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異世界転移は突然に
第5話 仲間との出会い
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そうして案内されたのは、河べりに作られた小さな野営地だった。木々もまばらで、開けた場所だ。この川が森の外まで続いているんだろう。
そこに、丸い石で囲った焚き火の周囲に、平べったい石を並べ椅子がわりにして、2人の美女が座っていた。
1人は赤い髪をショートに切り揃え、少し吊り上がった緑の瞳は猫を思わせる。ちょっとキツイ感じだけど、すっごい美人だ。イルベルと似たような革鎧を着込み、その腰には振りの短剣を佩いている所を見ると、双剣使いかな?
もう1人は、腰まである長い金髪に青い澄んだ瞳が印象的な、どちらかと言うと幼い見た目だな。白いローブに身を包み、大きな銀色の錫杖を大事そうに抱えている。見るからに聖職者といった出立だ。
2人とも20代前半に見える。
「イルベル、見つかったか」
赤髪の女がハスキーな声でイルベルに問いかけると、イルベルは俺の背を叩きながら笑いかけた。
どうやら、俺が雄叫びを上げ逃げ惑っていた騒動を聞きつけ、助けに来てくれたらしい。
「あぁ、彼はルイという名だそうだ。怪我もない。訳ありみたいだったんで連れてきた。ルイ、彼女はディア・マース。双剣士。レベル15。そして奥の子はキーナ・オルフ。神殿の巫女でレベルは13だ」
順に紹介され、軽く会釈をする。
ディアは手を振って応えてくれたが、キーナはディアの影に隠れてしまった。まぁ、涙でグショグショの汚らしい顔をしたおっさんだ。怖がるのもしょうがない。
挨拶を交わす間にメイムが平たい石を運んできて、火のそばに置いた。手振りで座れと促しているようだ。
狼から逃げ惑い、体力も限界を迎えていた俺は、素直に腰掛ける。硬くて尻が痛いが、文句は言えない。
「2人にも聞いてほしいんだが……」
全員が焚き火を囲み、一段落した所でイルベルが徐に話を切り出した。
勿論、俺の素性に関する事だ。
要所要所に補足を挟みながら、俺が森を彷徨っていた理由が語られる。
「俺は落とし子じゃないかと思うんだが。みんなはどうだ? できれば街まで送り届けてやりたい」
イルベルが仲間達を交互に見据える。
それに過剰なほど反応したのはキーナだ。
「落とし子なんて今すぐ捨てるべきだわ! 父なる神の思し召しを断るなんて信じられない! 勇者のなりそこないと一緒に行動するなんて私は嫌よ! 落とし子が現れたならもうすぐ勇者も降臨するはず! そんな役立たずいらないわ! 人が良すぎるのもどうかと思うわよイルベル!」
キーナは火がついたように叫んだ。
神殿の巫女と言っていたし、どうやらあちら側の人間のようだ。それを申し訳なさそうに謝罪するのは、何故かイルベルだった。もしかしたら、このパーティーのリーダーなのだろうか。
「すまないな。神殿は落とし子の存在をよく思っていない。神の宣託を蹴った奴らだからな。でも落とし子の出現は、勇者降臨の前触れでもある。数百年に1度生まれる魔王を倒す、貴き存在だ。その名誉を蹴るなんて、神殿にとっては気が触れたように見えるんだろうな」
勇者ってそんな奴だったのか。
俺はそんな事すら知らされず、あっちの勝手で召喚され捨てられた。それにはいくら温厚な俺だって、怒りを覚えずにはいられないんだ。今までいたであろう落とし子にも同情した。
いまだ憤慨に顔を染めるキーナにも、天使に対するのと同じ感情が湧き上がる。
俺は勤めて、平静にキーナに聞いた。
「じゃあ、お前はここにある物全部捨てて、見ず知らずの奴らのために戦えるのか? 家族も、友人も、何もかもだ」
そう呟くと、キーナはたじろぎながらムニャムニャと言葉を濁している。勇者を擁護する癖に、いざそれが自分に向けられるとゴネるとは、結局は他人事なのだろう。親も兄弟も友人も、大切な人も全てを捨てるような奴は、大層ご立派な聖人か何も考えていないガキくらいだ。
まぁ、俺にとってはそれがビールとゲームだっただけで、大事な物に変わりはない。何が大事かなんて人それぞれだ。何はともあれ、俺の知らない所でやってほしい。
しかし、現実問題。
俺はその大事なビールとゲームに別れを告げさせられ、この異界に捨てられたわけだ。神殿とやらは落とし子に批判的みたいだし、街へ行くのは危険だろうか。
そう物思いに耽っていると、イルベルは頼もしい事を言ってくれた。
「俺はこいつを保護したい。落とし子については前から不憫に思っていたんだ」
その言葉にキーナが鋭く反応した。
勢いよく立ち上がりワナワナと震えるが、二の句は繋げず、どかっと座るとムクれた顔でブツブツ言っている。
イルベルは俺に向き直り、改めて言葉を繋いだ。
「なぁルイ。もしよければ、うちのカンパニーに入らないか? ステータスを見るに魔術士が向いているだろう。今、俺達のパーティーには遠距離攻撃を担える奴がいない。使い物になるまでは少し時間はかかるだろうが、俺たちにとっても利はあるんだ。どうだろうか?」
カンパニー?
