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第3章 乱舞
第47話 想いの重さ
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アルが何を言ったのか一瞬分からず保けていると、無邪気な声で話しは続いた。
「リリーってフェリット伯爵家の跡取りだったでしょ? ︎︎だから貴族の次男坊やらにとっては美味しい獲物なんだよ。婿入りすれば伯爵位を継げるし、領地も手に入る。昔はお転婆だったみたいだけど、リリー本人は可愛いし文句のつけようがない。そんな奴らがこぞって求婚しようとしてんだ。ふざけてるよね」
表情こそ柔和に微笑んでいるけれど、目がちっとも笑っていない。私は口を挟む事もできないまま、背を冷たい物が伝う。
「もちろん、中には本当にリリーが好きだからっていう奴もいたよ? ︎︎僕としてはそいつらの方が厄介だったかな。どれだけ圧力をかけても怯まないんだ。たぶんリリーの知ってるやつもいると思う。徹底的にぶっ潰してやったけどね」
鼻息も荒く、褒めてとばかりに胸を張る。これは、どう反応するべきなのかしら。私のために頑張ってくれた事は嬉しい、のかもしれない。そこまでして欲してくれたのだから。
でもそれって六年前、つまり五歳の頃のはずだ。私と出会ってから、ずっとそんな事をしていたのかと思うと複雑でもある。
確かに、アルは騎士団長にも当たりが強かった。出征前、番兵と談笑していた所に行き当たった時も、割り込んできたアルには棘があったように思う。
この三日間、ずっと一緒にいても私を離そうとしなかった。ソファでも隣に寄り添い、肩を抱いてぴったりとくっつき、うとうとする事もしばしば。
完全に離れるのは、食事の時くらいだろうか。さすがにくっついたまま食事をするのは難しい。お風呂も一緒に入りたがったけれど、やんわりと断り今の所は事なきを得ている。いくら体を見られていると言っても、お風呂だと妙な気恥ずかしさが湧いてくるのだ。
そんな葛藤が顔に現れたのか、アルは何を思ったか変な弁明を始める。
「あ、でも命を取ったりはしてないから安心してね。社会的に抹殺した程度だよ。それも正当な理由でだから、不正はしてない。一番しつこかったのはマセオーエン男爵の三男だったかな。エントっていう奴だけど、知ってる?」
その名前を聞いて、私は変な声が漏れてしまった。
「エント!? え、彼が私に求婚しようとしていたのですか!? ありえません! 彼は私と一番仲が悪かったんですよ? 顔を合わせれば喧嘩ばかりで、好意を抱くなんて考えられません。私も彼は苦手で、できるだけ避けていましたから」
エントとは十歳の時に、父の友人であるマセオーエン男爵の紹介で出会った。遊び相手にと顔合わせさせられたのに初対面から威圧的で、髪の色が変だとか、ブスだとか散々な言いようで、当時の私は負けん気が強かったから真正面からぶつかっていたのだ。時には掴み合いの喧嘩にまでなり、父に迷惑をかけた事もある。
そんなエントが私を?
はっきり言って理解できない。十三の時に王城で催されたお披露目の舞踏会でも、ドレスが似合わない、ちんちくりんなどと言っていた。それに嫌気がさして抜け出した庭園でアルと出会ったのだ。
十三といえば、成人には満たないけれど婚約を意識しなければならない。男爵といえど貴族である以上避けては通れない道だ。お披露目は、ある意味お見合いの場でもある。それなのに、そんな態度で何故受け入れてもらえると思うのだろうか。
例えその後、釣書が私の手元に届いていたとしても、見る前に破り捨てたと思う。彼を結婚相手として見る事なんてできるはずもないから。
だから私はきっぱりと言った。
「私はエントが嫌いです。貴方が手を下さずとも、相手にしなかったのに。それに、十三にならなくても婚約の打診はできたはずです。何故こんな回りくどい事を?」
疑問を口にすると、アルは神妙な表情で語る。
「それはやっぱりオードネンの存在が大きいね。僕が産まれた時には既に、おじい様が退位して父上が王位を継ぐ事は決まっていた。そしてオードネンの父、当時の宰相が暗殺されたのも同時期だ。それが十四年前。オードネンは虎視眈々と玉座を狙っていた。父上はもちろん、僕自身何度も暗殺されかかったんだ。そんな中で君に婚約の打診なんてしたら、君にまで危険が及ぶでしょ? ユシアンが産まれてからは特に」
