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第3章 乱舞
第33話 役目
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殿下が退出されると、途端に寂しさが顔を出す。ちゃんと約束もしたし、戦に行く事もない。それでも、まだ不安定な情勢下では、またいつ戦が始まるか分からなかった。
アックティカとの戦いは、一旦の目途がついている。しかしそれは、今回の出陣で大将首だった宰相、この呼び方はもう相応しくないかしら……元公爵オードネンを打ち取ったからであり、決着がついた訳ではない。オードネンがいなくなった今、私の遠見は当てにならなかった。私が知り得たのは、あくまでオードネンの周囲だけ。やり取りがあった人物も、絵姿で確認してみたけれど追う事はできていない。つまり、直接会わなければ、遠見の対象にはならないという事だ。
今度また戦が始まれば、私は役に立てないだろう。私に何ができるのか。そう考えて思い付いたのが、味方陣営との連絡役だ。これは今回の戦でもしていた事ではある。殿下もいらっしゃる戦場の情報収集なら即時反映できるから、私は殿下の目を通して戦況を陛下に伝えていた。それに加えて、騎士達とも面通しすれば、見える範囲が広がり情報量も増える。もしかしたら内通者を見つける事だって可能かもしれない。これは一度、陛下にご相談してみる価値があるだろう。そのためには騎士団の方々とお会いしなくては。事前に準備しておけば、いざという時に慌てなくて済む。それに、騎士団には大勢の方々が所属していらっしゃるから、面談にも時間がかかるだろうし。
そうと決まればじっとはしていられない。今は軍議の最中だから、使いを出してお時間をいただかねば。すぐに手紙を認め、ネフィへ指示を出すと、扉の外で見張りをしている騎士に伝えてくれた。遠ざかっていく小走りの足音を聞きながら、私は図書室へと向かう。
図書室には年代別に、王城へ従事している者の名鑑が収められている。殿下が私のためにと準備してくださった物だ。書物は手書きだから、書き写すだけでも膨大な仕事量になる。その上、装丁は鞣した革、紙も羊皮紙でとても高価だ。そんな写本が、私のためだけに集められた図書室は種類も豊富だった。
まず手に取ったのは最新の貴族名鑑。王城に努める騎士は、ほとんどが貴族の次男や三男といった爵位を継げない人達で、その下に有志の国民で構成された準騎士が配備されている。私の実家である伯爵家も、元を正せばこの準騎士だ。それに対し、貴族の出身者は正騎士と呼ばれる。殿下の従騎士で、信頼の厚いイサムという方も準騎士で、このままいけば騎士爵に昇級するのではないかと言われていた。騎士爵は一代限りの爵位で、男爵の下に置かれる。それでも、働き如何によっては陞爵される事もあった。
その準騎士を束ねるのが、貴族の子息である正騎士。小隊規模では準騎士が隊長を務めるけれど、中隊になると正騎士が任命される。それは主に下位貴族で、規模が大きくなるにつれ、上位貴族が幅を利かせていた。名鑑の頁を捲ると、目的だった現在の総指揮官である騎士団長のハイゼ・ホーグ様のお名前が見つける。指でなぞれば、カイザークの南に位置するホーグ領に封じられた侯爵家の三男とあった。
ホーグ領は養蚕で栄えた町だ。絹織物が有名で、商人が集まってくる。フェリット領とは離れているため、知識はその程度。こんな事になるなら、もっと勉強しておくべきだった。
騎士団長は開戦が宣告されたあの日に見かけたけれど、直接は会っていない。目を閉じて、気配を探っても見つける事はできなかった。やはり、面識がないといけないみたいだ。騎士団長はいつも殿下を守っていたから、個別に追っていない事に思い至る。
ならば、陛下の許可を得次第、まずは騎士団長から面談を申し込もう。そこから下へ向かった方が、反感も少ないかもしれない。私は殿下の婚約者で、戦でも協力していたから名前を知ってはいるはずだけれど、騎士団はまた違った組織体系だ。上部の指示があった方が受け入れてもらいやすいと思う。
