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6巻

6-3

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 ◆


「さすがにみんな動きがいいね」

 試合を見ながら、隣にいるベイカーさんとデボットさんにのんびりと話しかける。

「あっ! そこじゃねぇよ、くそー、俺も出来たらなー」

 ベイカーさんは加わりたいのか、試合を見てうずうずしている。

「なかなか当たらないね。皆取るのが上手いなー」
「あんな速いボールをよく取れるよな」

 デボットさんがあれに当たったらと想像してブルッと震える。

「あっ、第四部隊のBチームが勝ったみたい。第一部隊のAチームは負けちゃったね」

 紙に作ったトーナメント表のAチームを太い線でなぞる。

「あっミヅキ、二番コートも終わったぞ。第三部隊のBチームの勝利だ!」
「はーい」

 カキカキ!

「三番コートは第一部隊のBチームが勝ったぞ」

 コジローさんが教えに来てくれた。

「四と五番コートも決まったな。第二部隊のAチームと第五部隊のBチームだ」
「凄いね、各部隊一チームは残ってるね!」
「ちょっと休憩したらまたクジを引こうね、ここから隊長チームが入るよ!」
『えー!』

 勝利チームからブーイングが出る。

「勝てっこねぇよ!」
「無理だよ、あの人達、人間じゃねぇし!」
「そうだ! 野獣だ!」
「バケモンだ!」

 ここぞとばかりに悪口が飛び交う。

「てめぇら、言いたい放題言いやがって覚えてろよ!」

 アラン隊長が「文句を言ったやつ前にでろ!」と大人げなく騒いでいる。

「大丈夫ですよ、隊長達は五人で一チームにするから。しかも、皆のチームには各部隊の副隊長に加えて、ベイカーさんとコジローさんが入ります!」
「えっ? あと三チームは?」

 計算が合わないと不安そうにしていた。

「助っ人が来てくれています! レオンハルト王子とユリウスさんにシリウスさんです!」
『えっえぇー!』

 私の紹介のあと王子達が皆の前に現れた。

「皆練習ご苦労! 今回は途中からだが、俺達も参加させて欲しい!」

 王子がチラチラと私の方を見ながら皆に声をかける。

「なんで王子がいるんだ?」

 ベイカーさんがコソッと話しかけてきた。

「ユリウスさんとシリウスさんを誘ったらついてきた……」

 諦めて真顔で答える。本当ならユリウスさんとシリウスさんだけでよかったのだが、レオンハルト王子は二人を貸すなら自分も行くと言って聞かなかったのだ。
 レオンハルト王子は挨拶もそこそこに私の側にやってきた。

「ミヅキ、久しぶりだな! あの弁当はすごく美味しかった。ありがとう」

 キラキラの笑顔でお礼を言ってくるが、一瞬なんのことかわからなかった。

「お弁当? あっ、お弁当ね! 確かユリウスさんとシリウスさんにもあげたやつだね」

 私が白々しく答える。
 あれはシリウスさん達に作ったものだ。
 そんな私の思いに気がつかず、レオンハルト王子は瞳をキラキラさせて熱弁してくる。

「あの玉子焼きはすっごく美味しかった!」
「あー、あれね。コハクをイメージした狐の玉子焼きですね!」
「えっ狐?」
「そう、狐のコハク! こう、耳があったでしょ?」