それはアルの優しさゆえだった。
「リリーってフェリット伯爵家の跡取りだったでしょ? ︎︎だから貴族の次男坊やらにとっては美味しい獲物なんだよ。婿入りすれば伯爵位を継げるし、領地も手に入る。昔はお転婆だったみたいだけど、リリー本人は可愛いし文句のつけようがない。そんな奴らがこぞって求婚しようとしてんだ。ふざけてるよね」
表情こそ柔和に微笑んでいるけれど、目がちっとも笑っていない。私は口を挟む事もできないまま、背を冷たい物が伝う。
「もちろん、中には本当にリリーが好きだからっていう奴もいたよ? ︎︎僕としてはそいつらの方が厄介だったかな。どれだけ圧力をかけても怯まないんだ。たぶんリリーの知ってるやつもいると思う。徹底的にぶっ潰してやったけどね」
鼻息も荒く、褒めてとばかりに胸を張る。これは、どう反応するべきなのかしら。私のために頑張ってくれた事は嬉しい、のかもしれない。そこまでして欲してくれたのだから。
でもそれって六年前、つまり五歳の頃のはずだ。私と出会ってから、ずっとそんな事をしていたのかと思うと複雑でもある。
確かに、アルは騎士団長にも当たりが強かった。出征前、番兵と談笑していた所に行き当たった時も、割り込んできたアルには棘があったように思う。
この三日間、ずっと一緒にいても私を離そうとしなかった。ソファでも隣に寄り添い、肩を抱いてぴったりとくっつき、うとうとする事もしばしば。
完全に離れるのは、食事の時くらいだろうか。さすがにくっついたまま食事をするのは難しい。お風呂も一緒に入りたがったけれど、やんわりと断り今の所は事なきを得ている。いくら体を見られていると言っても、お風呂だと妙な気恥ずかしさが湧いてくるのだ。
そんな葛藤が顔に現れたのか、アルは何を思ったか変な弁明を始める。
「あ、でも命を取ったりはしてないから安心してね。社会的に抹殺した程度だよ。それも正当な理由でだから、不正はしてない。一番しつこかったのはマセオーエン男爵の三男だったかな。エントっていう奴だけど、知ってる?」
その名前を聞いて、私は変な声が漏れてしまった。
「エント!? え、彼が私に求婚しようとしていたのですか!? ありえません! 彼は私と一番仲が悪かったんですよ? 顔を合わせれば喧嘩ばかりで、好意を抱くなんて考えられません。私も彼は苦手で、できるだけ避けていましたから」
エントとは十歳の時に、父の友人であるマセオーエン男爵の紹介で出会った。遊び相手にと顔合わせさせられたのに初対面から威圧的で、髪の色が変だとか、ブスだとか散々な言いようで、当時の私は負けん気が強かったから真正面からぶつかっていたのだ。時には掴み合いの喧嘩にまでなり、父に迷惑をかけた事もある。
そんなエントが私を?
はっきり言って理解できない。十三の時に王城で催されたお披露目の舞踏会でも、ドレスが似合わない、ちんちくりんなどと言っていた。それに嫌気がさして抜け出した庭園でアルと出会ったのだ。
十三といえば、成人には満たないけれど婚約を意識しなければならない。男爵といえど貴族である以上避けては通れない道だ。お披露目は、ある意味お見合いの場でもある。それなのに、そんな態度で何故受け入れてもらえると思うのだろうか。
例えその後、釣書が私の手元に届いていたとしても、見る前に破り捨てたと思う。彼を結婚相手として見る事なんてできるはずもないから。
だから私はきっぱりと言った。
「私はエントが嫌いです。貴方が手を下さずとも、相手にしなかったのに。それに、十三にならなくても婚約の打診はできたはずです。何故こんな回りくどい事を?」
疑問を口にすると、アルは神妙な表情で語る。
「それはやっぱりオードネンの存在が大きいね。僕が産まれた時には既に、おじい様が退位して父上が王位を継ぐ事は決まっていた。そしてオードネンの父、当時の宰相が暗殺されたのも同時期だ。それが十四年前。オードネンは虎視眈々と玉座を狙っていた。父上はもちろん、僕自身何度も暗殺されかかったんだ。そんな中で君に婚約の打診なんてしたら、君にまで危険が及ぶでしょ? ユシアンが産まれてからは特に」
それはアルの優しさゆえだった。
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