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1巻

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 私がさっきのやり取りを少し話すと、シルバはふうっとため息をついた。

【まあ、貴様もミヅキに助けられたのだな。しかし、ミヅキは助けたとは思っとらん。だから普通に講師として接してやるといい】

 シルバに言われコジローさんは頷いた。

「コジローさん、なんでシルバとおはなしできるの?」

 シルバと普通に話すコジローさんに、私はずっと気になっていたことを聞いた。

「オレは、フェンリル様の眷属けんぞくである王狼族の末裔まつえいなんだ。だいぶ昔のことでもう血は薄まってしまったが、王狼族の血がフェンリル様との意思疎通を可能にしているんだろう」
「おうろうぞくって?」
「王狼族とは狼と人とのハーフだ。見た目は人族だが身体能力が高く、狼に姿を変えることもできたらしい」
「らしい?」

 どういう意味だと首を傾げる。

「もう今は純血種の王狼族はいないんだ。ほぼ普通の人族と変わらないよ」

 そう言って笑っているが、「ほぼ」という言葉が引っかかる。なにか違うところがあるのだろうか?

「ほぼって?」
「………」

 コジローさんが黙ってしまった。聞いてはいけないことだったのかもしれない。

「ごめんなさい……」
「いや! 違うんだ。これを言うとミヅキに嫌われてしまうかと思って……」

 しゅんとして謝ると、コジローさんは焦った様子で言った。でも、そんなことを言われたら、どんな秘密なんだと聞きたくなる。

【ミヅキがそんなことで嫌うわけないだろう】

 シルバが口を挟んできた。どうやらシルバはコジローさんの秘密を知っているようだ。

「今は見せられないが……時が来たら必ず見せる。それまで待ってくれないか?」

 コジローさんが真剣な顔で見つめてきた。かっこいい人の頼みは断れない。

「むりにいわなくていいですよ」

 私は笑顔で頷いた。コジローさんはほっとした表情を浮かべ、眉尻を下げる。

【雑談はそのくらいにして、講習とやらをしたほうがいいんじゃないか?】

 シルバが聞いてくる。そうだ! なにも覚えないで帰ったらベイカーさんに怒られちゃう。

「では、まずはヤク草を探してみよう」

 慌てる私に、草むらを指差しながらコジローさんが微笑む。

「やくそう?」

 なんかそのまんまな名前だな。
 コジローさんが草むらをかき分けて、数種類の草をつんできた。

「まずはこっちがヤク草」

 どこにでも生えていそうな草を見せる。
 受け取ってしげしげと眺めるが、特段変わったところのない草だった。匂いをぐが無臭……

「なんのとくちょうもありませんね」

 私が気まずげに答えるとニコッとコジローさんが笑った。

「そう、それが特徴。なにもない無味無臭てとこかな、次はこっちを」

 持っていた別の草を差し出す。受け取って見るがさっきの草と同じように見える。

「匂いをいでみて」

 鼻を近づけて匂いをいでみると、先程とは違いツンとするようなっぱい臭いがした。

「くちゃい!」

 びっくりして慌てて顔を逸らす。そんな私の反応を見て、コジローさんはおかしそうに笑っていた。

「じゃ、次はこれ」

 また同じような草を差し出す。
 匂いはないが、触るとくきの部分が少し毛羽立っている。

「くきがチクチクします」

 満足そうにコジローさんが頷く。

「この三つは見た目が似てるから注意して。臭いがあるのがコウミ草、くきが毛羽立っているのがセンブリ草だ」

 センブリ草? あのセンブリかな? 聞いたことある名前に前世の記憶がよみがえる。
 じっと草を眺めていると、

【ミヅキ、気になるなら鑑定してみればいいんじゃないか?】

 シルバに言われてハッとする。
 そうだ! 私は鑑定スキルを持ってるんだ! あれ? 鑑定があるなら特徴覚えなくてもいいんじゃない? それってかなり楽そうだ!
 さっそくコジローさんの持つ草を鑑定する。


〈ヤク草……乾燥させせんじて魔力を込めると回復薬になる〉
〈コウミ草……臭いので魔物よけに使える〉
〈センブリ草……乾燥させせんじて飲めば腹痛にきく。凄く苦い〉


 おお! 鑑定便利!

「コジローさん、これはぜんぶさいしゅするの?」
「いや、主に採取対象はこのヤク草だ。回復薬が作れるからな、後はコウミ草。これも魔物よけが作れるのでたまに採取に出てくる。センブリ草は用途がないな」

 コジローさんが丁寧に説明してくれる。
 センブリは漢方薬になりそうなのに……勿体もったいない。ならば!

「じゃあ、それください」

 コジローさんの手の中にあるセンブリ草を指差す。彼は困った顔をして、首を傾げた。

「ただの雑草だぞ? 乾燥させてせんじて飲めるがとにかく苦いし……」

 飲ませたくないのか渡そうとしない。

「にがいけど、おなかいたいのなおるよ」

 そう言うと、なに言ってんだって顔をされてしまった。
 異世界では、センブリは飲まないのかな? 面白そうだし、今度沢山つんでベイカーさんにでも飲ませてみようかな……

「なにかたくらんでる?」

 ニシシと笑っていると、コジローさんが顔を覗きこむ。ぶんぶんと首を振って、私は必死に誤魔化ごまかした。
 他にも色々な草や実を採取して効能と名前を覚えていく。
 まぁ、忘れても鑑定あるしと気楽に楽しくコジローさんの説明を聞いていた。コジローさんは丁寧に分かりやすく役に立ちそうな知識を教えてくれた。
 色んな薬草や料理に使えそうな植物は収納魔法でしまってお持ち帰りだ。
 そうやってコジローさんとの楽しい講習の一日目が終わった。


 それから私はシルバとコジローさんと一緒に、楽しい気分でギルドに戻ってきた。ギルドの外ではベイカーさんが今か今かと私の帰りを待っていた。

「ベイカーさん!」

 私はシルバから降りて駆け寄った。
 ベイカーさんも嬉しそうに手を広げて私を受け止めてくれる。

「おかえり。講習はどうだった?」

 優しい笑顔で聞かれるので、凄く楽しかったと答えると、よかったなぁと頭をでてくれる。

「コジローお疲れ。お前はどうだった?」

 今度はコジローさんのほうを見て、ベイカーさんはニヤニヤと笑っている。

「第二の人生が始まりました」

 笑って答えるコジローさんに、ベイカーさんが「そうか」と嬉しげに肩を叩いていた。
 なんか本のタイトルみたいな台詞せりふだな……それくらいコジローさんにとって、シルバとの出会いは衝撃的だったんだな。
 私は嬉しそうに話している二人を見て、ぼんやりとそんなことを思った。
 コジローさんと話し終えたベイカーさんが、こちらを振り返り、講習も終わったことだし家に帰ろうと言う。それに私は、ふるふると首を横に振って抵抗する。

「コジローさんともっとおはなししたいです」

 忍者の話を聞いていない! もっとお話がしたい!
 コジローさんは嬉しそうにありがとうと言う。
 いや、お礼じゃなくて話がしたいんだけど……

「凄く嬉しいお誘いだけど、この後ギルドに報告と今回の活動内容をまとめて提出しないといけないんだ」

 講師役は忙しそうだ、さびしいが仕方がない……分かってはいても、そっかーとしょんぼりしてしまう。
 コジローさんは苦笑して、私の頭をぽんぽんとでた。

「講習の続きはまた明日もあるよ。その後なら時間も取れるし……ミヅキのためならいつでも会いに行くよ」

 コジローさんの言葉に思わず頬に熱が集まる。
 なんか今、さらっと甘い言葉を言われた気がする。いいや、こんな子供に甘い言葉なんてないか。コジローさんはきっと子供に優しいのだろう。とっても頼りになるお兄ちゃんみたい。

「コジローさん、またあしたもよろしくおねがいします」

 私はまた明日も会えることを楽しみに、コジローさんと別れた。

「さぁ、俺達も帰るか!」
「はい!」

 ベイカーさんがコジローさんを見送る私に声をかける。
 ベイカーさんの明るい声に私も元気を貰い、元気よく返事をする。ベイカーさんに近寄ると、ヒョイッと抱き上げられて、定位置になりつつあるシルバの上に乗せられる。

「そういえば飯がまだだったな。どこかで食べて帰るか?」

 お腹をさすりながらベイカーさんが尋ねる。そう言われると、私のお腹も急に空いてきた。

「食べるー!」

 外食、外食、異世界の外ご飯楽しみだなぁ~。
 ルンルンと喜びつつ歩くこと数分、さっそく美味おいしそうな匂いがただよってきた。
 お祭りなどで見る屋台やたいみたいな店がズラッと並んでいる。色んな食べものがあり、目移りしてしまう。

「わぁ~! いいにおい」
「ん? 屋台やたいで食べるか? 食堂に行こうと思っていたが」

 楽しそうに屋台やたいを眺める私に、ベイカーさんが聞いてくる。
 食堂も行ってみたいけど、屋台やたいも捨てがたい! どうしようかと頭を抱えて、うーんうーんと悩んでいると、ベイカーさんが「ブハッ!」と噴き出した。

「そんなに悩むならどっちも行けばいいだろ? 屋台やたいで少し食べてから食堂に行こう」

 笑いながら言われてしまう。
 でもその意見に大いに賛成! 笑われたことは忘れてまずは屋台やたいを楽しんでやる!
 周囲は呼び込みの声が飛び交いにぎわっている。
 どこにしようかとキョロキョロしていると、気になるお店が目に入った。

「ベイカーさん! あのお店に行きたいです」

 ベイカーさんの服をグイグイとつかみ、一つの店を指差す。
 シルバが私の指し示す方向に進み、お店の前に着いた。

「いらっしゃい! おっと、可愛いお客さんだな」

 お店のおっちゃんが迎えてくれる。
 挨拶あいさつもそこそこに、私はおっちゃんが鉄板の上で焼いているものを覗き込んだ。
 やっぱりこれってソーセージ⁉
 形は少しいびつだが細長い肉のかたまりはソーセージに見える。

「ベイカーさん、これなぁに?」

 ソーセージらしきものを指差し、隣に立つベイカーさんに尋ねる。すると、ベイカーさんが答えるより先に、屋台やたいのおっちゃんが自信満々に胸を張り答えた。

「コレはソーセージだぞ! オーク肉で作った混ざりものなし!」

 異世界ソーセージ! ぜひとも食べたい!

「コレたべたいー」
「よし、おやじこれ三本な!」

 さっそくベイカーさんがおっちゃんに注文してくれる。

「はいよ! どうする? そのまま渡していいか?」

 薄い葉っぱみたいなもので包まれたソーセージを、グイッと差し出される。ベイカーさんはそれを両手で受け取り、一つをシルバに、もう一つを私に渡してくれた。
 シルバはガブッと一口でソーセージを食べてしまう。
 そのまま食べるのもいいけど……ちょっと工夫して食べようかな。そう思ってベイカーさんにアレを出してもらおうと声をかける。

「ベイカーさん、パンだしてください」

 そうねだると、彼は首を傾げながらも収納してあったパンを出してくれた。持っていたソーセージを一度ベイカーさんに返し、パンに切れ目を入れて開く。

「ここにおいてください」

 裂け目にソーセージを置いてくれとパンを差し出す。いぶかしげな表情を浮かべたベイカーさんが、ソーセージをパンの上に載せてくれた。

「いただきまーす」

 ガブッと即席ホットドッグを食べる。

「おいしぃ~」

 口いっぱいに頬張りもぐもぐと食べ進める。ソーセージの肉汁がパンに染みこみ、よく合う。

美味うまそうに食うな……おやじもう一本くれ、俺にもここに置いてくれ」

 ベイカーさんもパンを出し、同じようにソーセージを挟む。そして、ガブッと一口で半分食べてしまった。

「う、美味うまい……」

 ベイカーさんは驚愕の表情で目を見開き、夢中で食べている。

【ミヅキ! 俺も食ってみたい】

 シルバが羨ましそうにホットドッグを見つめるので、自分が食べていた残りをあげた。

「お、おい。ちょっとオレにも食わせてくれ」

 皆があまりに美味おいしそうに食べているので、興味津々きょうみしんしん屋台やたいのおっちゃんが言ってくる。
 ベイカーさんが仕方ねぇなとパンを取り出しおっちゃんに渡すと、おっちゃんは焼いていたソーセージを載せて食べた。

「っ! コレは!」

 おっちゃんがなにやらぶつぶつ呟きながら、ホットドッグを食べている。

「おい! すまんがこのレシピを売ってくれ!」

 ベイカーさんに詰め寄る。いきなり近づいてきたおっちゃんに、ベイカーさんが後ろに上半身を反らしながら口を開いた。

「このレシピは、この子のもんだぜ」

 そう言って、私の頭に手を乗せる。
 なんのことかよく分からず、私はベイカーさんとおっちゃんを交互に眺める。おっちゃんは驚いてベイカーさんを見るが、ベイカーさんは無言でただ頷くだけだった。

「嬢ちゃん、このレシピをオレに売ってくれないか?」

 おっちゃんが懇願こんがんするように頼んでくる。
 レシピを売るってなんのことだ?

「このおっちゃんは、今ミヅキが考えた料理を売り出したいんだよ。でも料理を考えたのはミヅキだからそのアイデアを売って欲しいってことなんだ」

 えっ? まさか料理って、このパンに挟むだけのホットドッグのこと? こんなの料理とは言わないんじゃ……
 渋い顔をしていると、やっぱり駄目か……とおっちゃんが肩を落とした。
 駄目ってわけじゃなく、本当にこんなものでいいのか聞こうとする。

「じゃあ、嬢ちゃんとオレの共同販売って形でどうだ?」

 しかし、私が尋ねるより先に、諦めきれないおっちゃんが提案してくる。

「きょうどうはんばい?」
「ああ、そうだ。嬢ちゃんが考えて、オレが作って売る。売上の材料代を抜いて折半でどうだ?」

 それって……私なにもしないのに半分も貰えちゃうの? それはさすがに……
 私はぶんぶんと首を横に振る。やっぱり駄目かとガックリしているおっちゃんに、声をかける。

「そんなにいりません」
「はっ?」

 半分も貰えないとお断りをする。しかし、私の言ってる意味がよく分からないのか、おっちゃんが固まってしまった。

「ミヅキ、レシピっていうのは貴重だぞ。登録すれば誰も真似することができないし、売上をミヅキのものにできるんだ」

 ベイカーさんは、私がよく分かってないと思ったのか説明してくれるが、元々考えたのも私じゃないのにそんなことできない。それに、登録とか面倒くさそうだし……

「いいんです。おっちゃんのソーセージおいしかったし、おいしくつくってくださいね。またたべにきますから」

 こんなに美味おいしいのがまた食べられるなら問題ない。向かってにっこり笑う。

「……いや、それはできん! こんな画期的なアイデアをタダでは貰えん!」

 今度はおっちゃんが首を振る。しばらく考えて込んだ後、ハッとした様子で口を開いた。

「よし! それならこれからうちの商品はお前達に限り食べ放題ってのでどうだ!」

 親指を立て、いい笑顔を見せるおっちゃん。
 それはいい! と私もおっちゃんに向かってサムズアップした。
 おっちゃんの屋台やたいの料理が食べ放題になりウキウキの私は、色々なアイデアを出す。

「パンはだえんけいのパンをたてにきると、はさみやすいとおもいます。あとはうえからチーズをかけてもおいしいの」

 チーズホットドッグを想像して頬を押さえる。早く食べてみたい!

「なるほどな! いくつか試作品を作るから、明日また味見しに来てくれないか?」

 タダでホットドッグを食べられるなら、お安い御用だ。
 了承して明日来ることを約束して、私達はおっちゃんと別れた。
 これから何時でもホットドッグ食べ放題とか最高だ! これで、異世界で餓死がしする心配はなくなったな。
 密かに安心する私を見て、ベイカーさんは勿体もったいないと苦笑いしていた。
 お得な交渉だったと思うんだけどなぁ……私としてはのんびり生活していければ十分だ。贅沢ぜいたくは望まないし、働きすぎるのはよくない! うんうん。
 屋台やたいゾーンを過ぎ、ちらほらと食堂が増えてきた。
 その中の一軒のお店にベイカーさんが入ろうとする。しかし気になることがあり、私はつんつんとそでを引っ張って彼を止めた。

「シルバは?」

 振り返ったベイカーさんに聞いてみる。
 やはり飲食店に動物を入れるのはよくないよね……?

「ああ! そうか。従魔だから大丈夫そうだが、でかいからな……」

 ベイカーさんは難しい顔でシルバを見る。
 すると、シルバは店の横にキチンとお座りをした。

【俺は、外で待ってるぞ】
【シルバと一緒に食べたいな……】

 一緒に行けないことにしょんぼりとうつむく。

「ちょっと待ってろ」

 ベイカーさんがそんな私の様子を見て、お店の中に入っていってしまった。
 シルバをでながら待ってると、ベイカーさんが出てきて、お店の裏に回るよう案内してくれる。そこには従業員用のテーブルが外に置いてあった。

「ここで食べていいそうだ。外ならシルバも一緒に食えるだろ」

 ニカッと笑うベイカーさん。
 わざわざ一緒に食べられるように聞いてきてくれたのだ!

「ありがとー」

 私は、ベイカーさん足に抱きついてお礼を言った。
 早速椅子に座っていると、美人なお姉さんが裏口から出てきた。

「ベイカーさん、今日はなににするんだい」

 手を腰に当てて声をかけてくる。
 カラッとしていて姉御肌な感じの美人さんだ! あと胸が大きい……ここ重要!
 私は自分の胸を見てそっと手を当てる。
 ……いや、今は幼児だし! 生前もあまり変わらなかった気がするけど……これからの成長に期待しよう。

「リリアンさん、すまんな裏を使わせてもらって助かるよ」

 ベイカーさんが美人のお姉さんにお礼を言った。

「いいんだよ! 常連さんだから。それにそんな大きな従魔じゃ、お店にいたら邪魔だしね」

 アハハと豪快に笑う。

「で、どうする? いつものでいいのかい?」

 ベイカーさんは『いつもの』を三人分注文した。お姉さんが「あいよっ」と小気味よく返事をして店内へ戻っていく。

「おおきいねぇ……」
「はっ?」

 お姉さんがいなくなっても、いまだ胸の衝撃が消えない。
 ベイカーさんが目をしばたたかせながら私の顔を見た後、その目線が下へ移動する。私が自分の胸に手を当てているのを見て、「ああ」と得心顔で苦笑する。

「ミヅキはそのままで可愛いからいいじゃないか」

 気にするなとなぐさめてくれる。
 くっ! いつか大きくなるんだからっ。
 しばらくしてリリアンさんが料理を持ってきてくれた。

「はい、どうぞ!」

 私の前にお皿を置いてくれる。お礼を言うと「いっぱい食べてね」と笑って頭をでてくれた。
 運ばれてきたのは煮込み料理だった。
 色んな野菜とお肉が煮込まれていて、いい香りがする。

「いただきます」

 スプーンを手に取り、さっそく食べ始める。熱々のスープをすくい、フーフーと冷ましてから口に入れる。
 うーん、優しい味だ。野菜とお肉から出汁だしがよく出ていて美味おいしい。
 シルバも気に入ったようでガツガツ食べている。美味おいしそうに食べるシルバに、私はにっこり笑いかけた。

美味おいしいね、シルバ!】
【まぁまぁだな! 俺はミヅキの料理のほうが好きだがな】

 そう言いながらも、シルバは尻尾をブンブンと振っている。

「ここの店の看板メニューだ。美味うまいだろ? まあ、ミヅキの料理も美味うまいがな!」

 もう皿を綺麗に空にしているベイカーさんの言葉に、私ははにかみつつ頷いた。二人にめられちょっと照れてしまう。

「そのちっちゃい子が料理をするのかい?」

 話を聞いていたリリアンさんが、驚いて目を見開いている。ベイカーさんが今まで作ってあげた料理と先程の屋台やたいでの話をすると、更に大きく目をみはった。

「ミヅキちゃん、よかったらうちの新メニューも考えてくれないか?」

 かがんで目線を合わせておねがいと言われる。つい目線が下がる。
 ……む、胸がこぼれそう。
 私はゴクッと息を呑んだ。


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