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4巻

4-3

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 ブスターが私が来た事を聞いて部屋へと入ってきた。

「ブスター様に見せたいものがありまして……もしよければお抱えの魔法士も呼んでいただけますか?」

 ブスターは怪訝けげんな顔をしながらも従者に魔法士を呼びに行かせる。
 少しして魔法士が来ると先程の石を取り出した。

「実はこんな物を手に入れまして……」
「こ、これは!」

 魔法士は手を伸ばして触れる直前でピタッと止まる。

「こんな大きな魔石をどこで?」

 魔法士の言葉にブスターも驚く。

「なに? これが魔石なのか、なんだか色が汚いな」

 初めて見る魔石の色にブスターが疑いの目で見つめる。本来魔石はその属性の色を宿しているのだ。火なら赤、水なら青、土なら黄色といったように……

「黒い魔石なんて初めて見たぞ。この大きさだとどんな魔物から取れるんだ?」
「子供が森で拾ったそうです。しかしその価値に気がついていないようだったので銀貨一枚で買い取ってあげました」

 ふふふとその時の事を思い出しておかしくて笑った。

「はっ! ビルゲートに売ったなんて可哀想な子供だな」

 ブスターもつられて笑っている。

「ちゃんと石に魔力が通っているので魔石なのは間違いありませんが、何か普通と違うように感じます」

 魔法士が魔石を見ながら冷や汗を流している。

「これを使うのはあまりおすすめしません」

 そう言ってブスターに忠告した。

「この大きさなら今やっている実験にも代用出来るんじゃないのか?」

 どうなんだ!? とブスターは魔法士を追い立てる。

「しかし……」

 魔法士はなかなか頷かない。

「確かお前、娘がいたよな?」

 ブスターがニヤッと笑いながら舌なめずりをすると、魔法士の顔色がサーッと青ざめた。

「すみません! すみません! この魔石を使って必ず今の実験を完成させます! だから家族には手を出さないで下さい!」

 震えながら地面に頭をつけて懇願した。

「最初っからそう言えばいいんだよ。だが……失敗したら分かってるな?」

 ブスターが魔法士を睨むと、青い顔を更に青くしてゴクリと生唾を飲んだ。

「必ず……成功させます」
「では、お買い上げで大丈夫ですか?」

 私は商売人の顔になってにっこりと微笑んだ。

「ほらよ!」

 ブスターが袋に入ったお金をドサッと机に放り投げた。私はその重そうな袋を笑顔で受け取る。

「また何かありましたらよろしくお願いします」

 恭しく挨拶をして屋敷を出ていった。


 ◆


「君はあの時の……」
「石を買ってくれたお兄さん? なんか変わった?」

 私の顔を覗き込んで首を傾げる。変装していたが、私の事が分かったようだ。

「ああ、ちょっとね。それよりこんな所でどうしたんだい?」

 さっさと話を切り上げてどこか遠くヘ行きたいと、私はソワソワしてしまう。

「さっきお兄さんの声が聞こえて……なんか大変そうだったからどうしたのかと思って。あの時優しくしてくれたから僕でよければ力になるよ!」

 子供が優しく言葉をかけてきた。

「いや、急いで王都を出たいんだが今なにか事件があったみたいで門を通れなくてね。心配ないよ、ありがとう」

 商売用の笑顔を向けてさっさと立ち去ろうとしたところ、子供から今一番聞きたかった言葉をかけられる。

「僕、抜け道知ってるよ! その先に、前に拾った石も沢山あるんだ!」

 私は歩き出した足をピタッと止めた。

「それ、本当かい?」

 にっこり笑って子供に近づいていく。子供が本当だよ! と薄暗い道の先を指さした。

