」
さぁ…?
ベイカーも首を捻る。
「でも…本当に無事でよかった…」
【あの崖の高さから落ちたのに…よく無事だったものだ…俺でもあの高さなら二、三日動けなくなりそうだがな…】
【そうなの?】
ベイカーさんを見るがどこも怪我をしたような様子は無かった。
「さぁ!ミヅキ帰って竹に短冊を飾ろうぜ!」
ベイカーさんの言葉にミヅキが驚く!
「ベイカーさん!七夕知ってるの?」
「ああ!短冊に願い事を書いて竹の笹につるすんだろ!」
「うん!」
ミヅキは竹を受け取るともう既に書いてある短冊を笹に付けようとするともう既に飾ってある短冊に気がついた…。
「これ…」
「ああ!それをくれた美月さんの願い事だ!一緒に飾ってくれって…しかしなんて書いてあるんだ?」
ベイカーさんには読めない字のようだった。
ミヅキはその隣に自分の短冊を飾る。
【よかったな、もう願い事が叶ったようだな】
【そうだね…】
ミヅキはシルバに乗るとベイカーさんと街に帰って行った。
ミヅキの持っている竹の短冊には…
『ベイカーさんやシルバ達みんなといつまでも一緒に元気に暮らして行けますように』
『いつか、大切な家族が出来ますように』
と…日本語で書かれていた…。
【うん】
ミヅキはシルバの身体にピタッとしがみついて目をギュッと閉じる…。
【ベイカーは大丈夫か!?】
「ベイカーさん!大丈夫!?」
ミヅキが大声で聞くと
「大丈夫だ!俺の事はいいからミヅキはシルバにしっかりと捕まってろ!」
「はい!」
今ミヅキ達はピンチに見舞われている…ミヅキが竹が欲しいと言い出したことでシルバとベイカーさんと山に竹を探しに来ていた…しかしそこでオークの群れに遭遇してしまっていた…
「くっそ~!オークごときに遅れはとらんが数が多すぎる!」
ベイカーはいくら斬っても斬っても押し寄せてくるオークに苛立った!
(シルバがいるから大丈夫だとは思うが…ミヅキは平気か…?)
目を瞑っているように言ったが…自分の事で精一杯の今、ミヅキとシルバの様子が確認出来ないことに焦りを覚える。
そんな隙をついてオークが捨て身のタックルをしてくる。
「しまった!」
避けて切りつけたのはいいが足を踏み外してしまう。
(ヤバい…しくった…)
「ベイカーさん!!!」
ミヅキの焦った声を最後にベイカーは崖の底へと落ちていった…。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「う、うん…」
ベイカーはふかふかの感触に包まれていた…。
「わん!わん!」
犬?
「あっ!銀、あの人目が覚めたの?」
女の人の声と犬の鳴き声に目を開くと…そこは見た事も無い家具や装飾品が並ぶ明るく小さい部屋だった。
「ここは…?」
ベイカーが起き上がろうとすると床の柔らかさにびっくりする、そこには綺麗な布が敷いてあり信じられないほどふかふかだった。
「目が覚めましたか?体に痛い所とかありますか?」
声をかけられた方を見ると、そこにはミヅキに似た感じの女性が立っていて心配そうにしている。
「ミヅキ…?」
「えっ?」
女性がびっくりすると
「いや、すまん。知ってる子に似ていたもので…助けて頂いたようで感謝します。部屋の感じだと高貴な方とお見受けするが…」
ベイカーが膝をついて挨拶すると…女性は目を真ん丸に見開いて口を開けていた。
「あの…」
何も答えてくれない女性に声をかけると…
「あっ!すみません…びっくりしてしまって…高貴って言葉を理解するのに時間がかかってしまいました…」
まだ驚きが覚めやらぬ様子の女性は
「私は全然高貴?では無いので気にしないで下さいね!あなたは…銀の散歩コースで倒れてて…銀がくっついて離れなかったので…お礼なら銀に言ってあげて下さいね」
そう言って隣に座っている犬を愛おしそうに撫でている。
「銀さんありがとう、助かりました」
真面目に犬にお礼を言う男に思わず吹き出す。
「あはは!面白い人ですね!」
(笑い方からあの表情まで…ミヅキに似ている…)
「私はベイカーと申します。本当に感謝します」
女性にも再度頭を下げると
「私は……美月と言います。さっきは名前を言われてびっくりしました」
「ミヅキ!?」
「美しい月と書いて美月です、ベイカーさんはどこの国の方なんですか?」
「私はウエスト国の者です…ここはウエスト国では無いのですか?」
「ウエスト国?初めて聞きました…どこら辺の国なんだろ?」
美月が首を傾げる
「なんかその格好も…アレですよね?なんかの撮影か何かですか?」
「さつえい…?」
(顔もすっごい整っててかっこいいし俳優さんかなんかだよね?背も高いから…モデルさん?)
