狂犬を手なずけたら溺愛されました

三園 七詩

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9.言葉、大事

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「ラーミア、無事でよかった。怪我がなくてよかった」

お母さんは何度も何度もそう言うと私を撫でた。

お母さんの姿を見ていると私の気持ちも落ち着いてきた。

すると先程私を庇った父の事が少し心配になる。

「まー」

私が声をかけるとお母さんはハッとして私を凝視する。

「い、今なんて?」

私は恥ずかしいがもう一度「まー」とお母さんのことを呼んだ。

声は出せるようになっていたがどうしても今のお母さんを呼ぶのが恥ずかしかった。

ここまで愛情表現してくれて大切に育ててくれたお母さんに母と認識はしていたが何となくむず痒く呼べずにいた。

しかし今は大丈夫、その人は私のお母さんだ。
そう思えた。

「まー」

もう一度と呼ぶとお母さんは嬉しそうに破顔してさらに涙を流し私を抱きしめた。

「私の事をママと呼んでくれたのね」

「うー」

コクっと頷く、そして次の言葉を伝えた。

「ぱー」

「え?  もしかしてパパ?」

「うー」

私はコクっと頷いた。

「パパと呼んでくれるのね」

お母さんは自分が呼ばれた時以上に喜んでいる。

「パパは大丈夫よ」

「うーうー」

私は嫌だと首をふった。

あの父は身を呈して私を助けてくれた、私のあんなに態度にも怒ることなく付き合ってくれた。

そんな人があの父と同じ事をするとは思えなかった。

「ぱー」

私はもう一度お父さんと呼んでお母さんを見つめる。

その姿にお母さんは優しく微笑んだ。

「お父様に会いに行きたいのね」

「うー!」

私はそうだと強く頷いた。

お母さんは私を抱き上げると外の人に声をかける。

聞けば鳥は無事に外に移動されて今は屋敷の片付けにおわれているようだ。

「あの人ところに行きたいの」

「ですが奥様」

外で戸惑う声が聞こえた。

「大丈夫よ、近くの兵士達は下がらせておいて」

「わかりました」

声が遠のくとしばらくしいつものメイドさんが顔を出した。

「奥様、ラーミア様」

私の顔をみてホッと微笑む。

「ラーミアは大丈夫よ、それであの人は?」

「今部屋にて手当てをされています」

「部屋に主人だけにしてくれる?」

メイドさん察したのかただいまと部屋を飛び出し行った。

しばらくして息荒く戻って来ると私達を先導してくれる。

初めて行く道に私はキョロキョロと興味深く周りを観察した。

「ふふ、ラーミアはこの道は初めてよね」

「うー」

私が返事をするとメイドさんが驚いて振り返る。

「ラーミア様がお言葉を!?」

「そうなの、さっきママと言ってくれたのよ」

「奥様!」

メイドさんは嬉しそうに目をうるませている。

なんか空気を読んだ方がいいかと私は「まー」ともう一度言ってあげた。

するとお母さんは得意げに「ね!」とウインクしてメイドさんはさらに泣き出してしまった。

こんな事ならもっと早く喋ってあげればと私は申し訳なく思った。
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