【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩

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グレイ視点

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グレイはカノンが家の中に入るのを確認すると踵を返して店へと向かう。

先程まで隣いた温もりが無くなると途端に心も体も寒くなった…カノンから返して貰った上着を羽織るとほのかにカノンの匂いがした…あの店の優しい匂いだった。

強い風の中に歩いているとふと後ろの気配に気が付く。

来るとは思って来ましたが…こんなに直ぐにとは…

馬鹿共がと苦笑する

気が付かないふりをして店に戻ると足音を隠そうともせずに向かってくる。

鍵を開くとそのまま流れ込んで来た…

店はもう閉まっていることを伝えると逆上するのが分かる。

こんな時に冷静にいられないとは…

やれやれとため息をつくと

「なんの御用でしょう?」

あくまで紳士的に聞くと男達はナイフを見せつけるように揺らした。

あんな武器を見せつけて…あれでは相手に弱点を晒しているようなものですね

見えないふりをするがわざわざナイフだと親切に教える男達は金を寄越せと要求してきた。

まぁ…渡して帰ってもらっても構わないが…それに味をしめてまた来られたら困りますね…私がいる時ならいいですがカノンさん一人の時を狙われたら…

そう思うと胸がざわめいた…あまり感じた事の無い感情に胸を押さえて顔を曇らせた。

お金は渡せないと言うと、ナイフで切りつけると言う…

あんなもので怪我をするとは思えないが…でも振り回されてあの男達が血でも流したらこのお店が汚れてしまう。

そんな事になればきっとケイトさんもカノンさんも嫌な気持ちになりますよね…

んーそれも遠慮したい…

グレイが悩んでいると雲が月を隠して辺りが暗くなる。

しかしグレイの瞳は男たちの場所をしっかりと把握していた…

グレイは暗闇の中男達に音もなく近づいて沈黙させる。

そして後ろのキッチンに隠すとまた月が出てきた…

「ど、どうしたんだ」

一人残ったリーダーらしき男は何が起きたのかと怯えだした…その顔を見てグレイは胸の奥から何か熱い感情が湧いてくる。

これは…歓喜?

グレイが胸を押さえると怯える男の顔を見つめる。

「何をした…」

男は自分が震えているのに気がついていないのかカタカタと標準の合わないナイフをこちらに向けている。

グレイは冷たい視線で男を見つめると

「お前…なに者なんだ…」

何者?

記憶の無くした頭で考える…確かにこんな暗闇で物音ひとつ立てずに歩くすべを知っていた…それにこの男達の強さもわかった…自分よりも明らかに弱いと…

「私は…」

グレイが自分の手を見つめると…

「ひっ…」

男は恐ろしさのあまりナイフを落として尻もちをついた。

カランッ…

ナイフの落ちる音と共に怯える男の顔が脳内に入り込んだ。

その瞬間全てを思い出した…

「ああ…私は…人殺しでした…」

「はっ?」

「いや…すっかり忘れていました…何故でしょう…」

首を傾げると

「わ、わかった…誰にも言わない…もうここには来ない…だから助けて…」

男がグレイにしがみつこうとすると

ガンッ!

男の腹を殴る。

「すみませんが顔を見られましたしあなたがその約束を守るとは思えません。ですからお仲間と一緒に消えてもらいます」

グレイはニッコリと笑いかけると男は恐怖のあまり意識を失った。

グレイは男達を引きずって裏の森へと入っていく…奥深く進むと崖があり下には激流の川が流れていた。

「うん…ここはいいですね」

グレイは男達が持っていたナイフで首を切ると一人ずつ崖から投げ捨てた。

「これで大丈夫と…」

帰ろうとすると切り株のそばには大量のキノコがなっているのに気がついた。

「カノンさんが喜びそうですね…」

ふっと出た言葉にグレイは動揺する…記憶が戻った今もうここには用は無いはず…このままこの町を出ていっても…

そうは思うがグレイはキノコを見つめると拾い出した。

店に戻って男達が汚した箇所を綺麗にすると朝食の準備をする。

少し多く作りすぎましたかね…

どうしようかと思っていると扉が開きいつものようにカノンの元気な挨拶が飛び込んできた。

「おはようございます」

グレイは笑顔で挨拶を返した。

カノンは用意された料理を見て手伝いたかったと頬をふくらませた。

そのまっさらで温かい素直な思いにグレイは感じたことのない居心地の良さを感じていた。

たわいのない会話に人と摂る食事…殺し屋の時とは正反対の暮らし…

いつまでもここにいる訳にはいかない…

近いうちに出ていかないと…

そう思うといつ最後の食事になるか…寂しさが押し寄せた…

するとカノンがじっとグレイを見つめる。

「記憶…戻りましたか?」

何故…

グレイは驚いた、そして瞬時に顔を戻すと誤魔化す。

カノンはグレイが出ていくことを悲しそうにした…自分の存在をこれ程必要としてくれる事がこんなにも心地よいとは…

カノンはグレイにいつまでも居てくれていいと言葉をくれた。

なのでグレイはこの秘密はずっと守ろうと決めた。

本当の事を話せばカノンさんなら受け入れてくれるかもしれない…けれどその秘密を知った事で彼女に危険が及ぶことは耐えられなかった。

だからここでだたのグレイとして生きようと…この小さな町の食堂でケイトさんとカノンさんを幸せにしようと…心に決める。

自分に人の心を教えてくれた彼女達。

グレイは

「ありがとうございます」

初めて自分の言葉で感謝を述べた。

その後に一緒に笑って食べたこの食事を忘れる事はないだろう。







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感想 17

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みんなの感想(17件)

セライア(seraia)

従業員 兼 護衛・・・ジャンルを確認して、思わず「年の差婚は無しかぁ」とボヤいたのは私だけじゃないはず(だと信じたい)ww

三園 七詩
2021.01.09 三園 七詩

お読みいただきありがとうございます(#^_^#)

遠い未来…もしかして……I˙꒳​˙)

解除
can@赤ペン職人

from 開店
>カノンの店はグレイさんが来てから人の《耐えない》店となっていた。
《耐えない》→《絶えない》

三園 七詩
2020.11.18 三園 七詩

治しましたー(*^^*)

解除
鯨クジラ
2020.11.12 鯨クジラ

ついタグにおじさんと書いてあり、一気読みしてしまいました……!!
紳士で丁寧なおじさま大好物です!!
純粋無垢なカノンちゃん共々ごちそうさまですっ……!!
おじさまの表と裏の顔にギャップを感じてつい興奮してこのような拙い感想を送ったことお許し下さい……。

作品楽しみにしています!

三園 七詩
2020.11.12 三園 七詩

おお!同士よ!( ー̀∀ー́ )
おじ様好きに喜んでいただけて嬉しいです!

解除

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