強くてニューゲーム!

なな

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第十七話 実力の一端

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【クロイス視点】

 まさかこれ程とは思わなかった。

 誰が一撃で倒せと言った、あの馬鹿。

 ラピニオンははっきり言ってこの辺では最弱の魔物で、冒険者でなくても、その気になれば町人が数人がかりであれば倒すことのできる程度の魔物だ。

 だからと言って、駆け出しの冒険者が一撃で倒せるような相手では無い。
 ラピニオンの素早い動きから繰り出される鋭い攻撃はそれなりに厄介で、低ランクの冒険者にとってはそれなりに手こずる相手だ。
 それをナナは紙一重で躱し、至近距離からの切断系風魔法で真っ二つにしやがった。

 アホかあいつは。

 しかも驚くべきはその魔法の発動速度。
 いつの間に詠唱を始めていたんだと言うほどの速さだ。
 というか、本当にいつから詠唱を始めていたんだ?
 そもそも、詠唱をしていたのか?
 まさか無詠唱とか言わないよな。・・・よな?
 それにあの威力もおかしい。いくらラピニオン相手とは言え、綺麗に真っ二つなんてそれなりの威力がないと無理だ。
 もちろんミランダくらいの実力があればそれくらいは造作ないが、それはミランダが攻撃魔法のエキスパートである魔法術士という職業だからであって、回復術士が気軽に使えていいようようなものじゃない。
 と言うかなんで魔法なんだよ。腰のその剣は飾りか?

「おいおい、なんだ今のは!その前になんで攻撃魔法なんだよ!」
「てか、ナナちゃん私よりも素早くない!?」
「ナナさん、すごいです・・・」
「話では回復術師と聞いていたんだが・・・」

 ほら見ろ、どうすんだよこれ。
 誰がこの場を収めるんだよ。

 ・・・まあ、俺だよな。


 ◆


「ねえ、ナナちゃん?今のって・・・」
「ん?」

 私が目一杯に力を抑えてラピニオンを倒した後、なにやら様子のおかしいマリが声をかけてきた。

「今、すごい速さで動いてたわよね?」
「そ、そう?」

 しまった。技の威力の加減ばかりを気にしていて、その辺の事を考えてなかった。

「そうだ!俺も見たぞ!しかも攻撃魔法で一撃とか!」
「え、いや、あのくらいならさっきミランダちゃんも・・・」
「お前は回復術師だろうが!」
「あ!!」

 そうだった!
 私は回復術師って事になってるんだった・・・。
 今、私の腰に装備してる剣は真ん中から先がない、文字通り飾りの剣だから、何も考えずに普通に魔法で攻撃しをしていた。

「で、どう言う事だよ。さっぱり意味がわかんねーんだけど」
「私も気になるわね。ナナちゃん、どうなの?」

 マリとファイがやたら迫力のある感じで迫って来る。
 ど、どうしよう。
 かなり手加減して実力を隠したつもりだったけど、今の動きは冒険者になりたての回復術師の動きじゃないよね。
 クロイスもなんか頭抱えてるし。普通に怒られそうで嫌なんだけど。
 あとギルマスにも。
 まあ、ギルマスにはそれと同時に迷惑をかけることになるので、ごめんなさいとしか言えない。

「ナナさん凄いです!あんな威力の魔法をあんな速さで発動するなんて!
 私、魔法の威力にはそれなりに自信があるんですけど、発動まで時間がかかりすぎるのが悩みだったんです!
 同じ魔法職として、色々と教えて下さい!
 あ!もちろん私からもアドバイス出来る部分はしますので!
 私、同じ女の子の後衛のお友達が欲しかったんです!」

 ミランダちゃん、ちょっとテンション上がり過ぎだよ。
 でも、興奮してるミランダちゃんも可愛いなあ。

「確かに凄かった。
 速さや威力もそうだが、状況の判断力が素晴らしい。
 しかも、回復術師なのに攻撃魔法も使えるとは驚きだ。
 重戦士の俺としては、そんな回復術士がいると心強い。
 だが、魔力の使い過ぎには気をつけてくれ。
 回復術士のヒールはパーティーの生命線だからな」

 あら、ロイドさんまで興奮気味だ。
 普段クールなイメージがあるからちょっと新鮮かも。
 この2人、割と性格似てるよね。
 普段から仲良さげだし、もしかしてそういう関係なのかな?

 マリとファイの二人とはまた違った迫力で、やたらグイグイと話しかけて来る二人の反応は、私の実力に驚くと言うよりは、喜んでいる感じだ。
 ミランダは最初から高感度が高かったけど、単に同じ女の子の後衛仲間が欲しかっただけらしい。
 この、可愛い奴め。思いっきり仲良くしてあげちゃうんだから。
 そして、ロイドさんもミランダちゃんと同じく、最初から私に対する高感度は高い感じがしていたけど、どうやら回復術士がパーティーに加わることで、ようやく自分の実力か発揮できそうだと思って喜んでいたっぽい。
 わかる。
 私もゲーム時代は前衛職がメインだったので、ヒーラーの有無で立ち回り方がかなり変わるのは知っている。
 前衛職の、それもメインアタッカーとなれば回復術士のパーティー加入は大歓迎だろう。

「二人ともありがとね。見ての通り私もそれなりには動けるから何かあれば言ってね。上手く連携を取って行きましょう」
「はい!わかりましたナナさん!」
「わかった。こちらこそよろしく頼む」

 私を必要としてくれるなら私としても嬉しい。
 ここまで歓迎されているなら、当分の間はちょっと変わった回復術士として活動するのも悪くないかも知れない。
 このパーティーに前衛は足りてるっぽいし、メインは回復術師として、もし火力が足りない場面になれば、魔法で援護すればいい。
 そんな事を考えているとまた一人、私の元に近づいて来る人物がいた。

「おい、ナナ。ちょっとこっち来い」

 クロイスだ。ちょっと疲れた顔をしている。
 多分あれだ、私が怒られるパターンのやつだ。

「う、うん」
「早く来い。マリとファイ達はそこで待っていてくれ」
「あ、ああ」
「わかったわ」

 マリとファイは、クロイスの普段とはちがう様子を見て、素直に従う。

 私とクロイスはパーティーから離れ、姿は見えるが声は聞こえないくらいの場所まで来ると立ち止まり、私の方に向き直って口を開いた。

「どうすんだよ、あれ」
「どうしようね」

 ガックリと肩を落とすクロイス。
 が、頑張れ!

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