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第3章 乱舞
第31話 ︎︎甘い罰
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我慢。
それは以前もよく仰っていた言葉。口付けを重ねる度、殿下は自分を抑えるようにそう繰り返していた。でも一年前はまだ姿も幼くて、ませた方だなと思っていたけれど。
今、私は蛇に睨まれた蛙のように動けずにいる。背も伸びて、艶を増した瞳は遠見では気付けなかった。いつも机に向かった状態で、視えるの上半身だけ。こんなに身長が伸びているとは思わなかったし、お顔はそれほど変わっていない。それに、目の前にいるからだろうか。息づかいや瞳に映る自分の姿に、言いようのない恐怖心が湧き上がる。
「ダメだよリージュ。そんな顔したら、余計に食べたくなっちゃうでしょ? ︎︎それとも誘ってるの? ︎︎悪い子にはお仕置きが必要かな?」
ずいと顔を寄せる殿下を振りほどこうとするも、難なく躱されてしまう。殿下は優しく、でも強引に腰を抱くと、ドレスの襟を引っ張り喉元に唇を寄せた。ぞくりとした感覚が背中を走り、小さな痛みが刻まれる。
殿下はそれを満足そうに確かめると、鏡に写して私に見せた。そこには赤い花のような痣が浮きでている。長い指でなぞりながら、うっそりと呟いた。
「ほら、見える? ︎︎君が僕のものっていう印だよ。初めてだけど、上手くいってよかった。白い肌に映えて綺麗だね。早くもっとつけたい。君の身体中、くまなく……」
腰を撫でる手が妖しく動き、徐々に登ってくる。慣れない状況に、私の頭は混乱していた。
逃げるべき?
それともこのまま?
危うく胸元に到達しようとした時、ネフィの咳払いが止めてくれた。
「殿下、そこまでです。ご自重ください」
慇懃無礼にそう言うネフィに、殿下は口を尖らせ抗議する。
「ちぇ、もうちょっとだったのに。ネフィってば意地悪だな」
でもその声に棘はなく、気安い雰囲気だった。本気で咎めようという気は無いのだろう。ネフィも分かっているようで、同じく口を尖らせた。
「あら、いざとなったら止めるように、と仰ったのは殿下ではございませんか。私はご命令に従ったまでですわ」
つんと澄まして、王族相手にも物怖じしない物言いでも、殿下は笑って応えた。
「そうだったね。うん、ありがとう。リージュも、ごめんね。怖がらせちゃったかな。でも、これからは慣れてもらうためにも手加減しないよ? ︎︎覚悟してね?」
啄むように口付け、とんでもない事を軽く宣言する殿下に、私は冷や汗が止まらない。だって、今の今までネフィがいる事に気付いていなかったのだもの。人前であんな醜態を晒してしまったなんて、恥ずかしくて死にそう。
火が出そうな程に熱を持つ頬を覆い、私はネフィに背を向ける。自然と殿下からも逃げる形になって、小さな笑い声が重なった。ちらと見やると、二人でにやにやと頬を緩めていた。
「二人とも笑うなんてひどい! ︎︎殿下のせいですからね! ︎︎ネフィも、いるならいると言ってよ……恥ずかしい……」
そんな私の愚痴にも、ネフィは澄まし顔だ。
「何を仰います。婚約者とはいえ、未婚の男女を二人っきりになんてするはずないでしょう。そもそも、ここは王宮です。どこにでも人目はあります。それに、っとこれは言わない方がよろしいですね。殿下もあまりリージュ様を揶揄わないよう、お気をつけくださいませ。あまりしつこいと嫌われてしまいますよ?」
何だかすっごく気になる言い方に、私が問いかけようとすると、それを遮り殿下が前に出た。
「は~い。リージュに嫌われたら僕、死んじゃうからね。肝に銘じます」