 私はコハクを呼ぶと抱き上げて王子によく見せる。

「見て下さい、可愛いでしょ。この大きな耳をイメージしたんだよ!」
「狐……あれはハートでなくて狐……」

 王子がブツブツと呟いている。ユリウスさん達をチラッと見ると苦笑していた。

「シリウスさん、ユリウスさん、今日は来てくれてありがとうございます。ドッジボールのルールはわかる?」
「ああ、予め聞いておいたから大丈夫だ」

 シリウスさんの答えに同意するようにユリウスさんも頷く。

「レオンハルト王子は平気?」
「あ、ああ、大丈夫だ……」

 全然大丈夫じゃなさそうにしょんぼりと答える。
 まだハート形の玉子焼きのショックから立ち直っていないようだった。

「じゃ、皆揃ったところで、どのチームに入るか決めるクジを引きまーす! ベイカーさん達はこっちのクジを引いてね」
「よし!」

 ベイカーさんが箱に手を突っ込んで紙を一枚取り出し、中身を確認する。

「第五部隊のBチームだ!」
『よっしゃー!』

 第五部隊が立ち上がって喜んでいる。
 次にコジローさんがクジを引くと「第三部隊のBチームです」と紙を見せた。

『よっし!』

 第三部隊も小さく喜んでいるが、その様子を見て他の部隊がハラハラしだした。
 次にシリウスさんが第一部隊のBチームを引く。

「残りは第二部隊のAチームと第四部隊のBチームだね」

 ユリウスさんが箱に手を入れると両チームがゴクッと息を飲んだ。ユリウスさんが紙を開く姿に注目が集まる。

「第二部隊ですね」
『やったー!』

 第二部隊は優勝したかのように雄叫びをあげる。
 対して第四部隊はお通夜のようにガックリと肩を落としていた。

「俺は第四部隊だな!」

 そんな部隊兵達の様子に気がつかず王子が喜んでいると、オリバーさんが私の所にやってきた。

「ちょっとミヅキちゃん、これはないよ。せめてレオンハルト様じゃなくて、アルフノーヴァさんを連れてきてよ!」

 オリバーさんが真剣に頼み込むと、後ろで同じ部隊の皆がお願いしますと手を合わせている。

「今更あのやる気満々の王子に抜けてって言える?」

 レオンハルト王子を指さして見ると、周りが仕方なくはやし立てて王子が一人喜んでいた。

「いや、そりゃレオンハルト様も子供にしたら結構凄いよ。センスもあるし……」

 オリバーさんが慌てて取り繕う。

「だ、け、ど! あの人達の代わりにはならないでしょ!」

 そう言ってベイカーさんやシリウスさん達を指さした。まぁ、それはそうだけど……

「じゃあ、シルバはさすがに強すぎるから……代わりにデボットさん出る?」

 デボットさんはいきなり言われて慌てて首を横に振った。

「馬鹿言え! 俺は無理だ!」

 絶対嫌だと拒否をする。

「なら、コハクを付けるのはどうかな?」
「この従魔か?」

 足元にいた、可愛いコハクを抱き上げた。

「うん! すばしっこいし、可愛いし、モフモフだよ!」
「後半は試合に関係ないよな……でもまぁ、いないよりいいな、頼む」

 オリバーさんはよろしくっとチームに戻って行った。

「第四部隊はオマケにコハクも付けるよ! 当てるの大変だから頑張ってね!」

 コハクが入ったことを皆に伝えると第四部隊の顔が少し明るくなった。

「いらないんじゃないか?」

 しかし、当のレオンハルト王子が余計なことを言うと第四部隊の皆の笑顔が凍りついた。
 怖い怖い! このままだと第四部隊の皆が可哀想なので王子をキッと睨みつける。

「レオンハルト王子! 私のコハクがいらないって酷くない!」
「い、いや別にそういう意味じゃ……そうだな従魔がいれば助かるな」

 周りがホッとすると気が変わらないうちに各チーム作戦タイムに入った。
 さぁー、どのチームが勝つかな!? ふふふ楽しみだ! 


 ◆


「三試合目、第四部隊Bチーム対第五部隊Bチーム!」

 第一試合、第二試合が終わり、やっと順番が回ってきた王子とベイカーさんが出てきてじゃんけんをする。

「王子、じゃんけんは知ってますか?」
「もちろんだ! 兵士達の間で流行っているからな」
「それを教えたのミヅキですよ」
「なに、本当か? さすがミヅキだなぁ」
「ちなみに、そのミヅキの保護者は俺ですよ。つまり、ミヅキと仲良くなりたいのならこの俺の承諾を得てもらおうかな!」
「なんだと!?」

 何勝手なこと言ってんだか……私は大人げない二人の会話に呆れている。

「まずは、ミヅキと仲良くなりたいなら強くなくちゃいかん!」
「強く?」
「何かあった時にミヅキを守れるようにな!」

 自信満々にベイカーさんが説明している。そんな姿にデボットさんが「初めて聞いたな」と私を見下ろした。

「ミヅキより強い奴なんているのか?」

 デボットさんが心当たりがないと首を傾げる。

「はぁ! そこ!? ほとんどの人が私より強いに決まってるよね、デボットさんにだって腕相撲で負ける自信あるよ」
「なんの自信だよ! なら王子も大丈夫になっちまうぞ」

