14 / 687
1巻
1-8
しおりを挟む
私がさっきのやり取りを少し話すと、シルバはふうっとため息をついた。
【まあ、貴様もミヅキに助けられたのだな。しかし、ミヅキは助けたとは思っとらん。だから普通に講師として接してやるといい】
シルバに言われコジローさんは頷いた。
「コジローさん、なんでシルバとおはなしできるの?」
シルバと普通に話すコジローさんに、私はずっと気になっていたことを聞いた。
「オレは、フェンリル様の眷属である王狼族の末裔なんだ。だいぶ昔のことでもう血は薄まってしまったが、王狼族の血がフェンリル様との意思疎通を可能にしているんだろう」
「おうろうぞくって?」
「王狼族とは狼と人とのハーフだ。見た目は人族だが身体能力が高く、狼に姿を変えることもできたらしい」
「らしい?」
どういう意味だと首を傾げる。
「もう今は純血種の王狼族はいないんだ。ほぼ普通の人族と変わらないよ」
そう言って笑っているが、「ほぼ」という言葉が引っかかる。なにか違うところがあるのだろうか?
「ほぼって?」
「………」
コジローさんが黙ってしまった。聞いてはいけないことだったのかもしれない。
「ごめんなさい……」
「いや! 違うんだ。これを言うとミヅキに嫌われてしまうかと思って……」
しゅんとして謝ると、コジローさんは焦った様子で言った。でも、そんなことを言われたら、どんな秘密なんだと聞きたくなる。
【ミヅキがそんなことで嫌うわけないだろう】
シルバが口を挟んできた。どうやらシルバはコジローさんの秘密を知っているようだ。
「今は見せられないが……時が来たら必ず見せる。それまで待ってくれないか?」
コジローさんが真剣な顔で見つめてきた。かっこいい人の頼みは断れない。
「むりにいわなくていいですよ」
私は笑顔で頷いた。コジローさんはほっとした表情を浮かべ、眉尻を下げる。
【雑談はそのくらいにして、講習とやらをしたほうがいいんじゃないか?】
シルバが聞いてくる。そうだ! なにも覚えないで帰ったらベイカーさんに怒られちゃう。
「では、まずはヤク草を探してみよう」
慌てる私に、草むらを指差しながらコジローさんが微笑む。
「やくそう?」
なんかそのまんまな名前だな。
コジローさんが草むらをかき分けて、数種類の草をつんできた。
「まずはこっちがヤク草」
どこにでも生えていそうな草を見せる。
受け取ってしげしげと眺めるが、特段変わったところのない草だった。匂いを嗅ぐが無臭……
「なんのとくちょうもありませんね」
私が気まずげに答えるとニコッとコジローさんが笑った。
「そう、それが特徴。なにもない無味無臭てとこかな、次はこっちを」
持っていた別の草を差し出す。受け取って見るがさっきの草と同じように見える。
「匂いを嗅いでみて」
鼻を近づけて匂いを嗅いでみると、先程とは違いツンとするような酸っぱい臭いがした。
「くちゃい!」
びっくりして慌てて顔を逸らす。そんな私の反応を見て、コジローさんはおかしそうに笑っていた。
「じゃ、次はこれ」
また同じような草を差し出す。
匂いはないが、触ると茎の部分が少し毛羽立っている。
「くきがチクチクします」
満足そうにコジローさんが頷く。
「この三つは見た目が似てるから注意して。臭いがあるのがコウミ草、茎が毛羽立っているのがセンブリ草だ」
センブリ草? あのセンブリかな? 聞いたことある名前に前世の記憶が蘇る。
じっと草を眺めていると、
【ミヅキ、気になるなら鑑定してみればいいんじゃないか?】
シルバに言われてハッとする。
そうだ! 私は鑑定スキルを持ってるんだ! あれ? 鑑定があるなら特徴覚えなくてもいいんじゃない? それってかなり楽そうだ!
さっそくコジローさんの持つ草を鑑定する。
〈ヤク草……乾燥させ煎じて魔力を込めると回復薬になる〉
〈コウミ草……臭いので魔物よけに使える〉
〈センブリ草……乾燥させ煎じて飲めば腹痛にきく。凄く苦い〉
おお! 鑑定便利!
「コジローさん、これはぜんぶさいしゅするの?」
「いや、主に採取対象はこのヤク草だ。回復薬が作れるからな、後はコウミ草。これも魔物よけが作れるのでたまに採取に出てくる。センブリ草は用途がないな」
コジローさんが丁寧に説明してくれる。
センブリは漢方薬になりそうなのに……勿体ない。ならば!