その口調は子供のよう、というかまだ子供だと思うのだけれど、そのおかげで空気が和らいだ。
それは以前もよく仰っていた言葉。口付けを重ねる度、殿下は自分を抑えるようにそう繰り返していた。でも一年前はまだ姿も幼くて、ませた方だなと思っていたけれど。
今、私は蛇に睨まれた蛙のように動けずにいる。背も伸びて、艶を増した瞳は遠見では気付けなかった。いつも机に向かった状態で、視えるの上半身だけ。こんなに身長が伸びているとは思わなかったし、お顔はそれほど変わっていない。それに、目の前にいるからだろうか。息づかいや瞳に映る自分の姿に、言いようのない恐怖心が湧き上がる。
「ダメだよリージュ。そんな顔したら、余計に食べたくなっちゃうでしょ? ︎︎それとも誘ってるの? ︎︎悪い子にはお仕置きが必要かな?」
ずいと顔を寄せる殿下を振りほどこうとするも、難なく躱されてしまう。殿下は優しく、でも強引に腰を抱くと、ドレスの襟を引っ張り喉元に唇を寄せた。ぞくりとした感覚が背中を走り、小さな痛みが刻まれる。
殿下はそれを満足そうに確かめると、鏡に写して私に見せた。そこには赤い花のような痣が浮きでている。長い指でなぞりながら、うっそりと呟いた。
「ほら、見える? ︎︎君が僕のものっていう印だよ。初めてだけど、上手くいってよかった。白い肌に映えて綺麗だね。早くもっとつけたい。君の身体中、くまなく……」
腰を撫でる手が妖しく動き、徐々に登ってくる。慣れない状況に、私の頭は混乱していた。
逃げるべき?
それともこのまま?
危うく胸元に到達しようとした時、ネフィの咳払いが止めてくれた。
「殿下、そこまでです。ご自重ください」
慇懃無礼にそう言うネフィに、殿下は口を尖らせ抗議する。
「ちぇ、もうちょっとだったのに。ネフィってば意地悪だな」
でもその声に棘はなく、気安い雰囲気だった。本気で咎めようという気は無いのだろう。ネフィも分かっているようで、同じく口を尖らせた。
「あら、いざとなったら止めるように、と仰ったのは殿下ではございませんか。私はご命令に従ったまでですわ」
つんと澄まして、王族相手にも物怖じしない物言いでも、殿下は笑って応えた。
「そうだったね。うん、ありがとう。リージュも、ごめんね。怖がらせちゃったかな。でも、これからは慣れてもらうためにも手加減しないよ? ︎︎覚悟してね?」
啄むように口付け、とんでもない事を軽く宣言する殿下に、私は冷や汗が止まらない。だって、今の今までネフィがいる事に気付いていなかったのだもの。人前であんな醜態を晒してしまったなんて、恥ずかしくて死にそう。
火が出そうな程に熱を持つ頬を覆い、私はネフィに背を向ける。自然と殿下からも逃げる形になって、小さな笑い声が重なった。ちらと見やると、二人でにやにやと頬を緩めていた。
「二人とも笑うなんてひどい! ︎︎殿下のせいですからね! ︎︎ネフィも、いるならいると言ってよ……恥ずかしい……」
そんな私の愚痴にも、ネフィは澄まし顔だ。
「何を仰います。婚約者とはいえ、未婚の男女を二人っきりになんてするはずないでしょう。そもそも、ここは王宮です。どこにでも人目はあります。それに、っとこれは言わない方がよろしいですね。殿下もあまりリージュ様を揶揄わないよう、お気をつけくださいませ。あまりしつこいと嫌われてしまいますよ?」
何だかすっごく気になる言い方に、私が問いかけようとすると、それを遮り殿下が前に出た。
「は~い。リージュに嫌われたら僕、死んじゃうからね。肝に銘じます」
その口調は子供のよう、というかまだ子供だと思うのだけれど、そのおかげで空気が和らいだ。
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