「この道を真っすぐ行った先に王都から森に行ける穴があるんだ……そこを抜けるとあの石があるんだよ」

 凄いでしょ! と無邪気むじゃきに胸を張る子供に優しく声をかける。

「もしそこに案内してくれたら……報酬を支払うよ。どうかな?」
「ほうしゅう?」

 子供がよく分からないと首を傾げた。

「うん。お金でもいいし宝石でも食べ物でも、君が望む物をあげるよ」

 ここを抜け出せるなら安いものだ……私はほくそ笑んだ。

「なら僕、欲しいものがあるんだ! それでもいい?」

 子供が貰えるかと心配そうに聞く。

「なんだい? 私が払える物かな?」
「うん! お兄さんが持ってる物で欲しいものがあるの! それでもいい?」
「お金かい? 持ってる分で足りるといいけどなぁ」

 意外とがめついのかと心配して袋の中身を確かめた。

「ううん。お金じゃないんだ!」
「じゃなんだい?」
「それはお兄さんが外に出てから教えてあげる。でも絶対に持ってるモノだから大丈夫だよ」

 子供は自信満々に答えた。

「もし、無理なら道を教えるのは諦めるよ」

 残念そうにシュンとして下を向いてしまった。それは困る! 私は慌てて子供の望む通りに答えた。

「私に払えるならなんでも払う。だからその条件でいいぞ!」

 その言葉に子供がホッとして喜んでいる。

「じゃ案内するね!」

 子供がスキップするように前を歩いて行くのを見て、私はほっと胸を撫で下ろした。所詮は子供だな……もし凄い金額を要求されたら、この子には悪いがどこかに置き去りにしよう。
 私は上手くいったとニコニコ笑いながら子供の後を歩き暗闇の中へと入っていった。
 私は子供の後をただひたすらついて行った。こんな暗い道をよくもまぁ、灯りもなしに歩けるもんだ。不審に思いながらも、今はこの子供だけが頼りだった。

「まだ着かないのかい?」

 結構歩いたと思うが一向に何も見えてこない、さすがに気味が悪くなり子供に問いかけた。

「あれ? 疲れちゃった?」

 子供がキョトンと首を傾げて聞いてくる。

「いや、まだ歩けるが、こう暗くちゃどこなのか全然わからなくてねぇ」

 疲れたとは思われたくなくて言葉を濁した。

「ふーん……まぁここら辺でもいいかな」

 子供がボソッと何か言ったが上手く聞き取れなかった。

「なんだい?」

 愛想良く聞き返すが、子供は無視して笑顔で先を指さす。

「もうそこを曲がればすぐだよ、あの石があるよ!」

 ゾクッ……何故か子供の笑顔に悪寒おかんが走った。

「そういえばお兄さん、約束覚えてる?」
「約束?」
「案内したら僕の欲しいものをくれるって約束だよ」

 そう言えば言っていたな。

「ああ、何がいいんだい?」

 二人で並んで話しながら先へと歩いていく。子供はポケットからあの黒い魔石を出した。

「何故それを……!?」

 子供の行動に警戒して一歩離れた。

「僕ねぇ……この魔石が欲しいんだ」
「そ、その石を魔石だと分かっているのか!?」

 私は子供から更に距離を置こうと後ずさる。

「お前は一体……」
「僕? 僕は僕だよ。それよりもお兄さん、約束を守ってもらうよ」

 そう言うと私に手のひらを向ける。そして何か呟いたと思ったら足元に魔法陣が現れた。

「な、何をする。待て! なんでもするから助けてくれ。そうだ、お金は? 食べ物は? なんでも用意してやるから!」

 魔法陣から出ようとするが足が張り付いたように動かない!

「うん、なんでもくれるんだね! じゃあ、お兄さんの命を貰うよ」

 そう言うと無邪気むじゃきな笑顔で近づいてくる。

「や、やめろ! 来るな!」

 どう足掻いても足が動かない。

「ふふふ、さぁお兄さん口を開けて」
「い、嫌だあ、あぁぁ!」

 勝手に口が開いていく、閉じたくても体が言う事を聞かない。まるで自分の体ではないようだった。ヨダレを垂らし涙を流しながら目で訴える、助けてくれと!

