上 下
6 / 9

6.下町

しおりを挟む
「ヒック…」

私は涙を拭いて息を整える。

長い時間大泣きすると少しスッキリした…少しボーッとして呆けているとアイザックさんが声をかけてきた。

「どうだ?少しはスッキリしたか?」

「ハッ!はい!すみません…服を汚してしまって…」

私は私の涙で濡れたアイザックさんの服をみて申し訳なく思って眉を下げた。

「このくらい大丈夫さ、それよりもアイラは大丈夫なのか?」

優しく目の下を撫でてくれる。

なんかロータスのようで懐かしくなった…もうロータスにこんな事はして貰えないのかもしれないと思うとまた涙が滲んでくる。

「え?あれ?どうした!」

するとアイザックさんが慌てて立ち上がってあたふたする、その様子に涙も引っ込んだ。

「ふふ、大丈夫です。アイザックさん…ありがとうございました。私やっぱりロータスの事は諦めます」

立ち上がってアイザックさんに頭を下げた。

ここまで付き合って話を聞いてくれた事に感謝しているとアイザックさんは何も答えずに私の腕を掴んだ!

「ちょっとこの後俺に付き合わないか?」

「え?」

「アイラにも付き合ったんだから俺の用事にも付き合ってくれよ」

そう言って笑うアイザックさんの言葉に私はこくっと頷く。

確かに彼には色々付き合わせてしまった、そのくらいで償いになるならと…

「よし!」

アイザックさんはニカッと笑うと町中に向かって私の手を引いた。

「アイラは下町は歩いたことあるか?」

私は首を振った。

下町は少し治安が悪いと家族から聞いていた、その為一人ではもちろん黙って行ってはいけないと言われていたのだ。

一度ロータスに頼んだ時も駄目だと言われてやんわりと違う話にすり替えられた記憶がある。

私はドキドキしながら町の様子をキョロキョロと見つめる。

するとそんな私に町の人達の注目が集まる…どうやらなんかキョロキョロして目立ってしまったみたいだ。

「まずいな…よし!アイラここに入ろう!」

アイザックさんは近くの服屋に飛び込んだ!

「わぁ!服がいっぱい…」

私はひしめくように並ぶ服に驚いて口を開きっぱなしになる。

「キャシー、この子に似合う服を見繕ってよ」

するとアイザックさんは店の人に声をかけた。

「あら、アイザック今日は可愛い子を連れてるわね…ってこの子貴族じゃないの!?」

お店の人は驚いて目をむいた。

「は、初めましてアイラと申します」

私は慌てて頭を下げた。

「いいからいいから、なんか目立たない服に着替えさせてよ」

アイザックさんに奥へと押されて私はキャシーさんに連れていかれた。

「似合う服ね…あなたならなんでも似合いそうね…」

キャシーさんは真剣な顔で私の全身を見るとサッと何処かに行って服を持って戻ってきた。

「これに着替えてみて」

そう言って服を渡されるがどうしようかと固まってしまう。

「どうしたの?」

「すみません…どうやって着るのかわからなくて…」

「あっ…しょうがない、きて!」

キャシーさんはさらに奥へと私を連れていくと狭い部屋で服を脱がせてくれた。

「まずはこれを着て、次にこれ…紐で縛ってこれを履けば大丈夫よ」

キャシーさんの指示に私はモタモタと着替えると最後にキャシーさんが整えてくれた。

そして上から下まで見ると満足そうに笑った。

「うん、可愛い!さすが私ね」

「あ、ありがとうございます!」

私はペコッと頭を下げた。

「可愛い子は大歓迎よ!気に入ったらまた来てね!」

キャシーさんはウインクすると来てた服を袋に詰めてくれた。

「はい、お待たせ!」

そしてアイザックさんの元に連れて行ってくれる。

私はお店で迷子になりそうだった。

「ど、どうでしょう?」

私は着替えた服をアイザックさんに見せた。

庶民の服は初めて着る、前から少し気になっていたので少し嬉しい!

「う、うん…まぁ似合うよ。ちゃんと町娘に見える」

アイザックさんは目を逸らしてウンと頷いた。

「ちょっとアイザックちゃんと褒めてあげてよ!可愛いでしょ!」

キャシーさんは私の肩を掴むとアイザックさんの前にずいっと出した。

アイザックさんはびっくりしながらも私をみてニコッと笑う。

「ああ、すごく似合うよ。アイラは可愛いから」

「あ、ありがとうございます」

久しぶりに男の人に褒められてなんか恥ずかしい。

ロータスとばかり一緒にいて褒められることに慣れていたが違う男性だとまた違う気がした。

「私の見立てだもん!でもアイラさんの元がいいからね」

「キャシーさんもありがとうございました」

私はお礼を言うと店を出た。

「あっ!お金…」

店を出てからお金を払ってないことに気がついた。

「大丈夫、大丈夫。あそこは知り合いの店だから、それよりもほら、荷物貸して」

元の服が入った袋をアイザックさんは持ってくれた。

「さぁ今日は町娘になって楽しむぞ!」

「は、はい!」

私はアイザックさんに手を引かれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

英雄になった夫が妻子と帰還するそうです

白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。 愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。 好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。 今、目の前にいる人は誰なのだろう? ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。 珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥) ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

まさか、こんな事になるとは思ってもいなかった

あとさん♪
恋愛
 学園の卒業記念パーティでその断罪は行われた。  王孫殿下自ら婚約者を断罪し、婚約者である公爵令嬢は地下牢へ移されて——  だがその断罪は国王陛下にとって寝耳に水の出来事だった。彼は怒り、孫である王孫を改めて断罪する。関係者を集めた中で。  誰もが思った。『まさか、こんな事になるなんて』と。  この事件をきっかけに歴史は動いた。  無血革命が起こり、国名が変わった。  平和な時代になり、ひとりの女性が70年前の真実に近づく。 ※R15は保険。 ※設定はゆるんゆるん。 ※異世界のなんちゃってだとお心にお留め置き下さいませm(_ _)m ※本編はオマケ込みで全24話 ※番外編『フォーサイス公爵の走馬灯』(全5話) ※『ジョン、という人』(全1話) ※『乙女ゲーム“この恋をアナタと”の真実』(全2話) ※↑蛇足回2021,6,23加筆修正 ※外伝『真か偽か』(全1話) ※小説家になろうにも投稿しております。

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

狂犬を手なずけたら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
気がつくと知らない国に生まれていたラーミア、この国は前世で読んでいた小説の世界だった。 前世で男性に酷い目にあったラーミアは生まれ変わっても男性が苦手だった。

処理中です...