40 / 60
第3章 乱舞
第40話 熱の行く先
しおりを挟む
コレは、言ってしまえば殿下の想いの強さ。勿論、とても嬉しい。でも気まずさが勝って視線を彷徨わせると、そんな私を見て殿下は笑った。
「リージュも感じてるんでしょ? 足、閉じようとしたよね。ちゃんと僕を男として見てくれてるんだ……ありがとう」
幸せを嚙みしめるように囁く殿下の声は、更に私の体を熱くする。きっと、殿下も年齢の差を気にしているのだろう。年を越して、私は十九になっていた。婚約が発表されてはいても、まだ婚姻には至っていないから、殿下の元には沢山の釣書が届いていると聞いている。婚約相手が年増の、しかも家格の低い伯爵家だもの。あわよくばと考えるのも頷けた。
年齢差は、絶対に埋まらない距離。背丈はあっという間に追い越されたけれど、こればかりはどうにもならない。私も、殿下も十二分に分かっている。それでも、惹かれる想いは止める事はできなかった。
こうして二人共にお互いを求め合い、感じあえる事は奇跡に近い。世界は広く、人は星の数ほど存在する。その中で同じ国に生まれ、出会い、愛し合えた。遠い昔の契約や精霊王の采配なのかもしれないけれど、今はそれに感謝しよう。
私はそっと殿下の頬に手を伸ばし、視線を合わせた。
「殿下は私にとって、最愛の男性です。その、恥ずかしいですが、殿下が反応してくださるのは、私も嬉しくて……でも慣れていないので、お手柔らかにお願いします……」
どんどん小さくなっていく私の声に、殿下はまた笑う。
「僕だって慣れてないよ。リージュが初めての人だもの。怖い時は言ってね。何よりもリージュが優先だから。女性の痛みは僕には分からないし、できるだけ優しくしたい。もう嫌だって言われたら立ち直れないよ」
殿下は明るく言うけれど、想ってくれているのがよく分かった。
でも。
「あの、本当に私が初めてなのですか? それにしては手慣れてるような……」
言いかけた私に、殿下の瞳がすっと細くなる。
「リージュが初めてだよ。他の女に手を出そうなんて気にはなれないし。信じられない?」
声も数段低くなり、妖しい光が瞳をよぎった。
なんだか、火に油を注いだような……。
「じゃあ、前言撤回。やめってって言っても、止まらないから。僕がどれだけリージュを愛しているか、その体に刻んであげる。覚悟しててね」
私の胸元を長い指でなぞり、とてもいい笑顔で宣言する殿下。声を発せずにいると、口づけを落として立ち上がる。
「それじゃ、また夜に。どんな声で鳴いてくれるのか、楽しみにしてるよ」
それだけ告げると、扉の向こうに消えていった。
私はといえば、頭がついていかず、ぼけっとソファに寝転がったままだ。なんだか殿下のご機嫌を損なったのだけは分かったけれど。
再び扉の開く音が聞こえて、やっと起き上がると、そこにはネフィがいた。その顔は呆れを隠そうともしていない。溜息を吐きながら、苦言を呈す。
「リージュ様、男女の仲に疎いのは存じておりましたが、ここまでとは……一言余計でしたね」
そう言われて、私は頬を膨らませた。
「何よ、何がいけなかったの? 私何かした?」
頭の中は疑問符だらけだ。私は殿下が好きだって伝えただけなのに、何故か殿下の様子が変わって、何が気に障ったのかまるで分からない。ネフィはお茶を淹れながら、また溜息を吐いた。
「殿下は、リージュ様が初めての女性だと仰ったのですよ? 五歳の時にお会いしてから、ずっとリージュ様を想っておいでだったのです。十代の男の子は多感なんです。想い人がいるのなら、なおさら眠れぬ日も多かったでしょうね。そんな年頃の男性が、わき目も振らずにリージュ様だけを求めていらっしゃる。それを疑うような発言をされては、いくら我慢強い殿下でも箍が外れますよ」
眠れぬ日、と聞いてよく意味が分からなかった私は、ネフィに尋ねてみた。呆れつつも解説してくれた。その答えを知って、私は赤面してしまう。
「陛下も仰っておいででしたよ。持て余した愛欲をどうしたらいいのか、よく相談されていたと。なので、秘蔵の教本をお渡ししたそうです。それを読んで、ご自分で練習されたのでしょうね。それを……」
そこでまた溜息。
私の頭は大混乱するのだった。
「リージュも感じてるんでしょ? 足、閉じようとしたよね。ちゃんと僕を男として見てくれてるんだ……ありがとう」
幸せを嚙みしめるように囁く殿下の声は、更に私の体を熱くする。きっと、殿下も年齢の差を気にしているのだろう。年を越して、私は十九になっていた。婚約が発表されてはいても、まだ婚姻には至っていないから、殿下の元には沢山の釣書が届いていると聞いている。婚約相手が年増の、しかも家格の低い伯爵家だもの。あわよくばと考えるのも頷けた。
年齢差は、絶対に埋まらない距離。背丈はあっという間に追い越されたけれど、こればかりはどうにもならない。私も、殿下も十二分に分かっている。それでも、惹かれる想いは止める事はできなかった。
こうして二人共にお互いを求め合い、感じあえる事は奇跡に近い。世界は広く、人は星の数ほど存在する。その中で同じ国に生まれ、出会い、愛し合えた。遠い昔の契約や精霊王の采配なのかもしれないけれど、今はそれに感謝しよう。
私はそっと殿下の頬に手を伸ばし、視線を合わせた。
「殿下は私にとって、最愛の男性です。その、恥ずかしいですが、殿下が反応してくださるのは、私も嬉しくて……でも慣れていないので、お手柔らかにお願いします……」
どんどん小さくなっていく私の声に、殿下はまた笑う。
「僕だって慣れてないよ。リージュが初めての人だもの。怖い時は言ってね。何よりもリージュが優先だから。女性の痛みは僕には分からないし、できるだけ優しくしたい。もう嫌だって言われたら立ち直れないよ」
殿下は明るく言うけれど、想ってくれているのがよく分かった。
でも。
「あの、本当に私が初めてなのですか? それにしては手慣れてるような……」
言いかけた私に、殿下の瞳がすっと細くなる。
「リージュが初めてだよ。他の女に手を出そうなんて気にはなれないし。信じられない?」
声も数段低くなり、妖しい光が瞳をよぎった。
なんだか、火に油を注いだような……。
「じゃあ、前言撤回。やめってって言っても、止まらないから。僕がどれだけリージュを愛しているか、その体に刻んであげる。覚悟しててね」
私の胸元を長い指でなぞり、とてもいい笑顔で宣言する殿下。声を発せずにいると、口づけを落として立ち上がる。
「それじゃ、また夜に。どんな声で鳴いてくれるのか、楽しみにしてるよ」
それだけ告げると、扉の向こうに消えていった。
私はといえば、頭がついていかず、ぼけっとソファに寝転がったままだ。なんだか殿下のご機嫌を損なったのだけは分かったけれど。
再び扉の開く音が聞こえて、やっと起き上がると、そこにはネフィがいた。その顔は呆れを隠そうともしていない。溜息を吐きながら、苦言を呈す。
「リージュ様、男女の仲に疎いのは存じておりましたが、ここまでとは……一言余計でしたね」
そう言われて、私は頬を膨らませた。
「何よ、何がいけなかったの? 私何かした?」
頭の中は疑問符だらけだ。私は殿下が好きだって伝えただけなのに、何故か殿下の様子が変わって、何が気に障ったのかまるで分からない。ネフィはお茶を淹れながら、また溜息を吐いた。
「殿下は、リージュ様が初めての女性だと仰ったのですよ? 五歳の時にお会いしてから、ずっとリージュ様を想っておいでだったのです。十代の男の子は多感なんです。想い人がいるのなら、なおさら眠れぬ日も多かったでしょうね。そんな年頃の男性が、わき目も振らずにリージュ様だけを求めていらっしゃる。それを疑うような発言をされては、いくら我慢強い殿下でも箍が外れますよ」
眠れぬ日、と聞いてよく意味が分からなかった私は、ネフィに尋ねてみた。呆れつつも解説してくれた。その答えを知って、私は赤面してしまう。
「陛下も仰っておいででしたよ。持て余した愛欲をどうしたらいいのか、よく相談されていたと。なので、秘蔵の教本をお渡ししたそうです。それを読んで、ご自分で練習されたのでしょうね。それを……」
そこでまた溜息。
私の頭は大混乱するのだった。
10
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説