「がっ、ああぁぁぁっ!」
「なぁに? なんて言ってるのか分からないやぁ~」

 子供がクスクスと笑っている。

「じゃあお兄さん、これを食べてね!」

 そう言って黒い種のような物を取り出した。そして開いたままになっている私の口にほうり込む。

「飲め」

 ゴックン。

「がっ! ぎゃぁぁぁぁぁ!」

 種を飲んだ途端に腹に強烈な痛みが走った。転げ回りたいのに体が言う事を聞かない。

「腹が……腹が……」

 何かが突き破ってきそうな強烈な痛みに気を失いそうになる。

「グッわぁぁぁぁあぁぁぁ!」

 腹を突き破って黒い木のような物が生えてきた。

「ぎゃぁぁ! だずげでぇぇぇ!」
「あははは! お兄さんから木が生えた!」

 子供が愉快そうに笑っている。私の歪む顔を心底楽しんでいるようだった。
 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
 どんなに時間が経とうと痛みがずうっとついてくる、どんなに目をつぶっても気を失う事が出来ない。終わりのない痛みを繰り返す。

「ふふふ、その木はねぇ……お兄さんの魔力と血を栄養に育つんだよ。そして実をつけるまで成長を止めないんだ。し・か・も! お兄さんはその栄養源である間はずうーーっと意識を保ってられるんだよ! 凄いでしょ!」

 子供の説明に愕然とする。何なんだこれは、現実なのか、俺はどこで間違え……た?
 耐えきれなくなった……プチッ。

「は、ははは。ははは……」

 ビルゲートはヨダレを垂らしながら、焦点の合わない瞳で笑っている。
 もう自分を保つ事が出来なくなってしまったのだ。

「ちっ、つまんない。また壊れちゃったよ!」

 子供はビルゲートの顔をパチパチと叩いた。
 しかしビルゲートは相変わらず空を見つめて笑っている。

「クソー、次は壊れないような種にしないと……」

 ブツブツと言っていると、ビルゲートから生えている木が真っ黒い実をつけた。
 それに伴いビルゲートの体がどんどん干からびていく。

「クックック、さぁてどんな魔石が出来るかな?」

 ビルゲートの体がカサカサになり崩れると同時に、ポロンと木から魔石の実が落ちた。
 子供がそれを上手にキャッチする。

「はい、約束通り僕の欲しいものを貰うね。お兄さんありがとう」

 そう言うと子供は暗闇の中へと消えて行く。
 そこには白い灰になったビルゲートが風に飛ばされ空へと消えていった。

「さぁてと、今度は誰に渡そうかな」

 子供は高い崖の上から実験体はいないか探している。

〈ギャウギャウ〉

 ふふふ、いいモノみっけ!
 子供は悠々と空を飛ぶドラゴンに向かって走り出した。



   三 家族


「ミヅキ様、買った奴隷達が到着致しました」

 屋敷に戻りのんびりとしていた所にマリーさんが声をかけてくれた。

「はーい。ベイカーさんデボットさん、会いに行くよ!」

 二人の手を取り引きずるように急いで外に出る!

