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10章

564.アルバイト

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「じゃあ二人ともどうぞ、ごめんね少し汚いけど…」

リリアンさん達の家に上がると、確かに物がたくさん増えていた。

「もう、あの人がオイトにって色々買ってくるのよ…最近は怒って買うの禁止にしてるんだけどね」

見ると置いてあるのは確かに子供の服やおもちゃがほとんどだった。

「ルンバさんたら…」

ミヅキが困ったと顔を曇らせると

「でしょ、ミヅキちゃんからも言ってやってよ」

「ずるいよね!私だってオイトに買ってあげたかった!しょうがないなぁ…今度手作りの物持ってこようかな…」

「ええ!ミヅキちゃん?」

リリアンさんが驚いて目をまん丸にした。

リリアンさんからの切実なお願いにミヅキはプレゼントを断念すると…オリビアを紹介する。

「今度から町で暮らすオリビアです。ルンバさん達を紹介しようと思って連れてきました」

「オリビアです」

オリビアがペコッと頭を下げると

「オリビアちゃんね、リリアンよ。困った事があったらいつでも相談に来ていいからね、特に女の子だと色々と困る事もあると思うからね」

リリアンさんが素敵なウインクをオリビアにする。

「は、はい…」

オリビアはソワソワしながら頷くと…チラチラとリリアンさんが抱くオイトを見ている。

オリビアの視線に気がつくと…

「オイトよ。私達の息子なの」

「私の弟だよ!可愛いでしょ!」

ミヅキが鼻息荒く横から答える。

「は、はい…可愛い…です」

オイトはじーっとオリビアを見つめている。

「ふふ、オリビアちゃん抱いてみる?」

リリアンさんがオイトをオリビアの方に向けると

「いいんですか?」

オリビアが嬉しそうに頬を赤くする。

「わ、わぁ、軽いです!こ、怖い…壊しちゃいそう」

オリビアがオイトを抱いて固まると、オイトがギュッとオリビアの服を掴んだ…

「オイト~オリビアお姉ちゃんだよ」

ミヅキがオイトのほっぺをつんつんとつつくと

へらぁ~

オイトの口がニコッと動く

「か、かわいい…」

オリビアはオイトをじっと見ていると…

「きゃは!」

オイトが嬉しそうに声を出して笑いだした。

「オリビアの腕の中好きみたいだね」

「そ、そうですか…何処か不具合ないかな」

オリビアが真剣にオイトに話しかけると

「あはは!オリビア、オイトはまだ喋れないし私達の言ってる事もまだわかってないよ」

「そ、そうなんですか…赤子は初めてで…」

珍しい物を見るようにじっくりと見ていると

「この子はなんでこんなにいい香りがするんですか?それになんだか守らなきゃいけない気がします」

不思議そうに見つめると

「匂い?何かしら」

リリアンさんがオイトに顔を近づけてクンクンと匂いを嗅ぐと…

「なんか…甘くて懐かしい匂いです」

クンクンとオイトのふわふわの頭に鼻を近づける。

「どれ?」

ミヅキも気になってオイトの匂いを嗅ぐと…

「何かしら?そんなに気になる匂いはないけど…」

リリアンさんは首を捻る。

「なんか…ずっと嗅いでいたい香りだね、赤ちゃん特有の汗の匂いかな?」

「それともおっぱいかしら?さっきあげたばかりなのよね」

「だから懐かしい匂いなのかもね」

ミヅキはオリビアに笑いかけるとオリビアはコクっと頷いた。

オリビアはオイトをリリアンさんに返すと…

「また…抱かせてもらってもいいですか?」

リリアンさんに伺うように聞くと

「ええ、もちろんよ。オイトを抱っこしててくれれば私も家の事出来るし助かるわ。是非また来てね」

リリアンさんが優しく笑いかけるとオリビアは嬉しそうに頷いて…

「また来るね」

オイトの頭をそっと撫でた。


リリアンさんに挨拶をしてドラゴン亭を出ると

「赤ちゃん…すごく可愛かったです。あんなに小さな子供を見たのは初めてで…」

触り心地を思い出すかのように手を動かす。

「オリビアより小さなエルフの子はいなかったの?」

「はい、私のあとは子供は生まれなくて…だからずっと妹か弟が欲しかったんです」

オリビアはそう言うと嬉しそうに笑った。

「じゃあオイトの事は弟だと思って可愛がってあげてね」

「もちろんです!しかもミヅキの弟ですからね!大切に誰にも傷つけさせたりしません!…でも…」

オリビアが顔を曇らせると

「なぁに?何かあった?」

「い、いえ…そんな事をしなくても凄い護符がついてましたが…」

「あーあれね!これとお揃いなんだよね」

ミヅキは収納からシルバ達が作ったネックレスを取り出すとオリビアに見せる。

「す、凄い…これってどうされたんですか?」

「シルバ達が作ってくれたの!決められた人じゃないと凄く重くなるんだって」

「ミヅキはなんで付けないの?」

オリビアが信じられないとミヅキを見つめると

「たまにベイカーさん達が使うんだよね。それに付けてると攻撃してきた相手殺しちゃうから」

あははと笑うと

「尚更付けておいて下さい!」

オリビアは真剣な顔でじっと見つめてくる。

「は、はい…」

ミヅキはサッとネックレスを首から下げた。

オリビアはほっと息をつくと

「それがあるならミヅキの事は安心ですね」

自分の事の様に嬉しそうに笑っていた…

「じゃあ次は黒猫停ね、ご飯に困った時はルンバさんのところかここだよ!」

カランッと音を立てて扉を開けると

「すみません、お店はまだ開いてないんです」

