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「ココ!ココいるんだろ!」

俺は領主の屋敷に着くなり門の前で大声をあげた。

「うるさいぞ!」

すると領主の息子が屋敷から従者を連れて出てきた。

「おい!ココになにかしたのか!」

俺は領主のバカ息子の胸ぐらを掴んで詰め寄った。
今までそんな事をした事がないのにその時ばかりは頭に血が上ってしまった。

「おい!ダミアン様から手を離せ!」

従者に羽交い締めされて地面に押し付けられる。

「金なら払っただろ!ココに手を出すな!」

ダミアンは身だしなみを整えると息を落ち着けて俺を見下ろした。

「いきなり何をするかと思えば野蛮な奴だ。ココとか言うのはお前ところにいたガキか?」

「そうだ!」

俺は精一杯睨んで見せた。
するとダミアンは少し怯んで従者に合図をする。

「あの子ならここにいるぞ、お前のところが嫌で俺のところに来たんだよ。なあ?」

そういうと着飾ったココが後ろから顔をだした。
その表情は暗く怯えているように見える。

「ココ、帰ろう」

俺が優しく声をかけるとココはサッと目を逸らした。

「ココ?」

いつもなら笑顔を返してくれるココの拒絶にガクッと力が抜ける。

「わかっただろ?」

ダミアンの勝ち誇った顔に何も言えなくなってしまった。

「ジャック……」

ココが何か言おうと俺に向かって手を伸ばす。

「さぁもういいだろ?帰ってくれこいつは俺が使ってやるからな」

「使うだと?ココを物とでも思っているのか!」

「そんなことはない、役に立つならこうやっていい服や部屋を与えてやってるんだ」

「ココ、本当にこいつのそばがいいのか?ココがそういうなら俺は何も言えないが…」

「ココ、ジャックの……」

「約束は守ってくれよ…」

ココが何か言おうとするとダミアンは何か耳打ちしていた。

するとまたココの口が閉じてしまう。

「こいつをつまみだせ!」

ダミアンに命令されて俺は従者達に放り投げられた。

「ジャックに酷いことしないで!」

「お前がいい子にしてたら何もしないぞ…」

「ココ、いい子にする。ジャック……帰って……」

「ココ!」

ココはそう言うと屋敷の中へと消えてしまった。

「ふん、もしあいつを返して欲しいならこの前の倍の金を用意しろ。そしたら考えないでもない」

「倍だと……」

「まぁお前には無理だよな」

ダミアンは高笑いをしながら屋敷に消えて言った。

俺はココを連れ帰る事も出来ずにひとりとぼとぼと家へと戻った。

家に帰るともう待ち人の居ない家が暗く感じる。

「結局、金なのか」

ココは本当は俺が嫌であいつを選んだのか…

そうじゃないと思いながらもその思いを捨てきれない。
自分にダミアンよりも勝る自信がないからだ。

「ココはあいつのそばにいた方が幸せなのかもしれない。美味しい食事に綺麗な服……」

俺が用意できないものを全てあいつは持っている。

もうココの事を考えるのはやめようと思っていると部屋に用意された食事を見つける。

冷めてしまっているが一生懸命ココが用意してくれたものだとわかった。

「俺のところに……」

戻って来て欲しい!

俺は慌てて家を飛び出した。
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