【シルバ、シンクも早く! 早く!】

 皆で外に出ると、連れてこられた奴隷達が不安そうな顔で固まって震えていた。

「ミヅキ、シルバが怖いんじゃないのか?」

 ベイカーさんがコソッと耳打ちする。

「えっ? こんな可愛いモフモフなのに?」

 私はシルバを撫でて納得出来ないでいると、シルバがしょうがないと側を離れようとした。

【俺は端にいる】

 私はそれを慌てて引き止めた。

【シルバ駄目! これから私の所で働くならシルバがいるのは当然なんだから慣れて貰わないと困る! 他の事は我慢出来てもこれだけは譲れない!】

 そう言うとシルバは私の側で大人しくなった。その尻尾は嬉しそうに揺れている。

「えーと……今日からあなた達の主人になったミヅキって言います。よろしくね!」

 私は極力明るく笑いかけるが反応が薄い……そんな中、奴隷達の中で一番小さい女の子が話しかけてきた。

「わたしとおなじぐらい……」

 縋るように私に向かって手を伸ばす。

「こら! ご主人様に勝手に近づいちゃ駄目!」

 女の子が近づこうとするのを一番大きな女の子が叱る。

「申し訳ありません、ご主人様……この子は小さいのでよく分かっておらず……罰なら私が代わりに受けます」

 大きな女の子は膝とおでこを地面について謝る。その左腕は手首から先がなかった。
 私は膝をついている女の子の左腕をそっと取ると両手で包み込んだ。

「ご主人様って言うのはやだなぁ、確かに私は皆を買ったけど……ご主人様になりたい訳じゃないんだ。これから働いて貰う事になるけど私の事はミヅキって呼んでね」

 そう言って安心させるように笑いかけた。

「ミヅキ……様?」
「うーん、様もいらないんだけどなぁ。どう見てもあなたの方がお姉ちゃんだし、まぁそれはおいおいね!」
「それは……命令ですか?」

 子供の奴隷達は生気のない顔を向ける。

「私は皆に命令はしたくない、自分の意思で決めて欲しい。だから私の言う事は全部、命令じゃなくてお願い……かな? したくない事はしなくていいんだよ」

 そう言って笑うが、皆は意味がよく分からないようで戸惑っている。
 奴隷なのに命令されないという矛盾についていけないようだった。

「とりあえず皆にはお風呂に入ってもらいます。その後に怪我の治療ね!」
【じゃシルバお願い!】
【ああ】

 シルバが吠えると庭の一角に大きな石が盛り上がって積み上がっていく。土魔法で即席の湯船を作って貰ったのだ。

【外から見えないように囲いも作ってあげて!】

 女の子が多いからそういう配慮もしてあげないとね!
 湯船を確認してからそこに水魔法で水を入れていく。

【シンク、火魔法で丁度いい温度にしてあげて!】
【了解!】

 シンクが調節しながら水の中に火の塊を落としていく。

【どうかな?】

 私は湯船の水をかき混ぜながらお湯の温度を測る。丁度いい湯加減になっていた!

【さすがシルバとシンクだね。ありがとう~】

 二人をモフモフして沢山褒めてあげた。

「この子達は私の従魔なの。とっても優しくて頼りになる子なんだよ! 困った事があったら頼ってね。きっと皆の力になってくれるから!」

 そう言って自慢のシルバとシンクを紹介する。

「二人が用意してくれたお風呂だよ。ここで体を洗って入ってね!」

 湯船の側におけを用意して洗う仕草をするが、皆戸惑って動かない。

「どうしたの? お風呂嫌い?」

 私が聞くと、先程の大きな女の子が代表して答えてくれる。

「いえ、お風呂なんて入った事なくて……本当に私達が入っていいんですか?」

 何か罰があるんじゃとビクビクしているようだ。
 私が先程の小さい女の子を手招きすると、とっとっとと側に寄ってきた。
 女の子の手を引き湯船の側に行くと服を脱がせて優しくお湯をかけてあげる。

「どう? 熱くない?」
「きもちいい……」

 女の子を見るとお湯の温かさに驚いている。石けんを用意して女の子の髪を洗ってあげる。しばらく何もしていなかったのだろう、絡まってなかなか汚れが落ちない。私は優しく優しく髪をとかしていく。

「次は体を洗うよ、さぁ皆も今みたいに自分の髪を洗ってみて」

 見ていた他の子達に声をかける。

「デボットさんも小さい子を洗ってあげて。ベイカーさんは服の用意をお願い出来る?」

 二人とも頷くと、デボットさんが小さい子に手招きする。

【シルバは皆がお風呂から出たら温かい風で乾かしてあげて】
【分かった、ミヅキが言うなら喜んで】

 私達はせっせと皆を洗っていった。
 皆を綺麗にすると、湯船を解体してもらう。シルバに頼むと一瞬で元の土に戻っていた。

「じゃ今度は屋敷に入るからついてきてね。歩けない子はシルバが乗せてくれるよ」

 足がない子も他の子と助け合いながらついてくる。屋敷の大きな部屋を借りて皆を座らせる。

「これからする事は絶対に内緒にしてね。お願いします」

 私は奴隷の子達に頭を下げてお願いした。奴隷の子達にどよめきが起きる。
 どうやら主人となる私が頭を下げた事が衝撃だったようだ。

【シンク、回復魔法でこの子達の手足を治してあげてね】
【分かった。この前デボットにかけて感覚は分かったから、前ほど魔力も使わないよ。でもとりあえず様子を見ながらだね。ミヅキが倒れちゃったら困るから】
【そうだぞ、そこは特に気をつけろ!】

 シルバからも注意されるのでしっかりと頷いておいた。
 部屋には奴隷達とシルバ、シンク、ベイカーさんだけにしてもらい、魔法をかけようとする。

「まずは……君からかな。お名前は?」

 一番最初に洗ってあげた小さい女の子に声をかける。

「…………」

 何も答えてくれないのでオロオロと困っていると、大きな女の子が話しかけてきた。

「私達名前は持っていません、奴隷に名前なんてありませんから」

 悲しい事を言われるが、この子達はなんとも思っていないのか平然としていた。

「そっか……じゃあ私が皆に名前をつけてもいい?」
「なまえもらえるの?」

 小さい女の子が首を傾げる、その仕草に思わずキュンとする。

「うん。皆もいいかな?」

 他の子も頷いてくれる。

「じゃあ、一番大きなお姉ちゃんから〝イチカ〟。二番目に大きなお姉ちゃんが〝ニカ〟。三番目のあなたが〝ミカ〟。四番目のあなたは〝シカ〟。五番目の君は男の子だから〝ゴウ〟。最後のあなたは〝ムツカ〟。皆でお揃いの数字の名前だよ。イチカが一番上のお姉ちゃん、皆きょうだいで私の家族だよ」
「ムツカ……わたしムツカ」

 自分の名前を確認しながら噛み締める。

「ミヅキ様、素敵な名前をありがとうございます」

 イチカが頭を下げた。

「気に入ってくれたら嬉しいな。じゃイチカちゃんからこっち来て」

 声をかけるとイチカが違うと首を振る。

「私達は呼び捨てで構いません」

 そう? まぁ家族になるしいいかな?

「じゃあイチカこっちに」

 そう言って手を差し出すと、躊躇ためらわずに私の手を取ってくれる。
 警戒が少し解けてきたようで嬉しくなる。

「これからイチカ達の傷を治すよ。でもこの事が人にバレると大変だから絶対に話さないようにね」

 そう言ってシンクを抱き上げて魔力を渡していくと、シンクは気持ちよさそうに目を細めた。

【ミヅキもういいよ、とりあえず何人か治していくね。まずはこの子でいいんだね?】

 シンクがイチカを見るのでそうだと頷く。

【ミヅキからの魔力を返すよ、癒しを……】

 シンクがイチカの左腕にくちばしを近づけると回復魔法をかけた。イチカの腕が直視出来ないほどに輝き、徐々に光が落ち着いていく……完全に光がなくなるとは綺麗に左手が戻っていた。

「わ、私の手が……手が‼」

 イチカが信じられないと自分の左手を触る……つねったり、叩いたりして何度も確認している。

「ミヅキ様! 私の手が戻ってます!」

 イチカが涙を溜めて私を見てきたので、良かったねと微笑み返す。
 イチカは膝をつき顔を両手でおおって泣き出した。声をあげて泣いている。
 私は泣いてるイチカの側に行くと優しくイチカを抱きしめた。

「よく頑張ったね。イチカは一番お姉ちゃんだったから、きっと沢山我慢したんだよね? でももう大丈夫だよ、イチカを傷つける奴は私が許さないから。絶対守ってあげるからね、だからもう我慢しなくていいんだよ」

 そう言って泣き止むまで優しく抱きしめてあげた。

「皆泣き疲れて寝ちゃったね」

 私は目を赤く腫らして眠るイチカ達を優しく見つめる。

「今までの待遇を考えると信じられない思いだろうよ、今ならよく分かる」

 デボットさんがしみじみ言う姿を凝視する。えっ、なんか親父臭い……じーっとデボットさんを見ていると決まり悪そうな顔で見つめ返してきた。

「なんだ?」

 デボットさんはぶっきらぼうな声を出す。

「どうしたの? デボットさん何だか一気に老けたよ、おじさんみたい!」
「うるさい!」

 ペシッと頭を叩かれた。

「なんだよー心配してるのにー!」

 ムッ! と頬を膨らませてデボットさんを睨みつけるとベイカーさんが私達の間に割り込み私を庇った。


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