料理の腕が実力主義の世界に転生した(仮)

三園 七詩

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3.庇護

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「まずは近くに親はいるか?迷子…とか」

リコはゆっくりと首を横に振った。

そしてギュッと握る手に力が入る。

「親は…いないのか?」

コクッ

「捨てられたのか!」

こんな可愛い子を捨てるとは考えにくいがまさかと聞くと首を横に振って「わからない」と言った。

その後もゆっくりと話を聞くとどうも気がついたらあの場にいたらしい。

しかも何も覚えてないようでわかるのは自分の名前くらいのようだ。

「んー、身分を証明するような物もないし、どうしたもんかな」

俺が困った顔をするとリコは申し訳なさそうに自分の体を小さくする。

そんな様子がいじらしく守ってやりたいと思ってしまった。

「大丈夫だ、ここで会ったのもなにかの縁。リコが安心する場所に行けるまで面倒見てやるから心配するな」

「本当?」

「ああ」

そう言ってやるとリコはようやく少しホッとしたような顔を見せた。

その瞬間くぅっと可愛い音がお腹から聞こえた。

「腹減ったんだな。よし、ここであのイノシシを食っちまうか」

「え?あれ…食べるの?」

リコはもう死んでるイノシシを怖がりながら肩越しにそっと覗き込んでいる。

「解体してくるからちょっと待ってな」

リコを下ろすとイノシシの方に向かいナイフを取り出した。

リコに見せない方がいいかと場所を確認しようと振り返るとリコがいなくなっていた。

「あれ、リコ?」

ツンツン。

するとすぐ後ろで服を引っ張られる。

振り返ると真後ろにリコがいた。

「ついてきてたのか…危ないから離れてな。それに血が出るからな向こう向いてるんだ」

「ん…」

リコは俺と離れるのが不安なのかほんの数歩後ろに下がるとくるっと後ろを向くがチラチラと俺の姿を確認している。

「わかったわかった、そばにいていいけど動いたりするなよ」

「うん」

リコはまた近くにくるとギュッと服を掴んだ。

「目をつぶってな」

そういうとリコは素直に目を閉じてじっとしている。

長い時間をかけられないなと俺は手早くイノシシを解体した。

毛皮と牙は売れるから別にして食べられる肉以外は地面に埋める。

川で汲んでおいた水で汚れを洗うと荷物を担いだ。

「よし、リコお待たせ。ここは汚れたから少し場所を移動しよう」

俺は右手に荷物を持つと左手でリコを抱き上げた。

「すごい、ラウルさん力持ちだね」

「は?このくらい普通だぞ」

なんて事は無いことにリコは目を大きくして驚いている。

しかし褒められたようで悪い気はしない。
少しウキウキしながら水場の方へと移動した。

「じゃあここで作るかな、リコは川で手と顔を洗ってきな」

リコは頷き川に行くが水に手が届かないのか一生懸命に伸ばしていた。

「あはは、悪い悪いまだ届かないのか」

俺は先程リコを起こした時に使ったタオルを川で洗うとリコの手や顔を拭いてやる。

「じ、自分で出来ます」

リコは拭かれるのは嫌いなのか恥ずかしそうにして自分でやると言うが俺がサッと拭いてしまった。

「子供なんだから気にするな」

そういうと複雑そうな顔をしていた。

「いま、飯を作ってやるからな。あんまり美味くないけど…」

ボソッと呟いて語尾を小さくする。

「え?」

リコは聞こえなかったのか俺の顔を覗き込んだ。
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