「じゃあ、それください」
コジローさんの手の中にあるセンブリ草を指差す。彼は困った顔をして、首を傾げた。
「ただの雑草だぞ? 乾燥させて煎じて飲めるがとにかく苦いし……」
飲ませたくないのか渡そうとしない。
「にがいけど、おなかいたいのなおるよ」
そう言うと、なに言ってんだって顔をされてしまった。
異世界では、センブリは飲まないのかな? 面白そうだし、今度沢山つんでベイカーさんにでも飲ませてみようかな……
「なにか企んでる?」
ニシシと笑っていると、コジローさんが顔を覗きこむ。ぶんぶんと首を振って、私は必死に誤魔化した。
他にも色々な草や実を採取して効能と名前を覚えていく。
まぁ、忘れても鑑定あるしと気楽に楽しくコジローさんの説明を聞いていた。コジローさんは丁寧に分かりやすく役に立ちそうな知識を教えてくれた。
色んな薬草や料理に使えそうな植物は収納魔法でしまってお持ち帰りだ。
そうやってコジローさんとの楽しい講習の一日目が終わった。
それから私はシルバとコジローさんと一緒に、楽しい気分でギルドに戻ってきた。ギルドの外ではベイカーさんが今か今かと私の帰りを待っていた。
「ベイカーさん!」
私はシルバから降りて駆け寄った。
ベイカーさんも嬉しそうに手を広げて私を受け止めてくれる。
「おかえり。講習はどうだった?」
優しい笑顔で聞かれるので、凄く楽しかったと答えると、よかったなぁと頭を撫でてくれる。
「コジローお疲れ。お前はどうだった?」
今度はコジローさんのほうを見て、ベイカーさんはニヤニヤと笑っている。
「第二の人生が始まりました」
笑って答えるコジローさんに、ベイカーさんが「そうか」と嬉しげに肩を叩いていた。
なんか本のタイトルみたいな台詞だな……それくらいコジローさんにとって、シルバとの出会いは衝撃的だったんだな。
私は嬉しそうに話している二人を見て、ぼんやりとそんなことを思った。
コジローさんと話し終えたベイカーさんが、こちらを振り返り、講習も終わったことだし家に帰ろうと言う。それに私は、ふるふると首を横に振って抵抗する。
「コジローさんともっとおはなししたいです」
忍者の話を聞いていない! もっとお話がしたい!
コジローさんは嬉しそうにありがとうと言う。
いや、お礼じゃなくて話がしたいんだけど……
「凄く嬉しいお誘いだけど、この後ギルドに報告と今回の活動内容をまとめて提出しないといけないんだ」
講師役は忙しそうだ、寂しいが仕方がない……分かってはいても、そっかーとしょんぼりしてしまう。
コジローさんは苦笑して、私の頭をぽんぽんと撫でた。
「講習の続きはまた明日もあるよ。その後なら時間も取れるし……ミヅキのためならいつでも会いに行くよ」
コジローさんの言葉に思わず頬に熱が集まる。
なんか今、さらっと甘い言葉を言われた気がする。いいや、こんな子供に甘い言葉なんてないか。コジローさんはきっと子供に優しいのだろう。とっても頼りになるお兄ちゃんみたい。
「コジローさん、またあしたもよろしくおねがいします」
私はまた明日も会えることを楽しみに、コジローさんと別れた。
「さぁ、俺達も帰るか!」
「はい!」
ベイカーさんがコジローさんを見送る私に声をかける。
ベイカーさんの明るい声に私も元気を貰い、元気よく返事をする。ベイカーさんに近寄ると、ヒョイッと抱き上げられて、定位置になりつつあるシルバの上に乗せられる。
「そういえば飯がまだだったな。どこかで食べて帰るか?」
お腹をさすりながらベイカーさんが尋ねる。そう言われると、私のお腹も急に空いてきた。
「食べるー!」
外食、外食、異世界の外ご飯楽しみだなぁ~。
ルンルンと喜びつつ歩くこと数分、さっそく美味しそうな匂いが漂ってきた。
お祭りなどで見る屋台みたいな店がズラッと並んでいる。色んな食べものがあり、目移りしてしまう。
「わぁ~! いいにおい」
「ん? 屋台で食べるか? 食堂に行こうと思っていたが」
楽しそうに屋台を眺める私に、ベイカーさんが聞いてくる。
食堂も行ってみたいけど、屋台も捨てがたい! どうしようかと頭を抱えて、うーんうーんと悩んでいると、ベイカーさんが「ブハッ!」と噴き出した。
「そんなに悩むならどっちも行けばいいだろ? 屋台で少し食べてから食堂に行こう」
笑いながら言われてしまう。
でもその意見に大いに賛成! 笑われたことは忘れてまずは屋台を楽しんでやる!
周囲は呼び込みの声が飛び交い賑わっている。
どこにしようかとキョロキョロしていると、気になるお店が目に入った。
「ベイカーさん! あのお店に行きたいです」
ベイカーさんの服をグイグイとつかみ、一つの店を指差す。
シルバが私の指し示す方向に進み、お店の前に着いた。
「いらっしゃい! おっと、可愛いお客さんだな」
お店のおっちゃんが迎えてくれる。
挨拶もそこそこに、私はおっちゃんが鉄板の上で焼いているものを覗き込んだ。
やっぱりこれってソーセージ⁉
形は少しいびつだが細長い肉の塊はソーセージに見える。
「ベイカーさん、これなぁに?」
ソーセージらしきものを指差し、隣に立つベイカーさんに尋ねる。すると、ベイカーさんが答えるより先に、屋台のおっちゃんが自信満々に胸を張り答えた。
「コレはソーセージだぞ! オーク肉で作った混ざりものなし!」
異世界ソーセージ! ぜひとも食べたい!
「コレたべたいー」
「よし、おやじこれ三本な!」
さっそくベイカーさんがおっちゃんに注文してくれる。
「はいよ! どうする? そのまま渡していいか?」
薄い葉っぱみたいなもので包まれたソーセージを、グイッと差し出される。ベイカーさんはそれを両手で受け取り、一つをシルバに、もう一つを私に渡してくれた。
シルバはガブッと一口でソーセージを食べてしまう。
そのまま食べるのもいいけど……ちょっと工夫して食べようかな。そう思ってベイカーさんにアレを出してもらおうと声をかける。
「ベイカーさん、パンだしてください」
そうねだると、彼は首を傾げながらも収納してあったパンを出してくれた。持っていたソーセージを一度ベイカーさんに返し、パンに切れ目を入れて開く。
「ここにおいてください」
裂け目にソーセージを置いてくれとパンを差し出す。訝しげな表情を浮かべたベイカーさんが、ソーセージをパンの上に載せてくれた。
「いただきまーす」
ガブッと即席ホットドッグを食べる。
「おいしぃ~」
口いっぱいに頬張りもぐもぐと食べ進める。ソーセージの肉汁がパンに染みこみ、よく合う。
「美味そうに食うな……おやじもう一本くれ、俺にもここに置いてくれ」
ベイカーさんもパンを出し、同じようにソーセージを挟む。そして、ガブッと一口で半分食べてしまった。
「う、美味い……」
ベイカーさんは驚愕の表情で目を見開き、夢中で食べている。
【ミヅキ! 俺も食ってみたい】
シルバが羨ましそうにホットドッグを見つめるので、自分が食べていた残りをあげた。
「お、おい。ちょっとオレにも食わせてくれ」
皆があまりに美味しそうに食べているので、興味津々で屋台のおっちゃんが言ってくる。
ベイカーさんが仕方ねぇなとパンを取り出しおっちゃんに渡すと、おっちゃんは焼いていたソーセージを載せて食べた。
「っ! コレは!」
おっちゃんがなにやらぶつぶつ呟きながら、ホットドッグを食べている。
「おい! すまんがこのレシピを売ってくれ!」
ベイカーさんに詰め寄る。いきなり近づいてきたおっちゃんに、ベイカーさんが後ろに上半身を反らしながら口を開いた。
「このレシピは、この子のもんだぜ」
そう言って、私の頭に手を乗せる。
なんのことかよく分からず、私はベイカーさんとおっちゃんを交互に眺める。おっちゃんは驚いてベイカーさんを見るが、ベイカーさんは無言でただ頷くだけだった。
「嬢ちゃん、このレシピをオレに売ってくれないか?」
おっちゃんが懇願するように頼んでくる。
レシピを売るってなんのことだ?
「このおっちゃんは、今ミヅキが考えた料理を売り出したいんだよ。でも料理を考えたのはミヅキだからそのアイデアを売って欲しいってことなんだ」
えっ? まさか料理って、このパンに挟むだけのホットドッグのこと? こんなの料理とは言わないんじゃ……
渋い顔をしていると、やっぱり駄目か……とおっちゃんが肩を落とした。
駄目ってわけじゃなく、本当にこんなものでいいのか聞こうとする。
「じゃあ、嬢ちゃんとオレの共同販売って形でどうだ?」
しかし、私が尋ねるより先に、諦めきれないおっちゃんが提案してくる。
「きょうどうはんばい?」
「ああ、そうだ。嬢ちゃんが考えて、オレが作って売る。売上の材料代を抜いて折半でどうだ?」
それって……私なにもしないのに半分も貰えちゃうの? それはさすがに……
私はぶんぶんと首を横に振る。やっぱり駄目かとガックリしているおっちゃんに、声をかける。
「そんなにいりません」
「はっ?」
半分も貰えないとお断りをする。しかし、私の言ってる意味がよく分からないのか、おっちゃんが固まってしまった。
「ミヅキ、レシピっていうのは貴重だぞ。登録すれば誰も真似することができないし、売上をミヅキのものにできるんだ」
ベイカーさんは、私がよく分かってないと思ったのか説明してくれるが、元々考えたのも私じゃないのにそんなことできない。それに、登録とか面倒くさそうだし……
「いいんです。おっちゃんのソーセージおいしかったし、おいしくつくってくださいね。またたべにきますから」
こんなに美味しいのがまた食べられるなら問題ない。向かってにっこり笑う。
「……いや、それはできん! こんな画期的なアイデアをタダでは貰えん!」
今度はおっちゃんが首を振る。しばらく考えて込んだ後、ハッとした様子で口を開いた。
「よし! それならこれからうちの商品はお前達に限り食べ放題ってのでどうだ!」
親指を立て、いい笑顔を見せるおっちゃん。
それはいい! と私もおっちゃんに向かってサムズアップした。
おっちゃんの屋台の料理が食べ放題になりウキウキの私は、色々なアイデアを出す。
「パンはだえんけいのパンをたてにきると、はさみやすいとおもいます。あとはうえからチーズをかけてもおいしいの」
チーズホットドッグを想像して頬を押さえる。早く食べてみたい!
「なるほどな! いくつか試作品を作るから、明日また味見しに来てくれないか?」
タダでホットドッグを食べられるなら、お安い御用だ。
了承して明日来ることを約束して、私達はおっちゃんと別れた。
これから何時でもホットドッグ食べ放題とか最高だ! これで、異世界で餓死する心配はなくなったな。
密かに安心する私を見て、ベイカーさんは勿体ないと苦笑いしていた。
お得な交渉だったと思うんだけどなぁ……私としてはのんびり生活していければ十分だ。贅沢は望まないし、働きすぎるのはよくない! うんうん。
屋台ゾーンを過ぎ、ちらほらと食堂が増えてきた。
その中の一軒のお店にベイカーさんが入ろうとする。しかし気になることがあり、私はつんつんと袖を引っ張って彼を止めた。
「シルバは?」
振り返ったベイカーさんに聞いてみる。
やはり飲食店に動物を入れるのはよくないよね……?
「ああ! そうか。従魔だから大丈夫そうだが、でかいからな……」
ベイカーさんは難しい顔でシルバを見る。
すると、シルバは店の横にキチンとお座りをした。
【俺は、外で待ってるぞ】
【シルバと一緒に食べたいな……】
一緒に行けないことにしょんぼりと俯く。
「ちょっと待ってろ」
ベイカーさんがそんな私の様子を見て、お店の中に入っていってしまった。
シルバを撫でながら待ってると、ベイカーさんが出てきて、お店の裏に回るよう案内してくれる。そこには従業員用のテーブルが外に置いてあった。
「ここで食べていいそうだ。外ならシルバも一緒に食えるだろ」
ニカッと笑うベイカーさん。
わざわざ一緒に食べられるように聞いてきてくれたのだ!
「ありがとー」
私は、ベイカーさん足に抱きついてお礼を言った。
早速椅子に座っていると、美人なお姉さんが裏口から出てきた。
「ベイカーさん、今日はなににするんだい」
手を腰に当てて声をかけてくる。
カラッとしていて姉御肌な感じの美人さんだ! あと胸が大きい……ここ重要!
私は自分の胸を見てそっと手を当てる。
……いや、今は幼児だし! 生前もあまり変わらなかった気がするけど……これからの成長に期待しよう。
「リリアンさん、すまんな裏を使わせてもらって助かるよ」
ベイカーさんが美人のお姉さんにお礼を言った。
「いいんだよ! 常連さんだから。それにそんな大きな従魔じゃ、お店にいたら邪魔だしね」
アハハと豪快に笑う。
「で、どうする? いつものでいいのかい?」
ベイカーさんは『いつもの』を三人分注文した。お姉さんが「あいよっ」と小気味よく返事をして店内へ戻っていく。
「おおきいねぇ……」
「はっ?」
お姉さんがいなくなっても、いまだ胸の衝撃が消えない。
ベイカーさんが目をしばたたかせながら私の顔を見た後、その目線が下へ移動する。私が自分の胸に手を当てているのを見て、「ああ」と得心顔で苦笑する。
「ミヅキはそのままで可愛いからいいじゃないか」
気にするなと慰めてくれる。
くっ! いつか大きくなるんだからっ。
しばらくしてリリアンさんが料理を持ってきてくれた。
「はい、どうぞ!」
私の前にお皿を置いてくれる。お礼を言うと「いっぱい食べてね」と笑って頭を撫でてくれた。
運ばれてきたのは煮込み料理だった。
色んな野菜とお肉が煮込まれていて、いい香りがする。
「いただきます」
スプーンを手に取り、さっそく食べ始める。熱々のスープをすくい、フーフーと冷ましてから口に入れる。
うーん、優しい味だ。野菜とお肉から出汁がよく出ていて美味しい。
シルバも気に入ったようでガツガツ食べている。美味しそうに食べるシルバに、私はにっこり笑いかけた。
【美味しいね、シルバ!】
【まぁまぁだな! 俺はミヅキの料理のほうが好きだがな】
そう言いながらも、シルバは尻尾をブンブンと振っている。
「ここの店の看板メニューだ。美味いだろ? まあ、ミヅキの料理も美味いがな!」
もう皿を綺麗に空にしているベイカーさんの言葉に、私ははにかみつつ頷いた。二人に褒められちょっと照れてしまう。
「そのちっちゃい子が料理をするのかい?」
話を聞いていたリリアンさんが、驚いて目を見開いている。ベイカーさんが今まで作ってあげた料理と先程の屋台での話をすると、更に大きく目を瞠った。
「ミヅキちゃん、よかったらうちの新メニューも考えてくれないか?」
屈んで目線を合わせておねがいと言われる。つい目線が下がる。
……む、胸がこぼれそう。
私はゴクッと息を呑んだ。
【まあ、貴様もミヅキに助けられたのだな。しかし、ミヅキは助けたとは思っとらん。だから普通に講師として接してやるといい】
シルバに言われコジローさんは頷いた。
「コジローさん、なんでシルバとおはなしできるの?」
シルバと普通に話すコジローさんに、私はずっと気になっていたことを聞いた。
「オレは、フェンリル様の眷属である王狼族の末裔なんだ。だいぶ昔のことでもう血は薄まってしまったが、王狼族の血がフェンリル様との意思疎通を可能にしているんだろう」
「おうろうぞくって?」
「王狼族とは狼と人とのハーフだ。見た目は人族だが身体能力が高く、狼に姿を変えることもできたらしい」
「らしい?」
どういう意味だと首を傾げる。
「もう今は純血種の王狼族はいないんだ。ほぼ普通の人族と変わらないよ」
そう言って笑っているが、「ほぼ」という言葉が引っかかる。なにか違うところがあるのだろうか?
「ほぼって?」
「………」
コジローさんが黙ってしまった。聞いてはいけないことだったのかもしれない。
「ごめんなさい……」
「いや! 違うんだ。これを言うとミヅキに嫌われてしまうかと思って……」
しゅんとして謝ると、コジローさんは焦った様子で言った。でも、そんなことを言われたら、どんな秘密なんだと聞きたくなる。
【ミヅキがそんなことで嫌うわけないだろう】
シルバが口を挟んできた。どうやらシルバはコジローさんの秘密を知っているようだ。
「今は見せられないが……時が来たら必ず見せる。それまで待ってくれないか?」
コジローさんが真剣な顔で見つめてきた。かっこいい人の頼みは断れない。
「むりにいわなくていいですよ」
私は笑顔で頷いた。コジローさんはほっとした表情を浮かべ、眉尻を下げる。
【雑談はそのくらいにして、講習とやらをしたほうがいいんじゃないか?】
シルバが聞いてくる。そうだ! なにも覚えないで帰ったらベイカーさんに怒られちゃう。
「では、まずはヤク草を探してみよう」
慌てる私に、草むらを指差しながらコジローさんが微笑む。
「やくそう?」
なんかそのまんまな名前だな。
コジローさんが草むらをかき分けて、数種類の草をつんできた。
「まずはこっちがヤク草」
どこにでも生えていそうな草を見せる。
受け取ってしげしげと眺めるが、特段変わったところのない草だった。匂いを嗅ぐが無臭……
「なんのとくちょうもありませんね」
私が気まずげに答えるとニコッとコジローさんが笑った。
「そう、それが特徴。なにもない無味無臭てとこかな、次はこっちを」
持っていた別の草を差し出す。受け取って見るがさっきの草と同じように見える。
「匂いを嗅いでみて」
鼻を近づけて匂いを嗅いでみると、先程とは違いツンとするような酸っぱい臭いがした。
「くちゃい!」
びっくりして慌てて顔を逸らす。そんな私の反応を見て、コジローさんはおかしそうに笑っていた。
「じゃ、次はこれ」
また同じような草を差し出す。
匂いはないが、触ると茎の部分が少し毛羽立っている。
「くきがチクチクします」
満足そうにコジローさんが頷く。
「この三つは見た目が似てるから注意して。臭いがあるのがコウミ草、茎が毛羽立っているのがセンブリ草だ」
センブリ草? あのセンブリかな? 聞いたことある名前に前世の記憶が蘇る。
じっと草を眺めていると、
【ミヅキ、気になるなら鑑定してみればいいんじゃないか?】
シルバに言われてハッとする。
そうだ! 私は鑑定スキルを持ってるんだ! あれ? 鑑定があるなら特徴覚えなくてもいいんじゃない? それってかなり楽そうだ!
さっそくコジローさんの持つ草を鑑定する。
〈ヤク草……乾燥させ煎じて魔力を込めると回復薬になる〉
〈コウミ草……臭いので魔物よけに使える〉
〈センブリ草……乾燥させ煎じて飲めば腹痛にきく。凄く苦い〉
おお! 鑑定便利!
「コジローさん、これはぜんぶさいしゅするの?」
「いや、主に採取対象はこのヤク草だ。回復薬が作れるからな、後はコウミ草。これも魔物よけが作れるのでたまに採取に出てくる。センブリ草は用途がないな」
コジローさんが丁寧に説明してくれる。
センブリは漢方薬になりそうなのに……勿体ない。ならば!
「じゃあ、それください」
コジローさんの手の中にあるセンブリ草を指差す。彼は困った顔をして、首を傾げた。
「ただの雑草だぞ? 乾燥させて煎じて飲めるがとにかく苦いし……」
飲ませたくないのか渡そうとしない。
「にがいけど、おなかいたいのなおるよ」
そう言うと、なに言ってんだって顔をされてしまった。
異世界では、センブリは飲まないのかな? 面白そうだし、今度沢山つんでベイカーさんにでも飲ませてみようかな……
「なにか企んでる?」
ニシシと笑っていると、コジローさんが顔を覗きこむ。ぶんぶんと首を振って、私は必死に誤魔化した。
他にも色々な草や実を採取して効能と名前を覚えていく。
まぁ、忘れても鑑定あるしと気楽に楽しくコジローさんの説明を聞いていた。コジローさんは丁寧に分かりやすく役に立ちそうな知識を教えてくれた。
色んな薬草や料理に使えそうな植物は収納魔法でしまってお持ち帰りだ。
そうやってコジローさんとの楽しい講習の一日目が終わった。
それから私はシルバとコジローさんと一緒に、楽しい気分でギルドに戻ってきた。ギルドの外ではベイカーさんが今か今かと私の帰りを待っていた。
「ベイカーさん!」
私はシルバから降りて駆け寄った。
ベイカーさんも嬉しそうに手を広げて私を受け止めてくれる。
「おかえり。講習はどうだった?」
優しい笑顔で聞かれるので、凄く楽しかったと答えると、よかったなぁと頭を撫でてくれる。
「コジローお疲れ。お前はどうだった?」
今度はコジローさんのほうを見て、ベイカーさんはニヤニヤと笑っている。
「第二の人生が始まりました」
笑って答えるコジローさんに、ベイカーさんが「そうか」と嬉しげに肩を叩いていた。
なんか本のタイトルみたいな台詞だな……それくらいコジローさんにとって、シルバとの出会いは衝撃的だったんだな。
私は嬉しそうに話している二人を見て、ぼんやりとそんなことを思った。
コジローさんと話し終えたベイカーさんが、こちらを振り返り、講習も終わったことだし家に帰ろうと言う。それに私は、ふるふると首を横に振って抵抗する。
「コジローさんともっとおはなししたいです」
忍者の話を聞いていない! もっとお話がしたい!
コジローさんは嬉しそうにありがとうと言う。
いや、お礼じゃなくて話がしたいんだけど……
「凄く嬉しいお誘いだけど、この後ギルドに報告と今回の活動内容をまとめて提出しないといけないんだ」
講師役は忙しそうだ、寂しいが仕方がない……分かってはいても、そっかーとしょんぼりしてしまう。
コジローさんは苦笑して、私の頭をぽんぽんと撫でた。
「講習の続きはまた明日もあるよ。その後なら時間も取れるし……ミヅキのためならいつでも会いに行くよ」
コジローさんの言葉に思わず頬に熱が集まる。
なんか今、さらっと甘い言葉を言われた気がする。いいや、こんな子供に甘い言葉なんてないか。コジローさんはきっと子供に優しいのだろう。とっても頼りになるお兄ちゃんみたい。
「コジローさん、またあしたもよろしくおねがいします」
私はまた明日も会えることを楽しみに、コジローさんと別れた。
「さぁ、俺達も帰るか!」
「はい!」
ベイカーさんがコジローさんを見送る私に声をかける。
ベイカーさんの明るい声に私も元気を貰い、元気よく返事をする。ベイカーさんに近寄ると、ヒョイッと抱き上げられて、定位置になりつつあるシルバの上に乗せられる。
「そういえば飯がまだだったな。どこかで食べて帰るか?」
お腹をさすりながらベイカーさんが尋ねる。そう言われると、私のお腹も急に空いてきた。
「食べるー!」
外食、外食、異世界の外ご飯楽しみだなぁ~。
ルンルンと喜びつつ歩くこと数分、さっそく美味しそうな匂いが漂ってきた。
お祭りなどで見る屋台みたいな店がズラッと並んでいる。色んな食べものがあり、目移りしてしまう。
「わぁ~! いいにおい」
「ん? 屋台で食べるか? 食堂に行こうと思っていたが」
楽しそうに屋台を眺める私に、ベイカーさんが聞いてくる。
食堂も行ってみたいけど、屋台も捨てがたい! どうしようかと頭を抱えて、うーんうーんと悩んでいると、ベイカーさんが「ブハッ!」と噴き出した。
「そんなに悩むならどっちも行けばいいだろ? 屋台で少し食べてから食堂に行こう」
笑いながら言われてしまう。
でもその意見に大いに賛成! 笑われたことは忘れてまずは屋台を楽しんでやる!
周囲は呼び込みの声が飛び交い賑わっている。
どこにしようかとキョロキョロしていると、気になるお店が目に入った。
「ベイカーさん! あのお店に行きたいです」
ベイカーさんの服をグイグイとつかみ、一つの店を指差す。
シルバが私の指し示す方向に進み、お店の前に着いた。
「いらっしゃい! おっと、可愛いお客さんだな」
お店のおっちゃんが迎えてくれる。
挨拶もそこそこに、私はおっちゃんが鉄板の上で焼いているものを覗き込んだ。
やっぱりこれってソーセージ⁉
形は少しいびつだが細長い肉の塊はソーセージに見える。
「ベイカーさん、これなぁに?」
ソーセージらしきものを指差し、隣に立つベイカーさんに尋ねる。すると、ベイカーさんが答えるより先に、屋台のおっちゃんが自信満々に胸を張り答えた。
「コレはソーセージだぞ! オーク肉で作った混ざりものなし!」
異世界ソーセージ! ぜひとも食べたい!
「コレたべたいー」
「よし、おやじこれ三本な!」
さっそくベイカーさんがおっちゃんに注文してくれる。
「はいよ! どうする? そのまま渡していいか?」
薄い葉っぱみたいなもので包まれたソーセージを、グイッと差し出される。ベイカーさんはそれを両手で受け取り、一つをシルバに、もう一つを私に渡してくれた。
シルバはガブッと一口でソーセージを食べてしまう。
そのまま食べるのもいいけど……ちょっと工夫して食べようかな。そう思ってベイカーさんにアレを出してもらおうと声をかける。
「ベイカーさん、パンだしてください」
そうねだると、彼は首を傾げながらも収納してあったパンを出してくれた。持っていたソーセージを一度ベイカーさんに返し、パンに切れ目を入れて開く。
「ここにおいてください」
裂け目にソーセージを置いてくれとパンを差し出す。訝しげな表情を浮かべたベイカーさんが、ソーセージをパンの上に載せてくれた。
「いただきまーす」
ガブッと即席ホットドッグを食べる。
「おいしぃ~」
口いっぱいに頬張りもぐもぐと食べ進める。ソーセージの肉汁がパンに染みこみ、よく合う。
「美味そうに食うな……おやじもう一本くれ、俺にもここに置いてくれ」
ベイカーさんもパンを出し、同じようにソーセージを挟む。そして、ガブッと一口で半分食べてしまった。
「う、美味い……」
ベイカーさんは驚愕の表情で目を見開き、夢中で食べている。
【ミヅキ! 俺も食ってみたい】
シルバが羨ましそうにホットドッグを見つめるので、自分が食べていた残りをあげた。
「お、おい。ちょっとオレにも食わせてくれ」
皆があまりに美味しそうに食べているので、興味津々で屋台のおっちゃんが言ってくる。
ベイカーさんが仕方ねぇなとパンを取り出しおっちゃんに渡すと、おっちゃんは焼いていたソーセージを載せて食べた。
「っ! コレは!」
おっちゃんがなにやらぶつぶつ呟きながら、ホットドッグを食べている。
「おい! すまんがこのレシピを売ってくれ!」
ベイカーさんに詰め寄る。いきなり近づいてきたおっちゃんに、ベイカーさんが後ろに上半身を反らしながら口を開いた。
「このレシピは、この子のもんだぜ」
そう言って、私の頭に手を乗せる。
なんのことかよく分からず、私はベイカーさんとおっちゃんを交互に眺める。おっちゃんは驚いてベイカーさんを見るが、ベイカーさんは無言でただ頷くだけだった。
「嬢ちゃん、このレシピをオレに売ってくれないか?」
おっちゃんが懇願するように頼んでくる。
レシピを売るってなんのことだ?
「このおっちゃんは、今ミヅキが考えた料理を売り出したいんだよ。でも料理を考えたのはミヅキだからそのアイデアを売って欲しいってことなんだ」
えっ? まさか料理って、このパンに挟むだけのホットドッグのこと? こんなの料理とは言わないんじゃ……
渋い顔をしていると、やっぱり駄目か……とおっちゃんが肩を落とした。
駄目ってわけじゃなく、本当にこんなものでいいのか聞こうとする。
「じゃあ、嬢ちゃんとオレの共同販売って形でどうだ?」
しかし、私が尋ねるより先に、諦めきれないおっちゃんが提案してくる。
「きょうどうはんばい?」
「ああ、そうだ。嬢ちゃんが考えて、オレが作って売る。売上の材料代を抜いて折半でどうだ?」
それって……私なにもしないのに半分も貰えちゃうの? それはさすがに……
私はぶんぶんと首を横に振る。やっぱり駄目かとガックリしているおっちゃんに、声をかける。
「そんなにいりません」
「はっ?」
半分も貰えないとお断りをする。しかし、私の言ってる意味がよく分からないのか、おっちゃんが固まってしまった。
「ミヅキ、レシピっていうのは貴重だぞ。登録すれば誰も真似することができないし、売上をミヅキのものにできるんだ」
ベイカーさんは、私がよく分かってないと思ったのか説明してくれるが、元々考えたのも私じゃないのにそんなことできない。それに、登録とか面倒くさそうだし……
「いいんです。おっちゃんのソーセージおいしかったし、おいしくつくってくださいね。またたべにきますから」
こんなに美味しいのがまた食べられるなら問題ない。向かってにっこり笑う。
「……いや、それはできん! こんな画期的なアイデアをタダでは貰えん!」
今度はおっちゃんが首を振る。しばらく考えて込んだ後、ハッとした様子で口を開いた。
「よし! それならこれからうちの商品はお前達に限り食べ放題ってのでどうだ!」
親指を立て、いい笑顔を見せるおっちゃん。
それはいい! と私もおっちゃんに向かってサムズアップした。
おっちゃんの屋台の料理が食べ放題になりウキウキの私は、色々なアイデアを出す。
「パンはだえんけいのパンをたてにきると、はさみやすいとおもいます。あとはうえからチーズをかけてもおいしいの」
チーズホットドッグを想像して頬を押さえる。早く食べてみたい!
「なるほどな! いくつか試作品を作るから、明日また味見しに来てくれないか?」
タダでホットドッグを食べられるなら、お安い御用だ。
了承して明日来ることを約束して、私達はおっちゃんと別れた。
これから何時でもホットドッグ食べ放題とか最高だ! これで、異世界で餓死する心配はなくなったな。
密かに安心する私を見て、ベイカーさんは勿体ないと苦笑いしていた。
お得な交渉だったと思うんだけどなぁ……私としてはのんびり生活していければ十分だ。贅沢は望まないし、働きすぎるのはよくない! うんうん。
屋台ゾーンを過ぎ、ちらほらと食堂が増えてきた。
その中の一軒のお店にベイカーさんが入ろうとする。しかし気になることがあり、私はつんつんと袖を引っ張って彼を止めた。
「シルバは?」
振り返ったベイカーさんに聞いてみる。
やはり飲食店に動物を入れるのはよくないよね……?
