料理の腕が実力主義の世界に転生した(仮)

三園 七詩

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「ふぅ、ようやく寝たようだ」

ラウルは腕の中で目を赤く腫らしたリコがスヤスヤと寝息を立てていることに安堵した。

リコは料理対決が終わりみんなに事情を話していたところで急に泣き出してしまった。

慌てて抱き上げると小さい体は震えて弱々しい力で俺にしがみつくと大声で泣き出した。

酒場にいた者達も小さい子の扱いなど慣れてなくて慌てふためいていた。

そのうちに泣き疲れたのかリコが眠ってしまうとみんなで安堵のため息を漏らしたところだった。

「こんな小さい子が一人で森にいたんだ……きっと今まで怖かったんだろ」

「それがこんな野蛮な酒場に連れてこられてさらに恐ろしかったのかもな……」

自分達のなりを見つめてそりゃそうだと納得する。

「ラウル、その子……リコって言ったか?」

「あぁ」

「どうにか家を探してやれよ、この容姿ならやっぱり貴族だろ?」

「俺もそう思うんだが、とりあえず今日はうちで保護して明日また探して見るわ。お前らも何か情報あればよろしくな」

酒場のみんなはわかったと頷き、今日は大人しく家に帰ることとなり解散した。

俺は家に帰るとリコをベッドに寝かせようとした。

しかしリコの手が俺の服をしっかりとつかみ離してくれない。

そこで仕方なく俺はリコを抱いたまま眠ることにした。






「おい!ラウルはいるか!」

朝から扉をドンドンと叩く音と名前を呼ぶ声に起こされた。

「なんだよ……朝からうるさいな」

起き上がろうとすると胸に少し重みがある。

見ると小さい女の子がうつ伏せに寝ていた。

その瞬間昨日の事を思い出した。

そうだ、リコを保護して一緒に寝ていたんだ。

俺はリコを抱いてベッドに一人寝かせて布団をかけた。

そしてまだドンドンと叩く扉に向かう。

「はい、いるよ。少し静かにしてくれよ、リコが起きちまう」

迷惑そうな顔で扉を開けた。

「君がラウルか?昨日女の子を保護したらしいな」

家に来たのは兵士達でリコの事で来たようだ。

「はい、親が見つかったんですか?」

リコが起きないように声を落として聞いた。

「あぁ、親かもしれないと言っているんだ」

「親かもしれない?」

変な言い方にラウルは眉を寄せた。

「とりあえずその子を連れて一度来てくれ」

兵士に言われて少し待つように言うと可哀想だがリコを起こしに向かった。

扉を開けるとリコはすでに起きていた。

話を聞いていたのか不安そうな顔をしている。

「リコ、親が見つかったかもしれないぞ」

「親が?」

親が見つかったかもしれないのに表情は良くならなかった。

「親が見つかったのに嬉しくないのか?」

「だって……」

リコは言葉を濁した。

「まぁとりあえず行ってみようぜ、会えば思い出すかもしれないぞ」

リコは大人しく頷いた。

リコが用意をする間待っているとすぐに扉が開きリコが顔を出す。

そして兵士の顔を見るなり俺の後ろに隠れた。

「君は来なくてもいい、その子だけ連れていく」

兵士はリコを連れていこうと手を伸ばす。

「嫌です。ラウルさんと一緒がいい」

リコは兵士の手を避けて俺のズボンを握りしめていた。

「でもなぁ……」

兵士は困った様で頭をかいている。

「まだ本当の親とわかった訳じゃないんだろ?なら保護した俺としてもちゃんとこの子が親と会うのを確認したい」

そういうと兵士は仕方ないと了承した。

リコはその言葉にほっとするとズボンを持つ力が緩まった。
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