狂犬を手なずけたら溺愛されました

三園 七詩

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「ラーミア、今日は街に行ってみない?」

母からの急なお誘いに私は言葉が出てこなかった。

自慢じゃないが私はこの屋敷を出たことがなかった。
私は皆が知っての通り男性恐怖症だ、外に出れば女性と同じ数の男性がいる。

屋敷内で働く人は父の命令のおかげでみんな優しく大声をあげることなどない。

しかし外に行けば色んな人がいる。
私も一度外に出かけようとしたがその時は足がすくんでしまい中止となった。

買い物も屋敷にお店ごと来てくれるので、店員の女性の方が服でもお菓子でも持ってきてくれる。
だから外に出なくても問題はなく、その事に慣れていたが・・・確かにこのままでは良くないと自分でも思っていた。

私がどうしようかと迷っていると母がゆっくりと説明してくれる。

「ラーミアにもこの国の街を見せてあげたいの、それに娘と買い物に行くのがお母様の夢だったの」

母はそう言って恥ずかしそうに笑う、その顔は買い物を楽しむ少女のようだった。

「今回はいつも来てくれる仕立て屋さんのお店でドレスを見るだけよ。お店に入ったら街を歩くわけではないし馬車に乗ってるから大丈夫だと思うの」

母のキラキラとした顔で説明する様子に私も少しだけ外の世界が気になった。

「うん・・・お母様、私行ってみる」

私の言葉に母は嬉しさのあまり私に抱きついた。

次の日、早速母と出かける準備をする。

父は朝からソワソワとして私に「無理をするな」とか「嫌なら行かなくていい」「嫌なら事があったらすぐに帰ってきてパパに知らせなさい」と色々と話をしてきて仕事に向かおうとせずアデリーさんに怒られていた。

「お嬢様、今日はどんなドレスで行きましょうか?」

「お嬢様の初めての街の散策よ!気合い入れなきゃ!」

メイドさん達は私を着飾ることが好きなようでキャッキャッと楽しそうにドレスを並べている。

私としては楽な服の方が好きだが、楽しむみんなにそんな事をいって水をさしたくなかった。

「ナディアの好きでいいよ」

私は一番そばで仕えてくれているメイドの名前を呼んで好きにしてと笑った。

「お任せ下さいお嬢様!  みんなこの日のために取っておいたあの宝石出しましょう!」

「いいわね! さすがナディアだわ!」

他のメイドさん達がいそいそとドレスルームからまた小物を出し始めた。

そんな楽しそうな様子を私は笑いながら見つめていた。


「まぁラーミア、なんて素敵なの」

母は別室で準備を整え、私の部屋にやってくるなり嬉しそうな声をあげる。

「お母様、街に行くだけでしょ?なんか・・・」

着飾りすぎじゃない?

と思うが口には出さない。
せっかくナディア達が用意してくれたし、ドレスは出かけるだけにしては豪華だが可愛らしく嫌いではなかった。

「お嬢様の可愛さを最大限に引き出して見ました!まぁどんな服でもお嬢様は可愛らしいですが」

ナディアの言葉にみんなウンウンと頷いている。

雇われている身だからとこんな子供にそこまで気を使わなくてもいいのに、まぁ父の溺愛を見るとみんな私に気を使わなくてはいけないと思うのは当たり前かもしれない。

私はみんなの褒め言葉に苦笑していた。
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