催眠術にかかったフリをしたら、私に無関心だった夫から「俺を愛していると言ってくれ」と命令されました
めぐめぐ
恋愛
子爵令嬢ソフィアは、とある出来事と謎すぎる言い伝えによって、アレクトラ侯爵家の若き当主であるオーバルと結婚することになった。
だがオーバルはソフィアに侯爵夫人以上の役目を求めてない様子。ソフィアも、本来であれば自分よりももっと素晴らしい女性と結婚するはずだったオーバルの人生やアレクトラ家の利益を損ねてしまったと罪悪感を抱き、彼を愛する気持ちを隠しながら、侯爵夫人の役割を果たすために奮闘していた。
そんなある日、義妹で友人のメーナに、催眠術の実験台になって欲しいと頼まれたソフィアは了承する。
催眠術は明らかに失敗だった。しかし失敗を伝え、メーナが落ち込む姿をみたくなかったソフィアは催眠術にかかったフリをする。
このまま催眠術が解ける時間までやり過ごそうとしたのだが、オーバルが突然帰ってきたことで、事態は一変する――
※1話を分割(2000字ぐらい)して公開しています。
※頭からっぽで

罠に嵌められたのは一体誰?
チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。
誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。
そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。
しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

初めから離婚ありきの結婚ですよ
ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。
嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。
ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ!
ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。

勝手にしなさいよ
棗
恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる