収容所生まれの転生幼女は、囚人達と楽しく暮らしたい

三園 七詩

文字の大きさ
上 下
165 / 180
連載

シン国

しおりを挟む
『ガチャ!』

「鈴音さん!」

 俺は思わず大きな声で言ってしまう。
 鈴音さんは、少し微笑みながら声を掛けて来る。

「比叡さん…。こんばんは」

「はい! こんばんは!!」
「あっ、汚い所ですが、どうぞ!!」

「では…お邪魔します」

 俺が招き入れると、鈴音さんは素直に、中に入ってくる。
 凄く嬉しいが、大丈夫なのか?

「あっ、お茶用意しますね!」

 俺は押し入れから座布団を引っ張り出して、俺の対面に成る場所に座布団を置く。

「あっ、お構いなく!」

 鈴音さんはそう言うが、折角来てくれたんだ。
 紅茶のティーバッグを戸棚から取り出して、紅茶を入れる準備をする。
 数分後……。鈴音さんの手元と俺の座る場所に紅茶を置く。

「ミルクは粉末タイプですか…、砂糖も白砂糖しか無いので……」

 俺はそう言いながら、テーブルに粉ミルクと砂糖を置く。
 鈴音さんは、ミルクと砂糖を入れてミルクティーにする。俺も折角だから同じようにする。

「では、いただきます」

 鈴音さんは食事前の挨拶をして、ミルクティーを飲む。

「ふぅ」

 鈴音さんは軽いため息をつくと……

「比叡さん…。今回は残念でしたね…」

 少し寂しそうな表情で鈴音さんは言う。

「今まで、順調だった罰が当たったのですよ…」

 俺はそう言いながら、ミルクティーを飲む。

「でも、大丈夫ですか…?」
「こんな時間に、1人で俺の所に来て…」

「大丈夫ですよ!」
「この地区は防犯もしっかりしていますし!」

 鈴音さんは一瞬笑顔に成るが、直ぐに暗い表情に成る。

「比叡さん……今後は、どうするおつもりですか?」
「やはり……引っ越しされるのですか?」

 鈴音さんは更に、暗く寂しそうな表情で言う。
 俺だって、鈴音さんの近くには居たいが……

「そうするしか無いのが現状です」
「この町は山本さんの影響力が大きいから、俺が抵抗しても潰されるのは目に見えてます」

「!!」

 鈴音さんは少し驚いている。

「そうですか…」

 鈴音さんは、諦めた顔つきに成ってしまった。

「鈴音さんに一応報告して置きます…」

「?」
「何をですか…?」

「稀子に…、縁を切られました!」

「えっ!?」

「稀子の奴!」
「保育士養成学校が不合格に成ったのを知った途端、俺を捨てて山本さんに乗り換える気満々です!!」
「鈴音さんも気を付けて下さい!」

 俺はそう言うが、鈴音さんは冷静にミルクティーを飲んでいる……

「稀子さん…。そう来ましたか!」

 鈴音さんの表情が変わる。

「えっ…!?」

「稀子さんは自分に非が無いように、比叡さんを捨ててまで、孝明さんと一緒に成りたいのですね!」
「ですなら、私も良いですね…?」

「……何が良いのですか?」

 すると、鈴音さんはいきなり、微笑みながら言ってくる。

「比叡さん!」
「私達、付き合いましょう♪」

「えっ…えぇ~~~!!」
「なっ、何を言って居るのですか?!」
「鈴音さんは、山本さんと関係が有るでしょ!!」

「えぇ…関係は有りますが、婚姻関係までは発展していません!」
「恋人関係でも、冷め切ってしまった恋人関係では、恋人とは言えません!」

「鈴音さんが良くても、山本さんが……」

「今回の稀子さんは、全然ボロを出しません!」
「稀子さんも賢くなりました!!」
「つい最近までは、1週間でボロを出していたのに…」

 稀子は色々と、山本さんが稀子に振り向く事をしていたらしい。
 そんな事をしていれば、山本さんは当然、稀子を“子ども扱い”するよな。

「それに今回……比叡さんを完全に追い詰めた、山本さんを私は許せません!」
「私が山本さんの立場なら、比叡さんを絶対に助けます!」
「食費を免除したり、この町の児童福祉施設を回って、比叡さんの機会を探すのが普通です!!」

 鈴音さんはそう言うが、普通の人は絶対に其処まではしない。
 しても、相手の愚痴を聞いて終わりで有る。
 それが出来るのは、相手の事が本当に好きで無いと出来ない……んっ、それは俺の事を鈴音さんが好き!?

「そう言ってくれると、すごく嬉しいです」
「でも……」

「大丈夫です!」
「私に任せて下さい!」
「山本さんのお母様も協力してくれますし、もちろん、孝明さんには内緒です!!」

「気持ちは凄く嬉しいけど……どうして、そこまでしてくれるの?」

「困っている人を助けるのは、当たり前じゃ無いですか!!」

 まぶしい笑顔で鈴音さんは言う。この人は本当の女神様だ!!
 どん底で、鈴音女神様の奇跡の手が、差し伸べられた瞬間だった……

「ですから、私にお任せ下さい!!」

「本当に良いの……鈴音さん」

「比叡さん!」
「さん付けで無くて、呼び捨てで良いですよ!」
「私は比叡さんが人間的に好きだから、助けるのです!」

「助けて貰えるのは凄く嬉しい……ありがとう鈴音さん」

「ですから、鈴音で良いですよ♪」

「俺より、遙かな大人の人を呼び捨てには出来ません……」
「却って俺の方を呼び捨てで呼んで下さい。『おぃ、比叡!』で十分です。

「年上の人にそんな事は言えませんわ!」
「じゃあ、今からその部分を話し合いましょう!!」

 鈴音さんの手に依って、俺はどん底から這い上がれそうだ!
しおりを挟む
感想 244

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。