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月明かり
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「グレイさん、大丈夫ですからもう戻って下さい」
カノンは店を出てから何度もそう言っているがグレイは頑なに首を振る。
「駄目です、昼間あんな事がありましたからね。今日は家までお送りします」
引く様子のないグレイさんにカノンはため息をつくと
「では…お願いします」
ペコッと頭を下げた。
グレイは頷くと
「では行きましょう」
カノンと横を並んで歩いた。
カノンはいつもの寒い帰り道が今日はなんだか暖かく感じた。
チラッと横を見るとグレイさんが視線に気が付き微笑み返してくれる…カノンは頬が熱くなると服をあげて寒がる振りをした。
するとグレイは着ていた上着を脱ぐとカノンの肩にかけた。
「だ、駄目ですよ!グレイさんが風邪を引いてしまいます!」
カノンが服を返そうとすると
「そんな顔を赤くされて…もっと早く気がつくべきでした…私は大丈夫なのでそのままいてください」
グレイさんの優しさにカノンはいたたまれなくなり白状する。
「ごめんなさい!グレイさんに見とれて顔が赤くなりました!だからこれは大丈夫です!」
目を閉じて頭を下げて上着を突き返す。
何も返事が無いことにカノンはそっとグレイさんを見上げると…
「ふふ…カノンさんは本当に素直ですね」
口元に手を当てて可笑しそうに笑っていた。
そして…
「私は本当に大丈夫なので良かったらそのまま…」
上着をもう一度カノンにかけた。
カノンは困った様に笑ってその上着を握りしめた。
たわいもない話をしながら並んで歩いていると家が近づいてきた…カノンは無意識に足を遅める、すると今まで温かかった道に急に風が吹いた。
ブルっと震えるとまた風が止む…見るとグレイさんがピッタリと隣に立っていた。
グレイさん…ずっと風が当たらないようにしてくれてたんだ…
カノンはグレイさんの手を掴むと…
「今日は…いえ…今日もありがとうございました!グレイさんが来てくれてから本当に助かってばかりです!」
カノンはグレイさんの目を見つめてお礼を言った。
「感謝してるのはこちらですよ、こんな正体もわからない男を助けて頂いて…」
「グレイさんはもううちの家族です!そんな事言わないで下さい」
カノンはいくら本人でもグレイさんの事を悪くいうのを許せなかった。
「ありがとうございます。もう家に入ってください。ケイトさんも心配しますよ、それに風邪を引いてしまいます」
グレイさんは子供にするようにカノンの頭を撫でると
「はい…」
カノンは上着を脱いでグレイに返すと大人しく家の扉に手をかけた。
「グレイさんありがとうございました!おやすみなさい、また明日」
「はい、おやすみなさい」
グレイさんはカノンが家に入るまでそこで見守っていた。
そして扉の鍵が閉まる音を確認するとくるっと向きを変えて店へと戻っていった。
そんなグレイのあとを追いかける影があったが…風の音に足音はかき消された。
グレイが店に戻って来ると真っ暗な店の鍵を開けて中へと入る…すると…
バタバタ!
グレイを押し込みながら男達が店へと入ってきた。
「おや…昼間のお客さんですか?店はもう閉まってますよ」
グレイはパンパンと服のホコリを払いながら声をかけた。
「俺達が客に見えるのか!?」
男達はナイフを取り出しグレイに向けた…
「ではなんの御用でしょう?」
グレイは気にする様子もなく聞き返す。
「お前…これが見えねぇのか!昼間といい人をコケにしやがって!」
男のナイフが月明かりでキランと光った。
「すみません…年寄りな者で、暗くて良く見えませんね…」
グレイが近づいて確認しようとすると
「動くな!これはなぁ…ナイフだよ。怪我したくなければこの店の金を全部もってこい!」
「お金ですか?」
「そうだ!」
「それは困ります。それを渡せばカノンさんが悲しみますから…」
「ならお前を刺して勝手に奪うだけだ!」
「んーそれも遠慮したいですね。私が怪我をすればカノンさんがきっと心配しますし…」
「さっきからごちゃごちゃと…もういい殺っちまおう」
男達が頷きあうと
「そうですか…」
グレイは少し困った顔をして微笑んだ…すると月明かりで多少、部屋の中の様子が見えていたが月が雲に隠され部屋が真っ暗になる。
男達が動けずにいると
「グッワ!」
「おぇ…」
仲間達のうめき声が聞こえた。
「お、おい!どうした!」
声をかけるが返事は返ってこない。
雲が流れまた店に明かりが戻ると…隣にいたはずの仲間達が居ない…そして前には先程と変わない場所にグレイが立っていた。
「な、何をした…」
男はグレイに話しかける…そんな事をする前に逃げるべきだと思うが頭が働かない…想定外の出来事にパニックになっていると
「別に…」
グレイが笑う。
