お化けが見えるだけなのに……

三園 七詩

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「えっと始めまして、高橋 結奈です。店主さんから美琴ちゃんに面接を受けるように言われてるんだけど……美琴ちゃんっていくつかな?」

「10歳」

うん、見た目は子供で本当は大人かと思ったりしたけど見た目のままのようだ。

私はとりあえず美琴ちゃんの面接を受けることになった。

「なんでここで仕事しようと思ったの?」

美琴ちゃんは面接官らしい質問をしてきた。

「この店の雰囲気がすごく素敵で働きたいなって思ったの。それと住み込みも魅力だったから、ここは美琴ちゃんの部屋?」

「そう、何か変?」

美琴ちゃんにそう言われて部屋の中を見るが、小学生にしては少し落ち着いた部屋に見えた。

そして何より気になるのは見えない存在がいること……

「か、可愛い部屋だと思うよ」

私は存在を無視してにっこりと笑った。

「結奈さんは猫は好き?」

突然の質問にドキッとしてしまった。

「ね、猫?」

「そう、猫」

私はチラッと美琴ちゃんの横を見る。

実はそこには幽霊の猫がいたのだ。

まるで美琴ちゃんはその猫の事を言い出したのかと思った。

「猫は……好きだけど、お店は飲食店出し飼えないんじゃ?それとも猫がいるのかな?」

「猫は……飼ってないよ。ただ好きか聞いてみただけ」

「そっか、うん。猫は好きだよ」

私はニコッと笑って答えると美琴ちゃんの横にいた猫は「にゃーん」とひと鳴きして消えてしまった。

それにまた驚き肩を揺らすが平気な振りをしてポーカーフェイスを決め込む。

まさかまた幽霊がいるからなど言ってせっかくの好条件の仕事を失いたくなかった。

「わかった、ありがとう。面接は終わりです」

美琴ちゃんは質問は終わりだとペコッと頭を下げた。

「え?終わり?」

私はなんの手応えも感じる事は出来ずに落胆する。

やはり娘さんの面接は厳しかったようだ。

はぁ……と残念そうに肩を落として階段を降りた。

すると降りてきた私に店主さんが声をかけた。

「すみません、娘さんのお眼鏡にはかなわなかったみたいです。ありがとうございました。でもお客さんとしてまたお店に来ますね」

せっかく見つけたいい店だ、これで最後は寂しかった。

私は残念そうにする店主さんにお礼を言って店を出ていった。

しかしその数、私の携帯に見事合格した知らせが届くのは次の仕事を探している数時間後の事だった。


次の日、細かな話とこれからの事を決めるためまたお店へと出向いた。

今度はお店のカウンターで話を聞くことになった。

カウンターには店主の準一さんと娘の美琴ちゃん。

お母さんはいないとの事……詳しくは説明されなかったので何か少し事情があるのかも。

「住まいは二階になるからね、それは見ながら説明するね」

準一さんに案内されて私はまた二階へと向かった。

この前は美琴ちゃんの部屋しか入っておらず、今度は私の部屋になる場所を見せてもらった。

作りは美琴ちゃんの部屋と変わらず少し広いくらいだった。

「二階にもトイレとお風呂に洗面台があるからね。美琴と二人で使って欲しい」

「はい」

よかった、準一さんとお風呂で鉢合わせ!なんて展開があったらどうしようかと思っていたがそんな事はなさそうだ。

少し残念……なんて思ってない!絶対!

「食事は下で食べよう」

「食事もついてるんですか!」

「簡単な賄い程度だけどね」

「嬉しいです!」

私はラッキーとなんだがここでの生活が楽しみになってくる。

その後は休日の取り決めや家でのルール細かな仕事の内容など説明を聞いた。

「ここまで何か質問あるかな?」

「大丈夫です」

「何かわからないことがあればその都度すぐにでも聞いてね」

「はい!ありがとうございます」

準一さんは丁寧に優しく説明してくれた。

その後美琴ちゃんは喋らずにずっと私の事を観察していた。

最初は気になった視線だったがその後はお店の事や部屋を見ててすっかりと忘れていた。

心配した猫の幽霊も今日は見なかった事もありほっとした。

あの日はたまたまあの場にいただけなのかもしれない。

こうして私はすぐにでも引っ越してお店で仕事をする事になった。

そうそう、大事な事を忘れていた。

お店の名前は「かぎしっぽ」喫茶かぎしっぽである。
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