料理の腕が実力主義の世界に転生した(仮)

三園 七詩

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「なんで……謝るの?」

リコのか細い声が頭の上に降ってくる。
今リコはどんな顔をしているだろう、悲しませてしまったか?

ラウルが頭をあげるとジンジャーがリコの姿を隠して怒った顔で立っている。

「うちの子を怖がらせないでいただきたい。もうおかえり願おうか。この子は話すことなどないみたいだ」

リコを連れて回れ右をしてしまう。

「待ってくれ!今謝ったのは昨日の事だ、俺は嘘をついた」

リコの足がピクっと止まった。

「俺はリコの面倒が見たくない訳じゃない、それがリコの幸せだと思ったからだ。リコも俺なんかのところにいたよりも貴族になれた方がいいんじゃないか、幸せなんじゃないかと思ったんだ」

リコがようやくしっかりと俺を見てくれた。
俺はリコの目を見つめて続きを話した。

「リコ、ごめん。だから昨日は自分の気持ちに嘘をついた、本当はお前と離れたくなかった。こんな俺のそばにいたらリコに贅沢な暮らしはさせてやれないが……リコが望むなら戻ってきて欲しい」

「そんなの貴族の方がいいに決まっている、そうだな?」

ジンジャーが確認するようにリコに聞いた。

「昨日寝たベットはどうだ?それに豪華な食事に安心出来る家。それがあいつに用意出来るか?」

ジンジャーはラウルをゆび指した。

「それはできないかもしれない、でも片時も離れずにそばにいて守ってやる。それは誓う」

ラウルは負けることなくジンジャーを睨み返した。

「まぁいい、答えは決まっているからね。リコならわかるだろ?君がどちらを取るべきか?」

ジンジャーは笑ってリコの肩にそっと手を置いた。

リコはビクッとして俺を見る。
迷っているのかジンジャーと交互に何度も見ていた。

「ほら、早く決めないと兵士がきてこの男を連れて行ってしまうよ」

「え!?」

リコは驚いた顔をしてジンジャーを見つめる。

「このまま諦めて二度とここには来ないと誓うなら今日の不法侵入の件はなかったことにしてやろう。しかし諦めずにまた来たら……」

ジンジャーがそこで言葉を切った。

「ラウルさん、帰って!捕まっちゃうよ」

リコが慌てて声をかけてきた。

「それは貴族を選ぶってことだよね?」

ジンジャーがリコの答えを確認する。

「うん、貴族になる。だからラウルさんを帰してあげて」

「わかったよ」

ジンジャーがニヤリと笑うとリコはそっと目を閉じた。

「リコ!」

俺はそんなリコに大きな声で名前を呼んだ。

「俺の為に嘘をつくな!俺はそれをして後悔して自分の意思でここに来ている。何があっても責任は自分で取る!お前に何かして欲しいわけじゃない、お前の本当の気持ちが知りたいだけだ」

「私の気持ち?」

「そうだ、何もかもとっぱらって何がしたいか言ってみろ!」

「私……」

リコは自分の小さな手を見つめた。

「私、ラウルさんと料理するのが楽しかった……ここに来て何もかも不安だったけどラウルさんといる時は安心できた」

ずっと大人びた顔でいたリコが表情を崩した。
みるみると目に涙が溜まり溢れ出しそうになる。

「私……貴族に興味無い。ラウルさんともっと料理したい」

「リコ!」

ラウルはガバッと立ち上がるとリコの元に走り出した。

リコも同じように駆け寄ってくる。

そんな二人を誰も止められなかった……

リコはラウルの胸に飛び込むとわんわんと声を出して泣きだした。

「我慢してたんだな……ごめん、気が付かくて」

ラウルは潰さないようにリコを抱きしめた。

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