 それは不味い……

「そ、そうだね。まぁ、私はあんまり強くはないけどベイカーさんくらい強いと心強いなぁ」
「ベイカーさんくらいだと? そんなやつ限られるくらいしかいないだろう」

 部隊兵達は私達の会話に苦笑していた。

「だからこの勝負で俺に勝ってみろ! そしたらミヅキの側に(たまに)来ることを許可してやろう!」
「ベイカーさん、何を勝手なことを」

 さすがにコジローさんが止めようとする。

「いや待て、ベイカーさんだろ? さすがに王子でも勝てないだろ」

 デボットさんは賛成なようで「ミヅキはどうだ?」とこちらを振り返る。
 私はこめかみをピクピクさせながら笑顔を見せた。
 その姿にコジローさんとデボットさんがビクッとして後ずさる。

「や、やはり勝手に決めるのはよくないですよね」
「ああ、後が怖いな……」

 二人はこの件には関わらないとでもいうかのように私の後ろに下がっていた。

「じゃ、始めるぞー! ボールは第四部隊からだ、外野がいやを決めて外に出ろ~」

 そんな私の気持ちなどお構いなしに試合は進んでいく。アラン隊長が声をかけると、両チームの副隊長と部隊兵一人ずつ外に出た。

「もう! ベイカーさんは勝手なことばっかり言って、後で覚えてなよ! 負けたら許さないからね」

 私が叫ぶと同時に試合がスタートした。
 ベイカーさんが早速王子を目掛けてボールを投げる。隊長達に負けない速度の剛球が王子の目の前に迫っていた。
 誰もが王子は終わった……と感じた。
 しかし、黄色い毛玉がボールを包んだと思ったら、勢いを活かして投げ返した。

「ぐはっ!」

 球はベイカーさんの隣の部隊兵を目掛けて返ってきた。

「コハク?」

 私がびっくりしていると、黄色い毛玉……そう、コハクがタシッ! と地面に着地した。


【上手いな、ベイカーの球の威力を活かした攻撃だ】
【コハク、今のどうやったの?】

 私には一瞬のことでわからなかった。

【尻尾を使って、器用に玉の軌道をずらして投げ返したようだ】

 それってカウンター攻撃?
 さすがのベイカーさんも思わぬ伏兵にびっくりしている。

「おお、凄いなお前!」

 王子がコハクを褒めようと手を伸ばしたが、ペシッと尻尾で手をはたかれた。

「ミヅキちゃんから従魔を入れると言われた時はどうかと思ったが、この子は使える!」

 オリバーさんはコハクの器用さにニヤッと笑った。

「コハク凄ーい! カッコイイよー」

 私は思わずコハクに黄色い声援をおくった!

「ミヅキいいのか、王子達が勝ったら不味いだろ」

 王子が側に来ることになるぞとデボットさんに言われてハッとする。

「で、でも、コハクの応援もしたいし……。もう、ベイカーさんのせいで思いっきり応援出来ないよ! もういい、ベイカーさんが負けたら、女装させてベイコとして王子とデートさせてやる!」

 だから、思いっきり応援したい人を応援するんだ!

「コハク~、頑張って~」

 私の声にコハクがピョンピョンと嬉しそうに跳ねている。

「羨ましい……俺もかっこいいところを見せるぞ! ボールを寄こせ!」

 渋々オリバーさんがレオンハルト王子にボールを渡した。
 レオンハルト王子はボールを手にすると、ベイカーさん目掛けて思いっきり投げる。隊長達の剛球とはいかないが、まずまずの威力のボールだ。
 しかし、ベイカーさんは「パシッ!」と軽く片手でキャッチする。
 そしてコハクの場所をチラッと確認した。