「何か連絡取れるもの持ってます?スマホとか?」
「すまほ…すみません持っていないです」
そっか…困ったな…
グゥ~
その時ベイカーの腹が鳴った…
「ぷっ!」
美月が思わず笑うと
「何か食べるもの持ってきますね!ちょっと待っていて下さい」
「いや…!」
ベイカーが断る間もなく美月は部屋を出てってしまった。
部屋にはベイカーと銀が残された。
「お前が助けてくれたんだな…ありがとう」
ベイカーが銀の頭を撫でると、ふんっ!と銀は鼻息を出しもっと褒めろとばかりに尻尾を振っている。
「お前はうちのシルバに毛並みが似てるな…あの子も名前からしてミヅキにそっくりだ…」
(ミヅキとシルバは無事だろうか?)
ベイカーは似た二人にミヅキ達の面影を見て思い出す。
すると、扉が開いて美月がおにぎりを皿に乗せて持ってきた。
「お!おにぎりだ!」
「おにぎり知ってますか?」
「ああ!ミヅキが握ってくれるおにぎりがまた美味いんだ!」
思わずいつもの口調で喋ってしまい、美月を見ると頬を赤くしている。
どうしたのかと思っていると
「ベイカーさんの知り合いのみづきさんですよね?名前が一緒なので…自分に言われているようで…」
ああ!
「すみません、そうか…あなたも美月さんだった」
「すみませんこんな物しか…」
おにぎりをベイカーの前に置くとどうぞと微笑まれる。
「いただきます」
美味しそうなおにぎりについ手が伸びてしまう、大きな一口で食べていると…
「美味しいそうに食べてくれますね!」
「いや!実際凄く美味いです!ミヅキが握ってくれるおにぎりに…よく似ています!」
三口で食べ切ってしまったベイカーの食べっぷりに嬉しそうな顔をしていると
「その…みづきさんてどんな方なんですか?奥様ですか?」
思わぬ言葉におにぎりが喉につまりドンドンと胸を叩くと美月が慌てて水をもってきてくれた。
受け取りごくごくと飲み込むと…
「びっくりした…」
はぁーと息をはく…死ぬかと思った…
「すみません、なんか変な事言いました?」
美月が心配そうにもう一杯水を持ってきてくれた。
「いえ、ミヅキは…娘?みたいなものです。年は今6歳くらいかな?」
「娘?歳が分からないのですか?」
「捨てられていた子で…記憶が曖昧なようなんです、俺が拾ったのでそのまま面倒を見ていて…今では親子みたいな関係ですね、まぁ面倒を見てもらっているのは俺の方かも知れませんが…」
そう言って恥ずかしそうにしているがその顔はとっても幸せそうだった。
羨ましい…
「ミヅキは小さいのにとっても賢くて、優しい子です。まぁ時々…(結構か?)思わぬ事をやらかしますが…料理も得意であの子の作るものはどれも美味しい!本当に自慢の子です」
美月を見ると羨ましそうな嬉しそうな恥ずかしそうな顔をしていた。
「どうしました?」
「いえ…なんか美月と呼ばれて恥ずかしいような嬉しいような…」
「美月さんのおにぎりも同じくらい美味しかったですよ!見知らずの私にこんなに良くしていただき本当にありがとうございました」
ベイカーはご馳走様でしたと立ち上がる。
「長居をしてしまいすみません…」
出ていこうとするベイカーに少し寂しそうに玄関へと誘導する。
「そう言えば、なんで倒れていたのですか?」
「ああ…ミヅキが竹が欲しいと言い出して竹を探している途中ではぐれてしまいました」
「竹?あっ!なるほど…ちょっと待ってて下さい!」
美月は慌てて台所へと行くと…しばらくして戻ってきた。
「ベイカーさん、良ければこれを!」
その手には小さな竹と紙袋を持っていた。
「これは?」
「えっ?竹ですよ?あとよければ、みづきちゃんにおにぎりを…」
これが竹…。
ベイカーは初めて見る竹をしげしげと見つめる。
その様子に…
「すみません…商店街で貰った小さい物ですが…七夕で使うんですよね?」
「たなばた…?」
「ええ…短冊に願い事を書いて竹の笹につるすんです…そうすると願い事が叶うって…って知りませんでした?」
「初めて聞きました…そうか、ミヅキはそれがしたかったんだな」
「しかし…美月さんの物では?」
「私は…いいんです、みづきちゃんと楽しんで」
そう言ってニッコリと笑う。
ベイカーが複雑そうな顔をすると
「あっ!それなら私の願い事も一緒に飾って下さい」
「もちろんです!」
ベイカーの答えに嬉しそうにすると部屋に行き願い事を書いた短冊を持ってきて笹に飾る。
「なんかすみません…ベイカーさんとみづきちゃんの中に混ぜてもらっちゃって…」
「いえ!たくさんの方がきっとあの子も喜びますよ」
ベイカーはありがとうございますと願い事が付いた竹とおにぎりを受け取って部屋を出て行った。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ベイカーが去った部屋で銀を撫でている美月は先程までベイカーさんが座っていた場所を見つめる…。
「なんか…面白い人だったね…」
銀に話しかけると同意するように尻尾を振る。
「お父さんって…あんな感じなのかな?」
幼い頃に父と母を亡くしている美月はベイカーさんに父の面影を重ねていた…。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ベイカーは美月の家を出た途端霧に襲われていた。
前も後ろも濃いきりに包まれ、自分が何処に向かっているのかもわからないでいた…。
「ここはどこだ…美月さんに場所をきちんと聞けばよかった…」
引き返そうかと後ろを振り返ると…ガクッと足場が崩れる…。
(またかよ…)
ベイカーは底の見えない穴へと落ちて行った…。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「………、……さん、ベイカーさん!」
聞き覚えのある声に気が付き目を開けると…
「ベイカーさん!!」
泣いて顔がぐちゃぐちゃのミヅキがベイカーに抱きついた!