そう考えて、私は名鑑を書棚に戻すと図書室を後にした。
アックティカとの戦いは、一旦の目途がついている。しかしそれは、今回の出陣で大将首だった宰相、この呼び方はもう相応しくないかしら……元公爵オードネンを打ち取ったからであり、決着がついた訳ではない。オードネンがいなくなった今、私の遠見は当てにならなかった。私が知り得たのは、あくまでオードネンの周囲だけ。やり取りがあった人物も、絵姿で確認してみたけれど追う事はできていない。つまり、直接会わなければ、遠見の対象にはならないという事だ。
今度また戦が始まれば、私は役に立てないだろう。私に何ができるのか。そう考えて思い付いたのが、味方陣営との連絡役だ。これは今回の戦でもしていた事ではある。殿下もいらっしゃる戦場の情報収集なら即時反映できるから、私は殿下の目を通して戦況を陛下に伝えていた。それに加えて、騎士達とも面通しすれば、見える範囲が広がり情報量も増える。もしかしたら内通者を見つける事だって可能かもしれない。これは一度、陛下にご相談してみる価値があるだろう。そのためには騎士団の方々とお会いしなくては。事前に準備しておけば、いざという時に慌てなくて済む。それに、騎士団には大勢の方々が所属していらっしゃるから、面談にも時間がかかるだろうし。
そうと決まればじっとはしていられない。今は軍議の最中だから、使いを出してお時間をいただかねば。すぐに手紙を認め、ネフィへ指示を出すと、扉の外で見張りをしている騎士に伝えてくれた。遠ざかっていく小走りの足音を聞きながら、私は図書室へと向かう。
図書室には年代別に、王城へ従事している者の名鑑が収められている。殿下が私のためにと準備してくださった物だ。書物は手書きだから、書き写すだけでも膨大な仕事量になる。その上、装丁は鞣した革、紙も羊皮紙でとても高価だ。そんな写本が、私のためだけに集められた図書室は種類も豊富だった。
まず手に取ったのは最新の貴族名鑑。王城に努める騎士は、ほとんどが貴族の次男や三男といった爵位を継げない人達で、その下に有志の国民で構成された準騎士が配備されている。私の実家である伯爵家も、元を正せばこの準騎士だ。それに対し、貴族の出身者は正騎士と呼ばれる。殿下の従騎士で、信頼の厚いイサムという方も準騎士で、このままいけば騎士爵に昇級するのではないかと言われていた。騎士爵は一代限りの爵位で、男爵の下に置かれる。それでも、働き如何によっては陞爵される事もあった。
その準騎士を束ねるのが、貴族の子息である正騎士。小隊規模では準騎士が隊長を務めるけれど、中隊になると正騎士が任命される。それは主に下位貴族で、規模が大きくなるにつれ、上位貴族が幅を利かせていた。名鑑の頁を捲ると、目的だった現在の総指揮官である騎士団長のハイゼ・ホーグ様のお名前が見つける。指でなぞれば、カイザークの南に位置するホーグ領に封じられた侯爵家の三男とあった。
ホーグ領は養蚕で栄えた町だ。絹織物が有名で、商人が集まってくる。フェリット領とは離れているため、知識はその程度。こんな事になるなら、もっと勉強しておくべきだった。
騎士団長は開戦が宣告されたあの日に見かけたけれど、直接は会っていない。目を閉じて、気配を探っても見つける事はできなかった。やはり、面識がないといけないみたいだ。騎士団長はいつも殿下を守っていたから、個別に追っていない事に思い至る。
ならば、陛下の許可を得次第、まずは騎士団長から面談を申し込もう。そこから下へ向かった方が、反感も少ないかもしれない。私は殿下の婚約者で、戦でも協力していたから名前を知ってはいるはずだけれど、騎士団はまた違った組織体系だ。上部の指示があった方が受け入れてもらいやすいと思う。
そう考えて、私は名鑑を書棚に戻すと図書室を後にした。
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