「セシル!」

 ベイカーさんがパスとは思えない速さのボールを投げ、セシルさんが危なげもなくキャッチして目の前にいた相手をアウトにする。

「そうだセシルもいたんだ! おい、ベイカーさんとセシルに注意しろ」

 オリバーさんが内野ないやの面子に声をかけるが既に遅く、次々にアウトにされていく。

「復活します! ちょっと時間貰えますか?」

 オリバーさんが慌てて宣言して内野ないやへと戻り、やられっぱなしの流れを止めた。
 第四部隊は王子、コハク、オリバーさんともう一人が残るのみとなっていた。

「コハクくん、僕の言葉がわかるかな?」

 オリバーさんが話しかけるとコハクがピョンピョンと跳ねる。
 可愛らしい様子に皆が笑顔になった。

「ベイカーさんが外野がいやにパスを出す時は攻撃よりも多少ボールの威力が落ちる。それを狙ってボールを奪えるかな?」

 コハクはじぃーとベイカーさんを見ると、くるんと跳ねてやる気を見せる。オリバーさんはそれを了承と捉えたみたいだ。

「よし、せめてベイカーさんくらい当ててやろう。頑張るぞ!」
「「「おー!」」」
「そろそろいいかー? 再開するぞー」
「お願いします」

 オリバーさんは囮となるべくセシルさんが当てやすそうな位置に行く。ベイカーさんがチラッとオリバーさんのいる位置を確認した。
 ビュン!
 オリバーさんの思惑通り、ベイカーさんはセシルさんにパスを出した。
 今だ!
 コハクが待ってましたとばかりにベイカーさんが投げたボールを尻尾で巻き付けてキャッチした。

「げっ!」
「いいぞ! コハクくん」

 コハクはオリバーさんにボールを持って行くと目の前に置いた。

「コハクくん、今度は僕が思いっきり君にボールを投げる。それをさっきみたいに威力を流してベイカーさんに打ち込めるかい?」

 任せろ! とばかりにコハクが「キャン!」と鳴いた。

「よし、反撃だ!」

 オリバーさんは線のギリギリまで下がると前に向かって助走をつけてボールを投げる。そのボールにコハクがさらに勢いを付けるとベイカーさん目掛けて飛んでいった。

「くっそ!」

 急に速度が上がったボールをベイカーさんは抱き込むように腕で掴むが回転が止まらない。腕の中で暴れ回るボールを必死に押さえ込んでいる。

「ふぅー危ねぇ! まぁまぁいい作戦だったな」
「くっそ、あれでもダメなのか」

 オリバーさんが悔しそうにしていると「隙あり!」とベイカーさんが王子に目掛けてボールを投げた。唖然としていた王子は避ける暇もなくボールに当たり、しかも弾かれたボールにもう一人の部隊兵も当たってしまった。

「ミヅキ、いまのは?」

 アラン隊長がルールを確認してきた。

「今のは両方アウトです。当たっても落ちる前にキャッチ出来ればセーフなんだけど……」
「よっし! あと二人だな」

 ベイカーさんがニヤッと笑う。オリバーさんは粘ってボールを避けていたが最終的に当てられ、残りはコハク一匹となってしまったので第五部隊の勝利となった。

「王子、もう少し強くなって出直して来て下さいね!」

 ベイカーさんが高笑いすると、レオンハルト王子は悔しそうに地面を叩いていた。

「どうだ、ちゃんと勝ったぞ!」

 ベイカーさんが嬉しそうに私の元にかけてきた。

「ベイカーさん、なんで勝手なこと言うの? もし負けてたら、ベイカーさんに責任取ってもらう所だったよ!」
「負けるわけねぇじゃん、しかもミヅキのことがかかってるんだぜ、何がなんでも勝ってみせるよ」

