彼方の星の紅月妃

第1章 邂逅

4.スキル

　
　一通り体の確認を終わると、今度は『スキルを習得できます』の文字が現れる。
　スキルは武器や魔法の技術を使えるようになる便利機能のことで、対価を支払えばナビを通じて脳にインストールできる。有料のアプリをダウンロードする感じか。

　スキルを使うには技量も必要で、筋力や体力等、所謂ステータスのことだ。ハッキリとした数字では分からないが、ナビがG～SSのランクで表示してくれる。インストール自体は技量を満たしていなくともできるがスキルは発動しない、どころか最悪死に至るほどの損傷を受ける羽目になる。砲丸投げのやり方を知っていても、砲丸を持てなければ意味がないという訳だ。

　当然、普通の人はナノマシンやスキルなんて無いので体力測定をして技量を把握したり、地道に訓練して技術を習得する。勿論これが正道なのだから少し後ろめたい気持ちもあるが、さらわれて来た以上、多少の優遇はしてもらわないとやっていられない。

　因みに、この星では魔法のことを晶術と言うそうだ。この星、オルドでは大気中に晶素と呼ばれる魔法の元が満ちていて、体内器官である心核を介して術を発動する。これは動物も同様で、呪文は存在しない。動物は呪文を唱えないので当たり前といえば当たり前かもしれないが。
　集中するために『炎よ』等、呪文めいた事はあるようだが、正直に言えば呪文があったら唱えるのは恥ずかしいと内心胸を撫で下ろしていたりもする。

　晶素濃度の高い場所では結晶化し発光現象が起こりとても美しいらしい。その様から光や輝きを意味する晶の字が使われているんだろう。名称などはナビの自動翻訳だから、実際の意味とはズレてることもあるのだろうけれど。

　それにしても、スキルだの技量だの姉のオタク知識がこんな所で役に立とうとは思いもしなかった。刷り込みのせいもあるのだろうけれど、仕組みをすんなり受け入れられている。好きで覚えたものではないが、ここは感謝して良いのかも。

　さて、それでは今の技量で取得可能な技術の一覧を確認してみよう。

　棒術一
　棒、杖の取り扱いに関する基礎技術を習得
　近接攻撃
　三百ダルフ
　必要技量  筋力G

　短剣一
　短剣の取り扱いに関する基礎技術を習得
　近接攻撃
　五百ダルフ
　必要技量  筋力F

　晶術一
　晶術の取り扱いに関する基礎技術を習得
　遠距離攻撃  地水火風のいずれかを選択
　二千ダルフ
　必要技量  知力F

　ダルフというのがここオルドの通貨で、インベントリ・リングが自動で両替してくれる仕組みになっていて地味にありがたい。レートが大元の連合国とオルドの地方によっても数種類あるので、毎回両替していたら面倒だからだ。
　一ダルフ十円くらいなので日本円に換算すると二千ダルフは二万円相当になる。子供のわたしには結構な値段だ。

　一覧に表示されているのは三つだけ。鍛えてる訳でもないのだから仕方がないだろう。
　しかし、説明がアバウト過ぎてよくわからない。できれば遠くから攻撃できる方がいいが二万……でも近付かれて反撃できないのも困る……あれこれとしばらく考えたが前金で貰った五百万もある事だし、ここは様子見も兼ねて強気に全部取ることにした。

　が、しかし。

『所持金が不足しています』

　え？
　見間違いを祈りつつ、目をこすり再度確認する。

『所持金が不足しています』

　祈りも空しく、あるのはただ無情な文字の羅列のみ。
　その意味を理解するのにえらく時間が掛かってしまった。

「え？　いやいやいや！　そんな事ないでしょう！　今の所持金っていくら！？」

『現在の所持金 一千ダルフ』

「はぁ！？　何でこんなに少ないの？　前金は？」

『未成年のため金銭管理の権限がありません』

　空中に浮かぶ無機質な文字に愕然とするしかなかった。