料理の腕が実力主義の世界に転生した(仮)

三園 七詩

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4.料理

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「いや、なんでもない!」

俺は腕まくりをして気合いを入れた。
リコには美味しいご飯を食べさせてやりたかった。

「イノシシか…これは肉に臭みがあるからよく臭みを取らないとな」

バッグから調味料を取り出して肉に振りかける。

するとリコが興味深そうにその様子を凝視していた。

「これは?」

バッグとその中に入っている調味料を指さした。

「これか?これは調味料バッグだ。大人になると親から貰えるんだよ。調味料は自分で少しずつ集めるんだ」

自分の自慢のバッグを見せる。

「ふーん」

リコはその中をチラチラと見ていた。

「見たいなら見ていいぞ」

「いいの?大事な物じゃないの」

「大事な物だけどリコになら見せてやるよ」

そういうとリコは嬉しそうに目を少し開けた。
どうも表情が少し乏しいようだ、まぁあんな目にあったからかもしれないが…

リコが少しでも元気になるように俺は料理を急いだ。

火をおこして焼き場を作るとまずは肉を大きく切って串に刺す、そして調味料を選んでパラパラっとかけた。

配合やレシピは親から子に語り継がれる。

だからその人によって味も違うし、味付けは財産で人に教えるものではない。

俺は香りをかいでみる。

うーん…やっぱりなんか違う。

首を傾げた。

俺は小さい頃に父親を亡くした、そのせいで母は心の病になり父の後を追うようにすぐに亡くなってしまった。

その為父や母から十分に味を伝承出来ずにいた。
俺が料理が下手なのはこのせいも少しはあると思う。

「よし、出来た。ほらリコ食べてみろ」

串を渡すと両手でそれを受け取った。

「いた、だきます」

「ん、なんだそれ?」

なにか言ったリコをみると手を合わせて頭を下げていた。

「何となく…食べる時のあいさつ」

リコは小さい口で大きな肉にかぶりついた。

「うっ…ん」

一生懸命かぶりついているが肉を噛みちぎれないでいる。

「すまん、もっと小さく切ればよかったな」

串を取り上げるとナイフで細かく切ってやる。

「ほら、味は…どうかな?」

恐る恐る聞くとリコはモグモグとずっと口を動かしてしばらくしてゴックンと飲み込んだ。

「うん…美味しいよ」

明らかに気を使った様子にガクッと肩を落とした。

「こんな子供に気を使わせて、情けない。いいんだよ俺は料理が下手でなぁ…町に行けばもう少し美味い飯が食えるからな」

固い肉を引きちぎりながら顎を動かす。

確かに子供にはこれは固すぎたかもしれない。
それに少しスパイスが効きすぎで辛くも感じた。

「はぁ…なんだって料理が上手くならないのかな」

「ラウルさん、よかったら私も作っていい?」

「え?リコが作るのか?」

「うん、なんか見てたらできそうな気がする」

「そうか」

俺は肉を取り出してリコに渡した。

ナイフを持つと危なそうで近くでオロオロとしてしまう。

「んっ!んっ!固い…」

リコは肉にナイフの刃を当てるが力がないのか切れないでいた。

「ラウルさん、これを薄く切ってくれる?」

「そうだな、俺が切った方が良さそうだ」

俺はナイフを受け取りリコの指示通り肉を切る。

その間にリコは調味料をゴソゴソといじっていた。

「ラウルさん、これって何?」

「それは塩、コショウだな」

「お酒とかみりんとかしょうゆもあるの?」

「よく知ってるな!あるぞ、でも貴重でなかなか買えないんだ」

俺は今言われた物をリコに渡した。

「玉ねぎとかしょうがはある?」

「ん?あるけど何に使うんだ?」

食材は違う袋に入れているのでそこから取り出した。

「これを剃ってお肉に揉み込むとお肉が柔らかくなって臭みも和らぐよ。そこにさっきの調味料も入れれば味もつくよ」

「へー」

俺は言われるまま玉ねぎとしょうがをすりおろした。
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