「ミヅキ?」
「ベイカーさんごめんなさい!私が竹が欲しいなんて言ったから…」
「ミヅキ、大丈夫だ。あんな事ぐらいよくある俺は冒険者だぞ」
「でもよかった…ベイカーさんが無事で…」
「あんな崖から落ちたくらいでくたばるか、シルバにのされた方がもっとキツかったよ…」
後ろでシルバがぷいっと横を向く。
泣いているミヅキをあやす様に抱き上げてぐちゃぐちゃの顔を拭いてやると…
「あれ?ベイカーさん竹持ってるの?」
美月から渡された竹と紙袋が目に入る。
「あっ!そうそうすっごい綺麗で優しい女の人が助けてくれてな!竹とおにぎりをくれたんだ!」
「竹とおにぎり?」
私の他におにぎりを作れる人が…?
「いい匂いがする人で…女神かと思ったぞ!」
ベイカーさんの言葉にミヅキのほっぺがぷうっと膨れる。
「ベイカーさん!心配してたのに!そんな事してたの!?」
急に怒り出したミヅキにベイカーがびっくりすると
知らない!とミヅキはくるっと背を向ける。
「ミヅキ?何に怒ってるのかわからんが…すまん、心配かけたな…そのな助けてくれた人も美月って言ってなんかお前に似てて…つい気が緩んじまった…」
「みづき?その人もミヅキって言うの?」
「ああ…なんか雰囲気もお前に似てた…年は上だったがな、それでミヅキの話をしたらお前にこれをって」
ベイカーさんがおにぎりを差し出す。
「本当におにぎりだ!しかも…これってラップ?」
透明のラップに包まれているラップを見る、異世界に来て初めて見たものだった。
「なんだ?その紙はなんで透けてるんだ?」
ベイカーさんも見た事の無い物のようだ…
「ベイカーさん…一体何処に行ってたの?」
さぁ…?
ベイカーも首を捻る。
「でも…本当に無事でよかった…」
【あの崖の高さから落ちたのに…よく無事だったものだ…俺でもあの高さなら二、三日動けなくなりそうだがな…】
【そうなの?】
ベイカーさんを見るがどこも怪我をしたような様子は無かった。
「さぁ!ミヅキ帰って竹に短冊を飾ろうぜ!」
ベイカーさんの言葉にミヅキが驚く!
「ベイカーさん!七夕知ってるの?」
「ああ!短冊に願い事を書いて竹の笹につるすんだろ!」
「うん!」
ミヅキは竹を受け取るともう既に書いてある短冊を笹に付けようとするともう既に飾ってある短冊に気がついた…。
「これ…」
「ああ!それをくれた美月さんの願い事だ!一緒に飾ってくれって…しかしなんて書いてあるんだ?」
ベイカーさんには読めない字のようだった。
ミヅキはその隣に自分の短冊を飾る。
【よかったな、もう願い事が叶ったようだな】
【そうだね…】
ミヅキはシルバに乗るとベイカーさんと街に帰って行った。
ミヅキの持っている竹の短冊には…
『ベイカーさんやシルバ達みんなといつまでも一緒に元気に暮らして行けますように』
『いつか、大切な家族が出来ますように』
と…日本語で書かれていた…。
11
お気に入りに追加
2,013
あなたにおすすめの小説
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?
氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!
気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、
「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。
しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。
なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。
そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります!
✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
転生幼女の怠惰なため息
(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン…
紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢
座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!!
もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。
全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。
作者は極度のとうふメンタルとなっております…
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる