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8章

373.新章

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「あー…あっという間にサウス国の王都見えなくなっちゃったね…」

ミヅキが寂しそうに籠の柵に足をかけて外を眺めていると…

「ミヅキ、危ないからもっと中にいろよ」

デボットがミヅキを抱き上げて中へと戻す。

「デボットさん、だって外でも見てないと暇でさぁ~」

ミヅキがブツブツと文句を言っていると…

「それより霧の里に一体なんの用があるんだ?」

ベイカーがミヅキに聞くと

「えーっと…エヴァさんの知り合いから頼まれて…渡したい物があるんだよね~」

「私の知り合い?」

エヴァさんが誰の事だ…と首を傾げて考えていると

「サウス国であったのか?」

レアルが疑うように聞いてくる…

「海の国…かな?まぁ…私もよくわかんないからこの話はおしまい!行ってみればわかるよ!」

ミヅキがムッと口を噤むと…

「お前…またなんか騙されてるんじゃ無いだろうな」

ベイカーがじと目でミヅキを見ると

「それはない、大丈夫」

ミヅキはしっかりとベイカーの瞳を見つめ返した…

「ふーん…そこまで言うなら…でも一人で行動するのは許さんぞ!今度お前に何かあったら俺も殺される」

「わ、わかってるよ~」

(でも…雄一郎さんの遺したものベイカーさんが見ても平気かな?)

うーん…

ミヅキは腕を組んで考えたが…いい答えは見つからなかった。

そんな話をしていると…

【ミヅキ、目的地が見えて来たぞ】

【うそ!早くね!】

ミヅキがたまらず籠に近寄り柵に掴まり眺めると、ムサシさん達の里がある霧の森が見えて来た!

「早かったな!」

ベイカーも近づいて外を見ていると、他の人達も眺め出した。

「あっという間に帰って来たわね」

ユキさんが驚いて霧の森を見つめると…

「あら…なんだか…人がたくさんいるわね?」

「えっ?」

ミヅキもユキさんが眺めている方向を見てみると…確かに森の周りに人だかりが出来て長い列を作っていた…

「本当だ…何かあったのか?」

ムサシとコジローも心配そうに人だかりを見つめていた…

あまり近くで降りても騒ぎになりそうなので少し離れた場所に着地してもらうと、みんなで歩いて霧の里に向かった。

ミヅキはシルバに乗せてもらっていると…霧の里に入るのに長い行列が出来ていた。

「なんだ…これは?」

コジロー達が長い行列を目を見開き見つめていると…

「おい!並ぶんなら最後尾はもっと後ろだぞ!ズルはするなよ!」

並んでる人達がボーッと突っ立ているコジロー達に怒鳴って注意すると…

「すみません…この列はなんでしょうか?」

レアルが並んでいる人に話しかけた…

「何って…なんにも知らないでこの里に来たのか?」

話しかけられた人が訝しげに変な団体を見回した…

「この里で何かあったんですか?」

今度はミヅキが話しかけると…

「うん?お嬢ちゃんには関係ないかもなぁ~今この里で作られる調味料が話題になってるんだよ」

「「「調味料!?」」」

ムサシ達が声を揃えると

「それって…」

ミヅキがチラッとムサシをみた…するとその視線に気がついた人達がザワザワと騒ぎ出した。

「お、おい…あの人」

「ああ…」

ムサシを見てコソコソと話し出した…その様子にムサシが思わず一歩下がる…ミヅキはその様子にギュッとムサシの手を握りしめた。

「ムサシさん?何処行くの?」

ミヅキがにっこりと笑うと

「凄いね、この人達みんなムサシさんの作ったものを求めてるんだよ」

ムサシに向かって尊敬の眼差しを送ってきた…裏表のないミヅキの表情と言葉にムサシは落ち着きを取り戻すと

「ミヅキ…ありがとう、もう大丈夫だよ」

ムサシが微かに笑ってミヅキを見ると

「大丈夫ってなにが?」

ミヅキは首を傾げた…

「ムサシにいさん、コジロー様とりあえず里に向かいましょうよ!この状況の事を長老に報告しないと!」

「そうだな…」

コジロー達は森に向かって歩き出すと…

「おい!お前らなに先に行こうとしてんだよ!俺らの方が先に待ってるのが見えないのか!」

先頭の方に並んでいる男達がイライラしながらコジロー達にあたってきた!

「全く…いくら待ってもノロノロと進みやがって!こっちはわざわざ遠くから買いに来てやったんだそ!いつまで待たせる気だよ!」

「そうだ!そうだ!」

待つことに苛立ちはじめた奴らが騒ぎはじめた

「なんか…空気が悪くなったな、早めに森に入っちまおうぜ」

ベイカーが先をうながすと…

「おい!待てよ!話は終わっていないぞ!」

男が最後尾を歩いていたムサシの肩を掴むとグイッと振り向かせる。

そしてその顔を見て驚くと

「なんだこいつの姿…気味が悪い…お前みたいな獣に味なんてわかるのか?」

クスクス…

男の言葉に失笑がおきる…

ミヅキが頭に来て文句を言おうと男の前に出ようとすると、ムサシがそれを止めた。

「ミヅキ達のおかげであんな事を言われても大丈夫だよ、わかってくれてる人がいるってのはこんなにも心強いんだな」

ムサシが笑っていると、周りの人達が強がりだと馬鹿にしたようにさらに笑っていた…

すると騒ぎを聞きつけ若い獣人がムサシの所に向かって走ってきた!

「す、すみません!もしかして…そのお姿!ムサシさんではありませんか?」

ムサシに向かって真剣な表情を浮かべていると

「君は?」

ムサシが獣人をじっと見つめた。

「し、失礼しました!俺、いえ!僕はエリクと言います!ムサシさんが作った醤油を食べて凄く感動しました!僕にもあんな物が作れたらって…いきなりで恐縮ですが、どうか弟子にしてください!」

ガバッ!と勢いよく頭を下げると…

「何言ってんだこいつ…」

並んでいた男達がエリクの言葉に笑いだした…

「今噂の醤油と味噌を造ったのがこんな獣のわけないじゃないか…この繊細な味は人にしか出せない」

男達が鼻で笑うと

「それに造り手の人はそれはイケメンで心優しいお人だって噂だぞ!なんでも何処かの商家のお嬢様に見初められたってな!」

「商家の…」

「お嬢様?」

話を聞いてデボット達が顔を見合わせる…

「それって…」

みんながミヅキを見ると

「大方、マルコさんから話を聞いた奴らが勘違いして変に広まったんじゃないのか?」

ベイカーがムサシを見ると

「まぁ…間違ってないよね!イケメンで優しいもん!」

ミヅキが話にうんうん!と納得していると

「何をごちゃごちゃと言ってるんだ!わかったらさっさと最後尾に並べよ!」

男達がドンッとムサシを突き飛ばすと

「ちょっと!おじさん達!何するの!」

我慢できずにミヅキが男達を睨みつけた!

「そうだ!ムサシさんに手を出すなんてなんて奴らだ!」

エリクもムサシを庇うようにミヅキに並ぶと

「この獣人とガキが!大人がいるからって調子にのるなよ!ここいらでうちの商会に逆らって商売ができると思うなよ!」

どうやら男達は何処かの商会の者のようだった…

「ちょっとそこ!何揉めてるんですか!騒ぎを起こすなら取り引きは遠慮して貰いますよ!」

騒ぎが大きくなると森の中から里の者が飛び出して来た!

「やべぇ!」

男達がサッと列に並び直すと…ベイカーもまだ興奮しているミヅキを抱き上げた。

「俺達はこいつらが騒いでいたから注意しただけです」

男達が澄ました顔で説明しようとすると…

「あっ!あなたは!」

里の者がミヅキやムサシ達に気がついた!

「ちょっ!ちょっと待ってて下さい!今長老達に知らせて来ますから!」

里の者がすぐさま森に引き返すと…

「ふふん…俺達も有名になったもんだな!」

何を勘違いしたのか商会の男がニヤニヤと笑いだした。

「きっと俺達があのブーブル商会と気がついたんだな!」

「違いない!これで早く取り引きの話が出来そうだな」

ふふ…と不敵に笑っていると

「お前らがブーブル商会の奴らだと!」

獣人のエリクが男達の顔を見て顔をこわばらせた…。
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