「ああ! そうか。従魔だから大丈夫そうだが、でかいからな……」
ベイカーさんは難しい顔でシルバを見る。
すると、シルバは店の横にキチンとお座りをした。
【俺は、外で待ってるぞ】
【シルバと一緒に食べたいな……】
一緒に行けないことにしょんぼりと俯く。
「ちょっと待ってろ」
ベイカーさんがそんな私の様子を見て、お店の中に入っていってしまった。
シルバを撫でながら待ってると、ベイカーさんが出てきて、お店の裏に回るよう案内してくれる。そこには従業員用のテーブルが外に置いてあった。
「ここで食べていいそうだ。外ならシルバも一緒に食えるだろ」
ニカッと笑うベイカーさん。
わざわざ一緒に食べられるように聞いてきてくれたのだ!
「ありがとー」
私は、ベイカーさん足に抱きついてお礼を言った。
早速椅子に座っていると、美人なお姉さんが裏口から出てきた。
「ベイカーさん、今日はなににするんだい」
手を腰に当てて声をかけてくる。
カラッとしていて姉御肌な感じの美人さんだ! あと胸が大きい……ここ重要!
私は自分の胸を見てそっと手を当てる。
……いや、今は幼児だし! 生前もあまり変わらなかった気がするけど……これからの成長に期待しよう。
「リリアンさん、すまんな裏を使わせてもらって助かるよ」
ベイカーさんが美人のお姉さんにお礼を言った。
「いいんだよ! 常連さんだから。それにそんな大きな従魔じゃ、お店にいたら邪魔だしね」
アハハと豪快に笑う。
「で、どうする? いつものでいいのかい?」
ベイカーさんは『いつもの』を三人分注文した。お姉さんが「あいよっ」と小気味よく返事をして店内へ戻っていく。
「おおきいねぇ……」
「はっ?」
お姉さんがいなくなっても、いまだ胸の衝撃が消えない。
ベイカーさんが目をしばたたかせながら私の顔を見た後、その目線が下へ移動する。私が自分の胸に手を当てているのを見て、「ああ」と得心顔で苦笑する。
「ミヅキはそのままで可愛いからいいじゃないか」
気にするなと慰めてくれる。
くっ! いつか大きくなるんだからっ。
しばらくしてリリアンさんが料理を持ってきてくれた。
「はい、どうぞ!」
私の前にお皿を置いてくれる。お礼を言うと「いっぱい食べてね」と笑って頭を撫でてくれた。
運ばれてきたのは煮込み料理だった。
色んな野菜とお肉が煮込まれていて、いい香りがする。
「いただきます」
スプーンを手に取り、さっそく食べ始める。熱々のスープをすくい、フーフーと冷ましてから口に入れる。
うーん、優しい味だ。野菜とお肉から出汁がよく出ていて美味しい。
シルバも気に入ったようでガツガツ食べている。美味しそうに食べるシルバに、私はにっこり笑いかけた。
【美味しいね、シルバ!】
【まぁまぁだな! 俺はミヅキの料理のほうが好きだがな】
そう言いながらも、シルバは尻尾をブンブンと振っている。
「ここの店の看板メニューだ。美味いだろ? まあ、ミヅキの料理も美味いがな!」
もう皿を綺麗に空にしているベイカーさんの言葉に、私ははにかみつつ頷いた。二人に褒められちょっと照れてしまう。
「そのちっちゃい子が料理をするのかい?」
話を聞いていたリリアンさんが、驚いて目を見開いている。ベイカーさんが今まで作ってあげた料理と先程の屋台での話をすると、更に大きく目を瞠った。
「ミヅキちゃん、よかったらうちの新メニューも考えてくれないか?」
屈んで目線を合わせておねがいと言われる。つい目線が下がる。
……む、胸がこぼれそう。
私はゴクッと息を呑んだ。
324
お気に入りに追加
23,166
あなたにおすすめの小説
収容所生まれの転生幼女は、囚人達と楽しく暮らしたい
三園 七詩
ファンタジー
旧題:収容所生まれの転生幼女は囚人達に溺愛されてますので幸せです
無実の罪で幽閉されたメアリーから生まれた子供は不幸な生い立ちにも関わらず囚人達に溺愛されて幸せに過ごしていた…そんなある時ふとした拍子に前世の記憶を思い出す!
無実の罪で不幸な最後を迎えた母の為!優しくしてくれた囚人達の為に自分頑張ります!
卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな
しげむろ ゆうき
恋愛
卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく
しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ
おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
狂犬を手なずけたら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
気がつくと知らない国に生まれていたラーミア、この国は前世で読んでいた小説の世界だった。
前世で男性に酷い目にあったラーミアは生まれ変わっても男性が苦手だった。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。