 くっ! ベイカーさんの言葉に思わず胸がキュンとなる。

「まぁ、さっきのコハクのボールを取ってる姿がかっこよかったから、今回は許してあげる」

 赤くなる顔を隠すようにぷいっと横を向いた。

「ああ、ありがとうな」

 ベイカーさんがあやすように頭に手を乗せてポンポンと叩く。なんか悔しい! 恥ずかしくなりながらもベイカーさんの大きな手を振り払おうとは思えなかった。


 ◆


「勝ち残ったのは、第一部隊と第五部隊と隊長チームだな」

 これまでの試合結果を確認する。

「では続いて、第一部隊Bチーム対第五部隊Bチームだ。とりあえず部隊一位を決めよう」

 アラン隊長の言葉に部隊兵達が頷く。

「連戦になるがいいか?」
「もちろん。さっきの試合もほとんどベイカーさんが動いてたからな~」
「そうですよ、こっちにもボール回して下さいよ!」

 ベイカーさんが全然活躍出来なかった第五部隊の兵士達から文句を言われる。

「なら自分でボールを取れよ!」
「いやぁ~、ユリウスのボールは任せますね」

 よろしくと調子よく肩を叩かれる。

「お前ら~! セシル、俺今回は外野がいやに行くぞ」
「えっ? あっはい、わかりました」
『えぇぇ~!』
「俺は外から攻撃するから、お前ら踏ん張って球取れよ」

 そう言ってベイカーさんはサッサと外野がいやに行ってしまった。

「どうする、あと一人の外野がいやは?」

 皆で顔を見合わせると我先にとセシルさん以外の全員が手をあげた。

『はい!』

 その様子を見ていたアラン隊長が青筋を立てて皆を睨みつける。

『げっ』
「セシル、お前が外野がいやだ! 第五部隊必ず一人一回はボールを取れよ。取れなかったら……わかってるな!」
『わ、わかりました!』

 アラン隊長の怒り心頭の顔に皆が返事をする。

「やべぇよ、アラン隊長本気で怒ってるぞ」
「ここはキッチリやってる所を見せないとな」
「じゃないとあのことを……」
『バラされる!』

 どうやら皆アラン隊長に弱みを握られているようだ。

「よし! 死にものぐるいでボールを取るぞ」
『おー!』

 第五部隊は、異様なまでのやる気のおかげか、見事試合に勝利した。

「アラン隊長、いったい皆のどんな秘密を見たの?」

 気になってアラン隊長に聞いてみた。

「アイツらの部屋をたまに抜き打ちで突撃訪問すんだよ。完全に油断してる時を見計らってな、そしたらこの間ロブなんて、下着姿で……」
「わぁー! アラン隊長、ミヅキちゃんになんてこと言うんですか! ちゃんと俺ボール取りましたよ」

 秘密をバラされそうになったロブさんが大声でアラン隊長に突進するが、ひらっと避けられる。

「次の試合、俺達に負けたらミヅキに全部バラすからな。ベイカー! お前もだぞ」
「えー! 俺は練習に参加したからいいだろ」

 完全に他人事だと笑っていたベイカーさんが焦りだした。
 ベイカーさんの秘密……気になるなぁ。
 ツンツンツン。
 アラン隊長の服をそっと引っ張ると、「アラン隊長、ベイカーさんの秘密ってなーに?」と下から覗き込むようにあざとく聞いてみる。

「よしよし、特別に教えてやるぞ。あのなぁ、昔俺達が……」

 アラン隊長が話しだすとベイカーさんが慌てて止めに来た。

「おい! 鼻の下伸ばしてバラしてんじゃねーよ!」

 ベイカーさんがアラン隊長目掛けて突っ込んだ。

「勝てばいいんだろ、勝てば! お前ら絶対に勝つぞ!」
『おー!』

 第五部隊の己自身の尊厳そんげんを守る戦いが始まった。

「じゃこれから隊長チーム対第五部隊Bチームの試合を始めます」

 アラン隊長とベイカーさんが気合いの入ったじゃんけんをする。

「よし!」
「ベイカーさんいいぞー!」

 ベイカーさんが勝って第五部隊がボールを取った。第五部隊の外野がいやにはセシルさんとトニーさんが、隊長チームの外野がいやにはガッツ隊長とミシェル隊長がでた。

「それではドッジボール最後の試合を開始します」

 ノーマンさんの合図と同時に、ベイカーさんが思いっきり助走をしてタナカ隊長目掛けてボールを投げた。
 ベイカーさんの大きな手はボールをしっかりと掴んでいて、指の一本一本にまで力を込めて放たれたボールの回転数は凄まじく、ギュルギュルと音を立ててタナカ隊長へと向かっていった。
 タナカ隊長が構えてボールを掴むが回転がかかっていることで腕や手が高速で擦れる。

「あっちぃ!」

 摩擦の力で火傷したような状態になったのか、タナカ隊長はボールを落としてしまった。

「タナカ隊長アウト!」
「しまった」
「止まって~! タナカ隊長の怪我の手当てします!」

 私がドクターストップをかける。

「こんなの舐めときゃ治る。手当てなんざいらねえよ!」

 タナカ隊長が強がるが構わずに手を引っ張った。

「だめ、早くタナカ隊長こっちきて!」

 言うことを聞いてくれないタナカ隊長に怒った声を出す。


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