それは何かと聞いたら、気の合う冒険者が集ったグループだと言う。カンパニーは冒険者でレベル20と、出資金さえあれば誰でも作れるとか。
多くのカンパニーが世界中にあり、それをまとめているのが冒険者ギルドとの事だ。魔法はギルドで研修があり、受講料を払えば冒険者なら誰でも受けられるらしい。
意外にもイルベルは貴族の5男坊で、金はあったから他のカンパニーで経験を積んで、新しくカンパニーを興したそうだ。
そのカンパニー『青猫』は、まだ立ち上げたばかりで実績もあまり無いし、メンバーもこの4人だけだから、俺の加入はパーティーの層を厚くするためにも願っても無い事だとも。更には支度金として1万ギリカ(この国の通貨らしい)を貸し付けてくれるとさえ言ってくれた。
あまりに破格の高待遇に詐欺を訝しんだが、他に頼る当てもない。俺みたいなクソ雑魚を騙した所で、なんの利益もないだろうしな。
こうして俺の異界生活が始まった。
リーダーで剣士のイルベル、盾のメイム、双剣士のディア、そして気に食わない神殿の巫女キーナ、そこに俺を含めた5人で新たなパーティーを組む事に決まった。
イルベルの恩に報いるためにも張り切らなきゃな!
無い無い尽くしの俺だが、ブラック企業で培った根性と、ゲームで鍛えた忍耐力には自信があるんだ!
今に見てろ。神殿も神も、地道な努力の成果で見返してやる!
チートなんざクソくらえ!!
そこに、丸い石で囲った焚き火の周囲に、平べったい石を並べ椅子がわりにして、2人の美女が座っていた。
1人は赤い髪をショートに切り揃え、少し吊り上がった緑の瞳は猫を思わせる。ちょっとキツイ感じだけど、すっごい美人だ。イルベルと似たような革鎧を着込み、その腰には振りの短剣を佩いている所を見ると、双剣使いかな?
もう1人は、腰まである長い金髪に青い澄んだ瞳が印象的な、どちらかと言うと幼い見た目だな。白いローブに身を包み、大きな銀色の錫杖を大事そうに抱えている。見るからに聖職者といった出立だ。
2人とも20代前半に見える。
「イルベル、見つかったか」
赤髪の女がハスキーな声でイルベルに問いかけると、イルベルは俺の背を叩きながら笑いかけた。
どうやら、俺が雄叫びを上げ逃げ惑っていた騒動を聞きつけ、助けに来てくれたらしい。
「あぁ、彼はルイという名だそうだ。怪我もない。訳ありみたいだったんで連れてきた。ルイ、彼女はディア・マース。双剣士。レベル15。そして奥の子はキーナ・オルフ。神殿の巫女でレベルは13だ」
順に紹介され、軽く会釈をする。
ディアは手を振って応えてくれたが、キーナはディアの影に隠れてしまった。まぁ、涙でグショグショの汚らしい顔をしたおっさんだ。怖がるのもしょうがない。
挨拶を交わす間にメイムが平たい石を運んできて、火のそばに置いた。手振りで座れと促しているようだ。
狼から逃げ惑い、体力も限界を迎えていた俺は、素直に腰掛ける。硬くて尻が痛いが、文句は言えない。
「2人にも聞いてほしいんだが……」
全員が焚き火を囲み、一段落した所でイルベルが徐に話を切り出した。
勿論、俺の素性に関する事だ。
要所要所に補足を挟みながら、俺が森を彷徨っていた理由が語られる。
「俺は落とし子じゃないかと思うんだが。みんなはどうだ? できれば街まで送り届けてやりたい」
イルベルが仲間達を交互に見据える。
それに過剰なほど反応したのはキーナだ。
「落とし子なんて今すぐ捨てるべきだわ! 父なる神の思し召しを断るなんて信じられない! 勇者のなりそこないと一緒に行動するなんて私は嫌よ! 落とし子が現れたならもうすぐ勇者も降臨するはず! そんな役立たずいらないわ! 人が良すぎるのもどうかと思うわよイルベル!」
キーナは火がついたように叫んだ。
神殿の巫女と言っていたし、どうやらあちら側の人間のようだ。それを申し訳なさそうに謝罪するのは、何故かイルベルだった。もしかしたら、このパーティーのリーダーなのだろうか。
「すまないな。神殿は落とし子の存在をよく思っていない。神の宣託を蹴った奴らだからな。でも落とし子の出現は、勇者降臨の前触れでもある。数百年に1度生まれる魔王を倒す、貴き存在だ。その名誉を蹴るなんて、神殿にとっては気が触れたように見えるんだろうな」
勇者ってそんな奴だったのか。
俺はそんな事すら知らされず、あっちの勝手で召喚され捨てられた。それにはいくら温厚な俺だって、怒りを覚えずにはいられないんだ。今までいたであろう落とし子にも同情した。
いまだ憤慨に顔を染めるキーナにも、天使に対するのと同じ感情が湧き上がる。
俺は勤めて、平静にキーナに聞いた。
「じゃあ、お前はここにある物全部捨てて、見ず知らずの奴らのために戦えるのか? 家族も、友人も、何もかもだ」
そう呟くと、キーナはたじろぎながらムニャムニャと言葉を濁している。勇者を擁護する癖に、いざそれが自分に向けられるとゴネるとは、結局は他人事なのだろう。親も兄弟も友人も、大切な人も全てを捨てるような奴は、大層ご立派な聖人か何も考えていないガキくらいだ。
まぁ、俺にとってはそれがビールとゲームだっただけで、大事な物に変わりはない。何が大事かなんて人それぞれだ。何はともあれ、俺の知らない所でやってほしい。
しかし、現実問題。
俺はその大事なビールとゲームに別れを告げさせられ、この異界に捨てられたわけだ。神殿とやらは落とし子に批判的みたいだし、街へ行くのは危険だろうか。
そう物思いに耽っていると、イルベルは頼もしい事を言ってくれた。
「俺はこいつを保護したい。落とし子については前から不憫に思っていたんだ」
その言葉にキーナが鋭く反応した。
勢いよく立ち上がりワナワナと震えるが、二の句は繋げず、どかっと座るとムクれた顔でブツブツ言っている。
イルベルは俺に向き直り、改めて言葉を繋いだ。
「なぁルイ。もしよければ、うちのカンパニーに入らないか? ステータスを見るに魔術士が向いているだろう。今、俺達のパーティーには遠距離攻撃を担える奴がいない。使い物になるまでは少し時間はかかるだろうが、俺たちにとっても利はあるんだ。どうだろうか?」
カンパニー?
それは何かと聞いたら、気の合う冒険者が集ったグループだと言う。カンパニーは冒険者でレベル20と、出資金さえあれば誰でも作れるとか。
多くのカンパニーが世界中にあり、それをまとめているのが冒険者ギルドとの事だ。魔法はギルドで研修があり、受講料を払えば冒険者なら誰でも受けられるらしい。
意外にもイルベルは貴族の5男坊で、金はあったから他のカンパニーで経験を積んで、新しくカンパニーを興したそうだ。
そのカンパニー『青猫』は、まだ立ち上げたばかりで実績もあまり無いし、メンバーもこの4人だけだから、俺の加入はパーティーの層を厚くするためにも願っても無い事だとも。更には支度金として1万ギリカ(この国の通貨らしい)を貸し付けてくれるとさえ言ってくれた。
あまりに破格の高待遇に詐欺を訝しんだが、他に頼る当てもない。俺みたいなクソ雑魚を騙した所で、なんの利益もないだろうしな。
こうして俺の異界生活が始まった。
リーダーで剣士のイルベル、盾のメイム、双剣士のディア、そして気に食わない神殿の巫女キーナ、そこに俺を含めた5人で新たなパーティーを組む事に決まった。
イルベルの恩に報いるためにも張り切らなきゃな!
無い無い尽くしの俺だが、ブラック企業で培った根性と、ゲームで鍛えた忍耐力には自信があるんだ!
今に見てろ。神殿も神も、地道な努力の成果で見返してやる!
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