「こ、こんな暗闇で何か出来るわけない…お前…なに者なんだ…」
男のナイフがカタカタと震える…男は自分が震えていることに気が付かなかった…
カノンは店を出てから何度もそう言っているがグレイは頑なに首を振る。
「駄目です、昼間あんな事がありましたからね。今日は家までお送りします」
引く様子のないグレイさんにカノンはため息をつくと
「では…お願いします」
ペコッと頭を下げた。
グレイは頷くと
「では行きましょう」
カノンと横を並んで歩いた。
カノンはいつもの寒い帰り道が今日はなんだか暖かく感じた。
チラッと横を見るとグレイさんが視線に気が付き微笑み返してくれる…カノンは頬が熱くなると服をあげて寒がる振りをした。
するとグレイは着ていた上着を脱ぐとカノンの肩にかけた。
「だ、駄目ですよ!グレイさんが風邪を引いてしまいます!」
カノンが服を返そうとすると
「そんな顔を赤くされて…もっと早く気がつくべきでした…私は大丈夫なのでそのままいてください」
グレイさんの優しさにカノンはいたたまれなくなり白状する。
「ごめんなさい!グレイさんに見とれて顔が赤くなりました!だからこれは大丈夫です!」
目を閉じて頭を下げて上着を突き返す。
何も返事が無いことにカノンはそっとグレイさんを見上げると…
「ふふ…カノンさんは本当に素直ですね」
口元に手を当てて可笑しそうに笑っていた。
そして…
「私は本当に大丈夫なので良かったらそのまま…」
上着をもう一度カノンにかけた。
カノンは困った様に笑ってその上着を握りしめた。
たわいもない話をしながら並んで歩いていると家が近づいてきた…カノンは無意識に足を遅める、すると今まで温かかった道に急に風が吹いた。
ブルっと震えるとまた風が止む…見るとグレイさんがピッタリと隣に立っていた。
グレイさん…ずっと風が当たらないようにしてくれてたんだ…
カノンはグレイさんの手を掴むと…
「今日は…いえ…今日もありがとうございました!グレイさんが来てくれてから本当に助かってばかりです!」
カノンはグレイさんの目を見つめてお礼を言った。
「感謝してるのはこちらですよ、こんな正体もわからない男を助けて頂いて…」
「グレイさんはもううちの家族です!そんな事言わないで下さい」
カノンはいくら本人でもグレイさんの事を悪くいうのを許せなかった。
「ありがとうございます。もう家に入ってください。ケイトさんも心配しますよ、それに風邪を引いてしまいます」
グレイさんは子供にするようにカノンの頭を撫でると
「はい…」
カノンは上着を脱いでグレイに返すと大人しく家の扉に手をかけた。
「グレイさんありがとうございました!おやすみなさい、また明日」
「はい、おやすみなさい」
グレイさんはカノンが家に入るまでそこで見守っていた。
そして扉の鍵が閉まる音を確認するとくるっと向きを変えて店へと戻っていった。
そんなグレイのあとを追いかける影があったが…風の音に足音はかき消された。
グレイが店に戻って来ると真っ暗な店の鍵を開けて中へと入る…すると…
バタバタ!
グレイを押し込みながら男達が店へと入ってきた。
「おや…昼間のお客さんですか?店はもう閉まってますよ」
グレイはパンパンと服のホコリを払いながら声をかけた。
「俺達が客に見えるのか!?」
男達はナイフを取り出しグレイに向けた…
「ではなんの御用でしょう?」
グレイは気にする様子もなく聞き返す。
「お前…これが見えねぇのか!昼間といい人をコケにしやがって!」
男のナイフが月明かりでキランと光った。
「すみません…年寄りな者で、暗くて良く見えませんね…」
グレイが近づいて確認しようとすると
「動くな!これはなぁ…ナイフだよ。怪我したくなければこの店の金を全部もってこい!」
「お金ですか?」
「そうだ!」
「それは困ります。それを渡せばカノンさんが悲しみますから…」
「ならお前を刺して勝手に奪うだけだ!」
「んーそれも遠慮したいですね。私が怪我をすればカノンさんがきっと心配しますし…」
「さっきからごちゃごちゃと…もういい殺っちまおう」
男達が頷きあうと
「そうですか…」
グレイは少し困った顔をして微笑んだ…すると月明かりで多少、部屋の中の様子が見えていたが月が雲に隠され部屋が真っ暗になる。
男達が動けずにいると
「グッワ!」
「おぇ…」
仲間達のうめき声が聞こえた。
「お、おい!どうした!」
声をかけるが返事は返ってこない。
雲が流れまた店に明かりが戻ると…隣にいたはずの仲間達が居ない…そして前には先程と変わない場所にグレイが立っていた。
「な、何をした…」
男はグレイに話しかける…そんな事をする前に逃げるべきだと思うが頭が働かない…想定外の出来事にパニックになっていると
「別に…」
グレイが笑う。
「こ、こんな暗闇で何か出来るわけない…お前…なに者なんだ…」
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