料理の腕が実力主義の世界に転生した(仮)

三園 七詩

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ジンジャー家に着いて門番に声をかけるとしばらく待てと言われて大人しく待っていた。

するとあの執事が現れてラウルの顔を見るなり眉をひそめた。

「なんの御用でしょうか?」

突き放すように言い方に棘を感じる。

「昨日の今日ですまない。だが急にリコと離されて……最後の別れに少し話がしたいんだ」

「リコ?そんな子は知りませんが?」

「は?昨日養子にするって言って俺が引き渡したあの子だよ!」

とぼける執事に説明する。

「あぁあの子ですか、すっかり馴染んであなたの事など忘れていますよ。もうあなたに会いたくないと思いますが?」

さっさと帰れと手で追い払われる。

「はっ!?」

ラウルはカチンときて執事の隙をついて屋敷に駆け出した。

「おい!待て!そいつを止めろ!」

ラウルは屋敷に入り込むとリコの名前を大声で叫んだ。

「リコー!リコー!いるかー」

ラウルは屋敷の中を走り回った。



「今……ラウルさんの声が」

リコはハッとして顔をあげた。

「気の所為だよ。彼がこの屋敷に来ることはもうないよ、彼のためにも早く忘れるといい」

ジンジャーは優しくリコの肩に手を置いた。

リコは返事もしないでまた頭を下げて動かなくなった。

昨日ラウルと離してからリコはずっとこの調子だった。

食事を用意しても食べたくないと一口も手に付けなかった。

一緒に料理を作ろうと言ってもやりたくないとずっと部屋の隅で足を掴んで小さく丸くなっていた。

「困ったな、これじゃなんのために引き取ったんだか」

まさかここまで手を焼くとは思わずにジンジャーも困っていた。

するとなんの反応もしなかったリコが急に立ち上がった。

「やっぱりラウルさんの声が聞こえる」

部屋を出ようとするのを慌てて止めた。

「どこに行く?」

「ラウルさんがきてるのかも」

「彼が来てたとして会ってどうする?彼は君を捨てたんだ」

「捨ててなんか……」

「いや、手に負えなくて私に預けたと言った方がいいね。でも彼の元に帰ることはできないんだ、ならもう会わない方がいいんじゃないかい?」

リコはそう言われて悩んでしまう。
会いたいけどまた離れなければならないのは悲しい。でも……

もう、どうしていいのか分からなくなっていた。

「彼の事は忘れなさい、大丈夫私が幸せにしてあげよう。だから少しは食事をとってくれ」

そういうジンジャーの顔は本当に心配しているように見えた。

コップを渡されて湯気の香りに鼻を動かした。

「これ、しょうが湯だ」

「ああ、君のレシピを少しアレンジしてみたよ」

コップを受け取り少し飲むと気持ちが落ち着いてきた。

「美味しい……」

「そうだね、この美味しい物を君が考えたんだ。それはすごい事なんだよ」

「でも、私が知っていた訳じゃないの」

違うとリコは首を振った。

「ゆっくりでいいから他にもしょうがのレシピを作ってごらん。そしたらずっとここにいて、好きな物もなんでも与えてあげられるよ」

「なんでも?」

「ああ、なんでもだ」

ジンジャーは約束するとリコに笑いかけた。
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