料理の腕が実力主義の世界に転生した(仮)

三園 七詩

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リコはビクッと肩を揺らしてジンジャーの方を振り返った。

「彼は男の独り身だよ、小さい子の面倒は見れないんだよ」

「あっ」

リコはラウルの方を向いて眉を下げた。

「彼のためにも私のところに来なさい。悪いようにはしないよ」

ジンジャーはリコに優しく語りかけた。

「私……迷惑だったんだね」

リコはハッとして悲しそうに呟いた。

「それな事はない!」

リコの悲しそうな顔にやはり自分で最後まで面倒をみたい!
そう思ってリコに言おうとすると遮るようにジンジャーが間に入った。

「ラウルくん……本当にそうかい?君の給金じゃこの子を食べて生かせられないだろ?君じゃこの子まで不幸にするだけだ」

ラウルが何も答えないでいるとリコが口を開いた。

「ラウルさん、今までお世話になりました」

ペコっと小さい頭をラウルに向かって下げた。

「リコ……」

「じゃあそういう事だ、今まで保護してくれて助かったよ。少しばかりの謝礼はだそう」

ジンジャーは執事に合図するとうなだれるラウルを連れて行ってしまった。

「ラウルさん」

最後にもう少し話がしたかった。
リコはラウルさんの大きな背中を見えなくなるまで見つめていた。




「ではここで、これは謝礼です」

ラウルは外にすぐに出されると門の前まで連れてこられてすぐに締め出された。

そして門の間から小さな布袋を渡される。

「謝礼なんていらん」

「そうですか?しかし後になってもらってないと言われても困りますので一応貰ってから勝手に処分なりしてください。では……」

執事はさっさと話を終えると屋敷に戻った。

ラウルはなんのとなく動けなくてしばらくジンジャー家を眺めていた。

「帰るか……」

いつまでそこにいたのか分からなかったが、こうしてても仕方がないとラウルは自分の家へと歩き出した。

途中何も考えられず気がつけば家に着いていた。

リコとの出会いは衝撃でほんの数日だったのに、なんだがぽっかりと穴が空いてしまったようだ。

そんな時でもお腹はすくようで気がつくと腹の虫が鳴いていた。

「リコもなにか美味いもの食わせて貰ってるかな?」

貴族の食事だ。豪華で食べきれないほど美味しいものが用意されているだろう。

食べてるリコの顔は笑っているかな?

リコは最初人見知りする感じがあったから心配だ。

気がつくとリコの事ばかり考えていた。

「いや、リコは幸せだ。なんせ貴族になれたんだ」

自分に言い聞かせてラウルは飯の用意をすることにする。

何があったかと食材を漁るとリコが作ってくれたしょうが焼きが残っていた。

しっかりと付け込まれていて美味そうだ。

「このレシピ、リコに教えて貰っちゃったな」

金では返せない恩がリコにできた。
そんなリコを自分が寂しいからと引き止める訳にはいかなかった。

ラウルはありがたくリコのしょうが焼きを一人寂しく焼き出した。

美味いはずなのに何故かあの時ほど美味しく感じない。

ここには一緒に美味さを分かち合う人がいなかった。

「そっか……料理ってのは食べる環境や食べる相手によっても味が変わるんだな……」

ラウルはそっとしょうが焼きを口に運んだ。
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