奥からファルさんが声をかけながら覗いてくると…

「あれ?ミヅキちゃん?」

「こんにちはー」

声をかけると

「ミヅキの好きそうなお店がよくわかりました」

オリビアはファルさんを見つめて頷く。

「え?」

オリビアの言葉に振り返ると

「オリビアです、よろしくお願いいたします」

オリビアは淡々と返事をすると

「さすがミヅキの友達だな、俺に怯まないなんて」

ファルさんが苦笑すると

「先程ルンバさんに会いましたので…」

「あぁ…」

ファルさんは納得すると

「ミヅキちゃんのおかげで俺を怖がる人がどんどんいなくなるよ」

ファルさんは眉を下げながら笑っていた。

「二人は何か食べたのかい?」

ファルさんがミヅキ達にジュースを出しながらそんな事を聞くと

「ううん、まだだよ」

「じゃあなんか食べてくかい?簡単なものならすぐに作るよ」

ファルさんがそう言いながら食材を見ると

「いいの!?じゃあお願いします!」

ミヅキが嬉しそうに肩を揺らす。

「えっとオリビアちゃんは嫌いなものとかあるのかな?」

ファルさんが驚かさないように優しく声をかけると

「大丈夫…だと思います。ミヅキが作るものは全て食べられましたから」

「そっか…ミヅキちゃんと比べられちゃうと困るけど…」

ファルさんは困った様に笑った。

ファルさんは適当にある食材を洗って下準備を始めると…

ミヅキがじっと何を作るのかワクワクしながら見つめている。

「ミヅキちゃん…見られると緊張するな」

ファルさんの手が止まる…

「えー?作ってるところ見るの好きなんだけどなぁ~」

「いや…大したものなんて出来ないからね!」

「そんな事ないよ、私だっていつもそんなに手の込んだもの作ってる訳じゃないし…」

「でも誰にも思いつかない料理だろ?」

「うーん…そうでもないんだけどね…」

ミヅキは申し訳なさそうに笑った…

ファルさんは前にミヅキが作った低温調理のやり方でハムを作ると葉っぱとマヨネーズを取り出してパンを探すと…

「あっパンが少なかったな…どうするか?」

パンを出してみたら一人分しか用意が無かった。

「ちょっとパンを買ってくるから待っててくれるかい?」

ファルさんがエプロンを外そうとすると…

「あっ!なら小麦粉ありますか?」

ミヅキが聞くと

「ああ、それならあるよ…ってまさか今からパン焼くのかい?」

「まさか!小麦粉と塩を水で溶いてフライパンで焼くとパンみたいな生地が出来るんですよ!それを野菜で巻いて食べると結構いけますよ!」

「ふーん、面白そう出し簡単だね。やってみるよ」

ファルさんはエプロンを締め直すを早速小麦粉を溶いて焼き始める。

楽しそうに意見を言いながら作る二人をオリビアはじっと見つめていた。

「おお!美味そうだな!」

生地を少し冷ましてから野菜を巻いて二人の前に置くと、ファルも自分の分を作る。

「じゃあ一緒に食べようか?」

「うん!美味しそう!いただきまーす!」

ミヅキがガブッと頬張ると…

「うーん!ファルさんこのハム柔らかくて美味しいよ!」

「そうか?ミヅキのこの生地いいな…サッと出来るし忙しい人にも面倒くさがりの人にもよさそうだな…店で出しても構わないか?」

「もちろんだよ!」

ミヅキが口にマヨネーズをつけながら頷くと、ファルさんは笑いながらその口を拭いてくれる。

「オリビアはどう?」

「好みじゃなかったかな?」

ミヅキとファルがオリビアの反応を気にして見つめると

「すごく美味しい!野菜もこのお肉もソースも…全部包んでくれるこのパンも…」

止まらない様子でバクバクと食べている。

「ミヅキ以外にもこんなに美味しい物が作れるなんて…」

オリビアが驚いていると

「ねー!ファルさんも料理上手だよね~」

ミヅキもたまらんとバクバクと食べている。

「すみません、ファルさん私にも料理教えて下さい!」

オリビアがガタッ!と突然立ち上がるとファルを見つめる!

「何かしたいと思っていましたが…ここで料理学びたいです」

「えっ?うちで?」

ファルさんが突然のことに驚いていると

「いいね!ファルさんとオリビアの組み合わせ面白そう!」

ミヅキが笑って二人を交互に見つめる。

「君は…ここで大丈夫なの?このお店夜は酔っ払いとかも来るよ」

ファルは困った様にオリビアを見てミヅキに確認すると

「そっか…夜遅いのか…」

ミヅキが残念そうに肩を落とす。

「別に遅くても平気です!」

「駄目!それは私も反対!危ないもん!」

ミヅキがバツと腕をクロスさせると、オリビアはしゅんと席に座り直す…

「だ、だって絡まれたりしたら危ないし…」

落ち込むオリビアにミヅキが申し訳なさそうに声をかけると

「なら…開店前の準備を手伝うのはどうかな?」

ファルさんがなんだか可哀想になって声をかける。

「開店前か…それならいいかも!」

ミヅキがうん、と頷くと

「本当ですか!?ありがとうございます!」

オリビアが顔を輝かせる。

ミヅキはちょいちょいとファルさんを呼ぶと…

「なんだい?」

ファルさんがミヅキに顔を近づける。

「オリビア、料理全くの素人なんだ…だから大変かもしれないけど…よろしくお願いします」

ミヅキが小声で話して頭を下げると

「ミヅキちゃんにはこっちこそお世話になってるし、感謝しかないからね。少しでも返せるなら嬉しいよ。それにここで働きたいって言ってくれる子だから大切に面倒見させてもらうよ」

ファルさんの言葉にミヅキは嬉しそうに頷いた。
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